電脳セクハラ
男は自ら立ち上がることなく床に倒れたままだった。うつ伏せのままでは苦しいので横向きに体勢を代え、縛られた両腕を枕にし、動物園で見たやる気のないカンガルーのように寝転んでいた。
それにしてもいい声した女だな。いや、女かどうかわからんけど声だけでムラムラしてきたぜ。
“あの、もう少し場をわきまえた思考を……”
「あなた、あまり卑猥な会話を電脳としないでくださる?」
“私はしてません”
あ〜久々にパンティラインが浮き出た尻揉みしだきてぇ、チラッと見えるブラジャーとか最近見てねえしなぁ、なぁナビ
“あまり話しかけないでください”
「残念ね、私にはブラジャーもパンティも必要ないの」
おいナビ、ノーブラノーパンで大勢の前にいるらしいぞ、こいつぁとんだド変態だ!
“あーあーあー”
「必要ないって言ってるでしょ! なんでパンイチのこんな汚いおっさんにそんなこと言われなきゃいけないのよ!」
言ってねぇし、思っただけだし。あれ? なぁ、こいつもしかして心を読んでる?
「今更⁉」
“でもちょっと違ぃ……”
クックックッ……心が読めるだと、そんな事でマウントとったつもりか? その能力後悔させてやるぜ!
錫乃介は一瞬の間を作ることなく、あらん限りの卑猥なシチュエーションや言葉を機関銃のように思い浮かべては、眼前の声の主にセクハラを勤しんだ。床に寝転びながら、妄想を膨らませるその姿は誰がどう見ても変態のそれだった。
……これで、どうだ! おっさんはな、常に頭の9割はエロで構成されてんだ。そのおっさんの心を読むってのはこういうことと覚えておけ!
「……」
“心を読んでるわけじゃなさそうです”
「そちらの電脳の方が計算能力や状況把握だけじゃなく、人格も含めてあなたより優秀みたいね」
どういうことだ?
“どうも気付かれないうちに電脳ハックされていたようです。私、もしくは私と錫乃介様が会話をしている時に限り、電脳を通じてその内容を吸い出せるようです。ですので、純粋に錫乃介様だけの脳内で思い浮かべた内容、つまり心まではわからないようです。以前出会ったアーパー様と同じですね”
ブレインハックか小賢しい。ってことはもう一度ナビにさっきのセクハラトークをすれ、アギャア!! くっ! 強烈な電気ショックをしてきやがったぞ、この女!
「私、何もしてないわよ」
“今のは私です”
なんてことだ……ナビが敵の術中に!
「何もしてないって」
“私の意志です。さっさと本題に入ってください、サンドスチームのキャプテンAI。それからこの変態から……”
「……そう、あなたも大変ね同情するわ。そこの変態、言っておくけどこの部屋にある2,000以上のメーサー砲の銃口が狙いを常時つけているわ。これからは発言に気をつけることね」
「おい、女王様。俺は今日一度もトイレに行っていない。これがどういう意味かわかるか? 死ぬだけじゃない、気絶でもしようものなら、溜めに溜めたこいつらが爆発するぜ」
な、なんて卑劣な! と後ろから複数の声が聞こえる。
「なんならさっきの電気ショックで少し漏れてるんだぜ、クックック」
「いいわ、覚悟はできてるようね」
「できてません。ハッタリです。ごめんなさい。でもトイレ行ってないのは本当です。すいませんでした、トイレ行かして下さい」
船の主が少し語気を荒げたとたんに突然のお得意の手のひら返し。これこそが錫乃介の真骨頂である。
「モディ、この男をトイレへ。それ以外の者は退室なさい」
「よろしいのですか? このような下品で卑劣な変態を……」
「構わないわ」
「では」
主の指示通りモディと呼ばれた男ーーおそらくあの最初のアーリア人と思われる男は指示通り変態をトイレに連れて行く。
……………………
「すっきりしたぜ。ようやく、まともに話せるなポラリスの残したAIさん」
トイレから戻ってきた錫乃介は、船の主に対して半身立ちに腰に手を当て胸を張る。頭に被っているズタ袋はそのままだ。
「ルーラーでいいわ。面倒くさい男ね、わざわざ人払いしてくれだなんて」
「お互い話しづらいこともあるだろうしな。さて、まずはそちらの用件を聞こうか」
「単刀直入に聞くわ、あなたは何者なの?
」
「ただのおっさんだよ。2020年から来たけどな」
「もうその時点で“ただの”ではないわね。何のつもりでマフィア潰しなんかしてるの?」
「向こうが勝手に絡んできただけだ。“降りかかる 火の粉は払え 火事の空”ってやつだ」
「それだけならまだ正義感の強い人間で終わる。でもあなたは軍とハンターユニオンとも深く関わり、思うがままにそれらを操ってる疑いもあるわ」
「そんなわけあるか。逆にいいように利用されてるだけだぞ俺は。ひとつ聞くがそんなことで拉致監禁されるか? 普通」
「ポルトランドの一件によりこの世界のキーパーソン、ポラリスと繋がりも垣間見えた。それがなければ捨て置いたかもしれないけど、そういうわけにはいかない。あなたはこの世界の脅威になりつつあった。だから人物を知るために、ここに連れてくるよう厳命した。“とんでもない危険物だから丁重にもてなせ”って。そうしたら何がどう間違ったのか、今に至るってわけ。
「構成員だかなんだか知らんが、そんな奴らに丁重にもてなせ、なんてて言い方したらこうもなるわ」
「そうかしら?」
「もう少し任侠映画なりマフィア映画なり見とけ」
「いやよ、暑苦しいの趣味じゃないもの」
「あ、そう。んじゃ、誤解ってことが判明したから、そろそろ拘束解いてくれる?」
「駄目ね。あなたが危険物であることに変わりないし、ここはサンドスチームの中枢部よ、安全確保のためもうしばらくそのままでいてもらうわ」
「なんでやねん」
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