触ってくる奴はぶん殴って良いよホント
新宿大江戸線都庁前ホームに帰還した山下一行であるが、サロットルは違和感を感じていた。
出迎えがないのもあるが、プラットフォームは整備場も兼ねているのに、整備士や工員の姿がおらず、照明もほぼ破壊され非常灯が仄暗く赤い光を放つだけであった。
妙ですねーー、列車には複数の正規兵が搭乗しているうち、運転士を務める者がサロットルに問い掛ける。
まだ外に出るなーー サロットルは運転士に返すと、一人列車の外に出た。
監視カメラも暗闇でこちらがよく見えていないのか、いや暗視も出来るカメラだ。そんなはずは無い。まさか到着が遅れたせいでやられたか……そんな最悪な事態も頭によぎる。
いや、いくら何でも幹部共と違ってそんな数日で堕とされる程脆弱な住民達ではない。だが、状況は芳しく無いようだな。
そこまで考えが至った所で、スピーカーに“ブツッ”というスイッチが入った音がする。その音に少しだけ安堵の息を吐く。
ーーー・ ・・ー・・ ・ー・・ ・ ・・ ・ー・・ ・・・ ーーーー ・ー
「サロちゃんおっかえりー!どうだった初めての、お、つ、か、い!ドキドキした?ワクワクした?外も中々捨てたもんじゃ無いでしょ、砂ばぁーーーっかで景色が変わり映えしないのと砂嵐と機獣が玉に瑕だけどさ。ところで筋肉ゴリラダルマザウルス馬鹿そこにいる?ちょっと報告があるんだけど、人間街が殆どプラントノイドに制圧されちゃいました!守れなくてごめんちゃーーーい! でもねでもね、人的被害は出してないから許してちょんまげ。だからさ、君達は折角戻って来てくれたとこ悪いんだけどさ、回れ右してこっから出て行った方が良いと思うんだ。あ、心配しないで、エヴァちゃんとシンディちゃんは俺がまとめて面倒みるから。もう既に俺の両腕に二人とも収まっているか、ふごっバッキュン!! いってて……ふ、二人とも俺が忘れられないっ、ノボォッ!! や、やめてシンディもう掌底はやめて、エヴァちゃんそれ実弾入ってるから! 危ないから! 下ろしてねお願い! ごめん、もう抱き寄せないから。もう触らないから。そ、そんなわけで俺達は俺達で宜しくやっとくから、あばよ」
ーーー・ ・・ー・・ ・ー・・ ・ ・・ ・ー・・ ・・・ ーーーー ・ー
「あの野郎……後で覚えてやがれ。筋肉ゴリラダルマザウルスだと、ちょっと格好いいじゃねえか」
いつの間にかサロットルの隣には山下が来ていた。
「なんのつもりなんだ錫乃介は……」
「サロットル行くぞ」
「ま、まさか言う通りにするのか⁉︎」
「そうだ、回れ右して外に出るんだ」
「お前まで何を言い出すんだ」
「いいから乗れ。話は後だ」
ニヤリと笑う表情を敢えてサロットルに見えるようにすると、何かを察したのか頷く。
「そうか、わかった」
その頃司令室ではエヴァとシンディに袋にされた錫乃介がゴミ屑の様に倒れていた。
カルデラ壁の外に出た山下は以前外よりカルデラ内に入った道の前までくると、そのまま斜面を登って行く。
サロットルの武装列車が少々難義したが、無限軌道を付けていたことが幸いし、どうにか山頂に到着することが出来た。
ここでどうやらキャンプをするらしく、山下はコブラから降り設営を始めていた。
「山下、そろそろ説明をしてくれ。そのまま逃げ帰る訳ではないだろうとは思っていたが……」
「ああ、あの馬鹿がダラダラ長くてくだらねえこと喋ってたろ? あれはその後ろで鳴ってた機械音を隠すためだ」
携帯コンロに火を付けてお湯を沸かし始める山下。
「確かにツーツートントンいってたが、あれか」
「モールス信号っていってな。300年も前のそれはそれは古い古い連絡手段よ。だが、俺達にとっては今も砂漠を旅する時は車両同士の連絡に必須の手法でな、ハンターで知らない奴はいねぇ。あの野郎和文のモールス信号だなんて、ローカルなモン使いやがって」
インスタントコーヒーをカップに入れお湯を注ぐ。サロットルの分もあるようだ。
「そんな、連絡手段があったとはな」
「無線が無くなった今、手旗や投光器を使って遠方の奴とやりとりするんだが、有線が生きてるこの新宿じゃ廃れちまったんだな。今夜はここで様子を見ろとさ。USDビルの最上階ラウンジからまた合図を寄越すとよ。ホレ」
「おぉ、すまない」
コーヒーを受け取ったサロットルは、一口飲むとようやく気分が落ち着いてくる、
「だが、あの馬鹿が言ってたプラントノイドに制圧された部分は本当だ。それから嫌な事にプラントノイドには情報が筒抜けだったそうだ」
「なんだと⁉︎」
「詳しくはわからねえが、さっきあの場で普通の放送ではなくモールス信号で連絡を寄越したのはそういう訳だ。人の言葉を理解できる植物でも流石にモールス信号はわかるめぇ」
「プラントノイドは我々の言葉を理解していた? それに漏洩していた?」
「そうだ。それと外からの侵入ならプラントノイドの反応は緩い。だから外から包囲を破って欲しいんだそうだ」
「では、明日からコイツらが暴れるわけか」
そう言ってサロットルは今まで牽引してきた三台の車両を見上げるのであった。
「全くとんでもねぇもん借りて来ちまったな」
山下もまた同じく三台の車両を見つめていた。
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