最強の巨砲

「ヒャーハッハッハァーッ! 見事ズッポリ貫通寄生成功! これであいつらの電脳はアヘ顔Wピースで昇天中! さぁ一枚一枚装甲ひっ剥がして、自慢の大砲引っこ抜いて、艦橋むしり取って、前も後ろも穴開けて、最後に海に沈めて喰らってやんよ!」


「貴様に初物を奪われるとはちと悔しいの。では、お次は吾輩の巨砲を喰らわせてらろうか」


「ジジイ、まだ何か持っていやがったか?」


「いつから吾輩の隠し玉は一つと言ったかな? 見ておれ、あーーーーーーーぁ」


「あん?」



 おもむろに始める大欠伸。そして、喉の奥から蠕動しながら出てきたそれは。


 鈍く光る錆茶の筒。

 

 長さもさることながら、眼を見張るのはその口径。


 一、十、百、千


 サンドスチームの80サンチ砲を超える1,000ミリの100サンチ砲。



「先程の天蜘蛛は守りの切り札。これが吾輩の真の奥の手よ」



「ジ、ジジイ……てめえ、そんなものをどうやって……」


「吾輩は今でこそ空母の機獣であるが、機獣として目覚めたときはこの巨砲だった。荒れ果てた博物館に飾られていてな。そこからはスクラップだった駆逐艦や空母と融合し、今に至るというわけだ」


「融合だと⁉ そんな能力持ちたぁ聞いてねえぜ!」


「ベラベラ話すことではないからな。それ、目標まで接近するぞよ、遅れるなよ」


「ちっ! 命令するんじゃねえ!」 



(クッソ! なんなんだあの超大口径の大砲は⁉ 前代未聞も良いとこだぜ。少々強くなったからって調子乗ってた俺が馬鹿見てぇじゃねえか。海の王者の名は伊達じゃねえな、畜生──)




……………………




 一方サンドスチームでは、中枢部で異変を察したモディと、動ける船員達が集結していた。

 部屋中心には尖端が限りなく細く硬く貫通力に特化した魚雷が柱のようにそびえ立ち、それを見た船員は怒りよりもルーラーの身を案じる声を上げる。そして、観測を終えたドローンが戻ってきた。




 観測用ドローン戻って参りました、映像出します。

 なんだよ、まるでダメージ受けてないじゃねえか。

 外したか?

 いや、そんな馬鹿な。

 それよりも、次だ。

 こちらに向かって来ているな。

 飛行型機獣も来てるぞ!

 大軍勢だなこりゃ。

 海ん中は?

 大漁旗が期待出来そうだぜ。

 そりゃ楽しみだなぁ。

 よぉし、俺は対空砲座へ行く。

 なら俺は対潜だ。

 お前最近全然撃ってないだろ、使い方忘れてねえか?

 てめえも一緒だろうが。

 お、なら晩飯かけるか。

 上等だコラ!

 アイツラまたやってるぜ。

 そういや、いつも艦長がやっちまうから俺たち出番なかったよな。

 丁度良い。たまには暴れたいと思ってたとこだ。

 そもそも俺は、砲手としてスカウトされたんだぜ。

 嘘つくな、お前は司厨(料理人)だろうが!

   



 アクシデントにここの船員達は焦燥も動揺もしてはいなかった。むしろ緊急事態宣言だからこそ、己たちの役目を全うすべく誰の指示があるわけでもなしに自ら持ち場へ走って行く。あたかも、このハプニングを楽しんでいるかにも思える豪胆さだ。



「案外みんな冷静だな。いやむしろ燃えてきてるな」


「みんなぁもともと、軍人とかぁマフィアだからね、血の気多いね」


「モディはどうなん?」


「私は……インドマフィアのゴッドファーザーの子孫よ」


「だと思ったよ。嘘だろ」


「嘘よ、先祖は普通のバリバリキャリアITエンジニアで電脳発明したね。そんで私はしがないユニオンの受付やってたね」

 

「なんのための嘘だよ。ってか、先祖優秀で高給取りじゃねえか、羨ましいわ。 それよりマニュアル運航って言ってたけど、どこで操舵すんの? いや、まて、すごいこと言ってなかったか今?」


