もっとも危険なゲーム

郷 朔次郎

もっとも危険なゲーム

 何故だか分からないが私は選ばれた。それはひと月前のことで、私はアリゾナの射撃場に居た。腕を錆びつかせないために、私はこの場所をよく使用する。

そこは主に法執行機関の成員に、射撃訓練の場を提供することを目的とした施設でありながら、私のような民間人も利用できるのだ。ちょっとしたコネは必要だが。

セールスポイントは、野外でライフルや短機関銃を使った、実戦を想定した演習が可能であるということで、それが私がここを選び使う主な理由でもある。

なにしろ私は、親から受け継いだ遺産で遊んでいる、サバゲーフリークのバカ息子なのだ。

断るまでもないだろうが、これは偽装擬態である。今までのところこの設定は、何とか破綻せずに済んでいるようだ。

 その日は、私のエージェントによる指定だったのだが、彼のメールにはこうあった。

「〇月〇日〇時、△△射撃場で会おう。詳細はその時話す。日時が都合つかない時は、乞連絡。」

『お仙泣かすな、馬肥やせ』並みに簡潔だ。ビジネス文はこうでなくては。だから私は、彼のエージェントとしての手腕を認めると共に、味も素っ気もない彼の人柄が大好きなのだ。余計な気を使わないで済むから。

「あんたは、サバイバルゲームのシナリオ作成に協力するアドバイザーだ。」

その射撃場で、エージェントの彼が私に言った。 

「それはどういう意味だ? 」 

「知らんよ。先方がそう言ってる。」

「どうやら私のことを、相当調べてるようだな。」

私の内部の信号機が。黄色に点滅し始めた。

「あんたに合わせたカムフラージュの心算じゃないかな。」

彼はまったく気にしていないようだ。

「とにかくクライアントは、ここで何時もあんたがしていることを見たいんだそうだ。結構な金も、既に前払いで受け取ってある。」

「君が、熱心にこの仕事を勧めた理由はそれか。」

「最大多数の最大幸福。私は常に、あんたのことを第一に考えているんだ。私が仕事を受ける。あんたがそいつを片付ける。クライアントは満足する。その結果…、」

彼は、世界中で自分ほど善良な人間はいない、という表情を作って言った。    

「私もささやかな利益を得る。それでみんな幸せになれる。」

「その最大多数とは、たった一人君だけのことだと知ったら、ベンサムが化けて出てくるぞ。」

彼は渋い顔をしたが、

「さっ、とにかく始めてくれ。博士が、クライアントが見ているんだから。」

と、私を急かす。

私は始めることにした。どうせ、普段自分がやっているちょっとした体慣らしを、費用相手持ちで出来るのなら悪い話ではない。無論、仕事に差し障りのある深いところまで見ることはしない。それならいいだろうと、自らを納得させた。

間違いだった。只酒を飲もうというさもしい根性は、畢竟招来するのである。高い代償を払うという結末を。

だが、その苦い覚醒と後悔は後からやってくるのだ。とにかく私は踏みだした。未来を覗くことは、人には不可能である。



 こうして私は博士に選ばれた。当然、私は彼に理由を尋ねた。博士の無愛想な言明によると、私の特殊技能、就中銃の腕を買ったということだった。

最初に何処で私に眼を付けたのかは不明だ。しかし、実に喜ぶべきことと言わねばならぬ。何故なら、後で知ったことだが博士は、シンザンみたいに鉈の切れ味を持った辛辣な言葉を、誰彼構わず投げつけることで聞こえた人物なのだそうだ。その彼による評価は黄金に値する。たとえ、その裏に一万倍の鉛が張りつけられていたとしても。

こんな私の口振りからも分るだろうが、私と博士は上手くいっていない。最初からなんだか合わなそうだとは思った。こういう第一印象は概ね当たっているものだ。

私は彼が嫌いだ、いや、大嫌いだ。時が経つにつれその思いは増していった。といっても、たかだか数週間しか経ってはいないのだが。

無論、確実に向こうもこちらをそう思っているだろう。

では、何故我々は一緒に『仕事』をしているのか。それは彼が、飯塚博士が、このプロジェクトの総括主宰者であり、私は『仕事』の途中わけあって彼に救われ、彼の命令のままに動かなければならない、という状況になってしまったからだ。

まったく以って素晴らしい。『ジーラ・ジーラ』を口笛で吹きたくなるくらいに。



 さて、ここで少々時間を戻したところから、話を続けよう。

日本に帰った私は、飯塚博士を訪ねた。要するに、向こうから呼び出されたわけだ。

兵営のように見える建物の、衛門の前で誰何された私は驚いた。そのこと自体もそうだが、脇に掲げてある掲示板の文句が、衝撃的だったのだ。

『侵入者及び指示警告に従わない者は射殺する。』

(ここは日本のはずだな? 私は白日夢でも見ているのだろうか?)

