歪んだ性癖

 砂埃を巻き上げ荒野を走る一台の改造ジャイロキャノピー。昨日までのジャングルと比べれば、機獣も減り走りやすくなったとはいえ、それでも憮然とした表情になっている錫乃介がいた。



 だからさ、余計な事には首突っ込みたくないんだけどなぁ。


 “○ーニラ○ニラ○ーニラ求人♪ 即日 体入 高収入! 今すぐ稼げるアルバイトー!って、なんであんな頭空っぽで安っぽい煽り歌につられてるんですか?”


 いや、もうさ、あまりにも懐かしくて、まさかこの時代にあんなしょーもない音楽流してるもんだからフラフラと近づいちゃった。100年以上経ってもなお歌い継がれる音楽なんだなぁって。


 “アホですか貴方は。街の人誰も見向きもしてなかったじゃないですか”


 そうなの。俺がいた時代からそれも変わらないの。


 “おまけにメカフェチロリコンも発覚するし、いやロリコンは前から疑惑ありましたけど”


 ロリじゃねーよ、ストライクゾーンが広いだけだ。

 あ〜あ、汚染された湖か

 


 深いため息を吐く錫乃介は現在ある依頼を受け、それを遂行するためにジャノピーを走らせていた。




 少し話を戻そう。



 ハンニャンの街は大地溝帯のその深い谷に築かれた段々畑状の大地、そして壁にくり抜いて作られた穴の居住地から構成されていた。

 各所に高射砲や対空砲それに連なる兵器が配備され、上部や上空からの侵入に対しては厳重な防衛設備がひかれている。谷底には広い幅をもつ川が流れており、川沿いに民家は少なく上流側に田畑下流側に工場地帯や商業地帯が見える。

 広大な崖沿いを通る道は、山道によくある大きく蛇行しヘアピンカーブがいくつもある九十九折(つづらおり)の坂道であり、そこをジャノピーでノロノロと下って行く。

 道すがらある屋台でこの世界どこにでもあるタコスもどきを購入し食べながら谷底に向かう。地上は大地を吹き抜ける風が強いが、谷の中では勢いが弱まり、肌を撫でるそよ風が心地よい。

 谷底に着くと商業地区で弾薬燃料などの必要物資の補給をしたため、シャオプーで温めた懐も寂しくなってくる。


 残金623c



 旅を続ける為にもこの街でまた蓄えなければならないが、ひとまずユニオンに向かうことにする。受電設備があった地上に戻らなければならないかとおもいきや、弾薬の補給時にアフリカ系の身体半分がキ○イダーのようにメカメカしく機械化されている陽気な黒人に一応ユニオンの場所を聞くと施設は谷底にあるという。今までの街では受電設備とユニオンは同じ建物であったが、ここハンニャンでは別の様だった。ユニオンが断崖上にあると反対側からの利用が不便とか、おそらくそんな利便性の為だろう。道案内をしてくれたキカ○ダーに身体半分は機獣にでもやられたのかと聞くと、ファッションだと言う。かっこいいだろ? と聞かれたので、最高にクールだぜ! と答える。


 途中昔懐かし水商売専門求人広告のテーマソングを大音量で、他の住居同様大地をくり抜いて作られた家から流れているのを耳にしてしまったのが運の尽きだった。



 あれ? なんでこの曲? クッソ懐かしいな!


 “錫乃介様の時代に使われてた広告テーマソングのようですが、これがなにか?”


 いや、ちょっとなんの店か見てみようかな? って。


 “用がなければ近寄らないのでは?”


 見るだけだって。


 

 ジャノピーを降りて音楽が流れる壁面に嵌められた重厚な金属製のドアに近づくと、声をかけられる。


 

 「あ、アルバイトの応募ですね! どうぞ☆」


 「え? いや、俺……」


 「遠慮なさらずどうぞどうぞ」



 錫乃介の手を取り、半ば強引に招き入れるのは一人の少女? であった。

 全身がシルバーに光るメタリックなボディに大きめの白衣を通し、袖から手が出ていない。身長は140cmくらいか。髪はツインテールとでもいうのか、鳥の翼を広げた様な髪型をしている。髪といってもサラサラしている細い毛ではなく、一体化しているため、髪というより羽や翼に近いので、頭が重そうだ。

 顔もメタリックな光沢をもち、眼だけがルビーの様に輝く。どこからどうみてもアンドロイドだが果たして。


 招き入れられた洞穴内は、天井まで3メートルほどと高めで、岩肌が剥き出しということはなく、セメントで綺麗にあつらえてある。通路を引っ張って通された部屋は、人より背が高い大型のコンピュータが数機置かれたサーバールームの様な部屋で、そこから繋がれたパソコンも数台置かれていた。



 「さぁさぁ、そこ座って下さい」


 「あの……すいません、俺ここに用があったわけではなくて……」


 「まぁ、そう言わずに、今飲み物をお持ちしますから、少し待ってて下さいね☆」


 「お、おう」


 

 姿はメタリックボディだが、妙に距離が近い上にロリっぽい仕草は可愛く、少々強引に鉄パイプで組んだ椅子に座らされるが、そんなところも許せてしまう。

 メカロリはわざわざ錫乃介の手を取り、持って来た冷たいドリンクを渡してくる。ピンクともクリームともいえない色をしている。



 「これね、この辺りの特産のアテモヤのジュースなの。美味しいんだから☆」


 「あ、アテモヤね。聞いたことある。あ、美味しい」

 

 「ね! 美味しいでしょ!」


 メカロリの言う通り、ジュースは美味しかった。ライチの様な爽やかな甘味と、パイナップルを思わせる程よい酸味が外の熱気で火照った身体の熱を拭い去ってくれる。



 「あ、ありがとうね。可愛いお嬢さん」


 「可愛いだなんて、照れちゃいますぅ☆」



 “錫乃介様、今度はメカフェチ発動ですか?”


