第216話 王前にて

 僕はエッセル島でしばらく過ごしたよ。

 モーリス先生の手術は大成功。

 なんかね、元気になったモーリス先生が、カイザーの作ったメスやなんかを見て驚いてた。前世のレーザーメスより良く切れるし薄いって。

 切ったところがくっつくのはね、全部治癒魔法。

 前世と比較ができないね。だって一瞬だもん。傷口だってなくなるよ。切ってすぐだからね。

 この設備なら、前世よりすごい手術だってできるね、って喜んでたよ。

 でもね、一番の問題は、僕がレントゲンとかやんなきゃならないところだろうって。麻酔は、こっちの世界でも各種ある。モルヒネっていうの?それとほぼ同じものも見つけたんだって。それにね。ママほど凄腕じゃなくても、治癒魔法を使える人がいる。だから病院的なことはできるね、って言ってたんだけどね、問題は僕の担当のところかぁ・・・まぁ、僕がいる間はなんとかなる、よね?


 このエッセル島でも医療に使える草とかいろいろあるみたい。もっとモーリス先生が元気になったら、いろいろ教えて貰うんだ。


 たまにはミモザにも行くよ。

 みんなミモザの人は優しくて、どんなお魚が捕れた、とか、貝とか海藻の処理の仕方とか、聞けばなんでも教えてくれる。一見強面だけどね、冒険者で慣れてる僕はちっとも怖くない。


 ナッタジ商会の方も気になるけどね。

 こんだけママも僕も離れていても、しっかりやってくれてるようです。

 時折、商品を持ってやってきて、また海の幸を持って帰ったり。そんなうちの人達の馬車が来たときには、ママと打ち合わせしてるみたい。

 領都の支店も順調で、ただ、ちょっぴり売れすぎて、新商品はしばらく勘弁して欲しいそう。開発担当の僕はむしろ引っ込んでて欲しいって、冗談なんだか本気なんだか。でもまぁ、うちの番頭さんたち優秀です。


 そうこうするうちに、やっぱり、という感じで、とある知らせがやってきました。

 うん。王都への招集通知。

 なんかね、ザドヴァの反乱?もだいぶ落ち着いてるんだけど、どうやら僕のことが新総統殿のお耳に入ったみたいです。でね、どうやら探している子供がその子じゃないかっていう問い合わせが王家に、それと、冒険者なら依頼があるからザドヴァに来て欲しいっていう、まぁ、指命依頼?それが冒険者ギルドに入ってるみたい。

 これってザドヴァに入ったら囲われちゃうパターンだね、なんて、みんな困ってる。今回断ってなんとか脱出できても、こういう人はしつこいぞ、なんて脅されてます。



 王都では、ひいばあちゃんのおうちからもいろいろあるんだけどね。

 ママに支店は出さないのか、とかね。

 でもそこはほら、普通にリッチアーダ商会が仕入れて売ってるし、それでいいんじゃないかぁ。今のところキャパオーバー。



 そんなこんなで、とりあえず初期メンバーにドクを加えて、王都に向かいます。

 道中は、まぁ、普通に魔物が出たけど、とくに変わったことはなく到着。

 で、王城に来たよ、っていう連絡。

 そして、リッチアード家へと、お世話になります。

 王都で他に泊まるととっても悲しい顔をされちゃうから、これはいつものこと、だね。



 来たよ、の連絡の返事は早かった。

 翌日の登城を命じられました。王様暇なの?


 なんかね、お城で通されたのは、いつもみたいな会議室的なところじゃなくて、ちゃんとした謁見の間、でした。

 人は、ほとんどいない。

 ちゃんとした作法で、僕たちは王様の登場を待ちます。


 広いこの部屋に現れたのはいつもの王様と宰相様。

 そして、知らない男の人。

 他にもちょっとした近衛兵はいるけど、ほとんどそんな感じ。


 「面を上げよ。」

 宰相が言う。2回言われて顔を上げる。それだけは覚えたよ。


 「よう来たのう、アレクサンダー。それに皆の者。」

 目を細めて、王様が言う。いつもの優しい顔だけど、ちょっと緊張してるみたい。

 「早速じゃが、アレクサンダーよ。その方、養子の話は聞いておるか?」

 「はい。」

 「そうか。して、これを受けてくれるのであろうか。」

 なんだか、試験発表を待つ受験生みたい。王様がそんな風に緊張しちゃだめじゃないかなぁ?

