おまけ フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン編2
もう、死んでもいいかも!
“藪から棒になんですか”
だってさ、次のクリンカに行けばもう現地妻が約束されてんだぜ!
“約束されてません”
もう人生で最高の絶頂の究極の山場だぜ! いっそのことそのまま死んだ方が幸せなんじゃないかって!
“それじゃ、あそこのビルの陰で寝ているキャノント・テリウ厶と戦いましょうか……”
やめて、あんな毛が生えたガンキャノ○みたいなやつとだれが喧嘩するの? めっちゃ強そうじゃん。肩の大砲も何あれ、何口径あるの?
“遠くてわかりづらいですが、180ミリは超えてるでしょうね。ユニオン情報によると右腕から50ミリのマイクロミサイル、左手の爪は2メートルを超える高周波ロングサーベル、体毛は複合装甲と遠中近と隙がなく攻防ともに優れる5,000,000cの高賞金首です。”
馬鹿じゃないの! そんなのとやりあったら一発でお陀仏じゃん! 馬鹿じゃないの! だいたい弾薬も燃料も節約しなきゃいけないんでしょ! さっさと離れるよ! くっそ、なんであんのド阿呆共のせいでこんな目に……
アスファルトより北方に位置する街のコンクレット、テラコッタン、タイルーンはジャムカ率いるラスト・ディヴィジョンによって受電設備すら破壊されていた。それでもなお力強くしぶとく生き延びて住み続けている人々はいたが、一年半経つ今も復興はサンドスチームなき現在、困難を極めなかなか進展しない状況であった。
生き残った者たちは廃ビルのコンクリートを削り再びモルタルにして積み重ねた瓦礫の隙間を埋め壁を建て機獣のなめした革を張り屋根としていた。今まで極貴重な木材が新宿から安価に供給されるようになったことは不幸中の幸いだったかもしれないが、それでも流通が芳しくないため間に合うものでもない。
機獣や野盗の襲撃がときおりあるがポルトランドやクリンカからきた復興支援部隊が一時的な守備隊として追い払ってくれていたが炊き出しなどがあるわけではないため住民が自給自足するのは変わらない。立ち寄るトレーダー達から物資を交換してもらいなんとかその命を繋いでいた。
この三つの街の区間、およそ1,000キロはまともな補給が出来ない。そのためアスファルトかクリンカで大量の燃料や食料を積み、戦闘はひたすら避けなければならず、ハンターやトレーダーにとってとてつもない難所と化していた。
錫乃介はカスタムしたジャノピーに大量の燃料と食料を詰め込んでポルトランドの第三次復興支援部隊と共に出発。コンクレット、テラコッタンを過ぎてタイルーンまで到着して部隊と別れた後──本来であれば他のトレーダーやハンターを待ち商隊を組んでから次のクリンカに目指すべきなのだが──各街に現地妻を作るという欲望に下半身が負けソロで目指していた。
バージョンアップしたジャノピーは、リヴォルヴァーカノンを搭載した被牽引車をやめ、ジャイロキャノピー本体と一体化。さらにその後ろは無限軌道の被牽引車を取り付け荷台とした。荷台の上は106ミリ連装無反動砲。大概の大型機獣でも一撃で仕留められる高火力を搭載させた。以前一度だけサカキのM50オントス自走砲を借り受けた時に試射したことがある大砲だ。駆動系も出力をあげ速度は落とさないようにした。見た目はもうジャイロキャノピーというより、オート三輪やトゥクトゥクが大砲を牽引しているような姿だ。運転席は一人なので、どちらかといえばトゥクトゥクだが、ケッテンクラートという乗り物もそれに近い。
これでジャノピーは高機動高火力紙装甲という武装車両へと変貌していた。
余談だが、ジャノピーは当初の予定通りサカキに任せていたが、最初に出されたプランは99○に出てくる銀河鉄道警備局所有の武装装甲列車のような大口径の200ミリ三連装砲塔を屋根及びサイドの三箇所、計九門をつけるものであり、慌てて錫乃介が止めたエピソードがある。
「あのさ、おっさん宇宙海賊とでもやりあう気なの?」
「あぁん? ロマンだろロマン! これでもう機獣戦艦なんか来ても大丈夫だろ!」
「大丈夫じゃねーだろ絶対。こんなん後ろで一斉射撃したら運転席に座ってる俺どうなっちゃうの?」
「運転席、荷台もろとも吹っ飛ぶだろうな! ガハハハハハ!」
俺なんでコイツに任せたんだろ……
そんなゴタゴタもありながら錫乃介の旅は数十両の武装車両(テクニカル)に半ば守られ、ちょっかい出してくる機獣も少なくタイルーンまでは快調だった。
そして商隊を待つことなく下半身に引き摺られ出発した錫乃介はキャノント・テリウムを素通りし、あと100キロほどで、クリンカに到着するのだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
どうして砂漠に鮫がいるんだよ!
“砂漠といえば『トレマーズ』にでてくるワームとかの方がやっぱり鉄板ですよね”
そうそう、鮫はちょっち違うかな? って。そういうこと言いたいんじゃないんだけどね。これじゃせっかく火力強くしたのに逃げる一方じゃん! 新兵器の出番ないじゃん!
“結局定期的にこういう追いかけっこになりますよね”
ジャノピーが砂ぼこりを高々と上げて走り去り、その轍の後を盛り盛り砂が隆起していく。よく見ればヒレのような物、いや、ようなではなくヒレそのものが砂の大地を切り裂き、錫乃介達を猛スピードで追っていた。
まずいよまずいよまずいよナビ! 追い付かれるよ! アイツ速いよ! 土の中なのになんであんな元気なの⁉
“この場合、水を得た魚、という表現は正しいのかどうか。普通は魚にこの表現は使いませんが、ここは砂漠ですから……”
な、な、なに頓珍漢なこと言ってるの⁉ なんとかしないと!
