レベルを上げて物理で殴るは真理じゃないよ 補助魔法は有効に
「なんでスタングレネード使わなかったんだい?」
「はい?」
セメントイテンに帰還してすぐにユニオンに向かった錫乃介は、まだ受付をしていたおばちゃんに、リクエスト終了の報告をする。手始めに尻尾を5本出し、後日残りを持って来ることは了解してもらった。問題はその後である。
錫乃介がボロボロになった身体で戻って来て聞いて欲しそうなワクワクした表情でいたので、面倒臭かったがおばちゃんは一応聞いてあげた。一体何があったのか? と。
すると、よくぞ聞いてくれました! とばかりに錫乃介は自分の醜態を晒した部分を上手く誤魔化しながら、機転の良さと活躍を得意気に話していたところで、上記のツッコミがおばちゃんから入った。
「すたん……ぐれねーど?」
「知らないのかい? 光と音で相手を怯ませる爆弾だよ」
スタングレネード: 起爆すると凄まじい爆発音と閃光を放ち、一時的に相手を盲目・難聴状態にさせる、非致死性の兵器である。もちろん錫乃介は知っているし、この時代では缶コーヒーよりも色んな種類が数多く売っているメジャーな代物だ!
「知ってます。うん知ってる。当たり前じゃないですか。ハンターに必須アイテムですからね」
「何でそれ使わずに、そんなサーカス団だか雑技団みたいなことしたんだい? ある意味凄いけどさ。軽業士かい?」
おばちゃんーーマリゴールド・マリーは本心から不思議に思った。いくらこの男がルーキーでぱーぷー頭だったは言え、装備はなかなかの物を持っているし、短期間とはいそれなりの経験を積んでいることもリクエスト受領時に確認した。だからこそ猿退治を寄越したし、さして心配することもなかった。
実はあの猿ーークソナゲテナガザルという名前なのだが、糞爆弾という凶悪な攻撃方法を持つ割に、暗い屋内を住処にしているため眩しい光には滅法弱い。なので、スタングレネードを使えば、天井にぶら下がったまま動きを止めるため、その後は自動小銃かなんかで一掃すれば、簡単に始末出来るのだ!
「ち、ちょっと、じ、自分への挑戦? 縛りプレイって、あ、あるじゃないですか、た、高みを目指す? あ、敢えて定石を使わずに? 別方面の攻略法を考えるっての? いや〜大変でしたよ」
錫乃介は驚愕の真実を前に動揺しまくりであった。はっきり言ってスタングレネードの存在が頭から完全に抜けていた。屋内戦が多かった新宿でも一度も使った事が無い。良く考えたら、今まで錫乃介の屋内戦はジョドーや山下など、反則的に強い奴らが無双していたため、金魚の糞状態で錫乃介は殆ど戦っていなかった事も災いした。彼らはスタングレネードなんて必要としなかったのだから。
「でも、お前さん金に困ってるからって受けたんだろ? だったらさっさと倒して……まさかその定石知らなかったのかい?」
ばれた
「ーーハイ」
“ここは素直に認めるんですね、今までの言い訳はなんだったのかと”
お前も同罪じゃ。
“否定しません”
錫乃介の返事にそれまで不思議そうな表情をしていたマリーは相好を崩し、懐かしそうな表情になる。
「面白い男だね〜でも早死にするよその生き方は。ちゃんと情報収集なさいな」
「返す言葉もございません」
折り目正しく深々と頭を下げる。
「山下の奴がさーーアンタ知り合いなんだろ? ーー言ってたんだけど、アンタのこと英雄だってさ。どんなイカつい奴かと思えばこんなヒョロっこいお馬鹿とはね」
「はぁ、山下は知り合いですが、おば様も?」
「ああ、腐れ縁だがね。どっちが早く死ぬか競争してるよ」
ハハハと笑うと尻尾5本分の報酬を入れたデバイスを錫乃介に渡す。
「あ、ありがとうございます。バイク修理終わったら残り持って来ますんで、よろしく頼んます」
「ああ、それより何で敬語になった?」
「あまりの気まずさに。明日には戻します」
「戻すんじゃないよ」
「それでは」
挨拶もそこそこにユニオンを出る錫乃介を見送るマリーの表情は、何故かとても楽しそうであり、悲しそうでもあった。
ああいう努力する馬鹿嫌いじゃないね。まるでーー昔のアイツみたいだ。
収支300c
その夜サウナに入って朝を流し、節約の為に屋台で食事をとる。
謎の肉と煮崩れてよくわからない根菜系の野菜に塩とスパイスをぶち込んだけのシンプルなシチューに、大量のクスクス。
アフリカン料理の店では定番だ。煮込みにトマトピューレを使う場合もある。この煮込みをクスクスにぶっかけて食す。スパイスが効いていて美味い。
何より安くて30cだ。これでサウナ10cにテントで寝るので、今日は40cの支出で済んだ。
ドラム缶のテーブルでクスクスを立ち食いしながら、今日の反省会をする。
いや〜スタングレネードだってよ、ナビ気付いた? 別に嫌味じゃなくさ。
“最もらしい言い訳を申し上げます。スタングレネードは建造物内や室内の制圧において、非戦闘員の存在が予想され、敵の注意をそらすことが目的である非致死性兵器のため、殲滅が基本であるハンター業に於いてはあまり使用頻度が高くありません。ましてや屋内戦が起きる確率はこの世界では本来とても低いものです。
ですが、錫乃介様はこの一年余りで三度の屋内戦を経験しております。一度目は廃ビルで野良犬相手。二度目はジョドー様と受電設備の潜入戦。三度目は山下様とUSDビル戦。いずれもスタングレネードが必要な戦闘ではありませんでした。二度目三度目は強者が居たためとも言えますが。
その経験が逆に今回の判断を曇らせた、と推測致します”
早い話が油断した、と。
“ハイ”
俺もさ、思い出したよ。
“何をですか?”
昔のRPGとかやってるとさ、どんなに強い敵でもレベル上げて物理で殴れば大抵は倒せたんだよ。
“ドラクエとかFFとかですね”
そう。でもさ、そうはいかないゲームもあってさ。物理攻撃反射能力をもった敵が登場
するゲームもあるわけ。
“主にメガテンですね”
そう。いっくらこっちがレベル高くても、物理反射してくるから逆にやられちまうんだよ。そういう敵には魔法とか使わなきゃ駄目なわけ。
つまり何が言いたいかと言うと、これからはスタングレネードとかの搦め手も戦術の一つに入れますよって事。
“搦め手って程でもないんですけどね。スタングレネードは……”
お互い反省だな、
“そうですね……”
残金260c
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