そこへ飯塚博士がやって来た。わざわざ迎えに出てきた博士を見て、私はまたまた驚いた。

これはVIP待遇と言ってもいいのではないか。そうではなかった。すぐに私はそれを思い知ることになる。

私は博士に続いて彼のファクトリーに入っていった。彼は自分の研究所をこう呼んでいるのだと、これも後で知った。

博士が部屋のドア前で、壁の隅のパッドに暗証番号を打ち込む。

(これで四カ所目か。)

認証を受けて潜り抜けた関所のことだ。

ドアが開いて我々は内に入った。整然と何列かに並んだ机の上には、整然とパソコンが載り、彼の部下の所員が黙然とキーボードを叩いている。

(これは只の事務室ではないか、理工系の研究所という雰囲気は、あまり感じられないな。)と、頭の中で呟いている私を見透かしたように、博士は振り向いてニヤリと笑った。

我々は部屋の後部の壁に達し、彼が隅のキーパッドに数字を打ち込む。

(五カ所目。いよいよ奥の院らしい。)

そこは博士の専用室のようだった。このパソコンルームを通り抜けないと、彼の部屋に到達できないわけだ。これもセキュリティの一要素なのだなと、特に改まって意識することもなく、私は頭に刻み込んだ。

つまり、この部屋に入れるのは博士自身が解錠した時だけなのだ。

だから私を迎えに出てきたのか。この男が案内ボーイなんかするわけがない。私は胸の奥で苦笑した。

その部屋には、壁に巨大なスクリーンが設置され、その前には大きく幅を取った制御卓がある。

博士がコンソールのメインスイッチを入れ、更に卓上のボタンをいくつか操作すると、スクリーンに広々とした草原が映し出された。動物の群れが画面の端から現れる。

どうやらアフリカのサバンナのようだ。

「あの動物たちはロボットなのだよ。ライオン、象、犀。それにヌー、キリン、水牛、みんなロボットだ。」

どうだといった表情で、彼は私の様子を窺った。本当に生きているようにしか見えない。確かに驚いた。これで今日三度目だ。

「動物を狩り立て、娯しんで殺す。これをスポーツというらしい。そのためにあの大陸では、ライオンその他を養殖している。そう、養殖だ。海で魚をそうしているように。だから私は、それらの動物をロボットで置き換えようとしているのだよ。」

意外だった。博士にこんな一面があったとは。

「私は、これらの動物ロボットの出来に自信があった。で、そのスポーツとやらを愛する血に飢えた紳士たちに、実地にサファリツァーに参加して貰い、実際に狩りを行って感想を聞いた。ところが…、」

そこで博士は肩を竦めた。

「ところが、彼らは不満そうな顔をするのだ。で、何と言ったと思う? 『赤い血が流れていない! 』彼らはそう言ったんだよ。文字通り彼らは、血に飢えた紳士だったわけだ。」

話している博士の表情は、曇っても怒りを湛えてもおらず、むしろ愉快そうに見えた。    

私はそのことに違和感を覚えたが、その時は流してしまった。後から考えれば、この後に続く博士の発言を含めて、もう少し注意を払うべきだったのだが。

そんな私を気に留めることもなく、博士は話し続けた。 

「これが人間だ。残酷で血を見るのが大好きなのだ。ところで、浅瀬を渉るヒューマニズムの信奉者たちはこれを非難し否定する、それは確かだ。いいだろう、私は彼らが存在することは認める。彼らの言説を除いてだが。つまり…、」

そこで言葉を切って、博士は私を見た。あの人を小馬鹿にしたような薄笑いを浮かべながら。

「獲物の喉笛に食らいついて命を絶ち、腹を引き裂いて内臓を貪り食った血の滴る口で、平和を説き命の尊さを語る。そうだ、これが人間だ。これが人間なのだ。非難する者たちも、一皮剥いた中身に変わりはない。ただ、綺麗事を言う口を持っているというだけだ。これを偽善と謂う。彼ら両者に本質的な違いなどない。」

私は混乱していた。博士の話の初めと終わりがうまく結びつかなかったのだ。

(そうか、これが飯塚博士だ。これが飯塚博士なのだ。)

やはりこの男は、常人には理解不能の怪物なのか。

「君にはアフリカへ行ってもらう。」

博士は言った。

「改良した動物ロボットをテストするために。」

「上手いこと赤い血が流れるかどうかを確認するために? 」

「そうだ。」

「感謝しますよ、博士。」

私はにこやかな表情を作って言った。やられっぱなしでいるわけにはいかない。

「私の特殊技能を、どんなに高く評価してくださっているか、よく分かりました。」

「いや、分かっていない。」

厳しい声だった。

「君は、ジープやランドクルーザーに乗って動き回り、ハンティングするわけじゃない。サバンナや、場合によってはジャングルもしくは砂漠を、徒歩で行動するのだ。ベース迄は我々が支援する。が、その後は自分の足で歩いてもらう。装備を背負ってね。」

