オッサンの喋ってる話は三分の一聞いとけば大体オッケー
「クソォォォォォォォォ!なんで十階で止まるんだよっ!」
「アミンさんメンテナンスが甘いんじゃないですか?」
「何年か前にしてたはずなんだがなぁ。まぁ、俺の担当じゃねえし知らねえよ」
「あのさ、止まった場所フロア前じゃないからドアからは出れないよ」
「シンディちゃん大丈夫。ジャパーンのエレベーターには必ず天井に救出口の設置が義務付けられているから。おいデカブツおふたりさん、天井のパネル外してみて」
「んだよ、ここまで来て!戦いが終わっちまうじゃねえか!」
「こいつ本当に戦闘狂だな。大丈夫か?」
「大丈夫大丈夫。見た目はゴリラだけど、心はワニで知能はサメ、腕力はクマだから」
「ただの猛獣じゃねえか。一つも大丈夫じゃねえよ」
「ぶっ!」
錫乃介とアミンのやりとりに思わず笑いを堪えるシンディを他所に、パネルを外して天井から脱出して、一つ上階の十一階の扉をこじ開け、急いで一階にたどり着く頃にはとっくに戦闘は終わっていた。
山下の仲間達が幹部連中の武装を解除し、一人も死者を出さず、両者共に軽傷者のみで済んでいた。
「くっそ!チクショウ!ご苦労さんよお前ら」
「なんか、すまねえな山下さん。でもまるで歯応えはありませんでしたぜ。それよりそこのバリケードが壊されちまいましてね、さっきのボンクラ共より手強い奴らが来ちまいます」
山下はコルトレーンの指を指す方向に目をやるとバリケードによって塞がれていたはずが破壊され新宿西口のバスターミナル付近が露出していた。そこには既にプラントノイドがワラワラ集まって来ていた。
「へっへっへっ……、少しは楽しめそうじゃないか」
「街娘に襲いかかろうとするならず者とか無法者って感じだな。その後すぐに、ペシってやられるんだけど」
舌舐めずりをしながらミニガンを起動させると甲高い音をたて六連装銃身の回転が始まり、山下の仲間達やアミンも戦闘体制に入る。
「アンタはいかないのか?」
「脳筋軍団だけで充分だろ?それよりバリケード直さなきゃ」
「まあ確かに」
「シンディちゃんは?」
「アタシは近接戦闘型だし」
「格闘タイプも暴れている様だけど?」
「アイツら暴れたいだけなんだよ」
「もう充分暴れたろ〜」
「さっき歯応えが無いって言ってた」
「全員戦闘狂か、救いようが無いな……」
そうこうしていると、別のエレベーターからサロットル、エヴァ、シェスクが降りてくる。
「お、来た来た。サロットル、そこでふん縛っている腰抜け幹部とさ、下の階にも正規兵が似たような感じでゴチャッといるから、バリケードの修復させろよ」
「私は今指導者を追われた身だからな。エヴァ頼むぞ」
「なんか釈然としないけど、了解」
「使えない幹部は置いといて、先ずは正規兵の所に行きましょう。侵入者達と和解した事と、現状を説明して戦線に復帰してもらいます」
シェスクの説明に頷きながら、二人は再度エレベーターに向かう。
「にしても、この決して少なくない人数を武装解除させたのか……しかも殺さずに、恐ろしいな貴様らは」
サロットルは一箇所にまとめられた凡そ100人近くの幹部達に歩み寄りながら見回して呟く。
「あのデカイのはもちろんだが、他の奴らも充分人外なんだよ。まともな俺を一緒にしないでくれ」
さてそれはどうだかな、と笑うサロットルは幹部達の前に立つ。
「さぁ、私を排除した同志達諸君、今の気分はどうかな?」
サロットルからは何の感情も探れないな。極めてドライだな。それに比べて幹部共は、憎しみ……いや違うな。怯え、恐怖、哀願、それらがごっちゃ混ぜになってる表情だな。
“クーデターしましたからね。このまま、全員殺処分されてもおかしくありませんよ”
もう、生かしておいても害悪しか残さない様な面してるしな。実際殺さずにしといたら、こんなトラブル起こすわけだし。さて、サロットルさんはどうするのかね〜。
“錫乃介様だったらどうします?”
ん〜外に放り出すかな。後はプラントノイドに任せる。あの人数処分する手間も惜しいよ。
“無駄に年食ってるから、労働力としても期待できませんからね”
た、頼むサ、サロットル!命だけは
私はアイツに騙されていたいんだ!
そうだ、エヴァに騙されていただけだ!
私は何もしていないぞ!
わ、私は巻き込まれただけだ!
おまえ、言い逃れか!
貴様こそ、隙あらばと狙ってただろ!
減刑を要求する!
「何なのコイツら?」
「シンディちゃん、あんまり見ない方が良いよ。こんなのばかりが大人だとは思って欲しくないね」
「大丈夫だよ、慣れてるから」
「なら良いけど」
「錫乃介で」
「何でだよ!」
あ〜、もう焼き払いてえなコイツら。シンディちゃんにディスられた腹いせに。
“錫乃介様の方が我慢できそうも無いですね”
「まったく醜いったらありゃしねえ。生き方に美学も何も感じねえんだよこいつら」
「錫乃介の言う事がまともに聞こえる」
「余計なお世話だよ」
烏合の衆の騒音をしばし無言で俯瞰していたサロットルだったが、地下からやってきた正規兵達が到着してバリケードを組み始めると踵を返し、やはり戻って来ていたエヴァとシェスクに何事か伝えていた。
そして錫乃介達に向かって来ると腹を括ったのか、意を決した表情で口を開く。
「錫乃介。君達に見せたいものがある。着いて来てくれ」
それだけ言うと、まだプラントノイドと戦闘中の状況を他所に、その場を後にするサロットルであった。
「おいおい、アイツ等はほっとくのか?」
錫乃介はアゴで烏合の衆を指す。
「まさか。それも含めて来てもらいたい」
「てめぇちょっと体育館の裏来いよぉ、的な展開はヤメテね」
「何だそれは?」
「いえ、なんでもありません。シンディちゃん頼りにしてるからね」
「頼りにならない大人だな」
「おっさん頼りにしちゃ駄目だよ。ロクな奴いないんだから」
「知ってる」
「俺の事見ないで」
錫乃介とシンディはサロットルに連れられて、新宿の地下奥深くへと潜って行くのであった。
もう、何処へ向かってるか俺わかっちゃったもんね。
“新宿の深部と言えば、ですからね”
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