世界が終わるまでは

ぬっちゃん

第2話

世界が終わるまでは2


8月26日、目が覚めた俺は少し用事を済ませようと外に出た。道中、何の意味も無いがただ何となく人のいない駅というものが見たくなり渋谷駅に向かった。


渋谷駅のホームは普段の様子とは打って変わって閑散としていた。いつもは人でごった返しあまり人混みが好きでは無い俺は極力避けていたが、こう見るとなかなか寂しく思える。もう電車も動いておらず、やる事もないので無人の改札を飛び越えると1人の人影が見えた。


「アンタここで何やってんの?」


声の主はチアキ、俺の大学の同級生でエイジの幼馴染の女の子だ。気の強そうな目付きと金髪という見た目からギャルのような印象を受ける。一人暮らしの俺とは違い、実家暮らしの彼らは家が近いのかいつも一緒に帰っているのを見かける。


「おお、チアキちゃん、そっちこそ何してんの?」


「いや、質問してんのこっちなんだけど」


いつもこんな感じなのであまり気にならないが、入学当時知り合ってからはツンとした性格で少し近寄り辛かった。


「ごめんごめん......いや何をするでもなく普通に人のいない渋谷駅ってやつに足を踏み入れたくて散歩がてら寄っただけだよ」


「ふーん、相変わらずちょっと変わってんね」


「そう?俺は普通だと思うんだけどなあ、質問には答えたし次は俺の質問にも答えてよ」


「私は......ホラ」


チアキちゃんが向こうを見ろとばかりに俺の後ろに向けて顎をくいと軽く上げる。その方角の先にはエイジがいた。


「デートかよエイジ〜、妬けるぜ」


「そう、俺モテモテだよ〜」


「はぁ!?ちげーし!お前も調子乗んな!」


チアキちゃんは少し顔を赤らめて俺の言葉を遮る。前から思っていたがどうやらこの子はエイジに気があるようだ。他の男達といる時とエイジといる時では表情の細かな動きが全く違う。しかしエイジは生粋の遊び人。しかも彼女はそれを俺よりはよっぽど知っているだろうし辛いところだろう。


「つかまた会ったな、どうせまた散歩か」


「その通りだよ、お前みたいに人類滅亡する前に俺に時間割いてくれる遊び相手もいないしな」


「悲しいこと言うなよ〜、チアキに誘われて今から車で海行こうってなってんだ、お前も来いよ!」


「はあ!?誘ったのアンタでしょ!」


「いや、俺は......」


背後から殺気を感じる。わかってるよチアキちゃん。エイジと2人で過ごしたいだろうから俺に着いてくるなって言いたいんだろ。安心してくれ行かないよ。


「いややめとくよ、俺は行くところあるし」


「わかった、つかどこ行くの?こんな週末に1人で」


「墓参り」


「そっか、そういや今日だったな」


「うん」


去年の8月26日。母親が他界した。交通事故、即死だった。女手ひとつで俺を大学まで行かせてくれた母には感謝の気持ちしかない。普段は面と向かって感謝の気持ちを伝えるのは照れ臭くて出来なかったが、今となってはもう少し親孝行しておけばよかったと思う。言う事もあんまり聞かなかったし中学時代は俺にも人並みに反抗期があり、傷つけるような言葉を沢山ぶつけてしまった事もあった。だから今いっぱい謝っていっぱい話しておこう。


「じゃあいくよ、お前らも楽しめよー!」


俺は終末に海にデートに行く2人をあとにして母の墓に向かった。墓場に着くと高そうな車と見覚えのある老人が墓の1つに向かって手を合わせていた。白髪に眼鏡をかけ、年齢の割には背筋がぴんと伸びたどこか英国の紳士を思わせる振る舞い、淀川教授だ。もう用は済ませたらしい教授はこっちに向かってきて、墓に行くまでの階段ですれ違い、俺は一応会釈をした。すると教授は俺の顔を覚えていたらしく話しかけてきた。


「君もお墓参りかい?」


「俺のこと覚えて下さってたんですね。はい、世界が終わる前に眠っている母に手を合わせておこうと」


「そうか、そんな若いのに君も大変だね。たくさん手を合わせておくといい。もうあと一週間もしないうちに君も天国のお母さんに会えるんだからね。」


この人もこんなこと言うんだな。不謹慎かどうかはわからない。なんたってこんな状況なんだからな。


「まあ僕も母も天国かどうかはわかりませんけどね」


「ははっ、こりゃ失敬」


「教授もお会いできるといいですね」


「まあ私も後6日経つ前に婆さんの元に行っちゃうかもしれないけどね」


「ははっ、これは参りました」


俺は少し笑って階段から降りていく淀川教授を見送った。あの高そうな車は教授のものだったのか。そりゃ大学教授レベルになるとあんな車も乗れるのだろう。死ぬ前に一度でいいからあんな車に乗って時速200キロくらいで飛ばしてみたいもんだ。


