男達の悪巧み

 「んで、錫乃介ならいけるのか?」


 「そうですね。今融資のノルマで廃ビルの探査中になってますが、山下さんの報告で実質任務完了という事になります。しかもこの男、十年返済計画で融資を受けているのに、三ヶ月程で完済しています」


 「どういう事だ?金鉱でも掘り当てたか?」


 「ポルトランド支部長と中将の連名サインで100万cの完済完了になっています」


 「アイアコッカのやつか……」


 「『ポルトランドの奇跡』を起こした一人なのは本当なのでしょうね。おそらくその報酬により返済終了、といったところか」


 「なぁ、『ポルトランドの奇跡』ってザックリとしか聞いてないが何が起きたんだ?」


 「『機獣津波』は聞きましたか?」


 「ああ、地下廃墟施設に何万とか何十万とか機獣がいて、それが押し寄せて来たってやつだろ。その先が曖昧でどうやって食い止めたのか、回避したのか、それが何もわからねえ」


 「そう、誰にもわからないんです。何故ならポルトランド軍から回って来た公式の報告書にさえ

“なんやかんやで殲滅した”

としか記述がないんですから」


 「なんだそりゃ、ふざけんてんのかアイアコッカの野郎」


 「ところが、この件に関わったのはアイアコッカ中将だけじゃありません。最前線に立って指揮したのは誰だと思います?


 「もったいぶるんじゃねえよ、早く言え」


 「ハルフォード元帥です」


 「は?」


 「行方不明で失踪宣告、早い話が死んだとされたジューダス・プリースト・ハルフォード元帥なんです」


 「は?」


 「元帥がブリーフィング中突如現れ、機獣津波対策の指揮をとったとされています」


 「は?」


 「しかも最前線で元帥自ら実行部隊として」


 「は?」


 「山下、お前さっきから“は?”しか言ってないぞ」


 静かに聞いていたサロットルが、思わずツッコミを入れる。



 「理解が追いつかねえんだよ。ハルフォード元帥ってのは、俺がまだ駆け出しのペーペーだった頃に居た、軍隊やユニオンを創立したと言われる伝説の人だぞ。」


 「会ったことあるのか?」


 「ある。強い、人だった……」


 山下はそう言って中空を睨み、わずかばかりの元帥との過去を思い出す。


 「だがな、いくら強いってたって限度があるだろ。しかもそれなりに歳いってたはずだ」


 「報告書には元帥が工兵隊を急遽編成して率いた。

 錫乃介という男はその元帥と共に行動していた。

 そして機獣の住処を爆破して生き埋めにし、その後溢れた数万の機獣が津波となって街に押し寄せた。

 その後なんやかんやで殲滅した。とあります。

 おっと、これも山下さんにとって大事な情報でした。この機獣津波を率いたのは、アスファルトに戦争をふっかけた、ラスト・ディヴィジョン首領のジャムカという男だったそうです。ポルトランドの侵攻も失敗し自爆したそうです」


 「わりぃ、もういっぱいいっぱいでお手上げだ。この件ツッコミどこがキリねえ。後で錫乃介の奴を締め上げて聞き出すことにするわ。

 話を戻すぞ。錫乃介で金は借りられるのか?」


 「大丈夫です。借り入れってのは期間内の完済実績があると信用がグッと上がりますから、いい額になりますよ。しかもこの男信用もなかなかにある」


 「本人が居ないのに融資なんて受けられるのか?」


 もう、察してはいるが一応確認の意を込めて、サロットルが聞く。



 「そこはそれ、私と山下さんの関係がありますからムニャムニャしときましょう。それに緊急事態ですから。ただ、このタブレットに指紋認証だけはしておいて貰って下さい。寝てる間にでも」


 「任せておけ。なんせ緊急事態だからな。ぶん殴って気絶させとけばアイツも喜んで指紋ぐらいくれるさ。へっへっへっ」


 そう言って、山下は不敵に嫌らしく悪巧みをする山賊よりも邪悪な笑みを浮かべていた。

 向かいにいたチャックもまたその笑みに返す表情は、悪辣で陰険な奸計を巡らすどんな悪代官よりも鬼畜であった。



 「すまない、錫乃介……」


 隣にいたサロットルは錫乃介を不憫に思いながらも、このワル二人をただ眺めていることしか出来なかった。



 


 資金の算段がまとまって?から二日後に物資の調達が終えた。各種弾薬、塩、ガソリン、それから予定外ではあるが、巨大な車両3台を牽引して山下一行はセメントイテンを出発した。


 途中元幹部達を捨てた箇所を通ると、驚くべき事にその者達は殆ど移動もせず、ただ寝転んで衰弱していたのだろうか、砂漠の機獣、砂猫や野良機獣犬に襲われている場面に出くわした。

 百人近くの人数がいたのにも関わらず、ある者は絶望に打ちひしがられ座り込み、ある者は食いつかれているにも関わらず抵抗せず、ある者は既に声も出せずに這いずり回るだけだった。

 このまま見過ごしても良かったのだが、サロットルが武装列車の試射をまだしていなかったことを理由に、元幹部達を襲っていた機獣を難なく片付けた。

 サロットルは列車からその烏合の衆を俯瞰する。



 砂漠に捨て置かれ何をどうすればいいのかわからず、ただ砂漠で責任のなすり付け合いをして暴れた挙句、疲れ果て動く気力も無くなり今に至る……と言ったところか。


 「生きる気力があるのならばこの列車が残す轍について参れ。街にたどり着くことが出来たならば恩赦を与える」



 それだけ言い残しサロットルは列車を出発させる。僅かに後ろを振り返ると、烏合の衆は少しだけ動き始める様子が出ていたかもしれない。

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