骨煙の店

安良巻祐介

 

 埃の積もった棚に大小さまざまのパイプを並べて、梁から吊り下げた籠の中には、砂タバコを入れてある。

 パイプは、全て何かしらの骨で出来ている。

 砂タバコは、砂と、星くずと、何かしらの歯をすり潰した粉とを混ぜて作られている。

 骨や歯は、近隣で墓に入った人と獣の骸から調達するのだと言われているが、実際のところどうなのだかはわからない。

 帳場の内側に背を丸め、まばたきもしない魚瞼さかなまぶたで番をする、主の小老人しょうろうじんを除いて、この店の仕入れや遣り繰りのあれこれについて、知る者はない。

 また、これらの骨パイプで喫煙をするのは、どの道、生きている人間ではない。死んだ人間ですらない。

 木、石、貝殻などの自然物が骨格様に組み合わさって、人のような形になって出歩く、仮霊かれいとか洞骸ほらがいとか言われる一群が、店の主な客であるらしい。

 彼らは夜の間に来て、夜の間に去る。

 灯火管制・緘夜令の出ているこの街で、夜に往来へと出る者はないから、この店で骨パイプとタバコを買う者の姿を、はっきりと見たものは誰もない。

 ただ、数年前に令を破って真夜中の通りへ出、遮二無二、夜の風景写真を撮っていた写真家が、この店へ向けてシャッターを切った、その時のモノクローム写真がなぜか、写真家の葬儀の後に出回って、その中には確かに、白い貝殻や木材で構成された長身の人物群が、店を出入りするのが写っていたということである。

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骨煙の店 安良巻祐介 @aramaki88

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