そこに立つのは

さぁ、やるか!


“街周辺は機獣が出没しませんから、遠方に参ります。ターゲットはいかが致します。ハイエナジーレーザーとかサスティナ・ブルとかあたりの高額ターゲットいきますか?”


 ハイエナは前見たけど、装甲ヨワヨワのジャノピーじゃあのレーザー砲耐えられないでしょうが。サスティナ・ブルって何? 語感からエコな感じがするけど。


“銃器は持ってませんが全身SUS鋼の超硬質な肉体を持ち、パワフルな走りで軽戦車も体当たりして吹き飛ばす体高3メートル全長5メートルの大型牛機獣です。ネーミングの由来は鉄道車両の製作所からきています。我々の30㎜リボルヴァーカノンで装甲が破れるかどうか……”


 なんでそんなやばい奴らをトップに提案するわけ? ネーミングの由来は勉強になるけどさ。


“錫乃介様がハンターとしてレベルアップするためです”


 いや、いいから。俺、別にテッ○ブ○イラーとかと戦うつもりないし。


“では、毎度御馴染みカラシニャコフや今回初登場のラスティスネイルといきますか”


 名前からして錆びたカタツムリでいいのか?


“不動態となった耐候性鋼材で全身が構成された全高2メートルの巻き貝でして、重機銃程度ではダメージを与えられないほどの装甲を持ちます”


 不動態となった耐候性鋼材?


“早い話がステンレスです”


 またステンレスかよ。


 “更には貝のくせに砂をジェット噴射して横っ飛びし、その尖った貝で体当たりしてきます。銃器は持っていません”


 ……俺らのカノン砲は効果あんの?


“まあいけるでしょう”


 はい、決定ね。


 


……………………

  


 

 狩った機獣を運搬するためにクレーンがついた軽トラサイズの荷台をレンタルして牽引しターゲットがいるポイントに夜中到着する。周辺に岩山が多く大型機獣は少なく、飛行型機獣からも身を隠しやすい場所をチョイス。夜明けと共にハントを始めて数時間が立った。戦果は上々で、カラシニャコフ4体、ラスティスネイル4体、ウォン釘バット2体、M2ホッパー1体とハントし、そろそろ帰還するかという時であった。

 ほんの数十メートル離れた岩山の洞穴から一匹の機獣が這い出てきた。始めは黒っぽく、のそのそと鈍重に二足歩行で出てきたそれは、背中に太陽光で反射するとギラギラ黒銀色を放つ長い体毛を持ち、ゴリラよりデカい巨大イタチの機獣であった。



“不味いです、ゴリゴリラーテルに見つかりました。非常に好戦的で獰猛、身のこなしも軽く、強靭な顎と爪で装甲車を切り裂き、あの背中の体毛は戦車砲の徹甲弾の直撃すら防ぎます。早く退避を”

 

 なんでそんな檄ヤバ機獣いるのぉ!!



 ナビの警告に返事よりも早くエンジンを全開にしその場を離れるが、ゴリゴリラーテルは二足歩行から四足歩行に変化し、飛ぶように地を蹴り距離を詰めてくる。狙いを付けリボルヴァーカノンを斉射するが、走りながらも身を丸め、弾を背中の体毛で弾いていく。


 うっわ、ホントすげぇな。まるで意に介してないや。


“頭頂部から背中、尻尾に至るまで奴の装甲は完璧です。ただ腹は甘いのでそこを撃てば我々のカノン砲でも止められるかもしれません”


 よしきた!



 ガタガタとジャノピーは飛び跳ねながら荒れ地を進むしレンタル荷台もあるものだからスピードがあまり出ない。反面ゴリゴリラーテルは、身軽に大地を蹴り後少しという所まで来ていた。



 な、なんかこういうのも懐かしいなぁ!


“随分余裕じゃないですか”


 そ、そりゃ、何度も経験してきたからなら、よ、余裕だぜ。運転変わってくれ、それからカノン砲とブローニングで威嚇は継続。


“かしこまりました。なにをされる気で?”