「何故…、」

言いかけた私を遮って、博士は続けた。

「質問は無しだ、今日のところは。後は現地でそこのスタッフが説明する。以上だ。」

つまり、もう帰れということだ。



 私は地下鉄の駅から地上に出た。街には宵闇が迫っている。不快な靄が頭蓋内を覆っていて、何か気晴らしが必要な気分だった。泊まっているホテルのバーで飲む気にもならない。居酒屋が密集している飲み屋街へ向かい、一軒の店に入った。

日本に居るときは、偶にこういう場所に来る。勤め帰りのサラリーマンたちの喧騒の中に身を置いて、

(あるいは、自分もこのような人生を送っていたかもしれない。)

懐旧か悔恨か定め難い一時の感慨に浸るのだ。

(そんな事にはならないだろう、現にならなかった。)

と、俯きながら肩を落として店を出るのが常なのだが。

 ホテルに戻ってみると、ロビーで若い女が待っていた。刺客ではないだろう。彼らなら死角から不意を衝くはずだ。もっとも、囮の可能性もあるので私は油断しなかった。裏世界の渡世の習いが、全身に染みこんでしまっているのだ。

女はファクトリーの事務員だった。博士からの言伝で、ロビーでは話せないと言う。で、私の部屋に行くことにした。

エレベーターでも廊下でも私の頭の中の警報は鳴らない。私は少し身体の力を抜いた。

私の部屋の前で、今一度注意力の感度を上げてドアを開け、慎重に足を踏み入れる。

五感を全開にして周囲の空気を探ってから、明かりを点けた。念のため部屋中、バスルーム、クローゼットまで隈なく調べてから見ると、女はまだドアを入った所に立っていた。

通りに面した、壁一面がガラス張りの前のソファまで手招きし、掛けるように言ったが、彼女は立ったままだった。

「どうした? ファクトリーに何かあったのか。急用なんだろう、黙っていては分からないぞ。」

「すみません、嘘なんです。博士に言いつかったのではありません。」

「え? 」

「ファクトリーの裏の顔が…、どうしてもお知らせしなくてはいけない事があって…。」

鞭を叩きつけるような衝撃音と共にガラスに穴が開き、女が吹き飛ばされるように倒れた。

咄嗟に私は床にダイブし、射線を避けようとして転がった。頭を捻って見ると、女は暫しの痙攣の後動かなくなった。

カーテンも引かず明かりを点けて、しかもガラスの壁際に彼女を立たせてしまったのだ。

何という迂闊軽率なのか、私は己を罵り、強化合わせガラスに開いた穴に眼を遣った。

しかしここは日本だ。こんな事態がありうるのか。海外なら私ももっと警戒したはずだ。ここは日本。いや、言い訳だ、プロ失格だ。

 だが、日本でこんな狙撃が出来るのは…、ある人物が脳裏をよぎった。まさか…。



 警察は、女は巻き添えで撃たれた、と見ていた。つまり、あの銃弾の本来の標的は私だと疑っているのだ。

当然だろう。女は歴とした研究所(ファクトリー)の社員であり、しかも唯の一事務員だ。

それに引き換え私は、無職の無宿者なのだ。おまけに、今まで何処で何をしてきたかも不明ときている。胡散臭さが春の桜のように満開だ。これで疑われないなら、世の中に不審者は皆無になる。

「一所不住、行雲流水。」と、言おうとして私は思い止まった。古びて薄汚れた机を挟んで向かい合って掛けている警部は、どうやらそんなに愉快な気分ではなさそうだと見て取ったから。

そこへ緊張した表情の警官が、ノックの音と共に警部の返事も待たずに、ドアを引き開けて飛び込んできた。敬礼もそこそこに彼に耳打ちする。

聞き終わった警部は、私に訝しげな一瞥をくれると、慌ただしく部屋を出て行った。

私は残った年若い警官に笑みを向けてみる。彼は硬い表情で無視した。

(愛想のない男だ。あまり出世は望めそうもないな。)

そうこうしているうちに警部が戻ってきた。荒々しくドアを開け、閉めることもせず私に近づくと、両手を机に叩きつけ私の顔を覗き込んだ。否、睨みつけた。

彼は宇宙の終わりまでそうしていたそうだったが、不承不承身を引き起こすと、ドアの方へ顎をしゃくり、タイタニックを沈めた氷山よりも冷たい声で言った。

「行っていい。さっさと出てけ。」

 無論、私に異存はない。立ち上がり、伸びをし、肩を廻し、体を解してから歩き出す。開いたままのドアを出ようした時、警部の声が追ってきた。

「お前さん、一体何者なんだ? 」

私は立ち止まって振り返り、微笑と共に軽く一礼すると、その場を後にした。

 こうして私は博士の下僕になった。つまり、私が放免されたのは、博士が裏で手を廻したからなのだった。

(博士、あなたは一体何者なのだ? ) 

