新宿を制した者
「撃たないの?」
「おめぇサロットルじゃねえだろ」
カルデラ壁に沈む太陽が、最上階会員制ラウンジで対峙する六人の男女を赤く染め上げる。
ミニガンを背負い、右手には大型の回転式拳銃を握り、銃口を女に向ける山下。
何、あの馬鹿でっかいリボルヴァーは?
“ロシア製『RSh-12』。
12.7㎜弾を放てる最強拳銃の一つです”
12.7㎜弾⁉︎ライフルじゃん!
“はい、元々は特殊部隊用に開発されましたが、あまりの反動で取り扱いの悪さに正式採用が見送られた曰く付きです”
当たり前だろ、誰がそんな銃撃てるんだよ……山下さんくらいだわ。ほんっとおそロシアだな。
「サロットルは俺だ」
錫乃介とシンディが静観していると、黒人の大柄な男が遮りる様にエヴァと山下の間に出る。山下と並んでも見劣りしない体格だ。
「ちったぁやりそうだが、てめぇはちげぇな。指導者って面じゃねえ。」
「そう嘘よ、彼はサロットルの護衛だった男。私達はさっきクーデターを起こしてこの組織を乗っ取ったの」
「エヴァ!」
「アミン、無駄に命を捨てようとしないでくれる?」
ラウンジのカウンターに座ったままの女性は黒人の男を諌める。アミンと呼ばれた男は仕方無しにソファにどかりと座る。
睨み合いはしているものの敵意を感じられないので、山下は大型拳銃RSh-12を下に向ける。
それを目で追ったエヴァは山下に再び視線を戻す。
「貴方達の目的は何?テロリストさん達」
「そういや何だっけ?錫乃介よ」
エヴァの問いに一瞬たりとも思案する事なく、錫乃介に顔を向ける山下。
「なんで俺にふるの?アレだろ平たく言やぁ、ただの腹いせだろ。少年を兵士にして特攻させた事とか、幹部が女囲ってる事とかに対して義憤に駆られちゃいるが、一番の理由は先に手を出されたからだろ」
「あぁ、そういやそうだったな。まぁ、そう言うことだ。あんたらに対して特に目的も要求もねえよ。俺たちは元々このビルの調査に向かって行方不明になったハンターを探しに来たんだ。どうやら生き残りはいないようだがな。そんで、植物型機獣に襲われてこの地下街に逃げ込んだら、ガキ共に囲まれたってわけだ」
山下がそこまで説明すると、それまで静観していた細身の男シェスクは、手を叩いて乾いた笑いをする。
「は!こんな酷い喜劇があったものかね。幹部達は自分達の保身の為に、手を出す必要も無い、ただの迷い人に手を出して追いこまれるとは。『ヌーヴェル・ルージュ』もこれまでだな」
「全くね。何の為にクーデターなんか起こしたのかしら」
「サロットルを死なせねぇ為だろ。エヴァよ」
エヴァの愚痴りにアミンが間を置く事なく応える。
苦笑いをしながら、左手に持つ空になったグラスを見詰めるエヴァ。
「やっぱりわかる?あの人死のうとしてたから。ここまで新宿を建て直したのに、沢山の人を犠牲にして、それに耐えられなくなってたから。独裁者失格ね」
そこでグラスをカウンターに置き、錫乃介達に体を向け手を広げる。
「そう言う訳よテロリストさん達。先に手を出した事と正規兵を向けた事は謝罪する。それと足りないかもしれないけど私の命をあげる。だからそれで手打ちにしてくれる?」
「え⁉︎その身体好きにしていいドゥフォッ!」
エヴァの謝罪に錫乃介はすぐさま、主に下半身が反応したが、無言でシンディにワンインチ掌底を鳩尾に決められる。
「一つ言っとくが俺たちはテロリストじゃない。これ以上危害を加えてこないと誓えるなら、俺たちも手を出さん。だがあの少年兵と、女達を囲ってるって話はいただけねえな。折角ここまできたんだ、少しばかり改善を求めるぜ」
「それについては、こちらからも少しばかり説明が必要ね」
「どういう事だ?」
「そこから先は私が説明するよ」
エヴァと山下のやりとりに入る声が、フロア中心部のエレベーターより聞こえて来る。いつの間にか下階よりの訪問者がいたようだ。
「よく抜け出て来れたわね」
「どっかの馬鹿が仕掛けたスタングレネードのトラップにかかってびびって扉を破壊してくれたんだ。おまけに拘束していた鎖を壊せるくらいの拳銃を持っていてね。ご丁寧に気絶もしてくれてたよ」
エレベーターから一人の小男が降り立ってこちらに歩みを進めて来た。
「一つ聞きたい。その“どっかの馬鹿”はどっちにかかっているんだ?トラップをかけた方か、扉を破壊した方か?」
再び大型拳銃『RSh-12』を構え、小男に銃口を向ける山下。
「両方だよ」
ニヤリと笑う小男に、ニヤリと笑い返す山下は銃を下ろす。
「お前さんが本当のサロットルだな」
「いかにも」
傲岸不遜に笑みを浮かべる小男はとても死を望む男の顔ではなかった。
「アタシ出る幕ないんだけど」
「俺腹殴られただけだぜ。お前に」
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