 困った時のパイナップル乱舞よ。ビックリこいて鎌首もたげたところでカノン砲で腹撃って仕留める、オーケーイ?


“おまかせ下さい”



 ナビの操作でカノン砲とブローニングで顔面に集中砲火を浴びせる。効かないとはいえ鬱陶しいのか機獣の速度は少し落ちる。荒野を跳ねながら走っている最中でもお構いなしに命中させるナビは流石だ。

 平坦な道に出たところでドアを開け、ゴリゴリラーテルを見据えると、背嚢より取り出した手榴弾を次から次へとピンを抜いては機獣の腹下に向けて転がすように放り投げる。タイミングは完璧で腹下で手榴弾は豪快な爆発を連発していき作戦通りに事は進むと思いきや、敵だって自分の弱点は承知している。大きく跳躍しては爆発する手榴弾を右へ左へとわけなく躱していく。



 くっそ鎌首もたげるどころか、見事に躱していきやがんなぁ、イタチだけにガン○のノロイ思い出すわ。


 “ガ○バにこんなシーンありましたっけ?”


 軽口は叩いているがあとニ度の跳躍でジャノピーに追いつき上に覆い被さる距離まで機獣は接近していた。



 「なぁぁぁぁぁ!!! ヤバいヤバいヤバいよぉぉぉぉ!!!」


 


 そして最後の跳躍を見せる。あきらかにジャノピーを上空より食らいつく高いジャンプであった。




 「きたぁぁぁぁぁぁっ!」



 叫び声を上げる錫乃介の手には手榴弾がいくつも握られている。




 ……とか言っちゃって。



 急停車するジャノピー。

 前輪を残して後輪と荷台が持ち上がる。いわゆるジャックナイフ。

 と、同時にリボルヴァーカノンの砲口は前方上空敵の腹を捉え甲高い回転音が鳴り響く。錫乃介も握られたありったけの手榴弾を前方に投げ込むと、すぐさまドアを締め頭を抱え運転席に伏せをする。

 

 

 持ち上がった荷台が大地に着地する


 跳ね上がる運転席


 カノン砲の炸裂音


 ゴリゴリラーテルが落下


 前方よりの複数の爆発音


 爆風がジャノピーを襲う


 防弾フロントスクリーンが弾け飛ぶ


 堪える運転手



 そのままどれほど時間がたったのかーー実際は数秒だがーーおそるおそる顔を持ち上げターゲットを視認する。


「やったか?」


“わざと言ってません? それ”

 


 機獣は仰向けで倒れており、腹はカノン砲と手榴弾に食い破られ血液と機械油が混じったなんともいえない液体をおびただしく流している。

 ジャノピーを降りゆっくりと近づきながら、念の為何発か小銃AK308で7.62ミリ弾を撃ち込むが反応はない。



 “仕留めましたね”


 ナビの言葉に、ハァと深く深く身体に残る息を全て吐ききり、再び大きく息を吸い込む。



 しんどいわ。



 一言つぶやくとその場に座り込み、懐から煙管を取り出し、数日ぶりのタバコを深く吸いこむ。ゆっくりと後ろを振り返り、爆風をもろに受けたジャノピーを見てため息と共に紫煙を勢いよく吐き出す。



 また、オーバーホールかよ……




【最大の危機は勝利の瞬間である】と言ったのはナポレオンか。他にも似たような名言は数あれど、この時ばかりは錫乃介もナビも例外ではなかった。頭上より無音でせまる一台の野良ドローン。普段であればなんてことはない射撃の的。その気配に気付いて見上げたときには銃を構える隙は既になかった。



 な!


 脳が見せる視界全てがドローンの影。

 覚悟を決めるどころか、伏せる間もない。

 身体の反応もナビの反射も間に合わない。


 その刹那、聞こえる炸裂音。


 視界から外れたドローンが破裂。


 破片で目が眩む。


 痛む目をまばたきしながら、炸裂音のした方角を見やる。


 そこに立つのは……

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