こち亀両さんvs目ん玉つながりお巡りさん
「待たせたな!見ろや、新生ジャイロキャノピーの姿を!」
次の日『鋼と私』に行くと、工場長のサカキのおっさんはハイテンションで、錫乃介に詰め寄った。
「おーーーーー!ついに、ついに、ついに!待ったぜ、待ったぜ、待ったぜ!光ってるよ!銃身が光ってる!」
格納庫の中心には、ピザの配達をしていたとはとても思えない程フォルムが変わった巨大なジャイロキャノピーが鎮座していた。
リアボックス上に新型ブローニングを乗せ、後部に接続された架台には、リボルヴァーカノンが銀光する姿をこれでもかと誇示している。その姿を見て錫乃介はテンションがウルトラマックスであった。
カノン砲は全長1.6メートル。口径30㎜の弾丸を毎分1,500発以上でばら撒くことができ、火力、弾幕共に申し分ない兵器だ。
これが通用しないのは、重戦車レベルの分厚い装甲を持つものだけだ。
一撃一撃は、先日搭乗したオントスの106㎜無反動砲には遠く及ばないが、あれは対戦車砲であって、そもそもの運用法が違う。
倒した機獣を戦利品として回収出来なければならないハンターとしては、機獣が消し飛んでしまう程火力が有るのも問題なのだ。
大型機獣を相手取らない限り、この30㎜くらいの火力が1番手頃である。
とは言っても、今まで倒してきた野良機獣犬やカラシニャコフなどの小型機獣をこのカノン砲で撃ったら、やはり消し飛ぶくらいの威力はあるのだが。
「ADENリボルヴァーカノン、俺の特別チューンタイプ。下の四輪架台は弾薬庫で、30×113mm弾が300発まで入れられる。操作は運転席にある小型モニターと、ジョイスティックだ。
もちろん、マルチアイシステムで電脳とも有線でリンクしてぶっ放せるぜ。
エンジンはV12にスワップ(換装)してある。ギアチェンジすれば120キロ以上は余裕で出るだろう。シフトレバーはハンドルの左だ。タイヤも極太極厚のオフロード仕様で三輪から五輪にして安定感をだした。
収納用のリアボックスも拡張して、ブローニングの位置も変えて安定性を増しといた。そいで防弾ドア付けて小型エアコンも天井のとこだ。この辺はサービスしといたぜ!」
「あ、ありがてぇ!あのオンボロジャイロキャノピーが一丁前の武装車両になってる。もうなんか泣けてくるな。散々待ったしな!」
「ガハハ!確かにずいぶん待ちぼうけ食ったな!そういやお前さん、コイツには名前付けてないよな。付けてやったらどうだ?」
「言われてみればそうだな。う〜ん、考えておくわ。そんじゃサカキのおっさんよ、俺はしばらく遠出するけどよ、色々世話になった。帰って来たらまた寄るぜ」
「おうよ、こちらも稼がせてもらったわ。また来い。メンテナンスくらいはサービスしてやるぞ」
「そりゃ、来なきゃな!んじゃ、また!」
「死ぬなよ!」
サカキにとりあえずの別れを告げ工場を出ると、いつもの孤児達、アル、メロディ、ピート、薪ざっぽ三人衆が駆け寄ってきた。またこの辺りで、薬莢や鉄屑拾いをしていたのだろう。
「おっさん、なんだよそのバイク!そんなの持ってたのかよ!」
「バイクの癖にドアついてるぞ!」
「後ろにでっけぇ大砲あんな!」
「く、無念!」
「すげぇだろ、俺のマシンは!今まで改造中だったんだよ」
アルと三人衆は興奮気味に魔改造されたジャイロキャノピーに近づきベタベタ触っている。
「おじさんコレ」
はしゃいでいるアル達を尻目にメロディとピートが袋包みを手にして渡してきた。
「お、もしかして」
「うん、前もっと食べたいって言ってたから……今度はもっと美味しく出来たと思うの」
「この前のはちょっと焦げたりしてたからね」
「バカ言ってんな。前のだって世界一美味かったんだぞ。今回だって間違い無く世界一だ。ほら、これは約束の金だ」
そう言って錫乃介は、袋包みを受け取ると、先程マーケットで購入してあらかじめ500cを入れておいた財布デバイスをメロディ達に渡す。
「え!こんなに……」
「無駄遣いするなよ。おい、アル!」
錫乃介はアルを呼びつけると、少し皆んなから離れて、2人だけで会話を始めた。
「何だよ、お礼ならメロディとピートに言えよ。俺たち材料集めしかしてないんだから」
っっっっっっくっ!!
