ドメスティック荒療治
所狭健
星
塗れた空にまた一つ。
現れたのだ仮初の輝きを纏う星が。
朧げな目をした少年はこの星を見ていた。
幾千億もの鶏が羽ばたく広大な星空の中で、飛び抜けた色香を放つわけでもなく。他を圧倒するような才覚があるわけでもなく。
デジャヴの渦に巻き込まれ、なす術もなく流されていく者たちを横目に見ながら、淡々としたふりをして自分だけに判を押すような、不躾で不安定でくぐもった輝きを放つこの星を。
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悲しいほどの静寂を無機質な爆音が破りさる。
重い瞼をやっとの思いで開けると目の前には絵に描いたような夕焼けが広がっていた。枕元にある耳をつんざく元凶の時計を覗くと、時計の針は誇らしげに4の字を指していた。
おもむろにベッドを軋ませながら起床したあと、半周遅れの食事と同時並行でパソコンに向かう。ほこりに好かれたパソコンの画面は雪山でもないのにホワイトアウトしていて、かろうじて見えるのは動くことを知らないのではないかと心配になるほど固まった表情をした証明写真。その横に力のない手で”立石正生”と打ち込む。これでは歩く動作だけして、肝心の移動ができていない。「これではいけない。」不本意の出勤に不満げな足を叩き起こして玄関へ向かった。
ドアの覗き穴に歪んだ姿が写った。目は鈍く輝いていた。
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「白は美しい。
他のどのような色が立ち向かおうと決して揺らぐことはない。
当然家具は白。家も白。電話帳も白。飼ってる犬の色も白。名前は白ではないが。
あと髪の毛も白ではない。」
白昼の最中。白を見に纏った人混みの中で心に白を纏う。
「クーッッあつくてしょうがない。」
あまりの暑さに目が眩む。
目前に広がる眩ゆい受動的な日常は、テーマパークである。
昂る気持ちに思わず口が躍る。
「人の目を憚らず騒ぎ倒してる若者の集まりだ!大学生かな?羨ましいね本当に。こんな昼間からツレとカラオケかい。楽しそうだ。まあいいや。」
オーダーメイドの実況席は昼だというのに夢を見させる。
「ああ、なんか皆んな楽しそうだなぁ。笑顔で歩くのはボクだけじゃないのかい。そうかい。羨ましいなぁ。ああ、財布が落ちた。あっごめんなさい。純真無垢な少年とぶつかった。拾ってくれない。拾おうともしない。素振りすら見せないんだよ!ああ、もういいや。嫌になっちゃった。何もかも。」
理不尽な我儘が漏れていく。ドロリドロリ
と流れていく。
バァァン。鈍く生暖かい音が突如として周囲に響き渡る。大自然のホワイトライトが照らすのは赤く染まった黒いシャツの中年男女と、白いシャツを着た青年だった。
非業の現場にはこれでもかと響き渡るサイレンと赤く塗れた影法師。行き場を失った魂から名刺が漏れ出す…
ひどく曲がった白い名刺が。
ドメスティック荒療治 所狭健 @tokorosemasi
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