俺は墓に手を合わせ母に挨拶をし、最近の出来事から世界が後6日で滅ぶこと、そしてついでに昨日暴漢たちに絡まれていた女の子を助けたことまで伝えて階段を降りた。


家に向かう途中に神社に寄りたくなった。特に神や仏といったものを信じたことはなかったが、もし神様がいるならば死ぬまでの6日間幸せに過ごせるように神頼みをしてみるのも悪くはない。境内に入り本堂に向かうと本坪鈴と賽銭箱の前に立っている1人の女の子がいた。同じようなことを思っているんだろうな。その子はもう帰るところらしく振り返ると目があった。あっと声が出てしまった。昨日俺が助けた子だ。


「あっ」


向こうも俺に気付いたらしく一瞬時が止まる。


「昨日はどうも」


先に言葉を発したのは向こうだった。


「いやいや、あんなことがあった後だけど元気そうでよかったよ。君も神様にお願いを?」


「神様なんて基本は信じていませんが死ぬまでの6日間は幸せに過ごせますようにと祈りました。お賽銭を入れてないので叶うかどうかはわかりませんが」


「俺もだよ、同じようなことを考える奴もいるもんだな」


「ではごきげんよう」


ぐう。と大きなお腹の音が鳴った。音の主は恥ずかしそうにお腹を押さえている。


「何も食べてないの?」


「はい、昨日あれから何も」


「え!あれから?ご飯が喉を通らなかった?」


「いえ、お賽銭を投げられないくらいにはお金がないので」


そういえば服も昨日のままだ。家出でもしてきたのだろうか。さすがにこのまま帰すのは可哀想だと思い財布にあった千円札を差し出した。


「ほら、これでなんか食べておいでよ」


「いえ!いいですそこまで施しを受けるほど落ちぶれてはいません!お気持ちだけ受け取っておきます」


「まあお金なんてあってもどうせほとんど店なんてやってないし、適当にコンビニでご飯でも食べれば?」


「いえ、コンビニのご飯は保存料着色料その他有毒なものが沢山入っているので父に食べるなと言われてました」


ええ......どんな家庭で育ったんだこの子は。そういえば髪も昨日と比べ少しボサボサだし目の下にうっすらだがクマもある。本当に昨日からご飯も食べていないし寝床に入っていないのか。