 でもね。それだけ王様は僕のことを大切に思ってくれてる。

だからね。


 「謹んでお受けいたします。」


 僕がそう言うと、オオーッて息を吐き出す音があちこちで聞こえたよ。

 なんだか、王様だけじゃなくて、宰相様も近衛の人や王様の横で立ってる人も、みんな詰めてた息を吐き出したみたい。

 僕と一緒に控えているうちのメンバーは、逆に緊張を高めちゃったみたいだけど、ほっとしているのもある、のかな?


 「おお、そうか、そうか。よう、決断してくれた。ほれみろ、ロディシィ、これでアレクは本当の孫じゃ。儂の可愛い可愛い孫じゃぞ!」

 「ジミネアス様!場所をお弁えください。」

 あ、王様ってば怒られた。

 そりゃそうだよね。こんな謁見の間で、僕もびっくりしちゃったよ。

 ていうか、一番ビックリ顔は、隣に立っている男の人だった。

 そう思って僕が見てる、その視線に気付いたみたいで、こっちを見て、慌ててびっくり顔をひっこめたけどね。そうしてにっこり笑ったよ。

 あ、なんだか、王様にちょっぴり似てる?


 「あ、そうじゃのぉ。すまぬ。取り乱した。しかし4年じゃ。この4年、どれだけ待ち遠しかったか。お、アレクよ。ここに控えるのが、我が息子にして皇太子、ジムニ・プレミナス・レ・マジダシオ・タクテリア。その方の父じゃ。近う寄るが良い。」

 えっと、お父さん?皇太子様ならお父様とか言った方がいい?

 と、近う寄れ、って言ったけど、僕から側に行くの?どうしよう?

 思わず、ゴーダンを見ちゃうよ・・・


 「父上。アレクが困っていますよ。アレクサンダーですね。初めまして。私が君の父となるプレミナスです。そうかしこまらなくても良いですよ。そうだ、君の新しい家族を紹介しましょうか。良いですよね、父上?息子は私が連れて行っても。」

 「いや、アレクは儂と・・・」

 「家族になるのは私です。いいですよね?」

 「いや、ああ、まぁ・・・良かろう。アレクや。後でじいちゃんと遊ぼうな?」

 ・・・・

 ハハハハ・・・

 なんか、謁見の間、なんだけどねぇ。



 まぁ、結局、僕は、初めましての父に連れられ、初めて入る後宮へと連れて行かれちゃったよ。

 そこで、新しい家族である、母と二人の兄、一人の姉を紹介された。

 うん、みんな良い人。

 僕のことを本当に歓迎してくれてるようで・・・

 だけどね、僕、もう7歳。

 そりゃ、平均より全然小さくて、顔だって身長に合う感じで幼児感が抜けないのは自覚してる。けどね、赤ちゃんじゃないのに、空中で受け渡ししながら、順番で抱っこ&なでなでは、勘弁して欲しいなぁ・・・


 こうして、僕は、アレクサンダー・ナッタジ・ミ・マジダシオ・タクテリアになった。


 数日後。

 僕は、僕の側近の貴族と共に、お披露目された。


 ミミセリア・ナッタジ男爵。

 ゴーダン・エッセリオ子爵。

 アンナ・エッセリオ子爵。

 ヨシュア・ナッタータ男爵。

 ミランダ・ナッターゼ男爵。

 ラッセイ・ナッタジオ男爵。

 そして、大魔導師ワージッポ・グラノフ博士。


 僕は新しい王族として、王直轄地となっていたミモザおよびトレシュク領を、ナッタジ領として、王より正式に下賜された。



          (完)


***********************************


 ここまで読んでいただきありがとうございます。

 「私の」シリーズ第2弾、ここにて終了です。

 第1弾、奴隷として産まれたダーですが、いつの間にかこんなことに・・・

 でも、まだまだやっと7歳、ダーの人生は続きます。


 次作シリーズ第3弾は、ダー10歳~。

 良かったら続きも読んでくださいませ。

https://kakuyomu.jp/works/16816927860307557776

 筆者、拝。

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