僕らの街の働く車を紹介するね!

 ズタボロになった錫乃介はそのままブリーフィングに突入する。


 エヴァ、シェスク、アミン、シンディ、山下一味、正規兵隊長達、イセタンをはじめとする少年兵リーダー達。

 総勢24名が集まって、各々のポジションを確認する。


 

 「ま、そんな訳だ。質問が無ければこれにて終了。作戦開始まで7時間後。日の入りから一時間後の19:00な。それまでゆっくり英気を養ってちょうだい。それじゃあね」



 錫乃介は司令室を出ると最上階ラウンジで山下に信号を送っていた。



 “今夜作戦開始ですね”


 ああ、あと六時間後。装備のチェックでもしとくか。


 

 M110スナイパーライフル

 シグ・ザウエルp320

 AA-12 ドラムマガジン

 UZI

 マチェット

 手榴弾

 防弾機能ウェア上下

 ライト付きヘルメット

 暗視ゴーグル

 タブレット端末

 

 

 “夜間は屋外のプラントノイドが激減する。このことに早く気付いていれば脱出も容易でしたのにね”


 まぁ、今更だな。結果的に新宿を解放することが出来るならそれで良し。このまま植物どもの肥やしになるならそれも良し。

 いや、良くねえよ! この世界来て女一人抱いてねえのに肥やしになってたまるかよ。

 

 

 準備を終えた錫乃介はラウンジのカウンター内に移り酒瓶を手にする。

 『グレンリベット12年』スコッチウィスキーの代表とも言える酒だ。

 ロックグラスに適当に割れた氷を突っ込むと、溢れるのもお構いなしにダバダバ注いだ。カウンターの外に周り椅子にかけ指で氷を回しながら酒とグラスを冷やすと、静かに口をつける。

 スモーキーな香りが鼻と喉を刺激して錫乃介を癒す。



 『グレンリベット12年』ウィスキーを覚えたいならまずこの味を覚えろってな。初めて行ったBARで教えてもらったっけ。サロットルの奴にもまずこれからかな……


 

 いつぞやのサロットルと飲みに行く口約束を思い出す。



 はぁ、今回は完全に草臥れ儲けだな。元々借金のノルマだったから報酬は出ねえし、バイクの修理代に弾薬物資、アレ?今残金いくらだっけ?

 

 “5,150cです”


 かぁーーーー!修理代もでるかどうかじゃねえか。このままだとスカンピンになるぞ俺。臨時報酬でるよな、この案件。


 “どうでしょうねえ?”


 いやいや、どう考えても20,000の内容じゃねえぜコレ。


 “蓋を開けてみれば、ですからね。でもそれ前回もそうでしたよ”


 だよなあ、もう訳のわからん調査は二度とやらねえ。ドブ掃除の方が百倍マシだわ。


 “それ、次回のフラグになるからやめた方が良いですよ”


 おっと、危ない危ない。


 

 氷がカランと鳴るのも厭わず、ガブリと多目に含む。



 よく考えたらさ。ここにある酒全部100年以上も前の超ヴィンテージテージじゃね?


 “本来のヴィンテージリカーは厳重な管理の元に生まれますからね、ここにあるのは良くてオールドボトルですよ”


 でも、トーキングヘッドの野郎だったら高く買い取りそうだがな。


 “またアスファルトまで戻る方が面倒でしょ”


 言えてる。



 「錫乃介。隣座るぞ」


 「……あーあ、エヴァちゃんかシンディちゃんかどっちか来てくれるかと思ったら、おっさんかよ」


 放送でよく耳にした声に振り向くことなく錫乃介が答えると、左にシェスク、右にアミンが座った。


 「あのよ〜戦の前ってのはもっと色気があるもんなんだよ。何が悲しゅうてむさっ苦しいオッサン三人で飲まなきゃいけないんだよ」


 「あいつらは緊張感と疲労がピークで仲良く寝てるよ」


 シェスクは錫乃介が持つグレンリベットを引ったくり自分のグラスに注ぐと錫乃介を通り越してアミンにボトルを渡す。


 「寂しいオッサンは集うものだろ」


 アミンはボトルを受け取ると、三人の真ん中に突き出す。


 「反論できん」


 シェスクと錫乃介はボトルにグラスを合わせるとグビリと煽った。アミンはボトルごとラッパで飲んでいた。


 

 


 

 “時間ですよ”


 カウンターで突っ伏し寝ていたオッサン三人衆のうち、錫乃介はナビに起こされる。



 おーおーそれじゃ、行きますかね。



 残り二人を叩き起こすと、投光器で合図を送る。

 すぐさま装備を手にして各々持ち場に向かう。


 シェスクとエヴァは司令室。

 アミンは正規兵を率いて三階の非常階段側からの部隊。

 錫乃介とシンディら山下一味はエレベーター側からの急襲部隊。

 少年兵達は漏れ出たプラントノイドが三階以上に侵入しないようにする防衛部隊だ。

 当初地下街が無事であったならば、山下達が運び込む物資によってナパーム弾を作り、プラントノイド達を焼却後除草剤を撒いて、根本から殲滅する予定であったが、そんな悠長な事をしてる暇は無く大幅な作戦変更となった。