「じゃあ料理作るけど食べてく?うち近いし」


「流石に昨日助けてもらった上にそこまでは」


ぐうう‼︎


さっきの倍は大きな音が境内に鳴り響いた。


「決まりだね」


「いつかこの借りは返します」


「後6日で返してくれるの?」


「一括返済します」


「ははっ楽しみだ」


冷蔵庫にあったほうれん草と鮭缶であり合わせのパスタを作っていた。その間彼女にはシャワーを浴びさせていた。何日かお風呂も入ってないんだろう。

シャワーの音が止まり、華奢な身体の割には大きめの俺の服を着た女の子が扉を開け出てきた。


「何から何まで申し訳ありません」


「いいって、どうせ俺もやることないし人の為になんかするなら天国にもいけるかなって」


「天国ですか、あるといいですね」


「なかったらなかったで死んだ後ってどうなってるのか楽しみだけどね」


沸騰したお湯の中に乾麺を放り入れる。ガスや電気などはまだ予備電力が働いているのかまだちゃんとつくようだ。料理中、手以外は暇なので少女に会話を振ってみた。


「そういえば君はなんて言う名前なの?ずっと君じゃ呼びづらくて」


「私はエミといいます。笑うという字に美しいでエミです。」


「エミちゃんか、いい名前だな。お父さんお母さんのセンスがいい。俺はイツキって言うんだ。漢数字の一にお月様の月だよ」


「つまりJanuaryですか。」


「ははっ、昔そうやってよくいじられたなあ、何でこんないじられやすい名前つけたんだよー!ってよくお母さんに言ってたよ」


「ふふっ、それはすみません。あと6日で世界が滅ぶのにお母様の元には行かないんですね」


「母さん去年交通事故で先に行っちゃったんだよ」


「......それはすみませんでした。配慮に欠けました」


「いいよいいよ!あと6日で俺も天国で会えるからさ」


「エミちゃんはお父さんやお母さんの元には行かないの?」


少女の表情が少し曇る。あまり家族のことに触れられたく無いのだろうか。そうこうしているうちに料理ができた。


「「いただきます」」


「......!すごく美味しい。これすごく美味しいです!」


「ほんとに?特にこれといった工夫はしてないけどね」


「いえ、こういう庶民の食べ物を食べたのは初めてで、思いの外美味しすぎて私びっくりしました」


美味しいなら良かったけどちょっと失礼だなこの子!かなり浮世離れした子だ。人形みたいな見た目もそうだが、やはりどうやら良いところのお嬢様らしい。


「これからどうするの?おうちに帰る?」


一呼吸おいて少女は口を開く。


「......私家出をしてきて帰る家がありません」


「え?!それは家族の方心配してるよ!早く帰らなくちゃ」


「公共交通機関が停止した今、車も運転できない高校生に青森までは流石に遠いです」


「青森!?遠いな、いつ頃家出したの?」


「2ヶ月ほど前から」


「2ヶ月!?それまでどうやって暮らしてたの?」


「お金はかなりあったのですが、このご時世使い道がなくて無人になったホテルに勝手に泊まっていました」


「食事とかは?」


「いくつか店は開いていたので、そこで食べていました」


先ほど庶民の料理は初めてと言っていたが、もしかしてすごい高いところばっかり行っていたのでは?


「とりあえず無人のホテルは昨日みたいな奴らに絡まれるし危ないよ。そういえばこの部屋の隣の部屋が空いていたしそこで寝泊まりすれば?鍵は管理人室とかにあると思うしさ」


「大いにありですね。いざとなれば私を守ってくれるナイトもいる事ですしね」


「んー、まあ起きてればね」


青森から東京まで何百キロあるんだ?この子はすごい人生を歩んでるな。でもまあ最後くらい家族に会えばいいのに。


「ごちそうさまでした。あの、イツキさん」


少女は改まった。机の上には綺麗に食べ終えられた皿にフォークとスプーンが完食を意味する形に几帳面に揃えられている。


「ここから海水浴場はどこが一番近いですか?」


「海水浴場か、海は港区にあるんだけど海水浴場って言ったらちょっと離れてるよ。行きたいの?」


「はい、世界が滅ぶ前なので私は海に入ってみたいです」


「んー、東京の海は汚いからなあ、やっぱ神奈川の逗子とか?」


「そこでお願いがあるのですが」


さらに改まって少女は言う。


「海に連れていってくれませんか?」


「あぇ?」



長いトンネルを抜けると海が見えた。無人のレンタカーから盗んだ鍵で適当な車を拝借し俺は助手席に少女を乗せ逗子の海水浴場に向かっていた。そういえばエイジとチアキちゃんもここ来てるかもな。お人好しといったらアレだが、昔から俺は頼まれると断れないところがある。そういう性格だからしょうがないのだが、何故か今回のこの少女の海を見たいと言う頼まれ事は快く引き受けることができた。他にやることないし、俺も暇人だな相当。横にいる目を煌めかせている少女は海を見てとても興奮しているようだ。そして海水浴場に着いた。


「すごいです!これが海!」


先程の落ち着いた態度とは一転して無邪気にはしゃぎ回る様を見ていると数ヶ月前別れた彼女の面影を重ねてしまう。そういえば付き合ってた時ここにも行ったなあ。こんなふうに彼女もはしゃいでいたな。


