U.So.A.
生田 内視郎
U.So.A.
「本当によろしいのですか?」
「ああ」
淀みなくスラスラと書面にサインする。
それが私がヴィーガンとしての覚悟の証だった。
私はこれまで博愛主義者としてこの国、ひいては全世界の息とし生きる者の為、世界のトップの大統領として君臨し、惜しみなくこの身を投げ出してきた。
自由と平等を愛するこの国の理念を体現し、幾つもの差別や紛争を根絶してきた私だが、残念ながら寄る歳波には勝てず、食糧動物の保護にまで手を伸ばすことが叶わなかった。
そんな時、競馬界で競走馬の非道く残酷な処遇を耳にした。
彼らは産まれた時から競走馬として過酷な運命を背負わされ、故障したり成績の振るわない馬は真っ先に殺処分され、優秀な成績の馬も乗馬クラブで酷使された挙句、末路はドッグフードだと言う。
私はこの事実に愕然とした。
たかが賭け事の為に人間本位に生命を玩ぶ、こんな残酷な行為が許されてはならない。
私は一人のヴィーガン、いや、人間としてこの身勝手な行いに抗議する為、ある書面にサインすることにした。
その書面とは、自らの処遇を動物と平等に扱うという契約書だ。
この契約により死後、私の死体は土に埋められることなく屠殺場でバラバラにされ、ミキサーにかけられて粉になり、豚の肥料かドッグフードになる予定だ。
この決断に勿論家族は大反対だった。
だが、大統領という立場である私が過激な行動を起こすことで人類が自らの行いを省み、世界が少しでもより良い方向に向かうなら、私は喜んでこの身を捧げる覚悟だった。
「では、書面通りに後のことは頼むよ」
私は全幅の信頼を寄せる秘書に契約書を手渡した。
「はい、確かに受けとりました」
秘書はそういうなりドアの向こうに行くと、厳重な防護服に身を包み、火炎放射器を私に向けてきた。
「お、おいおい!?それは一体何の冗談だ!?」
「申し訳ありません、大統領。
実は先日、ワシントン広場での野外講演会にて人類に感染する新種のウイルスが発見されました。まだ大統領のウイルス感染の検査はされておりませんが、感染拡大を懸念し、大統領はここで殺処分されることとなりました」
「ふざけるな!!私は大統領だぞ!?こんな真似をしてただで」
「ですが感染症に罹った動物はウイルスが拡大する前に焼却処分するのが慣わしでして。
先程の契約書を履行する為にも私はここでアナタを焼き殺さなければなりません」
「そんな馬鹿な……」
「残念です。アナタは素晴らしい大統領だったのに。あんな契約書にサインさえしなければ」
秘書は火炎放射器のトリガーを引き、私は自分の灼ける美味しそうな匂いを嗅ぎながら絶命した。
U.So.A. 生田 内視郎 @siranhito
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