第215話 7歳の決断(下)
「俺たちもいつかはこんな状況が来るだろうし、そのために力を付けようと頑張っては来た。だが、想像以上に早かったともいえる。もう少し大きくなるまで隠せると思ったんだがな。だがな、甘いどころか、もっと前からこの事態を予測して、提案してくれていた方がいたんだ。」
?
「お前は、このミモザ代官の話、どう思った?」
「代官?ドクがこのエッセル島を守るためにやってくれてるんだよね?ゴーダンと一緒に。」
「一緒に、って言うので、おかしいと思わなかったか?」
「そりゃあね。なんていうか、普通は一人じゃない?なんかゴーダンにしろって言われたけど、ゴーダンがごねてドクに白羽の矢が当たったけど、魔導師養成校の校長の仕事もあるし、ってことで、二人とも貴族待遇の資格あるからって、共同で代官することになった、だったっけ?」
「まぁな。一応、それが表向きだ。実際の契約は違う。」
「違う?」
「代官はとある王族だ。正確に言うと代官ではなく領地扱いだがな。その王族が未成年のため摂政として博士がついた。摂政補佐が俺だ。」
「王族?だれ?」
「それがなぁ。契約書上は空白、なんだ。そこがあの王のクソなところさ。」
フン、と鼻息荒く、ゴーダンは言った。
どういうこと?
「あのな。たとえば、だ。とんでもない力を持つ子供がいたとする。その子が王族だとしよう。その子を喩え欲しがったとしても、その国の者は手が出せないだろう。外国からしても、受け入れるには外交の1つとなる。簡単にその子を無視して連れ去ることは出来ないだろうな。」
「ちょっと待って。それって・・・」
「まぁ、聞け。とある王は、たった3歳の子に、思い入れた。強い子だ。だが、運命にもてあそばれて、不幸な人生を歩みかねないのでは。だったら自分が、王族が、この子を保護しよう。この子の将来をこの子の好きなように歩ませてやりたい。この子は至宝だ。できればこの子の意志でこの国を愛してもらいたい。王は思わず人々に宣言した。この子は宵闇の至宝、国の宝だ、と。頭の中でこう考えたそうだ。先代の作ったとある法律。まさにこの子のためにある。すべてはこの子の自由のために。それこそがこの国に繁栄をもたらしてくれるだろう。とある面倒な王が言った言葉だよ。」
アハ、ハハハハ。
なんとなくそのシーンは覚えているよ。
急に僕のこと「宵闇の至宝」なんて言い出して、それが僕の2つ名みたいになっちゃった。まったく恥ずかしいったら。あれ?言い出したのはミサリタノボア子爵のとこにやってきた貴族たちだったっけ?まぁいいや。
「その昔、天才的な冒険者であり、また、新しい物を作り出す英傑がいた。その男は、パーティを率いて、当時の皇太子と旅をした。それに、王の試練の随行者としての使命を、笑いながら成し遂げた。王も皇太子もその男を懐に入れたくて、様々に懐柔しようとしたが、その男は首を縦に振らない。最後には王の養子に、とまで言ったがな。その男はそれよりも自由を、冒険を、そう言って、断った。王はそれでもその男を他国に盗られたくないと考えた。だったら男に王族の地位と自由を与えよう。領地をすべて代官に治めさせて良い。貴族としての呼び出しに応じる必要もない。ただ、この国を愛してくれ。好きに改革してもいい。ただし、王をないがしろにしないで欲しい。そこで王族から降家して公爵となった者は与えられた領地に住む必要がなく、特殊な王命以外で招集されることはない、という法律を作ったんだ。まぁ、その法律は結局使われることはなかったんだがな。」
「それって?ひいじいさん・・・」
「ああ。エッセルのじじいのために作られた法律さ。その法律は生きていて、お前に使いたいって言われたよ。そこで問題だ。お前は王の、実際には皇太子の、だが、養子になるか?」
「何言って・・・僕はママの子だよ。それともママが皇太子様と結婚するの?」
「どういうことだ?」
ゴーダンが不思議そうに首を傾げる。
僕はママの子だ。誰か別の人の子になるつもりはない。
「あぁ、そういうことか。違いますよダー君。ママはママのままですよ。」
モーリス先生が言った。
どういうこと?
「前世では養子といったら、元の家族と縁を切る場合も多かったと思います。ですが、この世界では、元の家族はそのままです。ただ養子は複数同時になることはできないと思いますが。」
ママの子供のままでいいの?
「それは当たり前だろ?ミミはどこまで行ってもお前の母だろ?まぁ、ミミがお前を勘当でもすりゃ別だがな。今回の話ってのはなぁ、言ってみれば王家の後ろ盾をやろうってこった。しかも領地持ちの貴族ってな。それにな。領地持ちともなれば信用できる眷属の貴族がいるだろう。まぁ、そもそもの結成メンバーは元々が貴族出が多いしな、立場的にも貴族と同等の扱いが受けれるランクだ。ついでに、このヘンも貴族にするってさ。みんなお前の部下になる。まぁ、その前に親であり兄や姉のつもりだ。部下っていっても、公の場所以外じゃ変わるつもりはねぇ。まぁ、王子様が傅け、って言うんならそうするがな、ハッハッハッハッ・・・。」
僕が皇太子様の養子になれば、みんなが貴族としてついてきてくれる、そう言ってるの?貴族が嫌で冒険者になったんだよね?僕が自由でもみんなは?
そんな風に思って、みんなを見るけど、優しい瞳で好きにして良いよって。どこまでもついていく、なんて・・・
「ダー。お前はずっと冒険するんだろ?貴族だろうが僕たちが冒険者だって変わらない。ダーが行くところにはついていく。領地にずっといたいなら、時折、僕に命じてくれればいい。素材をとってこいってな。ほら、なんも変わらないだろ?今でも、ナッタジ商会の仕事で商人だけやる、って決めたなら、その側で手伝いながら、たまには素材を取りに行って、ずっとダーとやってくつもりだったんだ。そのダーが王族になるなら、支える貴族になるのは楽しい冒険だよ。」
セイ兄が言う。
みんな、笑顔で頷いている。
昨日からの緊張は、個人個人がこの決断をするため?
ついてこいっていう強制はないよね?
「ダー。みんなね、ダーが大好きよ。一緒にいたいって人ばっかり。ママは貴族になっても商人も冒険者もするかな?みんなもそう。ここにはダーと一緒に生きていきたい人だけしかいない。決めたのはみんな自身。あとはね、ダーだけ。どっちでもいいよ。王族なんかやだ。領主なんかやだ。おじいちゃまはそう決断したんだって。だからダーも自分で決めるの。ようく考えて。ね。」
ママがそう言った。
僕が決めなくちゃ。だって、みんなはもう決めたんだから。
ひいじいさんは断った。僕はどうする?
「まぁ、ゆっくり考えれば良いさ。そのうち王都に呼び出される。そのとき、王の前で答えれば良い。俺たちは、どこまでもその決断を支持するだけだ。」
ゴーダンも、みんなも、大きく頷いた。
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