「海、見たことなかったの?」


「いえ、あることはあるのですが海水浴場となると変な男達が寄ってくると父に近づかないように言われていました」


「ははっ、街にいても男達に言い寄られてたけどね」


「まったくです。美しいというのは罪ですね」


昨日もそうだがどうやらこれを素で言っているように思える。浮世離れした子だなあと思う。


「イツキさんも海入りましょー!」


少女は俺の腕を引っ張り海に近づく。するとある看板を目にした。



【クラゲ注意】



「......」


「......」


それもそうだ。今は8月後半。海なんてクラゲが出始める時期でとても入れたものじゃない。


「残念だったね......」


「まあ、海水浴場には行けたので......」


少し残念そうだ。あれだけ車中でもウキウキしていたのだ。それは当然だろう。


「あれ、イツキじゃん!」


「アンタなんでいんの?」


振り返るとチアキちゃんとエイジがいた。さっき2人の誘いを断ったのに同じところに来てしまったようだ。しかも。


「あれ?その子、昨日助けた子じゃん」


「昨日はどうもありがとうございました」


「そう、まあいろいろあって」


「マジ?イツキJKに手出したの?まああんなん助けられたら惚れちゃうよなー!で、もうチューしたの?」


エイジは1人で盛り上がっている。その後ろで何とも言えぬ恐ろしい殺気を放っている人物がいた。ごめんチアキちゃん。邪魔はしないからさ。


「ちょっとアンタ邪魔をッ」


前に出るチアキちゃんを止めるように少女が割って入った。


「すみません。お二人の逢引きの邪魔をしてしまって。しかしこれは私がイツキさんに頼んで連れてきてもらったので彼に責任はありません!」


「か、かわいい」


チアキちゃんは少女を見るなりぼそっと漏らした。そういえばエイジ曰くこの子は可愛いもの好きだったな。確かにあまり気にしていなかったがエミちゃんは可愛い。親がナンパを警戒するくらいは整った容姿をしている。


「ちょっとこの子可愛すぎるから貸して!」


「え、ちょっとあああ」


チアキちゃんは男2人を置きざりにし少女の手を引き颯爽と誘拐していった。


「まさかお前があの子とそういう感じになってるとはなあ」


「いやだから違うって!てかお前チアキちゃんの好意気付いてんだろ?付き合ってやんないの?」


「ん、当たり前だろ恋愛マスターだぞ俺は」


「まあ36股が37股になるだけか」


「あいつはそんなんじゃねーよ」


エイジは少し真面目そうな顔で言う。エイジの気持ちはわかる。ずっと昔から一緒で兄妹みたいに育ってきた。今更その関係を崩したくないのだろう。どちらかが好きと伝えたらすぐ付き合えるだろうに。幼馴染とはいえ男女だ。男女が一度恋をすると絶対に関係は解れる。今まで築き上げてきた絶対的な友情の関係を崩すのが怖いのだ。


「もう最後なんだしさ、最後くらい正直に伝えてみたら?」


「お前にそんなこと言われるとはなんか笑っちゃうぜ」


「大事な気持ちにはカギ括弧付けてやらないと伝わらないからさ、嬉しいと思うよ」


「ははっ、ほっとけ!」


しばらくするとチアキちゃんとエミちゃんが帰ってきた。エミちゃんはどこかぐったりしている。そうこうしているうちにあたりはもう茜色に染まり、夕焼けに包まれたビーチは映画のワンシーンのような情景を醸し出していた。いい感じになりそうな男女を置いて俺とエミちゃんはそそくさとその場から離れる。すると少女は口を開いた。