「いいから艦橋行くよ。私と来なはれ」



 聞き捨てならないことをポロリと溢したモディを質問攻めしつつも、艦橋へ急ぐ。



「うるさいね、それも嘘よ。それよりサンドスチーム艦橋はAIによる運航が出来なくなた時の緊急用としてぇあるね。でも普段は船員がお昼の弁当食べに集まるくらいね」


「いわば学校の屋上か。食べ残し落ちてるしな」


「錫乃介、艦長にナニがおきた? あの魚雷? 不発弾か?」


「あれは魚雷というより船の装甲食い破って直接電脳をクラッキングするのに特化した機獣みたいだ」


「そんな機獣初見ね。だーとしてぇも、そんなんのに艦長やられるなんてとても……」


「機獣の能力は未知数だからな。俺達が知らないうちに電子戦に長けた種が生まれていたってわけだろ」



 そんなやり取りをしつつも、モディは操艦と戦闘指揮、錫乃介は高精度の双眼鏡を用いた目視監視とソナーによる探知を始める。そしてすぐに錫乃介は動いた。



「まずい……モディ、対空ドローンと対潜ドローン、デコイ諸々全部出せるか?」


「あるよ、沢山。どんな感じ?」


「さっきの映像以上だ。バッタの大群レベルだわ」


「あの黒い雲そうか。絶対足りないね」


「全対空対潜出してどれくらい持つ?」


「計算したくないね。艦長が生きていれば、全砲門を操作して殲滅できるんだけどね、今は人がやるだけじゃなく、その人間も武装分すらいないね」


「おいおい。し、か、もだ、機獣戦艦シロナガスと見られる機獣の口の中に、極太極長の大砲あるんですけど!」


“錫乃介様、あれはバビロン砲に間違いありません”


「バビロン砲? 始めて聞くな」


“ジェラルド・ヴィンセント・ブル。この天才科学者がサダム・フセインのバビロン計画によって建造しましたが、1991年実用化される前に湾岸戦争イラク敗退と共に歴史の表舞台に立つことなく消えた口径1000mmの超巨大大砲です。イギリス国立武器防具博物館に収蔵されていたはずですが、まさか機獣になっていようとは”


「1000ミリだと⁉」



 ナビの分析に思わずでかい声が出てしまう。無理もない、この世界最大であった80サンチ砲のすぐ後に、それを凌駕する巨砲が現れたのだから。

 どしたね? 異様な姿にモディが尋ねる。



「その、シロナガスの持ってる巨砲は、こっちの80サンチを超える……1000mmの100サンチ砲……だ」


「100サンチほ──」


「なっ! やばいの来る!!」



 報告に思わずモディはオウム返しに叫びそうになるが、その声は錫乃介の叫びで彼掻き消された。

 そう、モーヴィからサンドスチーム同様レールガンに進化しオリジナルより何倍にも破壊力が増した100サンチ砲の砲撃だった。


 大気をプラズマ化して眩く煌めく砲弾が錫乃介の眼を染める。


 着弾、迫る衝撃波、轟音。


 装甲が波を打つ。


 機関砲の直撃でも破れない艦橋の防爆ガラスが弾けとび、壁に叩きつけられた錫乃介とモディを襲う。

 意識が飛びそうになるところを両者の電脳がコンマ数秒の判断で脳神経にショックを送り失神を阻止。飛び来るガラス片は防弾マントに身を包んで致命傷をどうにか避けた。


「そ、総員被害状況報告せよ!」


 痛む身体に鞭を打ち、マイクで指示を出すモディ。


 

「こ、これはヤバいんで、ないの?」


「ヤ、ヤバぃーね。どしよか?」


「ナ、ナビちゃん……ルーラーの変わりに──」


“無理です。ルーラー様は私の何千個分か何万個分の容量か全く検討もつかないレベルでスペックの差があります。この艦内外の制御及び状況把握、探知、判断、指揮、何百、何千とある機銃や機関砲、高射砲、榴弾砲、対潜ミサイル、副砲、主砲、それら全武装の弾道計算に操作、トイレで用を足す船員の健康管理、私一個でどうしろと?”


 ですよねぇーーー! これが俺の昔の上司だったら、やってみなきゃわからないだろ! やる前から諦めるな! ってぶん殴られてたけどな。何度もやって無理だったから言ってんのによ、そのくせ自分じゃ触りもしねぇの。あーやだやだ。


“突然仕事の愚痴は止めてください。それもだいぶ昔の”


 まぁ待て、冷静になれ。案はあるぞ。全船員の電脳を並列処理しても無理か? 名付けてヤシ○作戦だ。元○玉でもいいぞ。


“全然足りませんよ、皆様の電脳が落ちる間もなく焼き切れます”


「無理かーー!」


「無理ねーー!」

 


 天井を見上げ死に直面し、それでも何か案がないか今まで使ったことのないくらいの思考回転でオーバーヒートしそうになり、頭を抱え叫ぶ。

 それに釣られたわけではないがモディも叫ぶ。その被害状況の報告にだ。幸いにも一撃轟沈とまではいかなかったが、着弾箇所は左舷後方、核融合炉付近であった。ここは特に装甲が厚いため、炉にまで被害は及んでいないが、現状ほぼ剥き出しで、あと一発軽めのが当たれば電力停止は免れなかった。受電設備もあるが、それだけでは船内制御だけで精一杯、とても交戦能力には足りないのだ。

 

 浸水! 隔壁閉めます

 8.8サンチ高射砲一基大破

 15.5サンチ連装砲一基大破

 46サンチ三連装砲一基大破

 対潜ミサイル、マラフォン、ミラス、アイカラそれぞれ、使用不能

 負傷者15名以上


 被害状況の報告がその後も次々入ってくるのに、指示も思考も追い付かない。



「錫乃介、救命艇の準備しとくか?」


「そ、そだね、準備だけ……しとく?」





(僕を使って)



“はい? 何か?”




 混乱の極みの最中、ナビに入った一本の通信は──

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