 その詳細も既に山下とは投光器によるモールス信号のやり取りで詰めてある。

 


 「俺はホンットにアホだった。なんでだろうな。なあんで、気付かなかったんだろうな」


 

 作戦の口火を切るのは、全身が機械化されているコルトレーンだ。エレベーターが一階に到着し扉が開くや否や、プラントノイド達の種子マシンガンが炸裂するが、それをくらいながらもありったけの手榴弾を表に放り投げる。そして再びエレベーターの扉を閉め天井の救出口より脱出。この男、山下の影に隠れているが、全身凶器の004のようなハンターなのだ。



 「この街の、この地下街の防衛なんて、すんげぇ簡単だったのによ。やだやだ、頭硬いねぇ」

 


 フロア一階の爆発を合図に、三階で待機していたアミン率いる正規兵が突入する。

 吹き抜けになっている1、2階のフロアは既にコルトレーンの手榴弾によりプラントノイド達は半壊している。そこをAK47の一斉掃射により次々と仕留めていく。



 「ブレーカー落としても消えねえ。高圧電線切っても消えねえ。根っこ爆破してもすぐに復旧しちまう。だったら……」



 しかし、プラントノイドの恐ろしさここからだ。どんなに引き千切られようと、光がある限り、すぐに再生が始まっていくだけでなく、千切られた触手や腕も意思があるように動き、無視できない存在のままなのだ。



 「ぶっ壊せば良かったんだ」


 

 別のエレベーターから躍り出た錫乃介はUZIとシグザウエルを両手に持ち次々と照明を破壊する。更にシンディ他山下一味もエレベーターから飛び出て、天井壁床至る所にある照明を自動小銃の的にしていく。



 「ほらな、簡単だ」



 作戦開始から僅か数分。プラントノイドは動きを止め、USDビル1Fは暗闇と共に人間側の制圧で勝利となった。



 

 「じゃあな、シンディ後を頼む」


 「ああ、気をつけてな……」


 「ホッペにチューとかないの?」


 「しょうがねぇな」


 「ちょっまっ! 拳を握らないで! じゃ行ってくる!」


 

 隠してあったジャイロキャノピーに乗り込み、USDビルを飛び出る錫乃介。その後に二台のバギーと一台のサイドカー付きバイク。エメリッヒ、ローランド、トムエイツ、ジャームッシュの4人だ。



 何でもとんでもねえ車両を持って来たは良いが、乗り手が足りねえなんてあのアホゴリラ。


 暗闇の新宿通りを新宿御苑に向けてひた走る。足元が根っこや瓦礫で障害物だらけで蛇行しながらも、伊勢丹前でようやく合流することができた。


 

 「よお、時間通りだな英雄さんよ」


 「ん?何だ?嫌味言われるようなことしたかアホゴリラ、ん?」


 「嫌味じゃねえよ。お前さんには諸々終わったら聞きたいことがあってな」


 「なんかその流れやだあ。だいたい上司とかに怒られるやつ」


 「怒らねえよ。それは良いからコレ見てくれ」


 「さっきから視界に入ってんだけどさ、意味わかんなくて、頭が理解してくれないんだよね。この二台はまぁわかる。でもこの一台は……」


 

 錫乃介の目の前に三台の特殊車両が並んでいた。

 一台目はでかい消防車の様に見える。


 “ローゼンバウアー社製、空港用化学消防車12,500L級。オーストリア製ですが、その性能の高さから自衛隊にも配備されたお墨付きです”


 成る程成る程まだ常識内、テレビでも見た事ある。


 “その隣はM132自走火炎放射器です。ベトナムのジャングルを焼き払い、ベトコンを焼死体にかえた猛者です”


 あー成る程ね。装甲車に火炎放射器付けたのね、わかるわかる。で、問題はその次のそれ、何?



 錫乃介が目を向けるその先には、巨大なジェットエンジンが二つ連装砲の様に並び、それを文字通り乗せるのは、無限軌道をつけた装甲車両というわけのわからない物体だった。



 なに?これ?飛ぶの?ジェットエンジンが二つも付いてるよ。



 “ビッグウィンド、ハンガリーの企業MB Drilling製人類史上最強の消防車です”


 消防車⁉︎ これが???


 “土台の車両はソ連製の戦車T-34。二基のジェットエンジンはソ連製の戦闘機MiG-21のエンジンです”


 またロシアかよ! おそロシア。


 “元々ロシアが一基のエンジンをトラックに乗せて使用していたのを元にハンガリーが開発した、油田火災用消防車です”



 「そんなわけで、こいつらでプラントノイド殲滅作戦開始といこうじゃねえか」


 

 このビッグウィンドを早く動かしたくて堪らない男が、不敵な笑みを見せていた。


 

 

 これ、ほんっとに俺のいた時代にあったの?


 “間違いなくありました。事実サダム・フセインがクウェート侵攻の際に起こした油田火災を鎮火した記録があります。

 重量は38トン。3人乗り。毎秒約800リットルの水を放出し、秒速300m以上の暴風で吹き飛ばして火災を消す事が出来ます”


 

 それ家、飛ぶでしょ。


 “もちろん建築物に使用することは出来ません。一歩間違えれば兵器です”


 間違えなくても兵器だろ、コレ……

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