第6話 復讐神
目の前の2人の看護師を見て俺は歯を食いしばった。
八賀は38歳くらいの男性で少しお腹が出ており、頭が禿頭になっている。
戸原は30歳くらいの男性で少し焦げ茶色の肌をしている。
俺はこの2人にも虐待されていた。
怒鳴りつけられたり、殴られたり、蹴られたり、笑われたり。
トイレットペーパーを出さなかったり、ティッシュを出さなかったり。
トイレを我慢して頭を壁に叩きつけたりして腹痛を我慢したり。
本当に人間の底という底を見た気がした。
2人はこちらを見てにやりと笑った。
「なぁんだ。紫龍じゃないか、またいじめられにきたのかい」
「紫龍くんか、なつかしいな、君ほど叩きがいのあった患者は初めてだ」
俺は右手と左手をこきこきと鳴らした。
神モードは残り50分をきった。
「そろそろチャージしとくか?」
俺もあいつらと同じようににやりと笑ったのだ。
俺の内側から復讐の神のオーラのようなものが湧き出ていると言うことに、俺は気づいた。
八賀と戸原は恐怖の表情に変わっていく。
この2人は俺に指さしてげらげら笑いながら、もがき苦しむ俺を見て笑っていた。
だから同じことをしてやると普通ならなるが。
俺はもっと楽しい人間だと自負している。
「く、くるなああああ」
「ば、ばけものおおお」
「これはきっと復讐神だな、君達に天罰を与えないといけない、今日から君達は植木鉢だ。毎日水を与えられ、糞尿をたらしながら植木鉢として生きる。木々の気持ちになりたまえ、君達は自然環境が大事なのだろう? 俺がトイレットペーパーがなくなって困っていても、自然破壊になるからダメなんだろ? ならてめーらが自然そのものになればいいじゃないか」
「うああああ」
「うおおおお」
八賀と戸原が近くに偶然置いてあった消火器を掴んだ。
八賀は消火器を掴むとそれを振り回しながらこっちに向かってくる。
戸原は椅子を持ち上げて暴れている。
俺は右手をそこに指さした。
「神の御前だ土下座しろ」
圧倒的怒り、圧倒的殺意、暴発寸前の理性。
神のオーラは生命を屈服させた。
八賀はまるで無理やり禿頭の頭を押さえつけられているように、ゆっくりと土下座させられた。
戸原は子供のように暴れていたが、今では従順な子犬のようになっている。
他の6名の看護師達はこちらを驚愕の瞳で見ている。
カナデのマインドボイスによって操られている患者達が鋭い白目で看護師達を監視している。
まるでゾンビのようだが、俺が今意識しないといけないのは目の前の2人だ。
「君達に尋ねたい、院長室に入りたいのだが、なにせ鋼鉄かと思えるくらいの頑丈な扉えね、鍵をもっている奴を教えてほしい」
すると八賀と戸原はお互いを見つめあって、真っ青な顔色になっていった。
「か、鍵はないんだ。院長と菅原主任しか持ってないんだ」
「そうか、それは良かった。温厚な方法はなしという事かなまったく、どこの世界も無理やりパワーだな、カナデ、8人の看護師を拘束しろ」
「うん、わかったのー」
意味が分からず8名の看護師達が集められる。
そこには男性も女性も関係なかった。
「君達は神の生贄にする事にした。明日から患者様の気持ちになって、自分たちが患者にしてきたことを見つめなおしてくれ、君達は今日から植木鉢とする。今は技術が発達しているから両腕両足がなくても車椅子で生きていけるだろう、まぁ、きっと幸せだぞ、君達は良く言う、障がい者も健全者も同じだと。なら同じなんだろ? だからおめーらも両腕両足を切断してちょっくら今まで虐待してきた患者の気持ちになれよ、じゃあ、生贄にしまーす」
軽く俺は彼らの両腕と両足を触れていった。
次の瞬間、それはそこには元から存在していなかたかのように両腕両足が消滅した。
その次の瞬間血しぶきが巻き上がった。
もはや看護師達は血まみれの池の中に沈んでいこうとする。
だが俺は彼等の死を許さない。
「もっともっと、おめーらは相手の気持ちになれとかいうが、おめーらが出来てねーんだよ、もっと人生見直せや、障がい者も健全者も同じなんだろ、ああああ」
人によっては障がい者はハンデを背負っていると言う人がいる。
人によっては障がい者も健全者も同じだと言う人がいる。
人によっては実は障がい者のほうが恵まれているという人もいる。
人によっては心の病になったら人生が終わりと言う人もいれば、人生が始まる人もいる。
そうなんだよ、皆色々な事を考えていいんだよ。
なのにこれだからこうすべきとか、あの人がああしたからああすべきとか、そういったルールはどうでもいい。
だけど最低限の道徳って奴は人は持ってる。
「おめーらは人を、人をなんだとおもってんだよ」
俺は両目から血のような赤い涙が流れていた。
耳からも鼻からも血の液体が流れ続けていた。
怒りが爆発しそうで、差別が何を示すかで。
俺はどうやって生きて行けばいいんだって思ってた。