私は、あの警部の気持が少し分かったような気がした。

後になって、あのまま拘留され、更には刑務所に送られるような破目に陥っても、その方がマシだったのではないか、と、埒もない考えに囚われた事もある。

だがしかし、時間は元には戻せない。人生はやり直せないのだ。

ただ、私には一つだけ心の隅に引っ掛かっている疑念があった。それは、ホテルでの女の死は誤射ではないという確信に由来する。

あの時、二人はガラスの壁に平行に向かい合っていた。狙撃者の射線上に重なってはいなかったのだ。

それに彼女は急所を見事に射抜かれていた。断じて誤射ではない。あれは彼女を狙ったのだ。では何故? その理由は? 

それが分からなかった。



 私はアフリカのサバンナで、まるで本物のようなロボットの犀を狙っていた。

私をピックアップトラックで、現在地にほど近いスポットまで乗せてきたベースの責任者は、荷物を降ろしている私を手伝おうともせず、私の作業が終わるや否や帰っていった。

アフリカ勤務に満足していないという不満憤懣の意を、全身から発散させながら。

出来ることなら彼は、この役目を現地人の部下にやらせたかったに違いない。おそらくは、博士の命令で已むなく嫌々ながら務めている、といったところなのだろうと私は推量した。

私は、この自らの不運を呪っている男に何らかの吉報がもたらされることを、草むらに向かって用を足しながら祈った。

その地点には現地スタッフの手で、簡素な小屋が建てられていた。狭い室内には何もない、ただ頑丈なだけの監的哨のような建物である。要するに、猛獣、蛇、毒虫の類を防ぐことだけが目的なのだ。サバンナで単独露営は出来ない。

そこで暫時休憩した私は、やおら行動を起こし、ロボット犀に遭遇したというわけだ。

 突然、犀の陰から男が跳びだして、私に向かって突進してきた。

(知っている! )かって特殊部隊で一緒だった男だ。成績一位を私と争っていたが、ある時私的理由で除隊し消息不明になった。

その男が今、私に対して突撃している。しかし、何かおかしい。私の感覚のどこかが、身についた第二の本能の棘でチクチクしたが、私はそれを振り払った。今は目前の事態に対処するのが先だ。

彼は、ジグザグに進路を変えながら突っ込んできた。ライフルの銃口で追従しながら、私はあることに気がついた。

彼が、右に左にと進路を変える瞬間、その切り替えに必ず0・一秒息をつくような間があるのだ。私はこのタイムラグを衝くことにした。

彼が進路を変えるぞ。一瞬止まった。(今だ! )私は発砲した。

彼がのけぞり倒れる。確かに手応えがあった。それと同時に複雑な思いが襲ってくる。

彼を殺してしまった。私は慎重に近づいて行った。

(これは! )倒れている彼は、いや、彼と思い私が倒したのは、彼にそっくりなロボットだったのだ。

背後の気配を感じたときは遅かった。不覚だ。

「後ろを取ったぞ。」

含み笑いが私の背を打った。彼だった。本物のほうだ。

「武器を捨て、手を上げろ。」

「どうした、撃たないのか? 」

「後ろからは撃たない。お前さんはな。」

「それじゃ、そちらを向いてもいいのかな? 」

「手は上げたまま、ゆっくりとだ。」



 私たちは向かい合って立っていた。ホールドアップは解除されたが、私のライフルとホルスターに入った拳銃は、今は彼の足元にある。

彼は私の胸元に銃口を擬したまま、のんびりした口調で話し始めた。ただし、警戒を緩めたわけではない。これを読めずに油断と見誤り、誘いに乗って空しくなったアマチュアの墓標が、彼の背後に蜃気楼のように漂っているのが、私には見えた。手強い男なのだ。

「『夢のサファリパーク』なんて大嘘だ。本当の狙いは、」

彼は、倒れている彼に似せたロボットに顎をしゃくった。

「戦闘ロボット、殺人ロボットの開発及びその運用ノウハウの獲得なのさ。」

「こんなに完全な人型ロボットが必要なのか? 」

「まだ完全とは言えん。見た通り、あっさりお前さんに倒されちまったからな。」

彼は右脇で小銃を構えたまま、左手の親指でロボットを指し、次に上に向けた。

「今さっきのお前さんとの戦闘状況は、こいつに内蔵されたセンサーで収集され、逐一滞空しているグローバルホークに送られて、即時転送された。」

彼は、ほとんど快活と言ってもいいような笑みを浮かべながら続けた。

「今頃博士は、大喜びでデータの解析に取り掛かっているだろうよ。」

「では君も、あの博士に雇われているのか? 」

「そんなところだ。」

「で、その完全なロボットが完成した暁に、目指すのは何なのだ。」

「想定しているのは大規模な戦場じゃない。局地戦、もっと言えば市街戦だが、街中を無限軌道付きの足で移動してちゃ、隠密行動は出来ない。二足歩行で自律単独行動するロボットが、究極の目標だ。完全に人間そっくりのロボットが必要なのだ、と博士は言っている。」

