第5話 特殊看護師部隊
俺と中桃とカナデは鍵束を使ってエレベーターに乗り込む事が出来た。
階段は何層にも鍵がかけられているので、侵入に時間がかかる。
なのでエレベーターだと入る時だけで済む。
「カナデ、患者と通院の人達を操ってるが、どのくらいまでもちそうだ」
「うんと離れれば離れるほど効果が薄くなるし、時間がたてばたつほど効果は薄くなる、頭の中で告げている声によると30分くらいかな」
「上出来だ。次に中桃、おそらく
するとごくりと生唾を飲み込んだ中桃は頷いてくれた。
「いつも僕はとてつもなく弱かった。だけど今日でそれは卒業だと思うと、とても嬉しい気持ちになれるんだ」
俺は頷いた。その時エレベーターの扉が開いた。
外に出ると、周りを10名の屈強な人間が守っていた。
ここはストレージケア病棟と呼ばれており、一応2階病棟とは言わない。
奥のほうに行くと旧病院の2階病棟が存在している。
俺は病院の廊下のつくりを見て懐かしさを感じていた。
カナデは嫌な記憶がよみがえるのかびくびくとしていた。
特殊看護師部隊のリーダー格らしき人物が前に進み出た。
彼の事をずっと忘れる事が出来なかった。
憎しみは憎悪を呼び、理性を崩壊させる。
だが俺の精神は神の力によって冷徹にそして冷静になる。
「これはお久しぶりですね、紫龍君、どうしたんですか? また自分にお仕置きされに来ましたか? ちょうど保護室が開いているのですよね、おっとカナデさんもいますが、あなたは女性の人がいじめてくれますよ、男が女性をいじめていると法律的によろしくないねぇ」
彼は看護師の主任であり特殊看護師部隊のリーダーである。
九龍寺院長のお気に入りでもあり、年齢は確か50代くらいだったはず。
名前は
こいつに俺は精神的にも肉体的にも攻撃を与えられ続けた。
その時だ。俺の怒りに気づいたのか気づかないのかは知らないが、中桃が前に出た。
「ほう、あなたは知りませんねぇその姿は」
「お前のようなゲスのいる病院には入院したくないなぁ、つーかおめーぶっころされてーだろ、いやぶっ殺すし、この世界から追放してやるよ、パーティー追放でもされてればいいんだよ、見せしめに数名切り刻んでやるぜ、うひひひっひ」
俺とカナデは唖然として中桃を見ていた。
能力を発動するとテンションが上がるらしい。
現在彼の体には無数の斬撃が生み出されている。
特殊看護師部隊の人達は何か空間がおかしいぞと気づいたくらいだろう。
彼らはよーく知っているのだ化学的ではないものは入院させられる原因になると。
「切り刻め、スラッシュ」
中桃の能力はスラッシュマンという力だ。
これは空気を斬り裂き、遠く離れた敵を斬り刻む事が出来る。応用すれば近接武器のようにもなると中桃は言っていた。
まず最初に10人のうち2人の両足が変な方向を向いて倒れた。
体がなぜ地面に落下するのか不思議そうに見ている2人はようやく自分たちの両足が切断されている事に気づいた。
「「あがあああああ」」
次の瞬間、化け物が吠えるような悲鳴を上げる2名。
2名はもがき苦しんでいるが、7名とは驚きの視線を中桃に向ける。
「と、とりあえず、取り押さえろ」
菅原は悲鳴交じりの声をあげて命令した。
命令された7名はこちらに走ってくる。
「紫龍、あのおっさんをこらしめたいんだろ、カナデも行ってこいお前の力があれば、色々と暴かれるんだからさ」
中桃はそう叫ぶと。
体をぐねりと動かした。
空気中に斬撃が生み出されている。
そして解き放つ。
四方に散り散りになるスラッシュにより特殊看護師達の血だまりが出来た。
次から次へと特殊看護師がやってくる。
それを中桃が囮になってくれる。
「なるべく殺すな、痛みを理解させろ」
「もちろんだとも紫龍」
俺は頷くと、菅原のいる方角に走った。
後ろからはカナデも付いてくる。
菅原は訳の分からない表情を浮かべている。
それもそのはずだ。特殊看護師部隊が次から次へとばらばらになっていくのだ。
まるで見えない斬撃により斬り刻まれる同僚を前にして主任でありリーダーの菅原は恐怖にかられたようだ。
後ろを振り返って、必死に逃げ始めた。
俺はにやりとほくそ笑んだ。
そして走り出す。
異変に気付いた患者達がドアを開いてこちらを見る。
1人また1人とこちらを見てカナデがにやりと笑った。
彼女は背中のリュックサックから拡声器を取り出すと。
体の内側から外側へと口から大きな声を出した。
次の瞬間、カナデのマインドボイスによって、操られた患者達がゾンビのように俺達の後ろを走る。
「ちょっとなんですかそれ、皆どうしたんですか、そんなにお仕置きがされたいのですかあああ、いいじゃないですかあなたたちは病気で国からもいらないと言われているんですよ、いいじゃないですか退院したって人によっては障がい者年金で暮らせるのですから、いいじゃないですか色々と助けられるのですから、あなた達は守られる、ならここで人間としての価値を掴もうではないですか、痛みつけられて痛みつけられてさ」
菅原が走りながら一生懸命叫ぶ。
俺の耳にその情報は入ってくる。
俺は失ったんだ。
俺はこの病院で人を大事にするという気持ちを理解できなくなったんだ。
俺はこの病院で強いものが弱いものを助けるという事があり得ないと知ったんだ。
俺はこの病院で正義とは何かを考えたんだ。
「俺はあんたらを許さない、だけど殺さない、障がい者になってもっと考えやがれえええええ」
俺は2度と眠る事は出来ない。
俺は2度と痛みを感じる事が出来ない。
俺は2度と静けさのある場所で休む事が出来ない。
俺は2度と暖かいぬくもりを感じる事が出来ない。
その時、目の前に扉があった。
確か院長室だったはずだ。
菅原はその扉をぶち明けると中に入った。
そして思いっきり鍵をかけたようだ。
俺はごくりと生唾を飲んだ。
先ほど植木鉢となった高橋からとった鍵束を全部使ってみたが、どれもこれも合う鍵は存在していなかった。
しかも院長室だけあって分厚い鋼鉄製の壁になっている。
操られた患者達はまるでゾンビのように一列に俺達の後ろに並んでいた。
その中には看護師もいるわけで。
どうやら拡声器の声はナースステーションまで響いていたようだ。
ざっと8名という所だろう。
「看護師8名だけマインドボイスを解いてくれ」
「うん、わかったのー」
カナデは解除の声を囁きかける。
すぐ耳元でやるのは他に操っている患者に聞こえないようにする為だろう。
きっとその声が聞こえれば、操作は解除されるようだ。
8名の看護師がこちらを大きな瞳にして見ていた。
次に周りで大勢の患者に囲まれているという現状も知ったようだ。
その中で2人の看護師がこちらをみていた。
「久しぶりですね、八賀さんと戸原さん」
2人の顔色が悪くなるのを見て取れた。
俺はまるでピエロのようににこりと微笑んで見せた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます