男たちの番かな?

 「同志サロットル!なぜ少年兵を引き上げた!」


 USDビル高層階の一室には『ヌーヴェル・ルージュ』の幹部達が集まっていた。そのうち、広角泡を飛ばしながらタクトーはサロットルを詰問していた。


 「同志シェスク、侵入者は今何をしている?」

 

 タクトーの言葉をまるで聞く様子もなく、横にいるシェスクに侵入者の様子を聞くサロットル。


 「サロットル!答えろ!」


 シェスクが口を開く前に怒り心頭になるタクトー。


 「同志サロットル。私は同志アミンに伝え

た筈だ。これ以上少年兵による抵抗は無意味。悪戯に侵入者に弾薬をくれてやる必要はないと」


 「ならば、爆薬を抱かせ特攻させればよいではないか!何のための洗脳教育だと思っている!」


 「同志タクトー。何のためと言ったな?特攻させるのは相手を倒すためではない、窮地の仲間を助けるため、そう教育を施している筈だ。現状犠牲者は出ていない。であれば特攻はただ無意味に犠牲者がでるだけだ」


 「今更綺麗事を!貴様自身どれだけ今まで汚い事に手を染めて来たのかわかっているのか?」


 「もちろんだ。だがそれは意味があってやってきた事だ。今少年兵を特攻させるのは何の意味も持たぬ。それどころか犠牲者が増えるだけだよ、同志タクトー」


 「同志サロットル!貴様この新宿を奴らに明け渡す気か!」


 「侵入者達にそれだけの度量があるなら、それもやぶさかでは無い。同志シェスク奴らは?」


 「裏切り者め!もはや貴様は同志ではない!」



 叫ぶタクトーは懐に忍ばせたトレホマシンピストルを、引き抜きサロットルに銃口を突き付けようとしたが、それよりも早く一発の弾丸がタクトーの眉間を撃ち抜いた。


 

 「タクトーの叛逆により、今この場で私が処刑した。処理を頼むぞ同志アミン」


 

 サロットルの手には、手のひらに収まり切るほどの小さな拳銃デリンジャーが握られ、硝煙を銃口から上げていた。



 「か、かしこまりました。同志サロットル」


 アミンは唖然とした表情のまま固まった血塗れのタクトーをズルズル引きずって退室する。


 「三度すまない、侵入者の様子は?同志シェスクよ」


 「は!侵入者達は現在サブナードにて、少年兵達や住民と交流中です」


 ようやく喋れたと思っていたシェスクの言葉に、サロットルは一言だけ“そうか”と返すと、シェスクに退室を促した。


 「同志エヴァ、女達の様子は?」


 「特に問題ございません。多少女同士特有の喧嘩や同性愛がある程度です」


 

 この場にいた唯一の女性エヴァの答えに、“そうか”と返すと、やはり退室を促した。

 エヴァは踵を返すと、扉を開けて出て行こうとしつつも立ち止まる。

 

 「同志サロットル、何をお考えで?」


 エヴァはわずかに顔をサロットルに向けて問い掛ける。


 「同志エヴァ、心配する事は何もない。今まで通りで良いんだ。我々は命を繋ぐ事だけを考えていれば」


 「ーーわかりました。サロットル」


 エヴァは茶色く美しく長い髪を人差し指で僅かにかき上げ、切長の瞳でサロットルを見つめたのか、睨んだのか、判別がつかぬまま退室して行った。

 



 一室に設けられた黒い皮張りで三人掛けのソファに、サロットルは深々と座る。手にはブランデーの『レミーマルタンVSOP』とロックグラスを持っている。サイドテーブルに置き、グラスに1/4程注ぐと、クイっと飲んだ。


 「ぐふっ!ゴホッゴホッゴホッ!」


 その酒精に耐えられず、思いっきり咳き込んだ後茶色の液体が入るグラスを睨む。


 初めて酒飲んだが、不味いもんなんだな……


 その後もゴホゴホと一人咳込む独裁者が、人生で初めての酒を楽しむ滑稽な姿があった。


 


 

 一方錫乃介達は、武装解除した少年兵やサブナードに住む人々と交流を図り、情報を収集していた。



 ほうほう、同志達の組織は『ノーヴェル・ルージュ』という名前か。


 実質的指導者は“サロットル”っていうのか。


 女性を見ないのは幹部達が囲ってハーレムにしているから?うらや……いや、けしからん!なんて奴らだ!


 女性達は集められ、どっか別の場所にいると。

 

 そんで、一定の年齢になると番となる女性を紹介され、家庭らしきものを持つ事が出来るが、生まれた子供とはすぐに引き離される?悪魔の所業かよ……


 少年時代は軍事訓練して街の治安部隊で、それから16〜7になると少年兵を卒業して強制労働?

 農奴になったり、穴掘ったり、兵器の開発したり、街の防衛にしたりか。選択権は無くて向こうの適正検査次第と。


 食料は完全配給ね〜好きなもの食えないなんて、俺にとっちゃ地獄だな。


 労働は完全に管理され、満員電車、残業や早出は無しか。そこだけは評価してやる。いや、俺のいた時代からしたら羨ましいわ!


 完っ全にディストピアだなこりゃ。

 『未来世紀ブラジル』みてぇだな。現実にそんな社会を構築した事自体すげぇけど。

 でもこれが共産主義の行き着くとこなのかね〜。


 “隔離され資源も制限された世界では、そう成らざるを得なかったとも考えられますけどね”


 そうか、確かにそうだな。この限定された世界では自由主義は混乱を生むだけか。原始共産制っていうのは、集団が社会生活を軋轢なく営むには、避けて通れない道なのかもな。

 

 “そして、いずれ階級社会が生まれてなんやかんやあると”


 今この新宿がその過渡期だと。そうナビ先生は分析されるわけですね?


 “隔離された社会における、文化人類学の貴重なサンプルですね”


 サンプル扱いすなっ。



 「さて山下さん、そちらも情報収集は終わったかな?」


 「ああ、『ヌーヴェル・ルージュ』の幹部連中は『USDビル』の高層階だとよ」


 「なんだよ、結局13号棟行く事になんのね」


 「お前さんの調査対象だったな。都合良いじゃないか、一石二鳥で」


 「全くだな。そいじゃちょいと飯食って休んだらカチコミに行きますか」


 「ああ、楽しみだぜ」


 「楽しむなよ」


 

 呆れた表情で山下を見る錫乃介も、なんとも言えない正義感の様な熱いものが込み上げていたのだった。

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