切り札は
“はい? 何か?”
あ? 今ケモレベル25のバニーガールとくんずほぐれつする夢見てたんだけどな。
“作戦立ててたんじゃないんですか?”
頭でインスタントラーメンが出来そうだったから、少し冷やしてたんだよ。
(僕だよ)
“え、まさか……”
(僕だよ。お姉ちゃんが変な奴から庇ってくれたけど、すこし気絶しちゃってた。でも今の衝撃で目が覚めたよ)
“え? ということは、もしかして!”
どしたナビ?
(そうだよ、サンドスチームのスッチーだよ)
“サ、サンドスチームからの通信です!”
は⁉
(あいつらルーラーお姉ちゃんにひどいことしたからね、もう僕は怒ったよ。なんでもするから言ってみて)
な、なんてっ?
“サンドスチーム、スッチー様からの協力の申し出です。ルーラーお姉ちゃんの仇を討つと”
スッチー⁉ ルーラーお姉ちゃん⁉
“運航及び主砲その他武装の運用は可能ですか?”
(う~んと、僕はお姉ちゃんの言う通り動かしていただけで、狙いとかの計算はルーラーお姉ちゃんがやってたからわからないんだ。計算手伝ってくれたら出来ると思うよ、僕の電脳を使っていいから。)
“自らの電脳を使用しても構わないうえに砲撃射撃も手伝うそうです”
サンドスチーム自体がか。やっぱりこいつ生きてたんか。
“機獣……だったんですよ”
な、なんだってーーー! って今更薄々気付いてたけどな。よーし、望みが出てきたぞ、いっちょかましてやりますか!
(でも、たぶん僕だけじゃお姉ちゃんには適わないんだけど、やれるだけやるよ)
なら、船員の電脳を並列に繋げば少しは足しになるだろ。方法はあるか?
(それなら僕の身体に触ってくれれば回線繋げられる)
「決まりだ、モディ船内に通達! サンドスチームの本体スッチーが協力する。動ける全船員はサンドスチームの壁に触れろ。電脳を並列処理してこの船を制御する!」
「スッチーとか突然ナニ言い始めたかわぁからんけどわかたよ」
(それじゃあナビ君頼むよ)
“やれるだけやってみます”
「くっそぉっ! 第二射来るぞ、備えろ!」
“リンク完了! 46サンチ砲にて迎撃を試みます、発射!”
バビロン砲にワンテンポ遅れて46サンチの砲撃は迫りくる光の濁流にかする。
軌道を変えた100サンチの電磁加速の砲弾は、サンドスチームの急所を逸れて左舷前方の船体に着弾。
再び迫りくる凄まじい衝撃と轟音の波。足を掬われながらも立ち上がり現状把握に努める二人
“左舷無限軌道中破、船首タラップゲート中破。浸水、隔壁閉めます。8.8サンチ高射砲一基大破。30ミリ機関砲三基大破。負傷者4名。大丈夫です、今のは迎撃のおかげで少し削れました”
「大丈夫じゃねぇーー! 航空部隊くるぞ!」
迫りくる雲霞の嵐は、あるものは爆撃し、あるものは機関砲を斉射しながら特攻してくる機獣の山。対空ドローンや対空砲で迎撃しきれないのは次々に突っ込んでくるため船体が炎に包まれる。
“魚雷型機獣接敵”
こちらも津波の如く迫りくる魚雷達。対潜ドローンやデコイ、対潜ミサイルをかいくぐって船底に穴を穿つ。
そんな中怯むことなく、対空砲対潜兵器を操作し続ける船員達が。
奴はどうした?
吹っ飛んでたぞ。
連れ戻せ、手足がなくなったわけじゃねえ!
ちっくしょう、こいつら平気で突っ込んで来るぞ。
兵器だけに平気ってな。
つまんねぇんだよ!
イッツ・カミカゼ!
88ミリ連射なんてできるのこんな時だけだろうな。
155ミリの連装砲連射も気持ちいいぜ!
おい、司厨のお前が死んだら晩飯はどうなる!
殺すな! 気ぃ失ってただけだ!
魚雷型機獣第三波きます!