“ですが、カノン砲も106ミリ砲も口向けた途端に潜水してしまいますから。この場合潜地と申しましょうか…… 口を開けた瞬間を狙うしか──ああ、また潜りましたね”
これ真下からガブリとくるやつ⁉
“ブレーキ! ハンドルを右に急旋回そして全速!”
なろ!
ナビの掛け声にブレーキをかけハンドルを切る。大量の砂を巻き上げ、牽引している荷台が横に振れる。気分はAKIR○金田のバイクスライドブレーキだがあんなにかっこいい物ではない。横倒しになりそうな荷台にビビる間もなく何やら放り投げる。その半秒後にカスタムにより肥大したジャノピーさえも飲み込むほどの顎(あぎと)が出現、空を喰らうとまた深く潜地していく。その光景を横目に恐れ慄きながらアクセルを全開にする。砂地に空回りするタイヤに荷台の横揺れてブレる車体。V字に方向転換してくる鮫。やっと地にタイヤが噛み急発進するジャノピー。リヴォルヴァーカノンの威嚇射撃が砂漠の大地に虚しくこだまする。威嚇生きた心地のしない時間は延々と続くのではないかと絶望の思考が頭をよぎりそうになる。
錫乃介達を再びターゲットに入れた鮫がスピードを上げた時、轟音と共に高々と間欠泉のような砂柱が立った。モウモウと立ち籠める黒煙と砂ぼこりに文字通りの土砂の土砂降りを浴びながら走るジャノピーの中で、ヨッシャー! と拳を振り上げる。
“爆薬食わせてドカン。これが王道で一番ですね”
つーか、あれ以外でアイツ倒せなくね?
先程のバイクスライドブレーキの際に置土産として手榴弾を数個投げておいたのだが、うまい具合に砂漠の鮫は砂と共に食らってくれた。
危機を脱しひと息つくとクリンカへ進むべく進路を戻した矢先だった。その目線の先には倒したはずの鮫が──いや違う、別個体の鮫だ──それが、一、二、三、四、五……十、十一、十二。
うっそーーーん。もう、多いから。増えすぎ。増えてもせめて三匹くらいじゃね? 二桁はやめようよ〜
ぼやき、空を仰ぎ見て、この身に降り掛かる不幸を呪う。
“あれだけドカンドカン言わせてれば、そりゃ仲間も寄って来ますね”
どうする?
“あそこに比較的大きい廃ビルがあります。あの規模なら地中深くまでコンクリの基礎が打ってあるのでやり過ごせるでしょう。そのうち諦めて去るのを期待して行きましょうか”
と、ナビが示す先には二十階層くらいはあるだろか、かなり細長いスタイルの廃ビルがそびえ立っていた。
もう、なんかその言い方にフラグを感じるなぁ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ほらなぁ〜、もう三日経つのにまだあいつらウロウロしてるぜ…… 暇なのかよ。
“この人たいした獲物じゃないんですけどね”
な! 我ながら本当にそう思うわ。
ナビに貶されるがそれを受け流して廃ビルの屋上から鮫の様子を伺い見るも、十を超える砂中から飛び出た背ビレや尾ビレはビル周辺を片時も離れることなく周遊している。時折こちらを挑発するかのように砂面より頭を出しては甲高い音で鳴いている。
“それだけ飢えてるんでしょうか。あ、もしかしたら元々この辺りが住処だったり、これが彼等の狩のスタイルかもしれもせんね”
なんだよ、追い込み漁するって、シャチかよ。
“ここに逃げ込んでから観察してましたけど、ブリーチング(海面へ自らの体を打ちつけるジャンプ)やスパイホッピング(頭部を海面に出して辺りを見渡す行動)はサメにはないシャチやイルカ海洋哺乳類特有の行動ですからそうかもしれません”
は〜い、じゃあいつら砂シャチに命名ね。ところであいつらどうやって砂漠の中をあんな高速で移動してんだ? いくら流線型ボディにしてもああは速くならないだろ。
“そうでもありません。サンドスキンク、別名サンドフィッシュというトカゲをご存知ですか?”
知らん。
“サハラ砂漠やアラビア半島にいるトカゲなんですが、このトカゲは泳ぐように砂地に潜って外敵から身を守り狩りをします。その速度はなかなかのものですよ。今映像出します”
おお、おお、おお、見たことあるよ『わくわく動物ランド』とか『ダーウィンが来た』で見たよこれ。一瞬で砂の中に潜れるし飛び出てくるのな。本当に砂を泳いでるわ。でもずっと砂の中にいるけどこいつどうやって呼吸してんの?
“砂中にある微細な空気の層を砂ごと吸い、エラのような器官で濾過して呼吸してます”
凄えなトカゲ。でもこいつは小さいからわかるけど、あの砂シャチの巨体でそれやったら反則だろ。
“飲み込んだ砂を尾ビレや噴気孔からジェット噴射して高速移動の推進剤にしてるようです。そのため活動できるのは砂漠といっても砂砂漠だけで、石だらけの礫砂漠や岩石砂漠、塩砂漠では生息できないでしょうね”
なるほどね。このあたりが広大な砂砂漠だからこんなワシャワシャいるのか。
“砂の質が極細かい極細粒砂と呼ばれる砂です。これ以上細かいとシルトやクレイという粘土質になります”
粘土か。なぁ! 大量の水で砂地固めちゃえばあいつら動けなくなるんじゃね? って今その水どっから持ってくんだよ!
“ひとりツッコミしてる”
もういいや、腹いせに奴らに屋上から小便ぶっかけて寝るか。
“噴射力どんだけですかアンタ”
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます