困ったらとりあえず爆破すれば良いんじゃないかな?


 「何も話すつもりはない!」

 「同志を売るつもりはない!」


 何を聞いてもこれの一点張りで、年長の男からは話にならない。

 他の少年達もよく訓練されているのか、口を割ろうとしない。と言っても拷問とかしてるわけではなく、単純に仲間は何人?とか、君たちの名前は?とか聞いてるだけだが。

 


 「山下さん、仲間にブレインハックできる奴いないの?」


 「残念ながら、この部隊にはいねぇな。尋問するのも面倒くせーしな。こんな少年兵どもじゃ、聞ける話もたかがしれてるだろうけどよ」


 「縛ってその辺転がしておきましょ」



 と、年長の男の方を見ると、腕をモゾモゾと動かしている。ワイヤーを解こうというのだろうか?いや、先程かキョロキョロと周りを見る姿は何かを探している様でもある。



 「お探し物はこれか?」


 ずいっと、男の前に立った山下が右手に持っている物は500mlくらいの瓶の様に見える。


 「な!貴様ぁ!」


 「俺らを巻き込んで爆殺しようってか?おい!シンディ!」


 「はいよ!他のガキどもからも回収済みだよ」


 そう言うシンディは両手に8本の爆弾を抱えている。


 「ご苦労さんと。おい、おめぇらこんなんで何かあったら相手を巻き込んで自害しろって訓練受けてんだろ?くっだらねぇからさっさとそんな組織抜けろ。ただの人間爆弾扱いされてるだけだぞ」


 「俺たちは死んでも蘇れるんだよ!神の薬でな!」


 

 山下の煽りの言葉で、男はいきり立って結構重要なワードを叫んでいる。


 神の薬で蘇るって、怪しい新興宗教きたよコレ。


 “たぶん洗脳されているんですよ”


 そうか、年端もいかないうちに変な思想で染めて、使い捨ての人間爆弾か。あんな少年達をね。ちょいとおじさん正義感が昂っちゃうよ。


 “錫乃介様のいた時代でも行われてましたよ”


 ああ、そうだな。そういうニュースって見てもさ、どんなに酷い事でも所詮は他人事だったけど、こうして身の前にその被害者がいるとな。

 この少年達見てると、ポルトランドのガキどもを思い出す、ってのもあるんだろうな。

 

 

 「蘇るだ?そんな事あるわけねーだろ。誰にだか知らんが騙されているだけだぞ」


 「俺はこの目で見たんだ。銃で撃たれた奴が、薬を投与されただけで笑い始めて何もなかったかの様に起きて踊り始めたのをな!」


 

 あー、それって鎮痛効果の高いモルヒネと陶酔感最強のヘロインっすか?


 “間違いないですね。特にヘロインは強力ですから。その分副作用も半端ないですけど”


 全身がバラバラになる痛みって言うな。



 「馬鹿野郎が。それは麻薬ってな、いっときは効くかもしれねぇけど、その後死ぬより苦しい副作用がある薬だ。神の薬なんかじゃねえぞ。悪魔の薬、魔薬だ。覚えとけクソガキが」


 「そんな言葉が信じられるか!」


 

 少年の反抗に対し、山下は正面にどかりと胡座をかいて座り込むと、落ち着いた声で語り始める。



 「まあ聞け。俺はな、色んな戦場でお前らみたいな少年兵を見てきたよ。どこの戦場でもそいつらは先頭に立たされていたっけな。何でかわかるか?

 地雷原を潰す、敵に無駄玉を撃たせる、盾にする、囮にする、そのためだよ。死んで当たり前、怪我で済んでも治しやしねえ。なんせ使い捨てだからな。

 何もわからねえ馬鹿ガキなら簡単に突っ込むんだよ。女抱かせてやるとか、金を出すとか、良い暮らしをさせてやるとか言っとけばいいだけだ。どうせ戻って来れやしねえ、戻って来ても生き延びれやしねえんだから。

 大方お前さんも、神の薬で蘇った後、然るべき地位を与えてやるとか、この地下世界から出してやるとか甘い事言われたクチだろ?」


 

 「そ、んな……こと……」


 

 その呟きを最後に男は項垂れ、押し黙ってしまった。その様子を見ていた他の少年達も、俯いたまま動かなくなってしまった。



 「おい、錫乃介よ」


 「なんじゃらほい?