やっぱ、こういう事するの。
「ちょーたのしー」
俺は沢山の生贄によりさらなる力を得た。
右手から氷の炎を出現させた。
左手で触れるととても冷たかった。
「まいったなー俺はついに魔法使いになってしまったようだ。カナデもそうは思わないかい」
「いいなーわたくちも魔法使ってみたいなー」
「きっといつか使えるさ」
「それもそうかな」
「で、君達、俺はとてもやさしい人だ。君達の傷口を凍らせてあげよう、少し痛いと思うがね」
「や、やめてくれえええええ、ごめんなさい、本当にごめんなさい」
「悪気はなかったんだ。もう痛みで頭がおかしくなりそうだ」
「八賀さん戸原さんおめでとう今日から君達は自然の植木鉢となったんだよ、それを君達は求めていたんでしょう?」
2人は涙を涙を流し、涎を垂らし。
鼻水をぐちゃぐちゃにしている。
8人の悲鳴が病院の中を響かせているのに、マインドボイスによって操られた患者達は、ただゾンビのようにぼうっとしている。
氷で両腕と両足の切断面を凍らせた人達は痛みで意識を失っていた。
「カナデ、患者達を元の部屋にかえせ、それからしばらく出るなと言え」
「了解なのだ」
カナデの指示が下ると、彼らは移動をはじめた。
俺は右手と左手をグーパーしながらイメージしていく。
「ようは神の力を右手に集中させる訳で、生贄で得た力のどのくらいを消費すればいいかだが、うむ、わからないから半分くらいで試しと」
俺は右手を左手で包み込むと。
まるでゲームの主人公のように右手から空気を放つ感覚でイメージする。
息を吸い上げて、意識を目の前の頑丈な扉に向かって。
殴り飛ばす。
そうただ殴り飛ばす。
扉は一瞬で粉々に吹き飛び、爆風は院長室の家具をぶち壊すだけではなく、窓を突き破って、院長が個人で集めたコレクターズグッズが吹き飛ぶ。
院長は椅子に座ってこちらを見ており。
菅原リーダーこと主任がこちらを指さしている。
「あ、あいつです」
「なんじゃもん、とういうかこの部屋を吹き飛ばしてただじゃすまないと思うぞん」
大柄な男性であった。
お腹はメタボリック症候群になっているし。二重顎にもなっている。
彼はなぜかライフルを握りしめていた。
確か猟銃という奴だ。
九龍寺信三は趣味で鹿を狩る事をしている。
きっと猟銃も役所の許可を得ているのだろう。
「カナデ、ちょっと離れてろ」
「うんなの」
菅原リーダー主任は隣の扉に向かって逃げて行った。
後で植木鉢にしてやろうと思ってにやにやしている。
俺は堂々と院長に向かっていった。
「こっちにくるなぞもん、この猟銃の威力はすごいんだもん」
こちらは絶対不干渉を発動している。
誰も俺に触れる事が出来ず。どんなものでも俺に触れる事が出来ない。
それは衣服も靴も同じだ。
現在衣服は肌より少し離れている。
靴よりも足が浮いている。
不思議な状態なのだ。
俺は右手を差し出すように突き出す。
銃声が響いた。
音が鳴り響いたと思った時には銃弾は俺の右手に命中していた。
しかし俺に触れる事が出来ず。はじき返され、その弾は院長の右足に突き刺さっていた。
「いたいんじゃもん、いたいんじゃん」
俺はにこりと笑って。
「その弾を外してあげましょうか」
「できるんですもん」
「もちろんです、これをこうしてと」
「あ、あぎゃああああ、外すって右足ごと外すじゃないぞもん」
「違いましたか? これですか」
「あがやああああ、左足じゃないもん」
「ならここですか、ああ、ここもですね」
俺は右腕も左腕も生贄に捧げた。
「さてこうしてこの植木鉢の花をどけてと、さてあなたの家はここですよっと」
植木鉢に乗せた院長の姿。
俺は笑えて爆笑していた。
「さて、約束通り、あんたの記憶を日本中に投影させてもらうぜ」
俺の投影の魔眼は全てをさらす。それは一部だとしてもとても大きな事なのだ。
俺が映し出した投影はあらゆる機材に転送する事が出来る。
それはある種のデータのようなものになっている。
俺の目は全てではないが九龍寺院長の悪事を暴いていた。
院長の悪事の一部が全世界に投影されている。
俺は破壊された院長室をくまなく調べると、あ、そっかと気づいて、俺はポケットからスマホを取り出した。
テレビに繋げると、そこには院長の悪事が暴かれていた。
院長は植木鉢の鉢の上に固定されながら、それを見て、怒りの悲鳴を上げていた。
「これすげーな、おめーこんなことしてたんか、笑えるぜ、傑作だぜってなるわけんぇえええだろうがよおお、おめーはバカなのか、まともに生きろという奴がまともに生きてねーだろうがよ」
この画像は俺の怒りを頂点にさせるくらいだった。
その男は神喰らいし者~神から奪った力で弱者を助けるために立ち上がった~ MIZAWA @MIZAWA
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