首都高バトル

 ハンター達は防毒マスクは持参していたので、あらかじめ装着させておく。

 まさか屋外の見廻りで使用する事になると思っていなかっただけのようだ。

 

 乾燥謎肉と持参している米でピラフを作り、インスタント味噌汁で食事を済ませ、見張りをナビに任せて仮眠をとっておく。その他ハンターも同じ様に武装車両にあるアイカメラと電脳化を有線でリンクを張って、仮眠をとりながら警戒に当たっている。

 山下はシンディが担いで、自分たちが乗って来た軍用装甲車『コブラ』に寝かせ、いつでも出発する準備を整えていた。


 

 なかなか、パワーあるじゃないか。ずっとハンターやってたってのは、あながち嘘じゃなさそうだな。それ以外は厨二病だろうが。


 “悪ぶりたいお年頃なんですよ”


 可愛いもんだねぇ。






 

 空が白み始め、そろそろ日の出かという時刻であった。


 

 “来ましたよ”


 ナビの言葉に跳ね起きて、ジャイロキャノピーのエンジンをかける。他のハンター達も数秒で準備万端だ。

 

 まだ暗がりのジャングルの中から、数十数百の巨大ケシの花と、銃器で武装した苔人間が進軍して来た。

 他にも、小規模の爆発をするバナナを投げつけてくる木や、葉が鋭い刃になっており自ら回転して体当たりしてくる竜舌蘭、体内からマシンガンの様に種子を飛ばすサボテン、擲弾の様な椰子の実をぶっ放してくる椰子の木など、植物系機獣が勢揃いだった。


 

 「おうおう、皆さん大勢でお出迎えありがとうございます。でも、もう僕達行かなきゃならないんで、すいませんね〜」



 と言いながら、リヴォルバーカノンを斉射する。他のハンター達も重機関銃系で応戦している。



 「昨日はよくもやりやがったなぁ!クソッたれぇ!!!!」



 山下はどうやら復活して、怒りの叫びをあげながらミニガンを担いで乱射している。シンディは運転手か。


 植物系機獣や苔人間は、重機関銃をメインとした斉射にその身を吹き飛ばしていくが、その数は一向に減る様子はない。それどころか、奥からワラワラと湧き出てくる。



 ま、そうだろうね。



 そのまま弾幕を張り応戦しながら、臨時拠点にしていた『SHUKUNOVA』を飛び出し、すぐ裏手にある公園通りにでる。



 植物系機獣達はあっという間に距離を離され、その場に蠢きながら佇んでいた。


 

 先頭は錫乃介だ。7台の武装車両に搭乗する総勢13名を引き連れて公園通りから真っ直ぐ南に向かい新宿インターチェンジから首都高に入る。

 しんがりは山下が務めているようだ。


 

 脱出ルートは首都高速4号新宿線に入った後、千駄ヶ谷料金所から降りて、外苑西通りを北に進み、元来た甲州街道四谷付近に出る予定だ。

 

 この首都高が崩れずまだ生きていたのは、新宿に降り立つ前に視野に首都高が入っていた事が功を奏し、ナビの記録に残っていたので事前確認ができた。

 

 代々木を通り、右手にはジャングル化した明治神宮、左手に新宿御苑を通り、そして千駄ヶ谷料金所で首都高速を降りようとした手前の所で、一行はブレーキを余儀なくされた。



 なぁナビ?


 “なんでしょうか?”


 俺にはビオランテが料金所を登ってくる様に見えるんだが?


 “一度視力検査された方が良いかもしれません。どう見てもヘドラですよ”


 植物系の集合体なんだからビオランテだろ。


 “全身を覆ってるのはヘドロですよ。たぶん新宿の下水の。なのでヘドラです。

 昨日「例えヘドロにまみれても」なんてフラグたてるからですよ”


 こんなの想定できるか。



 苔人間やケシの花、椰子の木、サボテン、その他諸々が合体し、更にさらに身体を覆うのは異臭を放っているであろうヘドロ。

 体長は30メートルくらいはあるかという巨大な緑とヘドロのモンスターが料金所の前を陣取っている。


 

 どうするかね?あのビオヘドラ。とりあえずリヴォルバーカノンぶっ放す?


 “ヘドランテがどういう行動をしてくるか読めませんから、迂闊に手を出すのも恐いですね”


 ヘドランテだとビオ成分が少ないから、ビオヘドラの方がバランスいいだろ。


 “ビオ成分って、別にオーガニック食品じゃないんですから気にする必要ないでしょう。殆どヘドロなんですから、ヘドランテ方が語感的にも格好良いですよ”


 いや、植物機獣って言う特徴を残すためにもビオヘドラが良いって。


 “名前がちょっとセンス無いですよ。だいたいビオランテはゴジラ細胞がなきゃ駄目じゃないですか”


 お、なんだディスって来たなこの野郎。そんな事言ったら、ヘドラだって田子ノ浦に落ちた、ヘドリュームがなきゃヘドラじゃ無いだろ。


 

 錫乃介とナビがどうでもいい事で争っていると、モンスターは腕に生えている椰子の木から実を引きちぎり投げつけてくる。

 背後に控えるハンター達の援護射撃により狙撃された椰子の実は爆発し、その破片を辺りにばら撒く。ハンター達はそのまま一斉射撃を開始した。



 うぉっと、始まっちまった。争ってる場合じゃ無いな。とりあえず俺も……


 “お待ち下さい。ガトリング砲はおろか40ミリ機関砲を喰らってるのにびくともしません”


 マジかよ。


 

 重機関銃どころか航空機さえも撃墜できる40ミリ機関砲を何発も食らっているのに、モンスターには効き目どころか、その身体に全て埋め込まれて吸収されている。


 

 そうこうしていると、モンスターの足元から、ギャリギャリと音が聞こえ、こちらに向かって進み始めてくる。更にヘドロの中からは今まで打ち込んだ弾をお返しのように撃ち返してきた。



 「なんつーことしやがんだあいつは!しかも足がキャタピラだと〜。来やがる、一旦引くぞ!」


 

 声を強化してハンター達に全員に聞こえる用に叫ぶ。

 

 

 ハンター一行は、Uターンして今まで来た道を引き返す。

 モンスターはスピードを徐々に上げながら椰子の実擲弾や種子バルカンを撒き散らしてくる。



 防弾とはいえ、風防にガシガシと次々にヒビが入る。



 ぬぉぉぉ!あぶねーー!


 “リヴォルバーカノンで弾幕張って防いでいますが、このままだと不味いですよ”



 

 

 と、モンスターがそこまで迫って来たところで足元が爆発する。

 しんがりにいた山下が錫乃介の位置まで下り、ボフォース40ミリ機関砲で無限軌道を撃ち足止めしてくれたのだ。

 それを機になんとか危機を脱する。そのまま並走し、この場を退避した。


 

 


 「どこまで行く?」


 信号灯で合図がくる。


 「対戦車ロケットはあるか?」


 こちらも信号灯で返す。


 「あるぜ!」


 よし来た。


 「高架下に線路がある場所まで退く」


 「ラジャー」


 


 モンスターは道路を削りながら速度を上げて迫るが、こちらの方が速いのが幸いし、距離を離すことができた。

 山手線が真下に見える位置を過ぎた所で停止し、モンスターを迎え撃つ。



 山下は装甲車コブラの上で、『89mmロケット発射筒M20改4型』を構える。

 シンディや他のハンターも60ミリバズーカ砲などを携え最大火力をもって待ち構えている。


 随分とまあ対戦車ロケットありますなぁ。行方不明者の捜索じゃなかったんかい。


 “備え有ればですよ。実際役に立つじゃないですか”


 これからな。



 ギャリギャリと無限軌道の音がだんだん大きくなり、中央分離帯も側面のかべもお構いなしに薙ぎ倒しながら進み、山手線の真上に差し掛かるところまで来た。そのところを狙う。


 

 「狙いは足元!ぶっ放せ!」

 


 錫乃介の強化された掛け声に、ハンター達は化け物の足元にある無限軌道と道路に集中砲火を浴びせた。



 奈落に落ちろビオヘドラ


 “ヘドランテです”



 豪音が轟き化け物の足元が一斉に爆発を起こすと足元の首都高は崩れ、ビオヘドランテは山手線へと落下し大地に叩きつけられた。


 

 「間を開けるな!手榴弾でもなんでもいいから爆薬とガソリンの雨を降らせろ!」



 ハンター達はあらかじめ用意していた爆薬や手榴弾、予備のガソリンタンクを最低限残して放り込むと、上空のここまで届くかという爆風と爆炎が上がった。


 ヘドロが燃える灰色と真っ黒な煙、凄まじい異臭が辺りに立ち込めているのであろう。マスクをしていても錫乃介達は顔を顰めさせた。


 

 “この煙、マスクしてなきゃ即死レベルの猛毒ですよ。あまり近づかない様に”


 おっと、怖い怖い。でも、やったか?


 “またフラグを……”

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