拳銃無宿って題名からしてもう格好良くて勝ち


 ホテル入り口、丸い円形のエントランスに車両を止め、機獣の襲撃を警戒しながらロビーに入る。ガラスというガラスはほぼ破られ、優美であったろう正面玄関は見る陰もない。ロビー中心部には噴水と思われる青い円形のオブジェもある(実際は下から吹き出す噴水ではなく、上からオーロラのように水を吹き流し、そこにプロジェクションマッピングを映し出しす設備)

 ロビー奥にはソファやテーブル、カフェの施設があったのだろう、全てがひっぺがされたカウンターと、空虚な間が残っていた。

 外を一望できる、二階席まで吹き抜けのフロアは崖から吹き抜ける風によって風化が進み、細かな砂が積もっている。天井からは取り残した配線や垂れ下がり、ライトをむしり取った跡が痛々しく残る。壁紙や石材もあったのだろうが、取りきれなかった端材が僅かに残っていた。


 

 「見事に何もねえな。テーブルやイスはもちろん、床材や配線ケーブル、窓ガラスの枠、カーペットまで、ここまで綺麗に取れるもんかね? スケルトンになってるぜ」



 錫乃介は屋内戦では使いづらいスナイパーライフルはジャノピーのリアボックスに置いてきた。軍用散弾銃AA-12は背中に背負い、ウージーを手にしたまま、ロビー内を見回す。



 「壁紙とか床材は回収屋の仕事だろうけど、それ以外は前時代にとっくに取り尽くされてるのさ。多分暴動みたいのが起きたんだろうね」



 マリーはワンショルダーバッグを背負い、特に気にする事もなくツタツタと先を進む。武装はオートマグIIIと腰に下げたマチェットだけのようだ。

 スクラッチが起き、外がわけわからない事になっていたら、まずどういう行動をするかと言えば自らの保身だ。食料や水の奪い合い、それから何かあった時の為の金目の物だろう。有事の際は何の役にも立たないが、人間の本能はそんなものだ。

 おそらく此処でも筆舌に尽くし難い掠奪行為があったと考えるのが普通だ。


 

 「マリーは此処にはもう何度か来てるのか?」


 「一度だけだ。地下三階までがもぬけの殻だったのを見て、出直そうと思ってそのままだった」


 「機獣はどんな奴が出る?」


 「ホテルの警備システムのセキュリティロボ始め、サービス系のアテンダントロボやコンシェルジュロボ、ハウスキーピングロボがわんさといるよ。でかいホテルの廃墟はだいたいそうだね」


 「あ~あれか、俺の居た時代にパンデミックがあって、感染対策でホテルのサービスとかなるべく人を使わずにロボットを導入した名残りだな」


 「余計な事するねまったく。サービス受けたくて来てるのにロボットだったら意味無いじゃないか」


 「当時はそれが最先端で感染対策として持て囃されてたんだよ。レストランとかでもあらゆるサービス業務で無人化・オートメーション化が爆発的に増えた時代だったんだよ。その後宇宙人の技術で更に進化したんだろ」


 「それが今は人間達の敵じゃ世話ないね」


 

 そんな話をしながら地下三階まで来るとフラグがたったのか、ガチャガチャ、ウィンウィン、とモーター音やら動作音が聞こえてくる。


 「ホラおいでなすったよ、あれはアテンダントロボだ」


 と、一言呟くマリーが睨む先から来るのは、下半身に三角の無限軌道を付け上半身は人型のロボ数台であった。白い顔には笑顔が張り付いたお面のような表情が不気味だ。

 胴体には青いラインが入り、手の部文にあたる三本爪のマニピュレーターには先端がフワフワしたはたきの様な物が握られている。

 人間サイズのガンタ○ク……初代限定のガンオタでもある錫乃介にはそれにしか見えなかった。



 「何アレ、強いの?」


 あまり強そうに見えないガンタ○クを指差してマリーに尋ねる。120ミリキャノン砲がないアイツなんてまるで怖くない。


 

 「アレはセキュリティレベル1のマシンが機獣化したものだ。酔っ払いや素行の悪い客を、あの電磁警棒でピリッとやってたそうだ」


 「今もピリッで済むのか?」


 「さぁ? 良くてショック死するくらいじゃないか?」


 と言いながらワンショルダーバッグから取り出したのは、形はライフルだが銃床や銃身が短くなっている、映画などでよく見る散弾銃であった。特に西部劇で。



 アレ『拳銃無宿』で見たな。


 “よくご存知で。『ウィンチェスターM1892カービン』のソードオフ。俗に言う『ランダルカスタム』ですね”


 スティーブ・マックィーン好きだからさ。でも何であんな骨董品持ってんのこの人?


 “格好良いからですよ、きっと”


 そんな馬鹿な。


 

 片手で散弾銃のレバーを持ってクルリと回転させ弾を装填させると、セキュリティロボに向けて発射する。

 ドウッという銃声と共に先頭の一体の頭が一撃で吹き飛ぶ。



 「かっけーーー! おばはーーーん!」


 「五月蝿いよ、アンタも働きな」



 へいへい、と背中に背負っている軍用散弾銃『AA-12』を手にして撃ち方を始める錫乃介。こちらはフルオートで連射して4体纏めて頭を吹き飛ばした。



 「やるじゃないか」


 「銃がいいんでね、その銃より100年後の奴だよこれ。マリーは何でそんな骨董品な銃使ってんの?」

 

 「格好良いからじゃないか」


 

 「あ、やっぱり」

 “あ、やっぱり”



 「ほら、次々出て来たよ、コイツらも金属素材や精密部品材として売れるけど、今は先に進むよ。キリがないからね。回収は後だ」


 「へーい」



 駆け足で進むマリーの後に付いていき、ロビーの階段を駆け下りる。二階三階となんなく進み、彼女もまだ未探査の四階へ降りる階段前へと来ていた。



 「ここから先は私も未体験だからね、慎重にゆっくり行くよ。客室フロアだから一部屋ずつ確認して行くけど、ヤバそうな奴が出たらすぐに退避。はぐれたらお互い構わず逃げる。いいね」


 「了しょー」


 「なんかやりづらいね」


 

 マリーは散弾銃を構えスタスタと降りて行く。慎重に、と言っていた割に歩みが早い。


 「え? 歩くの早くね、慎重にって……」


 少し慌てながら後を追う。



 建物に電気は通っておらず、照明は当然付いていないが、全フロアから崖を一望できる構造のため、昼間なら明かりに困ることはない。

 四階フロアに降り立つと一番手近な客室の扉に近づきながら、足を止める事なく、躊躇なく、ドアの蝶番を散弾銃で撃ち抜くと足で蹴破る。銃声よりも大きな音でドアが倒れる。



 「ちょっなにやってんの⁉︎ さっき慎重に、って言ったじゃん!」


 「充分慎重だよ。どうせちゃっちゃっとやらないと、またセキュリティが来るよ」


 ウィンチェスターのレバーをクルリと回転させると肩に乗せ面倒臭そうに応える。



 「え? 俺がおかしいの?」


 「いいから外見張ってな」


 顎でしゃくるように錫乃介へ指示を出すと、マリーは客室内を一瞥する。



 「へぇ、なかなか残ってるじゃないか……」


 と呟きながら、懐から紙巻を取り出し咥えると火を付け紫煙を吐き出す。そして足を翻して部屋を出て行きながら銃を構えて、



 「さ、そこの部屋も確認……

 ドウッ!

 するよ」


 言うか早いか、正面にある客室の扉を撃ち抜き蹴破っていた。咥えタバコで。




 ……ワイルド過ぎなんだよなこのおばはん。


 “また金魚の糞ですね”


 黙りねぃ!




 最近毎度金魚の糞である自分に、どうにも情け無さを覚えるが、ハッキリ言って周りの奴等が異常者なんだと、自分に言い聞かせる錫乃介であった。

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