錫乃介『恋のお悩み相談室』
「なぁ、何で俺バーテンダーやってんの?しかも料理まで作らされてるし」
「仕事やることねーからだろ。せめて酒と飯ぐらい作れよ」
「配給はどうなったんだよ」
「食い潰すだけの無能贅沢層がゴッソリ居なくなって、食料に余裕が出来たんだってよ。そもそも食料に関してはサロットルの施策のおかげで危機に瀕した事はここ最近無かったらしい」
「俺エヴァちゃんの面倒見なきゃいけないんだけど」
「邪魔してやんなよ。シェスクさんの事」
「うーん、俺の見立てでは二人とも意識はしてないね。サロットルに煽られた時のシェスクの受け流し方にも動揺や違和感無かったし」
「そんな事わかるのか?」
「伊達にバーテンダーやってなかったよ。そういうの敏感じゃなきゃ務まらない仕事だったからな」
「へ〜錫乃介がね〜そういう風にはみえなけど」
「アレ、シンディちゃんはどうなの? 山下さんとの事」
「な! 突然何だよ! 関係ないだろ!」
「まぁ世間話として聞けよ。俺の見立てではシンディちゃんは山下さんに肉親以上の愛情を持っているけど、山下さんはそうではない。たぶんシンディちゃんの気持ちはわかってるけど、山下さん自身は自分の妹や娘を見る気持ちなんだろうと思うぜ。アイツに娘がいるかどうかしらねえけど」
「山下は結婚すらしてねえよ。アタシと住んでるんだし」
「って事はやっぱり肉親家族になっちまってるんだなぁ」
「それは……それでも良いんだけどよ。なんかよ」
「早く独り立ちして欲しいんだよ。今回置いてかれたのも若干そういう面がある。今んとこおんぶに抱っこだろ?」
「そんな事は!無いこともないか……山下に拾われてからは、ずっと……」
「だから近いうちにソロになるなり、他の人間とパーティ組むなりするんだ。そうすりゃ、山下さんもシンディの違った面を、育った所を見る事になる。それでシンディちゃんの魅力アップは間違いない」
「なぁ、もしかしてお前アタシのこと遠回しに口説いてんのか?」
「お!わっかるー? ぶげぇっ!」
シンディお得意のワンインチパンチが錫乃介の顔面にめり込む。その姿はジャイアンがのび太の顔面を殴り付けた時によく似ていた。
「で、でも、そ、そんな、間違った事言ってない……」
「あぁ、そうかもな」
「な、なんで……殴られ……」
「ちょっと、恥ずかしかったんだ。口説かれたことなんてないから……」
か、かっわいい!!シンディちゃん!!
カウンターを挟みバーテンダーと女性客、二人の男女の会話が盛り上がっているシーン。そして、そこに参るのは鉄よりも強い意志を持つ女エヴァ。
「ね、貴方達、何してんの?この展望ラウンジに一般の住民に使ってもらって大忙しな時に、ずぅぅぅぅっとくっちゃべってたわね!さっさと動きなさい!」
「「はい!!すいません!!」」
「はい、錫乃介さんはドリンクと料理のオーダーが20ずつ!シンディさんはテーブルバッシング!ハリーハリーハリー!!」
「「はい!ただ今!!」」
エヴァの一喝により、大慌てでそれぞれ持ち場に戻る錫乃介とシンディであった。
「全く。貨幣を伴った商売を始めなきゃいけないし、早く住民に慣れさせなきゃいけないからって、大変ねこれは……」
二人の後ろ姿を見ながらエヴァは独り言ちた。
“錫乃介様本気であの子狙ってるんですか?”
まさか、人の恋路は邪魔しねえよ。少し火ぃ付けてやるだけさ。恋に悩む少女がいたら、背中を押してやるのがオッサンの役割なんだよ。
“それ、キモいって言われる奴です”
おだまり!
“黙りねぃ!から変えましたね”
おだまり!
あ〜あ、それにしても何であんなマンモスゴリラターミネーターにあんな美少女が。可愛いし照れ屋出し暴力少女だし。完全に昭和のヒロインじゃーーーん。羨ましいーーーーー!
錫乃介の心の声が展望ラウンジからこだましていたのは、ナビだけが知る出来事であった。
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