泣かせんじゃねーよ。
金無しの悪ガキの癖しやがって。
「そ、そうか。コレ、年長のお前に渡しておく。何かあったら皆んなを守れ」
「何だよコレ、サバイバルナイフじゃねーか!いいのか⁉︎」
「ああ、俺はしばらく仕事で遠出する。お前も軍人を目指すなら皆んなを守れるようになれ」
「わ、わかった。伝説の元帥みたいになるよ」
「その意気だ。それじゃあな」
「おっさん!ありがとうな!」
「おうよ」
錫乃介はバイクに乗り込むと、子供達に見送られながらゆっくりと発進していった。
“何なんですか貴方は、ガキに懐かれるのは慣れてねーなんて言って、面倒見まくりじゃないですか”
うるせーな、ほっとけねーんだよ。
“さ、お別れはこれくらいで良いですかね。後は散弾銃を買いましょう”
おお、そうだった。前はラオウ山下さんにソードオフの貰って使ったけど、返しちゃったからな。どうせ買うなら弾数多い奴がいいな。
“それでしたらマーケットにいいのありましたよ。3番目の道の左から5軒目にある、『拳銃乱射のお巡りさん』ってお店です”
……何なんだよその店。バカボンに出てきそうなだな。
怪しみながら、ナビの指定のお店(店と言っても屋台だが)に行くと、両目が繋がったチンチクリンの禿げた警官のコスプレをしたオッサンが店番をしている。右手にはニューナンブM60を握りしめている。
いきなり撃たれるのも嫌なので、遠目に見ながら恐る恐る近づいて行く。
「なんだねチミは!さっきからコソコソと怪しいな!」
見つかっちゃったよ。此処で買わなきゃ駄目なの?
“ええ、ざっと見ですが、ここにしか無かったです”
「なんだと聞いているんだ!本官を馬鹿にしてるのか!逮捕するぞ!」
「拳銃向けんなよ。大体なんで日本の警察官の制服着てんの?しかも昭和のやつじゃん。すんげぇプレミアついてるんじゃないの?」
「なに⁉︎君はわかるのかね!この制服が!」
「食い付いて来たよ。面倒くさっ」
「いやー通りで精悍そうな御人と思いましたよ。この制服昭和40年代まで実際に使用された制服でね。レプリカとかではないんだよ。コレを着ると、キッと身が引き締まってね、自分もなんだか警察官になった様な気がするんだよ」
「口調までかわったよ。とりあえずニューナンブしまえ」
「して、当店には何をお求めで?」
“AA-12ドラムマガジン付きで、とお答え下さい”
「AA-12、ドラムマガジン付きだ」
ドラムマガジンだと⁉︎ショットガンなのに⁉︎
「これはまたレアな物をお求めで……しかし、ロマンをわかってらっしゃる方とお見受け致しました」
といって、目が繋がった親父は棚に飾ってあった、見た目スタイリッシュなアサルトライフルみたいなデザインの銃を持ってきた。
通常、長方形の四角いマガジンが、コイツのは丸くドラム型ででかい。
“32発のドラムマガジンでフルオート軍用ショットガンです”
32発!フルオート!ショットガンなのに⁉︎
店主に渡された銃はズシリとし、その重さは頼りになる証でもあった。
「店主、なかなかいいじゃないか。弾薬付きで10,000cでどうだ?」
「いえいえ、15,000は下りませんよ」
「店主、君は亀有の警察官の話を知っているか?」
「と、申しますと?」
「その昔葛飾区という地区が日本にはあったんだ。そこには派出所と呼ばれる警察官の拠点があってな、そこにいた警察官は、たいそう人情に溢れた人物がいたそうだ」
「はぁ、それがなにか?」
「その警察官は年の瀬でも勤務に励み、それだけでは無く、お金が無く田舎に帰れないホームレスにも自分の小遣いを渡していたそうだ。そして、とうとう自分のお金は無くなり、派出所で1人孤独に勤務する羽目になった。
そんな時、派出所のドアを叩く者がいてな、その者というのが、お金をあげて田舎に帰ったはずのホームレスだったんだ。
ホームレスは一升瓶抱えて派出所にやってきて、“旦那一緒に飲みましょうや”ってね。そう、ホームレスは田舎に帰ることよりも、自分に親切にしてくれた人情溢れる警察官と一緒に年を越す事にしたんだそうだ。つまり、昭和にはまだそんな警察官がいて、治安だけじゃなく、人の温もりも守っていたんじゃないかなってね」
錫乃介が話を終えると、なんちゃって警察官は頭を俯き、涙を堪えながら言葉を発した。
「旦那。わかりやした。弾薬付きで10,000c。持ってって下せぇ!」
「わかってくれて、嬉しいよ」
さ、ズラかるぞ。
“その話、ホームレスが持ってる一升瓶も警察官があげたお金で買ったんですよね?”
ああこれは、そのホームレスが田舎に帰るどころか、貰った金で他のホームレスとドンちゃん騒ぎしてるとこを警察官が見つけて、大乱闘になった後の話だ。しかも、ホームレスと一緒に飲み始めた時の警察官はまだ勤務中だった。
“ひっどい話をさも人情話に。詐欺師ですか”
褒め言葉として受け取っておくよ。
“一切褒めてません”
全てを締めくくれる良い言葉残していくよ。
『これで、いいのだ』
“締まってませんから”
そういやジャイロキャノピーの名前決めてないな。
“締まりませんね〜”
残金5,350c
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