ウキウキウキキ 危機一髪
「ぬわあぁぁぁぁぁぁぁ!」
糞爆弾が雨あられと投げつけられる通路を、40キロの装備を担いで命からがら全力で走り抜ける錫乃介。ドッカンドッカン背後で爆発が起きたかと思えば、右手左手で爆発が起きる。その度に高速反復横跳びで避け、足元に転がる糞には商品棚を使って三角跳びで大ジャンプ。その軽快な動きはまさに猿。コンマ1秒も同じ場所に留まらない、野生の猿さながらの動きであった。
“これではどっちが猿かわかりませんね”
「必死なんだよ!」
“でも、プロジェクトAのジャッキー・チェンみたいですよ”
マジ! いや、なに余裕こいてんの⁉︎
“算段がつきました。前方左手にあるウォッシュルームに入って下さい”
え⁉︎ 大丈夫なの?袋の鼠じゃない?
“説明は先早く”
「ハイハイハイハイ!」
脳内で喋ったり声を出したり忙しい錫乃介は、トイレ前の天井辺りをAA-12軍用散弾銃で射撃し、逃げ道の確保をする。
バスンバスンと数発撃ち込み背後にもおまけに撃っておくが当たるかどうかは関係ない。猿たちはどうやら体毛が黒いらしく、動く影は認識出来るが、暗がりに紛れてその姿までは把握できないので威嚇のためだ。
糞爆弾の投擲が僅かに減った隙を見て、左手にあるウォッシュルームのドアを蹴り開けなだれ込む。
ウォッシュルームの天井はメインフロアと違い、高さが低く設計されているせいか、猿たちは居ない。
“そのまま走り抜けてバックヤードへ。奴らは天井が高い所でないとそのアドバンテージを発揮出来ませんから、この辺りには居ないと予想しましたが、当たって良かったです”
あらら~賭けだったのね~。ま、しゃあない。
バックヤードの通路を抜けると、壊されたシャッターで道が塞がれているので、これも体当たりでぶち開けると、その勢いで搬入口にゴロゴロと転がり出る様に辿り着くと、そこはもう屋外であった。
油断せずにウォルマートから一定の距離をとり、瓦礫に腰掛けると初めて荒い呼吸をする事が出来た。
辺りの気配に注意を払いながらもゼェゼェと目一杯酸素を取り込む。
「はぁ~死ぬかと思った……」
“危ないところでしたね~しかし、一体も討伐証明が取れませんでしたけど、どうします、出直します?”
いーや。エテ公共にこんなフルボッコにされたままにできっか。しかも、ウンコ爆弾でこの野郎。あったまきた。
背嚢を下ろして中をゴソゴソする錫乃介。
“テント用のロープ? それで何を……”
あいつら天井にずっと張り付いてんだろ。それがわかれば攻略法はある。
背嚢を背負い直し、再び搬入口まで接近すると、脇にある屋根の点検用の梯子を上って行く。
“そういうわけですか”
ナビの言葉にニタリと笑うと、メインフロアの角の方にある明かり取り用の窓へ進み配管にロープを結びつけ、腰のベルトに数本のロープをカラビナで取り付ける。
いくつかある予備の32連発ドラムマガジンの弾が装填されているかチェックし、いつでもリロード出来る様にしておく。
暗視ゴーグルとヘッドライトをつけたヘルメットを被り全ての準備を確認して、上半身から侵入する。
錫乃介の侵入を認識したのか、先程までは限りなく無音に近い行動をしていた猿達も、警戒のためだろうか、初めてウキキ!ウキキ! という高い声を出し始めた。
もう、遅えよ。
逆さの状態で天井に足をつけ、天井に逆立ちで立った状態になった錫乃介は、暗視ゴーグルで捉えた猿型機獣に軍用散弾銃『AA-12』の銃口を向ける。
AA-12は散弾銃にしては珍しいフルオートマチック。
引き金を絞れば次から次へと発射される散弾に、猿達はウキーーー! と雄叫びを上げ、ある者は雄叫びをあげる間もなく撃ち落とされていく。
32連発を打ち終わると新しいマガジンにスピードリロード。使用済みのマガジンは床に捨てる。ナビの合図によりリロードが出来るため、無駄に空撃ちする事もない。
好戦的なのか逃げる事なく反撃をしようと糞爆弾を投げつけてくるが爆発前に落下してしまう。床に落ちてから爆発するが、高さがある天井に逆立ちする錫乃介にはさしたる影響は受けない。
あれだけ投げつけられりゃわかる。この糞は床に落ちた衝撃が起爆の合図だ。落ちてからおよそ2秒後に爆発。爆発力は自分達が居る天井までには影響がないギリギリ限界のレベルだ。にしても、床に落ちた奴等は動き鈍くて良い的だぜ。
天井に居る事に固執し特化してしまったせいか、地上に落ちた猿は動きが鈍い。機獣にたいして退化というのかわからないが、退化した足で移動はせずにゴリラの様な両拳を地面に着けて移動するナックルウォークなために歩みも遅い。
AA-12の射程内を片付けたらポイントを変え同じ事を繰り返す。マガジン四つが空になったところで殲滅完了の号令がナビから出た。
コイツら初見殺しなだけだ。俺が逃げ回ってる間、威嚇射撃しても手榴弾投げ付けても、梃子でも天井から離れなかった。それだけ相手より上に居る事をアドバンテージだと理解しているし、攻撃形態もそれに特化していたわけだ。
尻尾でぶら下がりながら、尻から出た糞をポイポイ投げつけてくる。単純だが爆撃されてるのと変わりねえおっそろしい攻撃方法だ。
だがよ、だからこそわかったが、おんなじ目線から攻撃された事がねえからそんな進化したんだなコイツらは。
撃ち漏らし等の危険がないか確認してからロープを解き地上に降り立つと、マガジンと討伐証明の尻尾を回収していく。尻尾には毛が無く、黒く細いワイヤーで編み込まれた太いケーブルの様で1.5メートルくらいの長さだった。
本体の猿は全長80センチ~1メートルくらいで全身黒い毛で覆われていて、テナガザルに見た目はそっくりだったが、拡大鏡の様な目が三つあり鼻はや口は無かった。声をどこから出していたのかわからないが、もはや錫乃介にはどうでもいい事だった。
“お見事でした。あの死地の中で相手の特性を見抜き、更には反撃方法まで思い付くとは錫乃介様、成長されましたね”
ふっ、まあな。
“ナビィ! って泣きそうになってましたけど”
「黙りねぃ!」
ナビを一喝して黙らせる。回収した尻尾は120本。金属製の尻尾は一本で1キロはあるため、総重量がおよそ120キロとなるので、当然ながら徒歩では持ち帰れない。
とりあえず5本だけ持ち帰ることして背嚢にしまう。残りは念の為瓦礫で隠しておいた。
さ、一旦帰るべ。
任務を終えセメントイテンへ帰還できたのは、錫乃介の横顔を沈みかける太陽が真っ赤に染める時刻になっていた。
そしてセメントイテンで、錫乃介は驚愕の真実に直面する事になる。
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