「つまり、テロ要員というわけか。」

「反対側から言うなら、聖戦を遂行する義なる戦士だな。それで、戦いに勝った方が書いた物を歴史と呼ぶ。人の世の習いさ。」

「博士と馬が合うわけだ。」

怒るかと思ったが、彼は笑った。

「そうかもな。だが、奴さんと俺とは一つだけ決定的な違いがある。奴は使う側で、俺は使われる方だという違いが。世の中には、この二種類の人間しかいないっていうことさ。セラヴィ。」

「すると、我々のここでの行動は。」

「その通り。グローバルホークやドローン、おまけに偵察衛星まで使って、すべて監視され記録されている。つまり、俺たちはロボット様の性能向上のための実験台、便利に使い潰せるモルモット、いや、サバンナという囲いに放り込まれた軍鶏だな。」

彼は大きく息を吸って吐きだした。

「命がけの蹴りあいを期待されてるんだ。有り難くて涙が出るだろ? 」

(そうか! )それで謎が解けた。

「ホテルで殺されたあの娘は、そのことを知って私に伝えようとしたんだな。」

「まずいことに、博士に感づかれたのがあの女にとっての不運さ。」

「それで博士は君に。」

「そうだ。」

と、彼は言った。

「俺が彼女を始末した。」

湧き上がる感情を何とか抑えて、私は訊いた。

「今まで起きたことは、全て博士の指示か? 」

「無論だ。俺が自分の意志で自由に動いているように見える、この大陸のサバンナと密林でさえ、奴の手の上で踊っているに過ぎない。」

彼はニヤリと笑って続けた。

「当然、お前さんもな。」

何とも愉快な話だ。

「君の娘は元気か。」

共に訓練に励んでいた頃、彼の妻に連れられて兵営を訪れた幼女を、見かけたことが

あった。やっと歩き始めたばかりと言った年頃の、可愛い子だったが。

話題を変えようとした私の何気ない問いに、彼の眼が光った。

「何故そんなことを訊く? 何のつもりだ? 」

「どうした? 何か気に障ったのか? 」

彼はここで、自分が過敏過剰な反応をしたことに気づいたようだ。

「済まない。実は、」

彼は話しだした。

曰く、彼の妻はだいぶ前に男を作り家を出て、彼と幼い娘が残された。彼としては精一杯の情愛を注いで育てた現在十二歳の娘は、先ごろ急性白血病を発症して入院中だ、と。

対処しなければならないことが多い中で、まず何よりも金が必要だった、と言う彼の言葉には自嘲の音自虐の響があった。どうやら彼は鎧を脱ぎ掛けている。

彼は左手で、胸ポケットから端末を取り出し操作した。

サバンナ仕様のバギーがブッシュの陰から現れ彼の横に来て止まった。

「そういうわけで、これがその金だ。」

彼は、バギーの後部にバンドで固定されたスーツケース大の、工具箱のようなジュラルミンのケースを顎で指した。

「現金? それをいつも持ち歩いているのか? 」

「そうだ。娘のための大事な金だからな。」

「どこか安全な所に隠しておいたほうが良くはないか。第一、動き回るのに有利とは思えないが。」

「銀行なんかに置いてたら、博士が手を廻してパーになる恐れがある。隠すのも無理だ。きっと暴かれ攫われる。あの野郎ならやりかねん。」

私は、彼の博士に対する率直な感想と評価を、興味深く聞いた。

「この任務を終えたら俺は引退する。もう広い土地付きの家も見つけて、手付を入れてある。静かで落ちついた良い所だ。退院してからの話だが、そこで娘の病を養う。きっと良くなるだろう。」

「美しい親子愛というわけか。」

(平静に)と、自らに言い聞かせながら私は続けた。

「君が殺した娘の親が聞いたら、大いに感動するだろうな。」

抑えきれない怒りが、言葉に籠ってしまった。

私の銃を助手席に置いてバギーに乗り込もうとしていた彼は、振り向きグッと顎を引くと歯を食いしばり、隙間から言葉を押し出した。

「仕事だ。」

「汚い仕事だ。」

「娘のためだ。そのためなら悪魔にだって魂を売る。」

「選りによって最凶最悪の悪魔にか。」

「もういい。下らないお喋りは沢山だ。」

私に向けた顔からして、激語が降ってくるものと、私は心の用意をした。だが、彼の発した言葉は驚くほど穏やかで、むしろ、寂しさを漂わせているようだった。

「打ち明けて語りて何か損をせし如く思いて友と別れぬ。」

彼の顔からは一瞬前の険しさが消え、暮れなずむ北国の海辺で、たった一羽で啼く海猫のような表情が浮かんでいた。

「今度会うときは…、」

低い声で彼は言った。

「どちらかが死ぬことになる。」

そのままバギーに乗り込み、発進すると100メートルほど先でいったん停まり、私のライフルと拳銃をブッシュの根元に置いて、振り向きもせず彼は走り去った。その後姿を見やりながら、私は立ち尽くしていた。彼は友と言った。友と、私のことを。



