ゲームとかで名前付けるのにえっらい時間かかるの私だけでしょうか?
昼過ぎにポルトランドを出発した錫乃介は、補給所を兼ねた小さい街である、アルミネートに向けてジャイロキャノピーを走らせた。
エアコン快適!最高!もう、住めるねここ!
“さっさとバイクに名前を付けてあげましょう”
そーだな、名前どーすっかな〜。何でもイイけどな〜
“カッコいい厨二病みたいな名前にしますか。豪速紫電号とか、爆雷滅殺丸とか”
それ厨二病っつうか、暴走族みたいだな。
厨二病っぽいなら、トワイライトドラグーンとか、アルバトロスモーターとかカオスギャラクシーとかだよ。
“成る程。では、軍艦系で金剛とか、信濃とか”
船系でせめるのもありだな。
“地名なら埼玉とか群馬とか”
本当にそこの出身の人には申し訳ないけど、なんか格落ち感あるな。陸奥!とか伊勢!とか常陸!とか昔の地名だと格好良いけどさ。
“疾風とか春嵐とか”
風系の名前も良いな。メッチャ速くなったし。そういや風の名前って日本はいっぱいあるよな。
“およそ150種と言われています”
そんなにあんの⁉︎
“日本では、地方毎に季節毎の風の名前がありますから。
鳰の浦風(におのうらかぜ)なんて琵琶湖の上を吹く風の名称だったりします”
はぇ〜そんなの、琵琶湖周辺でしか使う機会ないじゃん。他にあんの?そういうの。
“いっぱいありますよ。『しゆたらべ』なんて鹿児島県の喜界島で、梅雨の前に吹く湿気を含んだ南風の事だけを指す名前もあります”
一生でその言葉使う人何人いるのかね?喜界島以外でさ。日本の特徴なのそれって?
“そうでもありません。中央アジア周辺では春から夏にかけて吹く強い北東風の事を、『カラブラン』と呼び、東や南東の乾熱風の事を『スホベイ』、冬に吹く北東の強風『ブラン』、過熱した平原に絶え間なく120日間吹く風を『アフガネッツ』、などなどですよ”
風に名前を付けるって、人類に共通した概念なんだな。風の吹く方向とか季節とかに分けて、わざわざ名前付けるってさ。
“文化人類学的に面白いですね”
この世界に吹く風は、また新しい名前が付けられていくんだな。
道すがらジャイロキャノピーの名前について、ナビとあーでもない、こーでもないと、グダグダ話しながら走らせた。
チューンのおかげで速度は劇的に上昇したが、砂漠の上ではそもそもそこまでスピードは出せない。たまに舗装された道路があると、100キロくらい出して遊んだりした。
ポラリスが機獣達を総浚いしたせいか、機獣は全く出現しないまま、アルミネートには数時間であっさり辿り着き、モーテルで一泊した後、早朝出発。昼前にはエーライトに着いた。
残金5,250
やぁ〜1人だからだいぶ速く着いたぞ。このまま廃ビルまで行くか?
“補給がてら少し情報収集して行きましょう。ユニオンには伝わってない情報もあるでしょうから”
なるへそ。
錫乃介は腹ごなしの為、『ダイナー 星の王子様』で以前モチローが食べていたラーメンライスを注文した。
やはり昭和の醤油ラーメンだ。ナルトにメンマ生玉子と、どうしてそんなのあるのか謎だ。
飯を食い終わったら、ガソリンスタンドで補給をする。青色のツナギを着た坊主の黒人の兄ちゃんがガソリンを入れてくれたので、廃ビルについて聞いてみた、
「あそこ行く殆どの人帰ってきてませんね。帰って来てる人は皆んな様子見がてら浅いところしか探索してない奴ばかりですよ」
「何があんだろうな?」
「なんでしょうね〜緑に覆われて、ジャングルみたいになってるって話ですが、よっぽどややこしい機獣でも居るんじゃないですかね?そうでもなけりゃ、自然が多いんだから、そういうの無けりゃ人間住みやすい場所なんじゃないかと思いますけどね」
「そうか、ジャングルか」
「あそこに行くんですか?ちゃんと帰って来てくださいよ。つい最近もハンター10人くらいのチームが行きましたけど、どうなってることやら」
「お、そうなんだ。ポルトランドのユニオンではその事聞かなかったから、また別口か。セメントイテンかな?」
「ええ、セメントイテンから来たそうです」
「そうか、運が良ければ協力できるな。よーし行くわ、それじゃまた」
「はーい、まいどー」
“10人で行ったら20,000cの報酬も1人頭2,000cだから、あんまりおいしく無いですよね”
だよな〜冒険心か、リーダー総取りか……
“お宝がある情報を入手したとか”
それも考えられるか。
残金5,150c
エーライトを出発し、廃ビル群を目指す。途中、迫撃砲を口からぶっ放すウォンバット型機獣や、4トントラック並みのデミブルに襲われたが、新兵器30㎜リボルヴァーカノンで難なく撃退できた。
すげぇぞコイツは。前に蟻地雷3個使ってようやく倒せたデミブルがいとも簡単に!
