佐倉の自己紹介と状況説明(1)

「改めて、初めまして。僕は佐倉創一といいます。法学部の一年で、新聞部に所属しています。 えーと、森さんも一年ですか? じゃあ敬語外しちゃうね」

 おほん。

「新聞部はわりに歴史のある大学公認のサークルなんだけど、今は僕一人しかいないんだ。いや、部員は僕の他にも三人いるんだけど、その人たちは今全員海外留学に行っちゃっててさ。だから今この部室は僕が独り占めできているんだ。いつもここでご飯を食べたり、新聞部の活動として記事を書いたりしている。今日も二限と三限の間の昼休みはここで過ごして、それから三限に出席した。三限が終わったのは、十四時三十五分くらいだったかな。定刻より十五分早く終わったんだ。僕は毎週三限が終わると部室に行って、新聞部の仕事をすることにしているんだけど、今日はちょっと図書館に寄り道したんだ。読みたい雑誌があってさ。で、それを読んでいたところに一通のメールが届いた。それにはこう書いてあった」

 僕は一度言葉を切り、ズボンのポケットからスマートフォンを取り出した。そして件のメールの画面を表示させてから森さんに手渡した。

彼女はメールの文章をゆっくり読み上げた。

「『ミスコンでの不祥事の件で、追加の情報があります。今から新聞部の部室に伺ってもよろしいですか?』」

「ミスコンの件って言うのは森さんも知っているよね。先月新聞部で公開した記事がちょっとした話題になって、テレビニュースでも取り上げられたりしたんだけど」

 森さんは僕にスマートフォンを返しつつ、こくりと一度肯いた。そう言えばミスコンで不祥事に関わった人物の一人は、森さんと同じ二部演劇研究会のメンバーだった。だがそのあたりの話は後回しにして、今は図書館でメールを受け取った後の自分の行動について話すことにした。

「メールを受け取った僕はその場で『今から五分ほどで部室に行きます』と返信して、急いで部室までやってきたんだ。何しろ今この大学に新聞部のメンバーは自分しかいないし、あの記事は僕が一人で書いたものだからね。それに追加の情報があるなんて言われて不安になったんだ。部室の前に着いたのは十四時五十分だった。今からざっと十五分前だね。それで鍵を開けて部室に入ると、見た事のない長椅子の上で森さんが寝ていて、さらにノートPCがトマトジュースでびしょびしょになっていたってわけなんだ」

 そこで僕は一呼吸おいた。すると案の定、彼女が質問を投げかけてくる。

「え? ノートPCがどうしたの?」

「トマトジュースでびしょびしょ」

 僕が指差す方を振り返って、森さんが固まった。そこにはご臨終したノートPCと、その横には空のペットボトルが申し訳なさそうに立っていた。

「……そのトマトジュースがPCにかけられたの?」

「状況から察するに。PCは僕のものだけど、トマトジュースは犯人が用意したものらしい」

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