イナゴの群れも減らねぇな!
なんか、モディが壁に手ぇつけろってさ!
そんな暇ねぇよ!
撃ちながらでいいからやれって。
なんのつもりだ?
皆んなの脳を繋げるってよ。
なんだそりゃ!
マッドサイエンティストかよ!
ムカデ人○かよ!
“全消火設備稼働。浸水箇所隔壁閉鎖。負傷者運搬せよ“
「駄目じゃーん!」
「船員だいたい、壁に手ぇつけたよ」
“よし、もうすぐです。スッチーいいですか?”
(いいよ! 準備OK!)
“弾道計算諸々OK……皆様に耐ショック体勢を“
「モディ、全船員に壁に手を付けたまま耐ショック体勢通達!」
「はいよー」
“はい、それではいきます。全武装全砲門全弾開放(オーバーラッシュ)モード。終了条件、敵の殲滅もしくは弾切れまで。錫乃介様号令を”
「え? 俺?」
“早くして下さいバビロン砲三発目来ますよ”
「はよ撃てや!」
そのなんとも言えない号令の瞬間だった。一瞬全ての時が止まった。航空機獣も魚雷機獣も砲弾も榴弾砲も高射砲も機銃も船員達もサンドスチームもモーヴィもディックも。錫乃介は硝子が吹き飛んだ艦橋の窓からその光景を見ていた。
確かにその瞬間時が止まった。
そして、カチリと針が動いた。
その光景は先程の砲弾よりも眩く輝き明滅し、錫乃介の視覚と聴覚を奪った。
……………………
その少し前
第二射を終えたモーヴィは未遂とはいえ迎撃されたこと、いや、サンドスチームがまた動き出したことに憤慨していた。
「ディーーーーック! どういうことだ、まだ奴は動けるじゃないか!」
「知るかよ。命中したのも寄生が成功したのも事実だぜ。あの一瞬確かにデカブツは動きを止めやがった。クリック音も間違いねぇ、アンタも聞こえてるはずだぜ」
「では何か、電脳を介さずに人間の能力だけで吾輩のバビロン砲を迎撃したと? そんな馬鹿な事があるか!」
「偶々だろ、もう魚雷機獣も飛行機獣も向かってフルボッコ状態だぜ。こっちの勝ち確なんだから、さっさと三発目撃って沈めちまえばいいだろうがよ」
「そう、連射ができたら苦労せんわい。冷却にあと数分はかかるわ!」
「それじゃ、あと数分デカブツ甚振られてんのゆっくり見学してようや。……ん?」
ディックの言うとおり、サンドスチームは上空からと海中からの特攻攻撃であちこち炎上していた。この誰がどう見てもモーヴィとディックの勝利を疑う者はいないだろう光景。それを信じていた本人はある違和感を感じていた。
(主砲、副砲、艦砲、高射砲が、少しづつこちらに向いている……あのデカブツ、まさか電脳復活したのか! 馬鹿なこんな短時間で⁉ いやしかし……)
「おいジジイ、バビロン砲はまだか?」
「お主がゆっくり見学しろ言うたじゃろが」
「い、いや、よく見ろ。アイツやっぱり動きだし……」
「何っ! おのれっそうはさせん。少し無理をするがバビロン砲発射準備……」
「発射しやがった! 超大口径電磁加速砲撃の……連射だとぉぉぉ!! ジジイっさっきの天蜘蛛撃てぇ!」
「あれ、切り札だから一回しかできない……」
「なーーーーにぃーーーー! そんなのありかよーーー!」
……………………
目蓋を開けることが出来たのは、いったいどれほどの時がたっていたのだろうか?
耳が聞こえるようになったのは、いったいいつからだったのだろうか?
艦橋の爆風で歪んだ壁に捕まり立ち上がると、ようやく死んでいなかったことが確認できた。
ふらつく頭で外を見る。
まさかと思い中を見る。
もしやと思い双眼鏡で確認する。
その双眼鏡を下ろして立ち尽くす。
「……目標、殲滅完了──か」
その呟きはひどく静かな戦場の海の風に搔き消されていった。
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