これさ、デミブル1,000cになるだろ、ウォンバットはいくらで売れんだ?
“ウォンバットは500cです”
いいね〜それだけで結構な稼ぎになるじゃん。
“でも、ウォンバットの迫撃砲で不意打ち食らったら一撃で終わりですよ”
そう考えると割にあわねー。
“でしょ”
にしても素材勿体無いなー、いちいち街に戻ってたら先に進めないし。
“さっさと廃ビル探索終わらせちゃいましょ”
んだな。
皮算用するも、結局は死と隣合わせな事実は変わらない。
そんなノルマを終わらせるべく先を急ぐ錫乃介であった。
時速60キロ程で5時間程進むと、徐々に斜面が増えていった。山に差し掛かって来たのだろう。この辺りは砂漠というより、サバンナ化した都会と言った感じだ。腰くらいまである下草が舗装を食い破って一面を覆い、5〜6メートル程の樹木が点在している中、コンクリート製の廃墟群がかつての栄華を忍ばせる。かろうじて残っている看板の文字はアルファベットの時もあれば、アラビア文字の時もある。
ここはどこの街だったんだ?
“おそらくアフリカのコンゴです。共和国の方ではなく、民主共和国の首都キンシャサの一部がこの辺りでしょう。アラビア文字で書かれているのはスワヒリ語で、アルファベットはフランス語やスワヒリ語だったり、混じってたりしてます”
コンゴかぁ…全くもって連想されるもんがない!アフリカのどっかって事しかわからん!
“そうですね〜わかりやすいのは…コンゴはコーヒーくらいですか。あまり日本とも関わりは少ないですからね。中国とは密接だったんですが。
鉱物資源国としては世界でもトップクラスで…あ、ありましたよ日本との関係。
なんだ?
“広島市に投下された原子爆弾のウラン原料がコンゴ産でしたよ”
聞かなきゃよかったよ。
都会を抜け山道を登り始める。山と言っても日本の山のように、樹木が生い茂った山では無い。植物は腰くらいの下草と矮性の木やサボテンがある程度で、後は殆ど岩と砂だ。
ジャイロキャノピーのギアチェンジをしながら進む。もちろん整備されているわけではないので、進みやすそうなポイントをナビに指示されて蛇行しながら登って行く。
山羊型の機獣や、トカゲ型の機獣が襲ってくるが、ブローニングの掃射であしらう。
“山の標高は2,000メートル程。何の山かは不明です。コンゴにある山ではありません”
難所だね、こりゃ。他のハンターも案外これで諦めてんじゃねーか?戦車で登れるのか?これ。
“こーいう所は無限軌道の方が登りやすいもんですよ”
そんなもんか。おし、もうすぐ山頂だぞ。
それから30分程で山頂に着くと、錫乃介はそこから見える光景に言葉を失っていた。
ちょうど太陽も沈みかけ、美しい夕日と、これまた美しい星空のカーテンが、広い空を二つに分けていた。
錫乃介が言葉を失ったのは、その美しい空の方ではなく、眼下に見える緑の大地であった。
“そういえば、まだジャイロキャノピーに名前付けてなかったですね”
今それ言う⁉︎
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