一度は探検隊ごっこってしたよね?
朝焼けも終わり目に入る日差しが眩しくなる頃、シャオプーを象徴する平遥古城の門に二人の新旧当主がいた。
「オババ、理由くらい教えてもらえるのかな?」
「時代じゃよ。暗殺と房中によって成り上がったワシと違い、お主は強くは無いが人を殺めず殺す才に秀でる。孤児の身でありながらその人心を懐柔する術でシャオプーの幹部に上り詰め、今回の“ドブさらいの錫乃介来襲“においてはただ1人穏健策を主張した。そしてその身をもって監視を続け実際シャオプーにはなんら爪痕を残させなかったのが評価されたのじゃ」
「僕はこちらから手をだすのは得策ではない。様子見に留めておくべきと当たり前のことを言っただけですがね。彼が宿に長逗留する事になったのは偶々ですし」
「そうは言ってもな、錫乃介が通った街は現実マカゼンを除いてどこも痛手を被っておる。マカゼンはすぐに街を出たからだろうが、もし数日逗留しようもんならどうなっていたことかの?」
「彼の事だ。賑やかな事になったでしょうね」
「そのところ構わず暴走する機関車を宥めすかして懐柔する手腕が、これからのシャオプーには必要なんじゃ。これからも期待しておるぞ、養母としても現当主としてもな」
「オババは隠居して高みの見物かい?」
「そうしたいのは山々じゃが、ようやくこの街のクビキから開放されるのじゃ。ワシは自由にさせて貰う。あとは任せたぞ」
……行っちゃったよ。まったくシャオプーは被害を受けてないかもしれないけど、僕には多大なる爪痕を残してくれたよ。当主だなんて柄じゃないのにさ。
懐柔か……
懐柔されたのは、どっちなんだろうね錫乃介。
……………………
密林に囲まれた街道をひた走る一台の改造ジャイロキャノピー。舗装もない荒れ果てた道は振動と表現するには生温い衝撃を常に錫乃介のケツに与えてくる。シートに座ってなどいられないため、ほぼほぼ中腰で運転をする羽目になる。スピードが出せないため、次の街ハンニャンまでは2〜3日の行程となるが、夜だからと足を止めれば機獣たちの格好の的になるのは免れない為、給油のタイミング以外は走り続けることが要求された。
パリダカかよ。
“あれらはチームを組んでやりますけど、錫乃介様はお一人ですからね〜”
給油もおっかなビックリしながら陽が出てる間にしてるしよ、たった一人の世界一過酷なレースだぜ。
“でも考えるまでもなく、錫乃介はこの世界来てからは毎日がパリダカじゃないですか?”
言えてるわ。シャオプーがここ最近じゃ久しぶり腰を落ち着けた期間だったな。
“ポルトランドでドブさらいしてた以来ですか、どこ行ってもドタバタ喧しかったですからね”
それは俺のせいじゃねえし。フギと釣りだの将棋だのしてたのがもう恋しいぜ。
シャオプー悪くなかったな。
また茶とタバコをねだりに行くか……
……………………
それから機獣に襲われること幾千回、は言い過ぎだが常に機獣にうろちょろされていた。ほぼ、ブローニングとリヴォルバーカノンの斉射で退け追い払う事に徹することで、ダメージを受ける事なくジャノピーは進んでいたが、中の人間はたまったものじゃない。まるで心も身体も休まることもなく、襲われながら走り続けているのだから、常人であれば発狂してもおかしくないのだが……
“この人のいつでもどこでも寝れる特技はなんですかね。猫型ロボットの飼い主ですかね”
錫乃介は眠くなったら低速にしてケツに衝撃を与えないようにするとナビに操縦と戦闘を任し、居眠り運転しないように仮眠とるから、と言ってイビキをかいて居眠り運転していた。
“矛盾とかそういう次元を通り越したことをしてますよ。もう哲学の域ですね。
しかしこの辺りは南米のアマゾンの区画なんでしょうか、あのテーブルマウンテンはギアナ高地のアウヤンテプイにサリサリニャーマに間違いなさそうです。エンジェルフォールが枯れてるとはいえ、こんな絶景を寝て見逃すとはこの人も間が悪いですね。
「なんで起こさないんだよ! 俺ギアナ高地行ってみたかったのに!!」
“錫乃介様がわけのわからないこと言って寝てたんじゃないですか。素晴らしかったですよ。雲を抜けるテーブルマウンテンに、その側を遊覧飛行するケツァルコアトルによく似た翼竜型機獣はもう二度と見れないでしょうね”
いや、それ見れなくていいわ。いや、ちょっと怖いモノ見たさで見たいかも。ケツァルコアトルってたしか地球史上最大の飛翔生物だろ?
