砂漠と餓鬼と塵芥36

「レ、レシドゥオス! あ、貴方には、いや貴様にはテロリストの容疑が──」


「隊長久しぶりだな。いや、つい最近も現場で挨拶したかな。今は容疑云々どころじゃないだろう。アレを倒すまで僕の協力が必要じゃないのか」


「何を言ってる。あの化け物お前が動かしてるのではないのか?」


「僕は関係ない。いつまにか園内のセキュリティが武装化して勝手に暴走してるだけだ」


「そんな戯言が信じられるか」


「信じようと信じまいとあの恐竜が襲ってくることに変わりはないぞ」


「うぬ──」


「ほら、じわりじわりと近付いてきたぞ。さっき信号送られたろ。衛士隊が気を引いてるうちに僕かあのおっさんか衛士隊の対戦車ミサイルで倒すと」


「倒す? お前が?……いつからそんなキャラになった? 普段は問題起こしては喚き散らして金をバラまくだけの駄々っ子が」


「言うじゃないか、いつも上役から僕の後始末で苦汁飲まされてばかりの管理職が」


「ぬかせ。いつかこの恨み晴らしてやろうとしてたんだが、タイミングが良いんだが悪いんだか」


“坊ちゃま、無駄話はそこまでに。来ますぞ”


「さあ来るぞ、外すなよ」


「その言葉、お前に言われる日が来るとは思わなかっぞ」



 ◇    ◇    ◇    ◇    ◇



「あれ、オドパッキさんじゃないですか? どうして貴方みたいな人がこんなところで?」


「うん? ああ、入管の──ヤーテさんだったか。こんな遅くまでご苦労様」


「いやいや、こちらこそ、ってそうじゃなくて衛士隊以外にも戦ってるっていうのは、あのおっさんとオドパッキさんだったんですね。なぜですか?」


「なぜと言われてもな。俺はレシドゥオスをぶっ飛ばすために来たらなぜか共闘する羽目になってこういうことになった」


「は? レシドゥオスと? 意味がわからないんですが」


「よく考えると俺もだ。なぜ俺はこんなところで戦っているのだ……? ──そうか、おっさんが世界のためにとかわけわかんないこと言い始めてそれで、出るぞ、なんて奴に言われたそのノリでだ。なんで言う事聞いてるんだ俺は」


「あのおっさんですか?」


「そうだ、ハメられたらしい」


「詐欺師ですかあのおっさんは」


“もう来るデシェ!”


「詐欺師の方がまだマシだったかもな」


「は?」



 ◇    ◇    ◇    ◇    ◇



 さぁ来い。このUSS大通りが貴様の墓場となるのだ! あと少し、あと少し、前へ来い! そうすれば左右両側からの一斉放火で貴様は灰燼に化すのだ!



 妙なテンションになっているオジサンは、106ミリ砲の発射を今か今かと待ち構えているが──


“来ませんね”


 先程まで武装車両を追いかけていたティラノサウルス械獣は、大通り四叉路の手前でピタリと歩みを止めていた。



 なんでだよ! さっきまでの勢いはどうしたんだよ! お前はそんなやつじゃないだろ! 自分で限界を決めるなよ! あと一歩あと一歩と一歩ずつ前に進むだけで地獄に近付くんだよ! 歩みを止めるなよ! 歩みを止めたら──諦めなるな! 諦めたらそこでおしまいじゃないか!


“警戒してますね”


 なんでだよ! ティラノは脳筋って昔から相場が決まってるだろ!


“いえ、最新──とはいってもスクラッチ前ですが──の学説ではTレックスは遊びの概念があったことや、集団狩猟、負傷した仲間の介護など高度な社会生活を営んでいた可能性が指摘されています”


 なんですとぉ! でかい頭は咬合力全振りのためじゃないのぉ⁉


“はい、長い間単独か親子単位程度の行動しかないと思われていましたが、集団行動の形跡や負傷した仲間も連れて移動していたと考えられる足跡などが見つかっています”


 でもさ、よく考えたらアレは機獣化したロボットだからティラノの生態関係ないよね。


“自分がティラノは脳筋って言ったくせに”


 ねぇ、それよりアイツの頭がボーっと光ってるんだけど、なんかヤバい予感しない?


“迎撃レーザーにエネルギーが収束、プラズマ化しています”


 なにそれ、迎撃レーザーなのに攻撃もできるの? それ反則じゃない?


“そりゃ出来るでしょう。見てください、プラズマの輝きが増して元気玉みたいですよ”


 さっきからずっと見てるよ! ヤバいってヤバいってヤバいって!


“とりあえず伏せるしかないですね。打つ手なしですよアレ”


 諦めないでぇ!


 

 とてつもない危機を感じ取ったオジサンは、車外に飛び出す間もなく、その場でハンドルに伏せる。



 一閃



 青白いひと筋の線が



 口から放たれる光が



 街を一閃した



 そして、正面ゲートまで響く衛士隊の“退避”の叫び声。



 その直後建築物が切り裂かれる様にずり落ち粉塵の爆煙を上げて崩壊していった。


 オジサンの真後ろでもずり落ちる鉄塊の音が響く。



 嘘だろ……



 一閃は園内入口の地球型モニュメントを真っ二つに切り裂く、そして──オジサンの106ミリ連装無反動砲砲塔も地面に横たわっているのだった。




 諦めよっか、もう。


“ですね”

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