おっさんは動物園ではしゃぎたい
猫だ!猫が沢山おるぞ!むしゃむしゃむしゃー!
小鳥だ小鳥が鈴なりになってるぞぉ!
クマたんクマたんモフモフクマたん!!!
お、ここにも猫ちゃん猫ちゃん!
子犬子犬子犬安定の子犬!!!
チンチラ!これチンチラだよね!
ウサちゃーん!わしゃわしゃわしゃあ!
エミューだエミューだエミュミュンミュン!!
カピバラカピバラぬぼぉーーー!
あ!子猫子猫子猫が沢山かぁぁぁわぁぁぁいぃぃぃぃぃぃよぉぉぉぉぉふわふわふわふわ!!!!
「なんニャンあいつ。巡視とかいって動物園で連れて来た子供よりはしゃぐ休日のパパ状態ニャン。大丈夫かニャン?」
「トムが言うのもなんだけど、オイラはあそこまでアホになりきれないトム。少し冷静になってしまったトム」
「だ、大丈夫じゃ、ないかな? それに任せるって言っちゃったワン……」
三頭が不安極まりない目で見る錫乃介はどこから本気でどこまでふざけているのか、襲ってこない機獣達を見てテンション爆上げだったのは間違いない。機獣といっても見た目は野生の動物に近いのが多く、街はある種開放型の動物園といえた。錫乃介は幼少の頃より動物園が大好きで、近所にあった多摩動物園なんかは週に2回も3回も連れていくようせがんだものだから親は辟易していたくらいだ。つまり、錫乃介は純粋に今を楽しんでいる可能性の方が高い。調査という名の遊びに疲れた錫乃介は水涸れた噴水のある公園で休憩することにした。三頭のお供も一応ついて来ているが、少し距離が離れたように見える。
ふぅ、やけに猫ちゃん多くて疲れたぜ。
“何やってるんですか、ただ機獣達にわしゃわしゃしてただけじゃないですか。顔は引っ掻き傷だらけだし、さっきなんか機嫌損ねたカピバランチャーにホールドアップされるし、サイコエミューには有線レーザー喰らうし”
アレちょっとヤバかったな。いや〜ちょっとだけはしゃぎ過ぎた。
“全力で楽しんでましたよね”
そんな事はない。ハンターユニオンにもない機獣の各種データをとるためだ。
“とってたのは私ですけどね”
その機獣の心を開いたのは俺のコミュ力だ。
“開いたんじゃなくて、ほぼ全ての機獣達が嫌がって反撃してましたよ。これが人間社会だったら間違いなく逮捕されてます”
なら今のうちにもっとやっておかないとな。
“もう人間との友好策は諦めますか……”
俺が親善大使だから安心しろ。
噴水の公園周りに生えていたオークの大木の木陰に腰掛け水分の補給をする。空は相変わらず雲ひとつない抜けた様な青空で、昨日よりは強目の風が遊んで火照った身体に心地良い。
“錫乃介様、ここの元の地はおそらくアナトリア半島つまりトルコの何処かであると思われます”
廃墟のあちこちが中欧っぽいなとは思ってたけどやっぱりそうか。でもなんで?
“このオークの大木、アナトリア半島の固有種イスピルオークというんです。スクラッチのせいで植生が変わっているとはいえ、この木の樹齢は150年以上と推測できます。となるとスクラッチ前から生きていた可能性が高いんです”
ほ〜街が廃墟になるほどの戦禍を生き残って、この時代まで生き続けるたぁたいしたもんだわな。
暫し廃墟となっている街を感慨深く眺めていると、上空に幾つかの影が見えてくる。敵性機獣の可能性を判別するため訝しみながら睨んでいると、三頭のお供が背後に来ていた。
「錫乃介、あれは我々の仲間だ。カラス機獣でな、主に街周辺の監視をしてもらっているのだが何かあったらしいワン」
ポチの前に一羽のカラス降りたち何やら伝達すると、再び数羽の群れに向け飛び去って行った。日本でよく見るカラス色の真っ黒ではなく、明るい灰色が混じっており、ナビ曰くズキンガラスというヨーロッパでポピュラーな小型のカラスだという。
「錫乃介、ドローンの一群がやってきているそうだ。今もらった解析データを見る限り、人間側のハンターが使用する自律型ドローンだワン」
「ハンターがドローンを使ってくるのか」
「そうニャ、ドローンがハントして戻ってきたら人間は残った素材を回収するだけで、戻ってこなかったら失敗だから次のドローンを飛ばすだけニャン。ハンターの命の危険が圧倒的に低くて最近増えているニャン」
「お金かかりそうなやり方だなぁ。ハンター業もなんだか味気なくなってきたねぇ」
“とは言え合理的ですよ。命より高いものはないですから”
まあなぁ。
「前回偵察程度の先遣隊が来たけど今回はたぶん本隊ワン」
「オレっちが全部撃ち落としてやんよトム!」
「お前のトンプソン対空性能低いくせによく言うニャン」
「錫乃介、アイツらは野良の特攻ドローンと違って、爆撃や対地射撃をしてくる。それに今回は空だけでなく、陸上からも来ているそうだワン」
「どうする撤退か? 防衛か?」
「この程度のドローンで撤退だなんて私の身体に流れる闘犬の血が許さないワン」
「丁度いい機会ニャ。鈴やんにウチらの戦闘力も少しお披露目するニャン」
「そこの糞漏らしたガゼルもか?」
「コイツは戦力外ニャ」
「ちょーーーっと! トム本当は強いトムよ! あの獅子公の時はちょーーーっち予定外だっただけトム!」
「タマと合体してトムキャットになるとかか?」
「いや、ちょっとそこまでは……トム」
「錫乃介さん笑えない冗談やめて下さい」
「ナビ、なんで語尾にニャン付けないの?」
“タマさんマジギレしてましたので”
「あ、誠にすいませんでした」
「さぁ、戦闘配備だワン」
二頭と一人のやりとりを流してポチは錫乃介が顔を顰める程の甲高い遠吠えを幾度かする。その音波は辺りの空気をビリビリと震わし、別の地点から返答の遠吠えが聞こえてくる。
ん? そうか、遠吠えはエアビーの範疇外なんだな。これはかなりの発見じゃないか?
“ええ、大気の振動にまでは干渉出来ないのでしょう”
単純過ぎて興味が無いだけかもしれないけどな。
遠吠えのやりとりが終わるやいなや、ザワザワと大地が揺れ始めると、廃墟の瓦礫、石畳の隙間、涸れた用水路、あらゆる所から黒い泉が一斉に湧き出す。否、水ではない、ネズミやトカゲといった小型の物から犬猫猿といった中型サイズの機獣達だ。湧き出た機獣達は次の指示を待つ事なく、自らの持ち場へ向かっていった。後を追うように空には飛行型の機獣も数十羽は出現している。
「先ずはこちらも観測用に先遣隊を。大型機獣も続くワンよ」
空を睨み口を開いたポチの牙がキラリと光った。
ちょっと今の全身ゾワッと来た。
“まぁ無理もありません”
いったいどこに潜んでいたんだ?
“アナトリア地方の地下といったら、アレですよ”
ゴキ○リか?
“違います。国際問題に発展しそうなこと言わないで下さい”
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