ワンニャンコンバット
暑さがピークを迎えた気だるい午後。先程まで冷涼感のあった風は熱風へと変わっていた。
各所で遠吠えが聞こえる。戦闘配置が付いたのか。飛行型機獣は先程のカラスやトンビなど数羽が旋回やホバリングをしつつ周辺の警戒にあたり、残りは伝令や撹乱にまわる。バルコンドルみたいなドッグファイトができる大型空対空用の機獣は居ない。野生動物で群れを作らないタイプは機獣になっても馴れ合いをしない傾向があるようだ。あくまでも傾向で個体差だが。
地上部隊は小型機獣が斥候をメインに行い、中型から大型の機獣が戦闘を行う配置だ。中型は犬猫の他、猪や鹿、カピバラ、ハイエナ、アリクイ、オオトカゲなど。大型は熊、馬、バッファロー、ゴリラ、ダチョウといった面子だった。小型機獣は数が多く把握しきれないが、中型500頭、大型200頭ほど。
錫乃介は人間側と交戦したことが後から判明したら面倒なことになりそうだから、変電所で待機する事になった。
お供の三頭は最前線に出ると言って、別れ際トムはトンプソンマシンガンを体内に一旦収納し、身体の中で換装してマイクロガンという砲身が三本の小型ガトリング砲にして再び背中に出す(しかも連装砲塔にして)という離業を披露していた。大口を叩くだけのことはありそうだ。
一方人間側のドローン部隊も前線に近づきつつあった。飛行型のドローンはヘリ型や凧型、ボール型、動物型など様々だが、基本的にホバリングタイプで、一撃離脱型の爆撃タイプと地上制圧射撃型がメインで大型のものは見られない。1,000体ほどが風車の上空に集結している。
陸上型ドローンは、一輪〜四輪車型、無限軌道型、多脚戦車型、ホバークラフト型などバラエティに富んでおり、こちらも1,000体ほどの規模を誇っていた。最大で軽自動車くらいのサイズも存在しており、いずれも軽重機関銃や機関砲、迫撃砲等様々な武装をしている。車輪についたロケットの推進力で特攻してくる双輪タイプの不思議なドローンもあった。
状況を変電所の屋上より見守っていると、あともう少し接敵というところで、人間側ドローン達は散開していく。それに応じて機獣達も動きを見せた。
そろそろか……
錫乃介の呟きが合図となったか、両軍上空より空気が弾ける音が聞こえる。続いて大きな爆発音と振動も身体に響く。ビカビカと曳光弾が上空と地上を飛び交い始めると、号砲花火のような爆発がポンポンと起きる。それと共に落ちていくのは人間側のドローンだ。
飛行型機獣の高機動旋回能力によって、捉えることができないまま接敵されたドローンは、あるものは高周波ブレードが付いたカラスの翼で真っ二つにされ、あるものはトンビの軽機関銃で撃ち抜かれ落とされていった。
そして地上でも、小爆発が起き始める。上空からの爆撃かと思いきやそうではなかった。
「トームトムトムトムトム!! ウッヘヘヘ! やっぱりこのガトリング形態はンギモヂイィィィィ!!」
「油断するなよ」
舌を出し目があらぬ方向を向いているトムだが、風車の間を疾風のように駆け抜けながら毎分数千発の弾薬を撒き散らす。傍で無反動砲を的確に放つポチ。
「アイツきっしょいニャン」
特に何もしないタマは激しい戦闘中にもかかわらずポチの頭の上で手を舐めるているが、他の猫機獣であるカラシニャコフやサーベルキャットはちゃんと戦っている。
他にも重戦車の様にドローンの軽機関銃をものともせずに接敵するバッファローやゴリラのぶちかまし。中距離から高速移動しつつ迫撃砲で支援する馬やダチョウ。地表下から忍び寄り食らいつくオオトカゲ。各々の特性を活かした攻撃の前に、陸上ドローンはなすすべもなく破壊されていった。
へぇ〜強いじゃん。やるじゃん。
“機動力に雲泥の差があるみたいですね。ドローンの攻撃がまるで当たっていないようです”
人間側からしたら制空権が全く取れないからなぁ。ジェット機とかあったらまた違うんだろうけど。
“飛行場が作りづらく、レーダーも管制塔もない今の世界でジェット機は自殺行為ですから。案外レシプロ機の方がいいかもしれません”
それだって、アヴェンジャーフライとかケツァルコアトルみたいなチート飛行機獣にとったらカトンボみたいなもんだろうしな。そういやレシプロ機の機獣もいたな。まだまだ機獣達が制空権を譲る気はなさそうだわ。
“先に機体を量産して飛行場を建設し、防衛設備を整えて機獣に邪魔されない様な空間が出来てからパイロットを育て終えてようやくですね”
莫大な予算と時間かかるな。おぉ、もう勝負がつき始めてるんじゃないかこれ。
“知恵が身に付いて組織的行動が出来て野生動物以上の身体能力とセンサーを持って、人間並みの兵器搭載。あの程度のドローン相手じゃ結果は見るまでもなく明らかです”
しかし、ハンターの被害も相当なも……ん? 今の時代ドローンって安くなってるとはいえ、100円や200円のもんじゃないよな?
“そうですね”
あれだけ集めたら結構な費用がかかると思うんだ。
“そうですね”
って事はハンターは1人や2人じゃなく、複数。それもかなりの人数じゃないかと思うんだ。
“そうですね”
って事はだよ、これは結構大規模な作戦だな
“そうですね”
つまり、こんなもので、終わるわけないな。
“そうです。もとより風力発電を無傷で抑えたかったから、大部隊とはいえこんなチマチマした攻撃をしてるんです。本気で抑えるんだったら、遠方から制圧射撃後、戦車隊を投入しますよ”
だな。おっドローン達が引き上げていくぞ。とりあえずは勝利だな。ま、これからのことはこれから考えよう。
“出番無しですね”
今回はしょうがないじゃん!
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