良い子は真似しないでね

 なんか安全で死なないで済む、それでいて稼ぎがいい仕事は……と


 “外に出る仕事しかありませんね”


 一族で運営してっから街中のめぼしい仕事はないんだろうな。しゃあ無し、雑魚狩りと行きますか。



 翌朝、日もまだ上がり始めた朝靄の頃、ユニオンに行きリクエストを探すも、ドブさらいや整備の様な仕事は無かった。ならば雑魚狩りと、それで稼ぐにしても武器は無い。ジャノピーも弾無しガス無しで動かせず。僅かに残った手持ちの金では小銃はおろかまともな拳銃すらも購入できない。ではどうするのかと思えば、商店にお惣菜の様に並ぶ安価な手榴弾やスタングレネードを買えるだけ買い漁り、ついでに小さいリュックとロープも購入して、買い食いも済ませておく。もちろん服はパンツも含めてアッシュからパクった服のままだ。

 

 手榴弾20c×6個

 スタングレネード15c×6個

 リュック50c

 肉饅頭3c


 残金4c



 「さぁ、これでもう後戻りはできねえぞ!」


 街を出て大きく声を上げ、自分を奮い立たせる。

 とは言えここから先は慎重だった。決して密林には近づかず、街から離れることもなく、基本は向こうから寄って来た野良ドローンを鉄パイプでぶん殴って狩っていく。とっとこガブ太郎が向かってきたら、スタングレネードを投げつけ怯んだところを鉄パイプで頭をかち割っていった。

 ジャッカルカノやM2ホッパーなどの銃型機獣が出て来たらこちらに銃口が向く前にスタングレネードを投げ付け即街に逃げる。その姿を遠くからシャオプーの警備兵は奇異な目で見守っていた。

 一度に沢山狩っても持って行けないので、1〜2匹屠ったら、ユニオンに戻り換金する。

 二度目三度目の時はやはり職員に奇異な目で見られたが、四度目からは何も反応しなくなっていった。

 再び狩りに出たときに、茂みからハンニバルクイナが猛スピードで襲ってきたが、程よいところに手榴弾を投げ付けこれを撃退。1体300cと今の錫乃介にはおいしい獲物だ。ロープで括り街まで引きずって持っていき、換金したところで休憩とする。


 小鳥型機獣10c×3羽

 野良ドローン50c×4台

 とっとこガブ太郎50c×3体

 ハンニバルクイナ300c×1羽


 収支684c



 休憩は屋台で饅頭に甘い角煮が挟んであるのと、揚げ饅頭に糖蜜がかかっているのを買い、ついでに着替え用の人民服の上下と下着を購入し宿の『旅伴』に戻る。


 饅頭4c×2個

 人民服上下40c

 パンツ(サルマタ)5c×5枚


 残金611c



 「サーセン、お茶貰える?」


 「うち宿であって休憩所じゃないんですけどねぇ……」


 「いいからいいから」



 番台がある店前の上り框(あがりかまち)に腰掛け、淹れてもらったお茶を飲み、買ってきた饅頭を食べ終えると、着替えを置いて、じゃ行って来る、と一声かける。



 「余計な忠告しない方が良かったかなぁ……」


 後悔先に立たずとはこのことか、そんな事を思いながら呟く店主を尻目に錫乃介はまた外へ出て行った。


 僅かに入ったお金で、200c分だけガソリンを入れ、400cを弾薬に代える。


 12.7×99mm弾3c×100発

 30×113mm弾10c×10発


 残金11c


 ユニオンを出ようとしたら、会員の更新がまだされていないと指摘される。今日のうちに払うと約束して、払えなければジャノピーは没収され、自分は消される恐怖に苛まれながらも狩りを再開する。

 とはいえ、ジャノピーが戻った事は心強い。もうジャッカルカノもM2ホッパーからも逃げる必要はない。とっとこやドローンだけでなく、テールガンパイソンやヘラクレスオオカブトリッパーはブローニングで屠り、強敵デミピューマもリヴォルバーカノンで即殺だった。

 調子良く倒しているように思えるが、あくまでも仕留めたのは街道に出て来た機獣のみ。密林に分け入ろうとはこれっぽっちも思わなかった。ジャノピーも機獣達の銃撃や斬撃を受け、ガラスは穴ヒビだらけで、ボディは傷がない箇所は無かった。



 とっとこガブ太郎50c×2体

 野良ドローン50c×2台

 テールガンパイソン100c×1体

 ヘラクレスオオカブトリッパー200c×1体

 ジャッカルカノ300c×1体

 M2ホッパー500c×1体

 デミピューマ1,000c×1体


 収支2,311c

 

 ユニオン年会費100c


 残金2,211c



 よし、何とか見れる数字になったな。


 “年会費払ったとき、担当のおじさんはなんか悔しそうでしたね”


 ホントだよな。危ねぇやっちゃ。ま、それはいいとして、今日はこれくらいにして飯でも食べるか。



 この日の夕飯は撥魚(ポーユイ)という、生地を箸などで茹だった鍋に切り落として作る麺であり、茹で上げた麺を野菜と川魚で炒めた焼きそば感覚の料理で大変美味く、酒に合う一品であったが、節約のため血の涙を流して我慢した。


 湯屋に行って疲れを落とし宿に戻ると、店主はお茶とタバコを用意してくれていた。

 

 

 「今日は随分と暴れられたようですねえ」


 「流石情報が早いな」


 「……何言ってるんですか、あれだけ街を出たり入ったりして騒いでれば誰だって耳に入りますよ」


 「そんな目立ってた?」


 「ええ、そりゃもう。警備兵達の間では、あんな命知らず見た事ない、病狂的だ、と専らの噂ですよ」


 「そう? ハンターなんて皆んな似たようなもんでしょ」


 「平地でしかも街の近くの遮蔽物もないような街道で、車も乗らずに、鉄パイプ振り回して手榴弾だのスタングレネードだの機獣に投げつけて戦うハンターなんていやしませんよ。命がいくつあっても足りやしない」


 「それ午前中だけの話しじゃーん。いくら俺だって年柄年中やってるわけじゃないよ。金が無い時だけだよぉ。それじゃあね、お茶ご馳走様っと」


 「普通お金無くてもやりませんけどね……それでは」



 パタリと扉を閉め自分の部屋に戻りながら店主は先ほど話した内容を反芻する。


 「下手に手を出さなくて大正解でした。あんな頭のおかしい奴に暴れられたらこっちもタダじゃ済まないですからね」



 撥魚12c

 湯屋5c

 宿代50c



 残金2,144c



 次の日も朝から最低限の補給をして機獣狩りをする。戻って換金してはテントなどの生活物資を買い、宿で茶とタバコを無心しては店主に呆れられ、また狩りに行く。戻って飯を食って風呂に入り宿に帰って就寝する。

 そんな他愛ない日々が十日ほど続き少しばかりお金が溜まったので、ジャノピーをメンテナンスに出す事にした。


 

 「車の整備屋ですか? なら『鉄屋 金八』をご紹介しますよ」


 というわけで、店主に紹介された整備屋に

赴き依頼すると20,000cと提示された。

 まぁ確かにボロボロではあるし、それくらいするのかもしれないと思いつつ、駄目元で『旅伴』の紹介と述べると、ああフギぼっちゃんのお知り合い、と請求が10,000cになる不思議な現象が起きる。余所者には厳しい街なのかもしれないので、それ以上深く追求することはしないでおくと、心に決めた錫乃介であった。


 残金1,585c

 

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