天気の子の舞台って代々木だけど、あのボロビルまだあんのかな?


 高架下でモンスターは炎を上げながら燃え盛る。もうもうと黒煙が噴煙の様に立ち上り、辺りをを黒く染める。


 ハンター達は勝利の雄叫びを挙げている。

 

 

 やったろ、これは。

 

 “動きはありませんね。仕留めたようです”


 

 「おい、やったじゃねーかあんな化け物を!今更かも知れんが、ここまで俺や仲間達を助けてくれたこと感謝するぜ!」


 

 化け物の生死を判別していると、コブラを降りたラオウ山下が声を掛けてきた。


 

 「なぁ、あんた錫乃介なのか?さっきシンディの奴が言ってたが……」


 そっか、マスクしてるから顔がわかんねーんだ。


 「久しぶり……って程でも無いですけど、アスファルト以来ですね、その節はお世話になりました山下さん」



 マスクを取るわけにはいかないので、そのまま頭を下げて挨拶をする。



 「おぉ!やっぱりオールドルーキー錫乃介だったか!もうとっくにルーキーなんて呼べなくなってるがな!」



 山下はマスクの下の顔に満面の笑顔を浮かべ、錫乃介の両肩をバシバシ叩く。心地良い痛さだ。



 「おめぇ、アスファルトの戦争の時なんでって……いやこの話は後だな。

 これからどうする?道路は落ちて先には進めねぇ。ジャングル側(明治神宮)に行くか?戻るか、どちらにしても、植物機獣共がわんさか待ち構えているだろう。乱射しながら進むにしても弾薬がもたねぇ」



 「この首都高からは幾通りも出方があります。ですが、どちらに行っても機獣が出るでしょうから、横穴を開けて出ましょう」


 「横穴か、飛び降りなくて済む場所があるんだな?」


 「ええ、このまま少し戻ると代々木PAエリアというモーテルの様な施設があるのて、そこから首都高を出ましょう」


 「そういやお前さんは過去から来たんだっけな。だからこの街にも詳しいってわけか。あと俺に敬語はいらねーぜ。なんてったって恩人様なんだからな!」


 「それはお互い様ですけどね〜」


 「ガハハハ!俺は何もしてねーぜ。それじゃ先導してくれ。しんがりは任せておけ」


 「頼んます」


 


 線路高架上から500メートル程戻ると代々木PAだ。簡易的なレストランと2Fにドトールコーヒーが入るPAとしては小さな規模だ。


 その姿はやはり緑に侵食され、ガラス張りの壁面は見る影もない。まだ数台の車が残っていた様だが、錆と苔むした姿によって風化した歴史を感じる姿を醸し出していた。


 錫乃介は到着すると、車の止まっていない壁に手榴弾を投げつけ吹き飛ばす。

 爆音と共に立ち昇る煙が晴れると首都高4号線沿いに走る道路が見える。

 しかし、その道路までは2メートル程落差があった。



 「錫乃介アンタ迷いなく爆破したね……こっから降りるのかい?ちょっと高くないかい?」



 いつの間にかシンディが隣で爆破するところを見ていた。後ろに山下もいる。

 

 

 「まぁ焦るな。山下さん、アンタのコブラなら装甲車だからその辺に止まっている車ぐらいなら、どついて落とせるだろ?それを足場にしよう」


 「できっけど、ちょいと見ないうちに、おめぇなかなかワイルドになったな……命懸けでエシャロット採りしてたとは思えねぇよ」


 「命懸けなのはタコ野郎が出たせいだし」



 若干二人が引き気味なのが腑に落ちない。


 錫乃介の言う通りに、放置されたセダンにコブラで体当たりして下に落として足場をつくる。一台では足りなかったので、もう一台落とそうとしたところで、明治神宮から機獣の軍団が迫ってくるという伝令が来る。



 「思ったより早いな。早く抜けよう。境目にフェンスはあるけど、つっかえ棒にもなりゃしないだろうからな」

 

 「錫乃介、先導出来るのはお前しかいねぇ、頼んだぞ」


 「しかしこのまま新宿御苑側も通るのは難しそうだなぁ」


 「確かにな。さっきの巨大なバケモンは明らかに待ち伏せの様だったな」


 “待ち伏せされていたことを考えると、機獣達はなんらかの手段で情報の共有をしている可能性があります。

 一旦どこかで拠点に出来るような所で体制を整え、改めて新宿を脱出するルートを斥候して探すのが最適かと”


 だな。このままじゃジリ貧だ。


 “錫乃介様、地下はどうでしょうか?今のところ建物から機獣は出て来ますが、地下からはいません。おそらく日照と関係してるのでは?なんせ植物ですから”


 地下か。賭けになるかもしれねーけど、行くか。


 “ただ地下に行くには車両を捨てないと……”


 いや、車両ごと地下に行けるとこもあるぞ新宿は。決まりだ。



 「山下さん。ここを出たら、新宿地下に行く。そこなら植物型機獣は来ない可能性が高い。そこで体制を整えてから改めて新宿脱出って方向で良いかな?」


 「なんだか、よくわらねぇけど、体制を整えることにするのは賛成だ。

 俺たちの命任せたぜ。だいたいこの街の細部が頭に入ってるのお前だけだしな!」


 「それじゃ行きますよ」



 アクセルをグリッと回して足場にしたセダンに飛び乗り、矮性の草木で生い茂った道路に出る。その後次々にテクニカルトラックやバギーが降りてくる。最後はもちろん山下とシンディのコブラが豪快に降り立つ。

 それを確認すると、錫乃介はJR代々木駅西口に出る。

 


 なっつかしいねぇ。実際は過去から飛ばされてまだ一年も経ってないんだけどさ。代々木と言えば『天気の子』だね。いや〜泣いた泣いた。オッサンには刺さる映画だったよ。あれからもう十年以上も経った気がするなぁ。


 “十年どころか百三十年以上経ってますよ。なんでそんなに呑気なんですか。ほら苔人間が出て来ましたよ”


 俺からしたらまだ二年くらいなんだけどな。



 両サイドにそびえ立つビル郡からワラワラと苔人間が出てくる。武装は特にしてないようだ。



 アイツらなんで襲ってくるんだろうね〜俺何にも悪いことしてないんだけど。

 ごめん。ホントに何にもってわけじゃないけど。


 “もしかしたら、自分たちと同じ不死身の素晴らしい存在にしてくれようとしてるのかもしれませんよ”


 屍人かよ。『SIREN』かよ。

 でも、実際聞いてみなきゃわからないよな。



 軽口は叩いているが、ちゃんとブローニングの斉射をし、苔人間を一掃しながらである。



 “それは冗談として、襲ってきてる事について、私なりの考察がありますので後ほど披露しましょう”


 例えそれが元人間で戻す方法があったとしてもやること変わんねーぞ。


 “それで良いのです。やつらは敵ですから”


 後続のハンター達も鬱陶しそうに機関銃であしらっているが数が多い。ビルの中から次から次へと出てくる。


 苔人間を薙ぎ倒しながら、そのまま代々木駅沿いの新宿方面に延びる都道414号線四谷角筈通りを上り、小田急線の踏切前まで来た。

 


 ここだよここ。



 “ここは小田急線ですか。成る程ここからなら新宿地下に車両そのまま行けますね”


 京王線も新宿地下にいけるが、線路に乗り込むには幡ヶ谷まで行かなきゃならねーからな。



 踏切を右折し線路内に侵入。雑草で荒れ放題の中を構わず進むと、直ぐに新宿駅構内に侵入できる。構内は当然ながら明かりは無く暗闇だ。そのまま地上階の特急用ホームではなく、地下の普通列車用ホームにたどり着いた。

 幸いにもというか予想通りというか、苔人間は途中から追ってこなくなっていた。


 


 “どうやら皆さん無事ですね”


 ああ、上手くいって良かったが、魔境新宿はここからが本番だぜ。


 “世界最大の地下迷宮ですからね。鬼が出るか蛇が出るか……”


 鬼とか蛇なら可愛げあるぜ。一番嫌なのは……な?



 “そうですね。人間住んでるっぽいですもんね、この地下”

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