 サバンナのブッシュの陰で、私はライフルを手に身を潜めていた。彼とのゲームのために。互いに相手をゲームとして狙い狩るためのゲームだ。

彼もまた何処かから私を狙っているはずだ。じりじりと時間が過ぎて行く。私は待った。

無論、彼も待っている、その時を。

乾季のサバンナの空高く、雨とは無縁の雲が流れ、一陣の風が吹き渡った。

突然、右斜め前方500メートル位離れたブッシュの後ろから、あのバギーが現れ、私の方に向かってきた。彼が乗っている。

「おーい、撃つなよ。」

大音声で呼ばわり、空の右手を上げ左手でハンドルを操作している。私は立ち上がり、ライフルを腰だめで構えたまま待った。

バギーが停まり、彼が下りた。

(約100メートル。)私は油断なく目測した。

 彼は、右手を開いて肩の高さに上げたまま、左手で、座席に置いたライフルを持ち上げると元に戻し、ホルスターに収まった拳銃も同様にした。体をこちらに向けると両手を開いて腕を横に広げ、それから肩を竦めた。

丸腰をアピールしていることは分かったが、その意図をはかりかねて私は戸惑った。

彼が歩き出した。両手を開いたまま、笑みを浮かべて近づいてくる。

(一体どうしたというのだ。何か企んでいるのか? )

私の5メートル前で立ち止まった彼は、破顔した。

「ずいぶん緊張してるじゃないか。もう少しリラックスした方がいいと思うぞ。」

「君の狙いを聞けたら、多分落ちつけるんじゃないかな。」

彼は笑みを浮かべたまま頷いた。

「そりゃもっともだ。ところで、」

彼はバギーの方向に首を傾けると、

「あいつを呼び寄せたいんだが、いいかな? 」

胸のポケットに左手を持っていきながら、

「おっと、知っての通り、これはあいつのリモコンだ。早まって撃たないでくれよ。」

彼は、リモコンを親指と人差し指でつまんでゆっくり取り出すと、操作し始めた。バギーが動き出し近づいてくる。彼のそばまで来て停まった。

彼が私の方に向き直った。笑みが消え、表情が一変していた。

彼は上空にチラッと目をやると、私に戻して言った。

「奴からしたら、ここで俺たちが、死を賭けた軍鶏ファイトをすることを望んでんだろうが、俺はもう、あのクソ野郎のモルモット役にはうんざりしてるんだ。」

そこで言葉を切った彼は、深く息を吸うと続けた。

「俺たちの勝負は、俺たちだけのものだ。覗き見野郎の好きにはさせない。そこで提案があるんだが、拳銃で決着を付けるってのはどうだ? 」

『俺たちの勝負は、俺たちだけのものだ。』という彼の言葉は、私の胸の音叉を鳴らした。

「ああ、いいよ。君が望むなら。しかし、上から覗かれていることに変わりはないんじゃないか? 」

そこで彼に笑いが戻った。

「奴は、隠れたり不意を突いたりの鬼ごっこが所望なんだぜ。古典的西部劇は野郎の趣味じゃない。正面切っての決闘なんて、奴のロボット技術向上の為には、何の役にも立ちゃしない。だからこそ、そいつを見せてやろうじゃないか。男の死に様ってやつをな。」


 

 私たちは距離を取って対峙していた。 時が経ち、二人は同時に拳銃を抜き発砲した。

彼が倒れ、私は立っていた。倒れている彼に歩み寄り私は言った。

「あの時なぜ私を撃たなかった? それで全てはケリがついたはずだ。」

彼は苦しい息をしながらも、笑っていた。

「借りを返したのさ。」

「貸しなどあったか? 」

「先に返しておいたんだ。」

「言ってる意味が分からないが。」

「娘を頼む。この金を…、」

バギーに積んであるジュラルミンケースを目で示しながら、彼は言葉を絞り出した。

「娘に届けてくれ。俺があの子にしてやれることは、これぐらいだ。これしかなかったんだ。だから博士の仕事を引き受けた。お前さんを殺るという仕事を。」

彼は、あの絶好の機会に私を殺すことができた。そうして、娘のところに自分で金を持って行けた。他のどんな場合でも、彼は躊躇いなくそうしただろう。だが、今回はしなかった。何故か。

私たちは互いに男の闘いがしたかったのだ。これは彼の、そして私の、男の格律男の矜持の問題なのだ。それなくしてどうしてこの乱れ腐った世界で、汚れ仕事をしている己を保てようか。