“ええ、白亜紀末に空を支配していたと言われてますが、厳密には最大種が他に発見されてます”
なんで、そんなんいるの?
“しりませんよ。ホラ映像見せてあげますよ”
うぉぉぉぉぉぉ!!!!
絶景かな絶景かな!
春の眺めは価千金とはちいせぇちいせぇ!!
コレ生で見たかったなぁ。
おっと、アレか、アレがケツァルコアトルか!
だいぶ距離があるのに、あの大きさってヤバない?
“15〜6メートルはあるでしょうね”
力学的にどうやって飛んでるの?
“さて? 機獣本人に聞いてみなければなんとも”
それは遠慮しとくわ。
……………………
錫乃介はその後も幾度となく機獣に襲撃される。ガブ太郎やハンニバルクイナなどもはや可愛いものだった。今だったら頭を撫でてやる余裕もあるかもしれない。かもしれないだけだが。
マッスルゴリラやサーベルジャガーはリヴォルバーカノンで威嚇射撃すれば、それ以上襲ってくることは無かったが、ミユビハタラキモノは非常に素早く動きを捉える事が難しく、閃斬鋼は砲弾を切り裂き、ソコニハ・オランウータンは残像拳を多用してくるやっかいな相手達だった。
しかしそこは倒すつもりは毛頭ないので、手榴弾乱舞と数撃ちゃ掠る。当たれば当たれで逃げ切った。
密林を抜けるとそこは雪国、ではなく久しぶりの荒野であった。そこはまるで密林の絵を半分切り取りそこに草木も生えぬ荒野の絵を貼り付けた絵画の中にいるかのごとく環境は一変していた。
どうなってんだこりゃ……ってのは今更だな。また砂漠と荒野の世界に戻って来ちまったな。この世界砂漠の方が多いんじゃねぇかと思うわ。
“環境が激変してますからね、砂漠化したところも少なくないでしょう。その分緑化したところもありそうですけどね。ちなみに先のジャングルは植生からして南米やインドネシアなどが入り混じっていました。もしかしたら世界中のジャングルがあそこに集まっているのかもしれません”
そりゃ探検するのも大変だ。川口浩探検隊も一生失業しないだろうな。
“藤岡弘探検隊ではないのですか?”
俺は川口浩世代だ。ところでさ、この崖? 地割れ? 峡谷? 何なんこれ。ものっすごい光景で、感嘆の声すらあげられないんだけど。
密林から先に広がる荒野。今まで荒野も砂漠も散々見てきて慣れたものだったが、ここの景色は一味違った。
文字通り割れた大地が地平線まで蛇行しつつも真っ直ぐに続き、その幅だけでも数キロ〜数十キロ、深さは数百メートルか? という渓谷であった。
“これ、おそらく大地溝帯ですよ”
大地溝帯ってアフリカ大陸のやつか!
“そうです。アフリカ大陸を南北7,000キロに渡って貫いていた地球の溝。この世界の大地溝帯はどこまで残っているかわかりませんがね”
いや〜俺死ぬまでに行ってみたかったんだよ! 今日は色々珍しいもん見れてラッキーだなぁ。
“さんざん死にそうな目にあって、ラッキーとはこれ如何に”
そういやそうだな。なんかこの広大な景色見て吹き飛んだわ。
“なんというか、流石です”
あれ受電設備じゃない?って事はそろそろハンニャン?
“受電塔は地上に見えますが、ハンニャンは谷の底のようですよ”
あ、あれか。他にもパラボラアンテナ付いた鉄塔とかが見えるけど?
“電波塔もありますね”
電波の類いはずだよな?
“ただの遺物かもしれませんよ”
なんだか気になるけど。
“寄ります?”
寄らなーーーい! またなんか巻き込まれそうな気がするー!
いいか、用がなければ近寄らない。余計な事には首を突っ込まない。人の為の事など考えない。自分の命だけを考える。自ら寄ってくる女は避ける。小銭は貯める。酒は飲み過ぎない。それが、この世界で生きてく秘訣だってね、俺学習したから。
“よくいいますよ……”
さ、行こうぜハンニャン。美味い飯と命の酒と疲れを癒やしてくれる女達に会いにな!
“言ったそばからもう……”
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