 「もう、この様子じゃ地下街探索して行方不明者探したり、13号棟の調査なんてしなくても、リクエストは完了扱いになるだろうよ。だからこのまま帰るか?何もコイツらの面倒なんか見る必要ねえんだしよ。この地下は見なかった事にしとこうぜ。めんどくせーったらありゃしねえ」



 山下はどこか、挑戦的な笑みで錫乃介に語り掛けた。


 

 「そうだね〜それが一番無難で命の危険もなくて、波風立てずに生き残るにはそっちの方が良いかもね。

 でもさ、山下さんわかってて言ってるでしょ。俺がもうこのまま帰る気ないって」


 「ヌハハハ!そう来ると思ったぜ。それにさっきカメラに向かって啖呵きっちまったしな」


 「そうそう、このまま帰ったらさ、な〜んか美しくないんだよね。でも、他の仲間の意見はいいのかい?」


 「見てみろよ、皆まで申すなって面してるぜ」


 

 山下が顎でしゃくるそこには、シンディを筆頭に不敵な笑みを浮かべる、小汚い女一人と男達が立っていた。

 


 「何を……する気だ?」


 「何って、誰だか知らないけどお山の大将きどってる馬鹿どもドついて、このおままごとを終わらせるんだよ。新宿の帝王が誰だかわからせてやる」



 “少なくとも新宿のアダルトショップ巡りしては、何も買えずにいた錫乃介様では無いですね”


 「どうして知ってんだよ!」


 

 思わず叫んでしまった錫乃介の声が、地下の下小田急線ホームにこだました。



 「なにいきなり叫んでんだお前?」


 「うるせぇ!何でもねーよ!」


 「なんでキレたんだコイツ?」


 シンディから当然のツッコミが入って、答えられない錫乃介がそこに居た。



 「しかし、探索するにしてもこっからは白兵戦だな。ホームに車両上がれねえしな。置いて行くのは気が引けるが……」


 

 新宿小田急線のホームにいる山下は、線路上に立ち往生している車両を見回し呟く。


 

 「大丈夫だって、乗り込んで行けばいいんだよ車両の道作るから」


 「作る?」


 「さっきの自爆用の爆薬ちょーだい」



 山下とシンディが奪った爆薬を受け取り、線路止めのとこに放り投げ、手榴弾も一個ポンと追加する。



 「ちょっ、おま!」


 焦るシンディ。仁王立ちする山下の後ろに避難する。


 「はい、皆んな伏せて〜」


  

 起爆した手榴弾に誘爆する爆薬。轟音と共に吹き飛ぶ線路止めと崩れるホームは見事に傾斜を作り、車両が上がれる瓦礫のタラップができていた。


 

 「錫乃介、お前ホントにワイルドになったな……」


 仁王立ちの山下は少し呆れ顔だ。


 「そうか?そんじゃ行こうぜ」


 「ま、待ってくれ!」


 車両に乗り込もうとすると、年長の男が声をあげる。


 「俺達も連れて行ってくれ」

 

 「ん?案内する気になったか?」

 


 実は錫乃介は少し計算して、ワザと無茶な爆発をする様に演じていた。こういった洗脳にかかっている人間には少々手荒なショック療法が有効だからだ。盛大な爆発を見せることで衝撃を与え、コイツなら何とかしてくれるかも、という希望を持たせたのだ。



 「あぁ、俺達はこの地下街から出たいと思っていたんだ。この世界は……辛すぎる。俺はいい、せめてコイツらだけでも外で自由にさせてやりたい……頼む!」


 

 正座をして両膝の上に両手を乗せるスタイルで、頭を深々と下げる年長の男。

 

 へぇ、ただ洗脳されていただけじゃないんだな。後輩の事を考えてんじゃん。


 そんな事を思い、どうしたものか思案していると山下が前に出る。



 「お前、名前は?」


 「俺はイセタン。この年少部隊の隊長だ」


 イセタンだって!そのうちミツコシとかルミネとか出てくるぜ!笑うわ。


 「イセタンか、覚悟はいいな?生き返ることはないぞ」


 「元々覚悟はできてる」


 「そうか、ならこの銃は返す。弾は入れておいた」


 山下はいつの間にかリロードした拳銃、トレホマシンピストルを手渡す。


 「いいのか?」


 「裏切ったら次は迷わず殺す。だが俺がお前らを裏切った時は、構わん撃ち殺せ」



 かーーっ!

 格好良い事言うねこの人は!でも、あの銃じゃ山下さん殺せないじゃーん!



 「コイツをな」


 と言って山下が指差すのは錫乃介であった。


 「ちょっ!おれぇ⁉︎」


 「仕方ねーだろ。俺は撃たれたくらいじゃ死なねーし、今のところお前か俺だろ?この部隊のリーダーは」


 「え!そうなん⁉︎」


 と言って周りを見回すと、他のハンター達はシンディ含め頷いている。異論が無いようだ。



 “なんか前にも似たような……”


 ジョドーさんとジャムカの時な。あん時も突然こっちに振られたよな。



 「コイツはこの部隊の副長だ。生身だから撃てば簡単に死ぬ」


 「わかった」


 イセタンは凛々しい顔立ちになり、決意の籠った目で俺たちを見つめる。


 「わかった、じゃねーよ。なんか話進んでるけど俺承諾してないんですけど!」


 「今更ピーチクパーチクさえずるな。決まりだ決まり。行くぞ」


 

 「えええぇーーー!!」



 

 再びカビ臭い地下世界の入り口で錫乃介の声が、いつも以上にこだましていた。

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