「疲れました」


「チアキちゃんとなにしてたの?」


「ガールズトークに見せかけたエリカさんのマシンガントークです。あとすごく愛でられました」


「さすが、美しいって罪だな」


「それさっき私が言ったセリフ!」


「ははっ」


「綺麗な夕焼けですね」


「だね」


「昔映画でこういうシーンを目にしました。戦場を生き抜いて離れ離れになった主人公とその恋人がこんな夕日の海を背景に再開する」


「それってもしかして星の海?」


「知ってるんですか?」


「すげえ好きな映画だよ!会いたい人に会うために死ぬかもしれない戦場で生き延びようとする主人公はかっこよかったよね!」


「間違いないです!その映画を思い出したのですが、やはり人っていつ死ぬか分からないから後悔のないように生きるべきなんだなって思いました」


「いつ死ぬかわかってる俺たちはどうすればいいんだろうな?」


「それは、もっともっと後悔のないように生きるべきだと思います。それに、幸せって無くなってから気付くものですよ。でもそれからじゃ遅いんです」


「んー、わかってはいるんだけど特にこれといってやりたいこともないんだよね。強いて言えば少し前に別れた恋人に会いたいかも」


「それは会うべきだと思います!応援します」


「でも今彼氏いるんだよねその人」


「そんなの関係ありません!あと少ししたら全て無です!」


「確かにね、エミちゃんはしたいことあるの?」


「私はいっぱいあります。海に行きたいし、友達とキャンプも行きたい。山にも行きたいです。あと6日じゃとてもやりきれません!あ、でも海には行けたので良しとします。」


「これでいいの?クラゲいっぱいいて入れなかったけど」


「いいんです、誰かと海に行くことに意味があったから」


「その誰かって俺でいいの?」


「他に誰がいるんです?しょうがないじゃないですか家出少女なんだから」


「確かに、まあ俺も楽しかったしよしとするか」


「ところで何で連れて来てくれたんですか?」


「連れて行けっていうからでしょ?」


「じゃなくて、普通見ず知らずの高校生にそこまで優しくしてくれる人いないと思うんですよ。しかも世界が6日後に滅ぶっていうのに。」


「んー、確かに。でも6日後に世界が滅ぶからかもよ?」


「どういうことですか?」


「隕石とかなかったら多分人多いから行かないし、あと逆にあと6日で何かするか?って言われても何も思い浮かばなくてうろちょろ散歩してたんだよね」


「だから外に連れ出してくれる人がいてちょうど良かったのかも。ありがとう」


「いえいえ、私の我が儘に付き合ってもらったのに御礼を言われるなんてとんでもない」


「それか外に出てたってことは俺自身無意識に何かあるのを求めてたのかもね」


「と言いますと?」


「いや、俺自身もなにか起きて欲しくて、残りの自分の人生に刺激を与えてくれる人や出来事を待ってたのかもしれないと思ってさ」


「それって私を助けてくれたのもあの神社で私と会ったのも全部運命ですかね?」


「あの場でお腹が鳴ったのもね」


「もうその話はやめてください!」


「ごめんごめん」


「でも、運命って本当にあると思うんですよ」


「会って2日目の男にそういうこと言うと軽い女に見られるぜ」


「そういう意味で言ったんじゃありません!これだからモテない男は」


「待った、俺は自慢じゃないがまあまあモテる」


「告白された回数は?」


「幼稚園の頃に1回......」


「それでどこからそういう自信が湧いてくるんですか」


「自信のない男に男としての価値はないからな!」


「そういうもんでしょうか」


「そういうもんなの」


「そろそろ帰りましょうか」


「だな。ん?うわ見て星空!」


「わあ、綺麗」


見上げると満天の星空があった。都会の方の灯りが消えていて、肉眼でも天の川がはっきり見えた。あれがデネブ、アルタイル、ベガ。あの星一粒一粒にストーリーがあるのだからその一個くらい地球にぶつかりに来たって全然普通のことなのかもしれないな。


「イツキさん」


「なに?エミちゃん」


「イツキさんがもし死ぬまでの6日間、することが無くて何かしらの刺激を求めているなら私の我が儘にもう少し付き合ってもらってもいいですか?恩返しもしたいですし」


「普通だったら断るところだけどいいよ、世界滅亡前に出会ったばかりの少女と星空の下でお願いされるというこのドラマチックな状況に酔ってやろうじゃん」


「あははっ!なんですかそれ、掴めない人ですね」


「出会って2日の高校生に掴まれるほど、俺の21年も薄っぺらくなかったってことかな」


「ですね、普通じゃないです」


「俺は誰よりも普通であると自負してるんだけどなあ」


「昨日私を助けてくれたのだって」


「あれは普通助けるでしょ」


「警察も頼りにならないのに、ですよ。」


車へ戻る途中、俺の前を歩く少女が振り返る。満天の星空の下で振り返る美少女。何とも形容し難い美しさに少し見惚れてしまう。


「あなたのいう普通とは世間一般では勇敢と称されます。今の世界で普通を通すことはもしかしたらとても凄いことなのかもしれません」


「そんな褒めるなよ」


「凄い頭のおかしいという意味です」


「褒めてなかった!?」


俺たちは笑いながら車に戻り、帰りはずっと映画の話で盛り上がっていた。育ちや生活の差はあれど、不思議と映画や趣味の話は合い、初めて会ったとは思えないと錯覚するほど話が弾みあっという間にアパートに着いた。


「はい、これ管理人室から取って来た鍵。これで寝なよ。料理は食べに来ていいからさ」


「何から何までありがとうございます。では、また明日」


「おやすみ〜」


風呂に入り歯を磨いてベッドに入る。こんな楽しい日は久しぶりだったな。それにしてもこれから滅亡まで毎日この子と会えるのか。ん?何で俺はエミちゃんのことを考えているんだ?あと昨日もそうだったけど寝る前に元カノのこと以外考えるのなんて久しぶりじゃないか?このまま安眠できそうだ。それにしても、やっぱり俺は惚れっぽいのか?寝よう。
























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