ガトリング砲なんて連射されたら、実際はなす術もなくミンチになるそうです
あのさ、じょーだんって分かんないのかなぁ?
“わかってくれてるから、撃ち殺されずに済んだんじゃないですか”
ま、そうだな。
錫乃介が突っ込んだバリケードの向こうは元々飲食店街があったと思われる内装だった。暗目のライティングに様々なジャンルの居酒屋風な店が軒を連ねていた。“思い出横丁”をイメージして作られたのだろう。
“それよりほら、目の色変えて欲情した変態達がカラシニコフ抱えて集まって来ましたよ”
変態言ってやるなよ。男だったら女断ちしたままでいたら気が狂っちまうんだ、可哀想な奴ら……うぉっ!
手榴弾投げてきやがった!
庇護してやったのに!
ここ地下街ぃ!
馬鹿なの⁉︎
崩落するぞ!
“当たり前じゃないですか。今の錫乃介様はトレーニング直後のボディビルダーの群れに投げ込まれたプロテインバーなんですよ”
わかりづれぇよその例え!
手榴弾の爆発から逃れる為に、再びバリケードを越えて山下達の所に飛び込む。
凄まじい爆音と爆風にバリケードは吹き飛ぶが、山下は爆風を受けながらも平然とし、愛用のミニガンを構え、電脳で強化した声で先の爆音にも負けない耳をつん裂く音で叫び始める。
「おい、貴様ら。選択肢をくれてやる。
少年兵の時とはワケが違うぞ。
向かってくる奴は殺す。
確実に殺す。
一弾たりとも外さん。
手足を吹き飛ばし、臓物を汚く撒き散らし、最後の雄叫びを上げることなく惨めに死ぬか、その場で跪いて命乞いか、どちらか選べ」
口上を述べ終わるや否や、ミニガンM134連装機関銃は甲高い回転音を掻き鳴らしながら、その口から火を噴き始めた。
“発射速度秒間100発。人間が被弾すれば痛みを感じる前に死ぬことから通称ペインレスガン(無痛ガン)。普通は人が一人で扱う銃器じゃないんですけどね”
魔王かよこの人……あ、ラオウか、似た様なもんだな。
銃弾は壁を、柱を、床を、天井を抉りとり、飲食店街の様相を保っていた地下街を瓦礫の街に変えて行く。
もうもうと立ち込める粉塵の中を、ゆったりとした歩みで先に進みながら銃弾を撒き散らすその姿は、平穏な街に舞い降りた魔王そのものであった。
わずか十数秒の蹂躙だった。機関銃の甲高い音が鳴り止み、魔王の歩みが止まる頃には、錫乃介達の前に集結していた正規兵達はその勇姿を見せる事なく、床に跪き怯えていた。
「んだよ!どいつもこいつも張り合いがねえな、全員命乞いかよ。騙し討ちくらいしてこいや!」
「もう、やめてあげてぇ!」
思わず敵を庇護する、錫乃介。
“誰にも当てなかったんですね。あれだけ乱射して”
「山下にとっちゃ、あんな奴ら相手じゃサバイバルゲームにもなりゃしないんだよ」
背後にいたシンディが呆れた顔で呟く。
「普段どんなサバゲーしてんの⁉︎」
ほら行くぞ、と錫乃介の首根っこを摘んでエレベーター前を素通りし、階段前まで来る。脳筋軍団は正規兵の武装解除をしつつ車両で待機だ。
「エレベーター動くのに乗らないの?」
「ったりめぇだろ。罠かけ放題待ち伏せし放題じゃねぇか」
「階段で行くのか……」
「それにおめぇ、130年前のろくにメンテナンスもしてないエレベーターに乗る気か?」
「階段で行きます」
でもさぁ、よく映画とかだとさ、エレベーターのドアが開くや否や、銃弾の嵐がきて、二丁拳銃とかで応戦すんのに、主人公当たんないよね。
“映画ですからね”
でも必ずギャング映画とかで高層ビルが舞台だとさ、エレベーターシーンって使うよね。
“映画ですからね”
そいでエレベーターの中で拳銃ガチャガチャしたり、ちょっと休憩した、爆発したり、なんかこう、合間だよね。視聴者にも休憩させる感じ?
“映画ですからね”
実際さ、高層ビルに二丁拳銃とかで殴り込みかけるかっての。
“主に『男たちの挽歌』のこと言ってますか?”
まぁ、それだけじゃないけどね。
渋々階段を駆け上がりながら、しんどいので気を紛らわせる為にナビと雑談する。
ところでこのUSDビル何階まであんだろね、入口で案内図見ときゃよかった。
“48階です。13階までが商業施設で、14階~20階はオフィス。21~46階までが宿泊施設。47階は展望室。48階が会員制ラウンジ。屋上がヘリポートになっております”
成る程ね、お約束通りならラスボスは47階展望室か、48階ラウンジ。いや、ヘリポートの線もありそうだな。大穴で宿泊施設のスイートルームってのもあるかもな。
っつうかさ、ナビ詳しくね?いつの間に案内図見たの?
“商業施設ですからね、元から電脳内にフロアマップくらいありましたよ。崩壊前の情報ですが”
って事はさ、それハンターユニオンに提出すりゃ、なんの苦労もなく20,000c手に入れられたんじゃん!
“今更も今更ですが、結果的にはそういう事ですね。まさか、13号棟がこのビルとは予想もつきませんでしたが”
「クッッッッソーーーー!」
「なんでぃ突然⁉︎」
「どうした錫乃介?」
いきなり叫び出した錫乃介に、驚いて足を止める山下とシンディであった。
「なんでもねぇっす」
高層階の48階会員制ラウンジの窓ガラスは、通常のガラスより何倍も分厚く頑強なため一枚も割れる事がなかった。その為豪奢な内装は130年の間で劣化はしていたものの、年を経たことによりアンティーク感を醸し出し、味わいのある高級感を残していた。
ラウンジの奥にあるバーカウンター付近では、三人の男女が思い思いの酒を飲みながら何事か話し合っていた。
「貴方達は逃げないの?他の幹部達はとうにどこへやら逃げ散ったというのに」
女はカンパリをロックで飲みながら、ソファに腰掛ける男達に問い掛ける。
「私は同志だなんだと言う前に、戦いの場に女性を一人置いて行く趣味はないのですよ、エヴァグリーン・エレストナ」
先日、タクトーに二度続けて報告を邪魔された男は、チンザノロッソをロックで傾けながら答える。
「ずいぶん格好良いじゃない。貴方ってそんな表情が出来たのね。いつも無表情で淡々と報告してるだけの人間かと思ってた、イオン・シェスク。それで、貴方は?」
「俺はサロットルにお前を守ってやってくれって頼まれてんだよ、幸せもんが」
大柄な黒人のアミンはロゼワイン、ランブルスコをラッパ飲みしていた。
「貴方、ずいぶん普段とキャラ違うわね。それが素なの?」
「気にするのはそっちかよ。サロットルが気に掛けていた事はスルーかよ」
「そんなの今更よ」
「は!つまらん女だ」
「パミディ・アミン・ザバ」
「何だよ」
「ありがと」
エヴァの声に応える事なく、この場は沈黙が支配したまま、ゆっくりと、そして止まる事のない時が流れていた。
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