おまけ フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン編8
打ち上げのあくる日、錫乃介は物資を揃えていた。なにせ廃ビルに缶詰にされて食料も燃料も底をついていた。対潜砂機獣用にサンドウェッジにバンカーショットも大量に買い込んだ。バンカーショットは専用の大砲か改造が必要なので、現行の106㎜連装無反動砲を改造したのだがこれがかなりの出費となった。
これさ、現地妻経費で落ちるかね? 今夜の宿代も残ってないんだけど。
“いったいどんな現地妻ですか。大砲の改造を望むって”
僕の大砲じゃ妻を満足させられなかったんですって感じで申請してみるか。
“あんまりふざけてると暗殺されますよ”
………………
“半額通りましたね”
いったいどうなってんのここのユニオン? まぁでも助かったわ。またすかんぴんになるところだった。これで安心して飯を食えるわ。
“改造終わるまでの二日間で干上がるところでしたね。
あぶねぇあぶねぇ。おっと久しぶりにリクエストボードでも見ておくか。
砂魚 3c
野良ドローン ハント 50c
野良機獣犬 駆除 50c
キングコブラ機獣 50c
暴走キックボーダー 駆除 50c
砂人間 駆除 100c
ウージー虫 ハント 150c
カラシニャコフ ハント 200c
ジャッカルカノ ハント 300c
フタコブラクダッシュ ハント 1,000c
エアビー発生源探査 1,000c
デザートバイト 駆除 2,000c
ハイエナジーレーザー ハント 3,000c
車地獄 駆除 5,000c
シルクロード幼体 捕獲 5,000c
キングコブラロード 5,000c
サソリングガン ハント 8,000c
お面ライダー ハント 8,000c
メタルセンティピード ハント 10,000c
ハリネズミサイル ハント 10,000c
キングコブラキング 討伐 20,000c
ブラックマンバルカン ハント 50,000c
ギガントモール 討伐 100,000c
暴走バギー ハント 150,000c
シルクロード成体 討伐 300,000c
フェネックーガー ハント 500,000c
キャタピライノックス ハント 1,000,000c
キングコブラエンペラー 討伐 2,000,000c
ワイルドタンク ハント 3,000,000c
キャノント・テリウム 討伐 5,000,000c
フライングオクトパス 討伐 50,000,000c
なんかさ、高額なやつ多くね?
“それだけ手強い機獣が多いんでしょうね”
砂人間ってなに?
“情報によれば、砂漠で野垂れ死んだ人間が機獣化したものだそうです”
もうそれゾンビじゃん。
“よくあるゾンビ作品みたいに噛まれた人がゾンビになるということはないそうです”
なってたら今頃バイオハザードな世界になってたろうなここ。俺らがやったエアビー探査はやっすいな。
“命の危険はそれほどでもないからでしょう”
馬鹿言うんじゃねーよ。高濃度放射能汚染地帯に足踏み入れたんだぜ。
“それはあそこだけの可能性ということで”
ひでぇ扱いだな。デザートバイトも案外安いな、苦労の割に。
“攻略法さえわかれば大したことなかったですからね”
それからフェネックーガーってフェネックなのかクーガーなのかどっちだよ。
“これフェネックと武装装甲車クーガーとのかけあわせのようです。
サイズ的に無理ありすぎだろ。フェネックのあのプリチィな姿と厳ついクーガーが合体してんのかよ。あとコブラ多すぎ。名前の付け方が雑。キングなのかエンペラーなのかはっきりしろよ。
“コブラのは太さみたいですね。ロードはドラム缶サイズ、キングは軽トラサイズ、エンペラーは一車線のトンネルくらいあるみたいですね”
うそやん、戦車も一呑みじゃん。そんでもって “シルクロード幼体” これが俺等のターゲットか。にしても蚕とはね……
錫乃介はリクエストボードを見ながら、昨夜サーラとの会話を思い出していた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「やりたいことはわかった。そんで衛星につけるケーブルの素材はどうするんだ? 炭素線維か? ナノ結晶か?」
「色々試したけどどれも上手くいかなかった。高精度の繊維を作れる工場もなかったし。それでどうしようかなって探してたらもっと良いの見つけたの。養蚕を知ってる?」
「ああ『野麦峠』だろ。学生時代に強制的に見せられたよ。胸糞悪いやつな」
「野麦峠ってなに? 学生時代? 貴方この現代に学校なんて行ってたの? もしかしてどっかの街の上流階級?」
あ、やべ、またやっちまった。
“もう今更過去から来たなんてバレたところで、どうでもいいじゃないですか”
話しすんの面倒だし、アーパーとかいう変態学者みたいに変な興味持たれんのはもうごめんだ。
“それは確かに”
「たまたまね、たまたま汚えジジイが好意で勉強教えてた雨ざらしのボロ小屋を俺等ガキ共で学校ってふざけて呼んでたのよ」
「……ま、まぁ養蚕を知ってるなら話は早いわ、この時代絹糸を知らない人も多いから。それで私が通信ケーブルの素材に着目したのは虫。糸を吐く蚕や蜘蛛の機獣だったらどうかなって?」
「話の流れ的に蜘蛛の線はなくなったんだな」
「そうね、まず糸を出させるのが難しくて糸そのものの強度は凄いんだけど指より太くて重量オーバーだったわ」
「それ糸じゃなくて縄だろ。どんなでかさの蜘蛛だよ……」
「ん〜電車二両横に並べたくらいかな」
「俺だったらちびっちゃうね」
「それで蚕。蚕は通常一頭で千m以上の糸を吐きその重量は僅か一グラム。これならいけるって実際何頭か見つけて試したら、強度も軽さも導電性もこちらが求める基準の遥か上。しかも捕獲してから糸を取りやすくて量も桁違いで寿命も長いの」
「そんであと何頭必要なんだ?」
「今まで十頭捕獲したけどもう少しというところでどれも力尽きたわ。あと二頭もいれば目標達成するの」
「こう言っちゃなんだが、あとそれだけなら俺の協力なくても達成するんじゃないか?」
「私が蚕機獣に辿り着いてから、十頭捕獲するのにどれくらいかかったと思う?」
「さぁ? 一年くらい?」
「三十年よ」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
“まず存在が希少な上に生態も不明。今まで捕らえられた幼体は寒冷地から熱帯まで気候は多様なため生息地が特定できず、成体の目撃情報を元に幼体を捜索するしかない。そして地中や断崖絶壁といった人の目にまず触れない場所に産卵するため幼体の発見は困難を極めるそうで”
発見しても大して報酬がいいわけでもないから協力者も現れない。たまに馬鹿な男を色香で釣って利用してきたんだろうな。もう、救助とか大切な人のためとかってより意地だな。ここまで人生捧げて来たんだ、途中で折れるわけにゃいくめぇよ。まったくとんでもねぇ女だ。
「でも、嫌いじゃないね」
“誰かさんに似てるからですかね”
ナビのいつもの椰揄に口の端をわずかに上げるだけにとどめ、ユニオンを後にする錫乃介であった。
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