彼は致命的な深手を負っている。このまま苦しみを長引かせるわけにはいかない。

「娘さんのことは確かに引き受けた。」

私は腰のホルスターに手をやり、彼の眼を見た。

その私の眸の色を読んだ彼は、笑みを浮かべ頷いた。

 

 


 私は、金を彼の娘のところに届けた。あのジュラルミンケースの表面には、「わが友に、頼む」と、表紙にマジックインキで書かれたファイルが張り付けられていた。

ファイルを持つ手が震えるのを、私はなんとか抑えつけた。

そのファイルには金をどう処置処理すべきか、几帳面な字で事細かに、しかし整然と書かれていた。

彼は、娘のために養育資金管理口座を作り、その管財及び娘の後見人として弁護士を選任していたのだ。

 私は口座が開設された銀行に行き、弁護士立会いの下に入金した。現金を持ち込むには裏ルートを使わなければならなかったが、たいしたことではない。弁護士は詮索しなかった。

これで彼との約束は果たした。だが、この弁護士がどこまで信用できるのかは不明だ。

それにあの老獪狡猾な博士のこともある。私は定期的に監察に来ようと思った。私が生きていられたらの話だが。

 次に私は、娘の入院している病院に廻った。しかし、病室には行かなかった。会って一体何を話す? 金を秘かに持ち込んだ顛末をか。もっと高尚な、たとえば温室効果ガスが地球環境に及ぼす影響についてか。あるいはいっそのこと、アインシュタイン方程式における宇宙項について語り合うのか。それとも……。とにかく私は逃げたのだ。

ただ受付で私の固定連絡先を告げ、何かあったら知らせてくれるように頼んで私は帰った。

私は一ところに居ないので、固定連絡先から携帯している移動端末に転送するようにしているのだ。



 さほど日を置かず、携帯端末に着信があった。彼の娘が死んだという知らせだった。私は出かけることにした。あの場所へ。



 私は、博士のファクトリーに忍び込んだ。普通なら容易い事ではない。何しろまず営門があり、更に建物内には五カ所もの関門があって、その都度認証を受けねばならないのだ。

しかし、私は拍子抜けした。ここに出入りしている時、内密に探り調べておいた手順と暗証番号は、そのままだったのだ。

ただ決まった一定の期間で、機械的に変更しているだけということなのだろう。

これが日本だ。機械よりも機械的な日本人。セキュリティでさえこれだ。何という小役人的処理! 小役人は、何も役所にだけ棲息蟠踞しているわけではない。民間もへちまもない、至る所小役人だらけなのだ。小役人国家ニッポン! 

しかし、それが今の私を利している。その場に似つかわしくない雑念を、頭を振って追い払った。

無人のパソコンルームを通り、博士の居室前に達し、壁のパッドを操作する。壁の一部がスライドして開口した。

背後の物音に気づいて振り返った彼は、さすがに驚いたようだった。

深夜にも拘らず、博士は明かりの付いた部屋で机に向かっていた。初老に達しようという歳なのに、この男は一体何時寝るのだ。

「君か! 何をしている。何の用だ。どうして警備の厳重なこの建物に入り込めたのだ? 」

「ずいぶん矢継ぎ早の質問ですな。私は特殊技能を買われて、あなたに雇われた筈です。あなたの眼は確かだったわけだ。」

「何のつもりだ。そんな物が、」

と、私が手にした拳銃に眼を向けて彼は言った。

「必要か? 」

「これが、私に関する購買品目リストの筆頭と言ったのは、あなたですよ。」

昂る感情を何とか抑えながら、私は続けた。

「『もっとも危険な遊戯』! 私たちに命懸けの闘いをやらせながら、あなたはそれを安全な場所から眺めていた。コロッセウムで、剣闘士の死闘を楽しんだローマ皇帝のように。…動くなっ。」

机の袖に伸ばそうとした右手の動作を止めた博士は、失望したような吐息を漏らした。机には、おそらく非常通報ボタンが仕込んであるのだろう。

彼は向き直ると背筋をピンと張り、私を睨みつけた。傲岸な態度を完全に取り戻している。さすがだなと私は思った。

いや、感心している場合ではない。

「現代の剣闘士の一人は命を落とした。だが、もう一人はこうして戻ってきた。飯塚博士、あなたに引き回され狩られる獲物から、あなたにとって『もっとも危険な獲物』として。」

博士は言い訳もしなければ、命乞いもしなかった。他の全てで唾棄すべき存在ではあったが、死を目前にした態度が奇妙な感銘を呼び起こした、あのルーマニアのチャウシェスクを、彼は彷彿とさせた。この一点だけは、彼のことを認めざるを得ない。