 いや、まぁ、あまり否定はしないがな。昔『バーチャ○ン』とか『キャッ○忍伝てやんでえ』とかで軽くロボっ子に目覚めたが今回は違うぞ、向こうが少し強引なだけだ。関係ないが『てやんでえ』はケモも入ってたな。あの作品は罪深い……


 “なに自分の歪んだ性癖暴露してるんですか。街に入る前自分から寄ってくる女はなんとやらと……”


 いや、ほらさ、この子メカだし、ノーカンじゃない?



 必死に言い訳を考えていると、メカロリが手を取り更に距離を詰めてくる。



 「お兄さんは、アルバイトしに来てくれたんだよね?」


 「いや、俺は外に流れていた曲が懐かしくて……」



 と、そこまで言いかけた刹那、メカロリの無機質なルビーの目に炎が宿る。



 「なんだと、懐かしいだと⁉︎」


 「えっ⁉︎」


 先程まで年端も行かない子供が背伸びした様な超えで喋っていた筈なのに、たった今同じ所から発せられた声は明らかに50〜60代のおっさんのダミ声だった。


 

 「……えと、えと、酒焼けかな? エヘヘへ……」


 「き、き、貴様ぁ!! 中身おっさんだな!!! あぶねーーーー! 危うく騙されるところだったぁ!!!!!」


 再び発せられた声はまた子供のものに戻っているが、もう錫乃介にはおっさんが中身のVtuberにしか見えなかった。



 “だから言わんこっちゃ無い”




 「私がおっさんなのは否定せん。しかしメカロリ美少女なのもまた事実だよ☆」


 「うるせぇ、美少女だろうが、メカロリだろうが、オヤジ成分が入ってるだけで、至高の宝石から核廃棄物に格下げじゃ!」


 「そんな事いわないで☆ まぁ、少しは私の話を聞きたまえよ」


 「嫌なこった」


 メカロリオヤジは、可愛い少女の声とオヤジのダミ声が激しく入れ替わりながら喋っている。そのせいで聞き取りづらいわ腹が立つわでしょうがない。



 「さて、そんな強気もいつまでもつかない? さっきのアテモヤジュースに入れた痺れ薬がそろそろ効いてくる頃」


 「て、てめぇ! 一服盛りやがったな!」


 「ごめんねぇ☆ こうでもしないと聞いてくれないと思ってな」


 “痺れ薬ですが、錫乃介様の身体には効いてませんよ。おそらく、クーニャンの病院で飲まされた『どんな感染症もドッキリ昇天宇宙抗生物質ドキドキトキシン』が効いてるのかと”


 ほっほう。ハメられたかと思ったが、役に立ったな。


 「はっはっはっ! メカロリオヤジ、貴様の痺れ薬は俺には通用せんぞ! ほれ、この通り自由自在に腕は……あ?」


 

 余裕を見せようと動かそうとした錫乃介の腕は、ガッチリと鉄パイプに鋼鉄製の手錠で繋がれていた。



 「ふふ、私の方が一枚上のようだったね☆ こんな事もあろうかとさっき手を取った隙にガチャリとな。こういう作戦は常に二段構え以上でいかないとねオ・ジ・サ・ン☆」


 「てめぇもおっさんだろうが!」


 「ちなみにさっきのジュース、利尿剤も入れてたから効いてるんじゃない? あれは毒じゃないから効くだろう」


 「はん! そんな脅し俺にきくか。いまさらションベンだろうがクソだろうが漏らすの怖くて日本の満員電車2時間乗れるか!」


 “いや、怖いですよね”


 「貴方やっぱり過去から来たのね。私の乙女回路がビンビン響くし」


 「あ、やば」


 “お馬鹿”



……………………



 「私の名はアーパー。プロフェッサーアーパーという。受電設備の技術者であってな、その傍ら通信やこの世界の研究をしていた。何故この世界では通信が出来ないのか? おかしいのだよ、電波が宇宙からの送電システムによる電波異常によって世界中がジャミングされているのは確かなんだ。ならば電波を使わない遠距離通信はどうだ? 狼煙や手旗信号ではないぞ、レーザー光通信だ。スクラッチ前にもやっていた技術レベルだからこの時代でも当然可能なはずだ。私は何度も試した。しかし駄目なのだ。最初の数回ならば成功する。だがそれもすぐに使えなくなる。何故だ? 機器に異常は無いのにだ。長年調査研究し、そこで一つの仮説に達した。だがその証明をする前に私の身体はもはや加齢によって限界に来ていた。機械化でさえも間に合わぬ程にな。そこで、助手をさせていたアンドロイドに擬似人格をコピーしたのだ。とはいえ彼女も人工とはいえ人格がある。それを全て書き換えるのは忍びなくてな、乙女回路と腸をそのままに二つの人格を両立させてみたのが、今の姿なのだよ。おっと、話がそれたな。レーザー光通信が出来なかった原因だが、なんだかわかるかね?」


 「さてな、だが一つ言えることがある」


 「なにかな?」


 「さっさとトイレいかせろ。垂れ流すぞ、この場で、大も小も両方な」


 「ごめーん、忘れてたぁ☆」

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