三年ぶりの帰郷

 そのことがあったのは西暦二〇二二年、令和四年八月十三日───つまり、一昨日のことである。


 毎日のことだが、熱中症寸前の状況と戦いながらの勤務&残業を終え、すっかり盛夏の陽が落ちてから私は帰宅した。

 勿論、毎年この時期は仏さまを迎える仕度や当日のお供え物あれこれの準備や、迎え火をくという家庭内行事がある。自宅に居る時は手伝いもするが、勤務の時は当然出来ない。それでも以前は、迎え火を炊く頃には帰宅しようと努力していたが、今はそれもしていない。

 何故なら、昨年一月から続いた両親&弟との三対一の攻防の果て、いつもの『お前が手伝うのは当然のこと』という、例にって高圧的な両親の要求に応える気が全く無くなってしまったからである。まあ、私は子供の頃からずっと手伝って来たし、現在は弟が頑張ってくれているので、放っておこうという心境に達したわけだ。そもそも、お盆仕度の手伝いをしたからといって、お盆期間に仏前でお参りすることすらろくにさせて貰えないのだから、えて係わる必要もないだろう。


 ───閑話休題───


 ともあれ、その十三日に帰宅した私は、いつものように玄関に入って右手にある1LDK(というか、台所と居間が合体しているだけ)に顔を出して、帰宅の挨拶をしようとした。

 だが、ドアを開けるとすぐ目の前に、母と弟が立っていたのである。

 これは、かなりいつもと違う状況だ。この時間であれば、弟は自室に引っ込んでいるものだし、母はまったりとテレビの御守りをしている時間なのだ。

「どうしたん?」

 と、微妙な空気を察しながら私が訊くと、口を開いたのは弟だった。

「姉貴、さっきちょっとだけ帰って来た?」

 そう訊かれても、勤務終わり直前に『少し帰宅』する余裕や理由は、私にはない。

「帰って来てないよ」

 そう答えると、無言でざわつく弟&母。

「何かあった?」

 その質問に答えたのも弟だった。

「さっき、俺らがこっちの部屋(居間)に居る時に、誰かが玄関から家に入って来たんよ」

 なるほど。

 怖い話が好きなわりに、心霊関係の事象に激しく拒否反応を示す弟は、病気関連と心霊関連に関しては、常に私の見解を求める。

「私は今、玄関の戸を開けて入って来たから、その誰かが戸を閉めたってことかな?」

「わからん。確認してない」

「小太郎(夜間だけ室内犬になっている母と弟の愛犬)は、吠えた?」

「吠えてない。無反応」

「んじゃあ、十三日だし、迎え火も炊いたんだろうし、ばあちゃんが帰ってきたんやろ」

「だ~か~ら~、そんな怖いこと言わんで~!」

 とは、弟の言。


 一応、注釈を加えておくが、霊感だのシックス・センスだの言われるものにおいて、私自身は産毛程度の感性しか持ち合わせていない。ただ、その手のことには関心が尽きないので、多少の知識を持ち合わせているだけである。

「お盆に帰ってくる善良な親族のどこが怖いな」

 と、言い捨てて、私はその場を離れた。

 多少ややこしい話になるのだが、『親族だ』と判断する理由は幾つかある。一つは、玄関というのは一つの『せき』なので、通常は招かれていないものは通過出来ないということ。もう一つは、心霊的なものに全く興味のない母親が別の意図で置いている鏡が、玄関から入って来た相手に対して正面に設置されているので、一種の障壁としての役割を果たしているということだ。

 これらをものともせずに入って来たというころであれば、招かれた者=祖母だとしか考えられないのである。


 それを怖いと評した弟ではあるが、是非リアルに考えて欲しい。

 心霊的ではないもの、例えば見ず知らずの生身の人間が勝手に入って来たのであれば、その方が遥かに怖いと思うのは、私の気のせいではない筈だ。



 付記:自室に戻ってみると、当代愛猫娘ひーちゃんが結構騒いでいたので、どうやら先代愛猫娘グレちゃんも帰って来ているようだ。

 どちらもこの数年なかったことだが、世の中が『地方に住んでいる家族を守る為、帰省を控えよう』となっていた為、どうやら彼女達も帰郷を控えていたらしい───というのが、私の個人的見解である。

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夜の帳の中身は? 睦月 葵 @Agh2014-eiY071504

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