と、いきなり博士が笑いだした。

「そうだ、そうだとも。私は君の能力を買っている。だからこそ君を雇ったのだ。」

気が触れたのか、それとも時間稼ぎか、私には判断がつかなかった。

「君は疑問を持たなかったのか? この私の部屋に、あまりにも容易く到達できたことに。どうだね? 」

(なんだって! と言うことは? )

「君が此処に侵入を試みる可能性については、ことの初めから計算してある。」

博士の顔には、見慣れたあの人を馬鹿にした表情が浮かんでいた。この男は邪悪なほどに冷徹だ。怯えて我を忘れるなどという、そんな人間的な要素を持ち合わせている男ではないのだ。

「さて、その場合どうするか。硬い木材として植物繊維を形成し、セルロースを固着しているリグニンを溶かして、バラバラにしてしまえばいい。気を緩めて油断させるのだ。」

(そうか! 関門通過の手順と暗証番号を変えてなかったのは、罠だったのか。)

「どうやら分かってきたようだね。あっさり潜り抜けることが出来て、君の神経線維の緊張は弛緩した。だから無人の部屋に、新たに赤外線センサーその他が設置されているかどうか、なんて疑いを抱くこともなくここまで来てしまった。」

飯塚博士は、また愉快そうに笑った。

そういえば博士の笑い声なんて今まで聞いたことがあったろうか。ない、これが初めてだ。

私は稀有な事象に遭遇しているらしい。

こんな事態なのに、また私には、この場に似つかわしくない雑念が湧いてきてしまった。

いや、ついさっきも同じことがあったぞ。それで私は落とし穴に落ちたのではないか。

「なかなか聞き応えのある演説だったよ。君の別なる才能を知ることが出来て、私も喜ばしく思っている。」

そこで博士の声と表情は、常日頃の人を寄せ付けない酷薄なものに一変した。

「その銃を渡し給え。もう建物の正面は警備の者が固めている。出入り口はそこしかない。逃げられはしないぞ。」

「飯塚博士、あなたは確かに天才的なロボット工学者だ。」

自身でも意外なほど冷静な声音だった。おそらくそれは深い悲しみのなせる業なのだ。

「そう、深い悲しみだ。」

思わず声となって出てしまった。

「? 」

博士が不審そうな表情を浮かべた。

「飯塚博士、あなたの最大の欠点は、いや、むしろ盲点と言ったほうがいいかもしれない。あなたの盲点は、人間の本質が分からないことだ。あなたには人間というものが分からない。だから、いくら姿形を似せても大変精巧な玩具、よく出来たガラクタにしかならないのだ、あなたのロボットは。」

「また演説が続くのかね? 」

冷ややかな声が返ってきた。

「ちょっと褒めたら、調子に乗せてしまったか。」

期待はしていなかったが、博士の態度には私の言葉が到いたという気配は微塵も感じられなかった。

「人間らしさ? そんなものロボットには要らん。心? そんな隙間があったらグリスでも詰めておけ。」

博士の眼が熱気を帯びてきた。

「私が欲しているのは、不確定性を完全に排除した完璧な方程式だ。それによって未来が一義的に定まるような。それによってロボットが十全な行動ができるような。」

(ラプラスの魔? )現代人で、こんなことを正気で言うものがいるだろうか。だが、彼は本気だ。少なくともポイントオブノーリターンを越えて、向こう岸へ渡りかけている。

否、既に片足が彼岸に掛っている。 この男は危うい、放置するのは危険だ。

「さあ、その拳銃を渡せ。グズグズするな。」 

威嚇的な博士の言葉には、明瞭に苛立ちが見て取れた。

「私は一人の男を殺してしまった。飯塚博士、あなたの設定したゲームのために。」  

私は引き金を引いた。やらねばならぬ事だったからだが、気は重く心は晴れなかった。

これは復讐なのか? そうだ。ではこれは正義か? それは…、私は躊躇った。もし正義と言い切ってしまったら、私の行為、私の精神、私の存在そのものが、むしろ汚されてしまうような気がしたのだ。

きっと、私はこの自問を反芻し続けるのだろう。くたばる時まで。

それが何時かは私には分からない。ずっと先の事かもしれないし、ひょっとしたら今日かもしれない。



 建物の出入り口のマットの横で私は立ち止った。壁のパッドに暗証番号を打ち込む。

ここで五カ所目だ。ドアが開く。汚れた世界の饐えた匂いが、悪意に満ちた津波のように押し寄せ私に纏わりついた。

強烈なライトのビームが襲いかかってきて、その光量子の圧力に私はたじろいだ。

同時に、ハンドメガホンが何かがなっている。

(「銃を捨てろ! 」だって? そうか、私はまだ拳銃を手にしたままだったな。)

私は一歩踏み出した。切迫したメガホンの声が飛んでくる。私は聞いてはいなかった。

もう一歩踏み出した。更にもう一歩……。

                                   完


                                                          

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もっとも危険なゲーム 郷 朔次郎 @goh-sakujirou

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