おまけ 俺たちの旅はこれからだ!
「は? いやですよ。 やっと帰って来たのに、何言ってるんですか? しばらくこの辺でゆっくりするんですから」
──金もないのに?
「いいんですよ。人間はね、立って半畳寝て一畳って言いましてね、生きていくには必要以上の物は必要ないんですよ。まぁ酒と女と美味い飯は俺の人生には必要だけど。もうアホみたいに危険なことしないと決めたんですよ」
だいたいさ──と、激安酩酊酒ハッピーに口に運び話しを続ける。
「ポルトランドからリボルバまで街8個。たったの8個。これだけで俺どんだけ死にそうな目にあったと思います? 『100万回生きたぬこ』って作品あるじゃないですか。100万じゃ足りないよですよ、そんな任務。100万は言い過ぎかもしれないけど。『スーパーマルオ』ってゲームあるじゃん? そうそうマルオ君が栗棒とか野虚野虚とかを蹂躙していくゲーム。あれで無限アップとかあるじゃないですか。知らない? まぁそういうのがあるんですよ残機を増やすテクが。それでも絶対足りないですし。ってか、どう例えようと俺の命一個ですし。残りの街80ヶ所周ってってそれ死刑宣告じゃん。四国八十八ヶ所巡りすれば極楽浄土ってありますけど、極楽なんて贅沢言わないし、この世が地獄でもいいから、俺残りの人生程々に稼いでグルメと色欲にまみれた生活したいですね」
──もちろんタダで行けというわけではない。
「上級ハンターに対してはそれなりの用意があると? ジャイロキャノピーねぇ。仰る通りあれも長旅でだいぶガタが来て無理させてますからね。なんせ、あれくらいしか買う金なかったからな。まぁ今も対して変わらないですがね」
──装甲車でも戦車でも好きな物を選べばいい。最新型の電脳が内蔵されたタイプもある。改造も思いのままだ。
「それはなかなか心を揺さぶられますね。しかし、俺はここ最近の旅で嫌というほど思い知らされているんですよ。バチバチに武装した戦車でも一歩間違えばそのまま棺桶に早変わりだってね」
──その通りだ。最強の戦車など存在しない。ではもう一つとっておきの提案をしよう。
「何を言われたって動かないっすよ。元来俺はものぐさ坊主なんですから」
男は欠伸をひとつすると不真面目極まりない態度でハッピーに口をつけた。
──君は各街に────を作りたいらしいな。
その言葉に男は反応してしまった。いや表情などは変えていない。ただ、いつもどんな相手にでも飄々とした態度と会話で返す男は、このときばかりは口をつぐんでしまった。
なぜ、この眼の前の人物はそれを知っている?
沈黙の間と場は問いかけに対する肯定以外のなにものでもないことを表していた。空間は静まり緊張と張り詰めた空気が展開される。
「誰から聞きました?」
口にしていたハッピーを刃を潰した巨大丸鋸テーブルに置くと、始めて男は話しをまともに聞く態度をとることを示すために廃材で組まれたベンチにもたれかけ足を組んだ。
──組織の情報網を舐めてもらっては困る。
「たいしたものですね、確かに舐めていたかもしれないな。で、それがどうかしましたか?」
会話の主導権を奪われたのを感じながらも務めて平静を装い、男は眼の前の人物のに対して虚勢をはる。だがそれは文字通り虚しい態度にしか映らなかった。
その人物は表情を崩すことなく変えることなく淡々と言葉を続けた。
──もし、そのための資金が必要経費として出資されるとしたら?
男は虚勢で出していた軽薄な表情を変え、開く音が聞こえるかの様にまぶたを見開き、テーブルの上のハッピーを端にていねいにおいてから、空いた隙間に両手を組み身を乗り出した。
「気が変わりました。最大限の協力を約束します。サンドスチームが無き今、物資に移動に情報に今や秩序なきこの荒れ果てた世界で困苦にあえぐ民衆は沢山います。そんな人達を私は無視出来ない。その事実にたった今私は考えがいたりました。いえ、決してその誘いに乗るわけではありません」
──わかってるさ。君は人情に厚い男だと耳にしている。
「そうでしょう、そうでしょう。一つだけこちらから要求したいんですがね」
──何かな?
「新しい車を新調する気はないので俺のジャノピーをカスタムして欲しい。命を預けられるのはアイツだけだなんで」
ほう──
「火力と装甲、エンジン回りを上げといてください。細かいところは『鋼と私』に一任します」
──いいだろう。では、話しは決まりだ。これが契約書だ。
「《89の街を周り軍とユニオン、マフィアの現状調査報告。及び通信妨害の原因と思われるエアビーの共生元、量子コンピュータの探査と破壊》 破滅した世界を生きる民衆を救うために、そのリクエスト引き受けた!」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ヘッヘッヘ、タヌ山に代わった新しい支部長はなかなか話しがわかるじゃねぇか。
ポルトランドハンターユニオン支部長タヌ山タヌキックは裏帳簿の不正をマリーはじめ錫乃介やキルケゴールにことあるごとにつつかれる心労により多臓器不全おこし引退、 “もうヤダ!” と捨て台詞を残しポルトランドから私財と家族を連れて逃亡、支部長は新たな人物と交代していた。
“何が、民衆を救うため、ですか”
え? 民衆のためだよ?
“この契約書の一文は? “
[各街に現地妻を作るための費用を必要経費として認める]
ほら、昔の日本でも偉い人達って自分の愛人を秘書にしたり名目社員にしたりして経費使ってるじゃん。あれと一緒だよ。仕事はちゃんとやるって。
“まったく……まぁ今回はタダ働きにならなさそうですからいいですけどね”
そういうこと。オラ、ワクワクすっぞ!
“ムラムラの間違いじゃないですかね……”
なんでもいいんだよ、やる気になったんだから。さ、俺たちの旅はこれからだ!!
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