誰かの為とか言うやつは、たいがい下心が満載。大人しく自分の為と言っておけ

 次の日はそのままユニオンで、急造の工兵部隊に、爆破工作と地下要塞施設の情報を共有する。

 そのまま作戦会議に済し崩し的に出席する羽目になり、寝不足のまま爆破工作の段取りの説明をする事になった。



 待て待て、なんか俺この部隊のリーダーみたいになってんだけど。違うからね、あくまで一情報提供者なんですけど。


 “乗りかかった船状態ですね、後に引けなくなってますよこれ”


 もう、今日はゆっくり休みたいんだけどな〜



 脳内で愚痴りながら、爆破工作の説明を続ける。と言っても大部分の台本はナビが書いてるのだが。



 作戦会議が終わりようやく解放された。

 大まかな作戦はこうである。


 6つの工兵小隊達はそれぞれ第一立孔から第五立孔と調圧室に爆薬を設置。その後、放水路奥にあるという、生産ラインに集結し工場にも爆薬を設置。生産ラインの見取り図はあらかじめ、ジョドーと情報を共有していたので、こちらも工兵と共有。どの小隊がどこに設置するかも決めたが、なんせシミュレーションをする暇もない。行き当たりばったりの出たとこ勝負だ。

 錫乃介は仮にも外部の人間ながら、斥候として、先んじて生産ラインに行くのが任務であった。



 なんで、俺が…


 “今更冷静になっても遅いですよ。

 ユニオンの支部長にローン支払いチャラにするからもう一働きお願い出来るか?

 って見え見えの罠に、何でもします〜!なんて、飛びついたのは自分じゃ無いですか”


 は〜あの時の俺を殴ってやりたい。


 “今からでも遅くは無いですよ”


 よし殴るわ。おりゃ!ぶへっ!とぅ!ごぇっ!


 “何やってるんですか。元々ジョドーさんまた引っ張りだして、工兵隊の援護をするつもりだったでしょう”


 わかる?


 “まだまだ引退させませんよって、呟いてたじゃないですか”


 まぁ、そうだけど。任務ってなると失敗できないじゃん?勝手に援護する分なら気が楽だけどさ。


 “軍事行動を馬鹿にしないでください”


 馬鹿にしてるのはユニオンの奴らだろ。なんで、トーシロの俺を、重要任務に付かせるかな。


 “それもそうですね。でも、アイアコッカ中将は反対しませんでしたね。むしろ歓迎してたような”


 元帥連れてきたことで、無駄に俺の評価爆上げしてんだな。


 “それに勝手に首突っ込んだのこちらですしね”


 だな。にしてもさ、またコイツの世話になるとは思わなかったよ。



 と、錫乃介の視線の先にはユニオンのハンガーに次から次へと持ち込まれる、大きなアーモボックスには、


『Moon hill Heavy industry Explosive Bom Tunami』


 と書かれていた。


 そう、アスファルトの戦争時、武装組織『ラスト・ディヴィジョン』の自走式多連装ロケット発射砲を片っ端から、吹っ飛ばした、時限式高性能爆薬であった。



 あったま来たから、ジョドーは絶対巻き込む。


 “あの人なんか悪いことしました?”


 こっちだって何もしてねーよ。


 

 ユニオンを出ると再びM50オントス自走6連装砲を借りに行く。


 『鋼と私』ではサカキが、また来やがったと毒づいた。


 「また、借りるぞ。今度はいっちょ英雄になってくるわ」


 「なんでぃ、さっきから軍人が避難準備をするように駆け回ってたかと思えばよ。今度は出撃だ?おまえさんが?」


 「俺だって、わけわかめだよ。だけどローンがチャラになるんなら、命懸けるのも悪くねぇ」


 「そういう事かよ。その考え嫌いじゃねえがな。メンテは終わってるから、持ってきな」


 「仕事が早いねぇ。あ、料金は軍に請求しておいてね。“ドブさらいの錫乃介より”で」



 『鋼と私』を出ようとする錫乃介に、今度はいつものガキンチョ達が集まってくる。


 「おっさん!なんか避難準備しろって言われてるけど、何があったんだ?」

 

 悪ガキリーダーのアルが相変わらずの調子で話しかけてくる。


 「街の一大事らしいぞ。お子ちゃま達は大人の言うと通りにしておきな」


 「準備って、言われても僕たち何も持ち物ないよね」


 「アタシはこの薬莢持ってくの」


 ピートの言葉に、メロディは薬莢をいっぱい詰めた小さな袋を大事そうに持ちなおす。


 「孤児院もなんもねーしな」

 「椅子でも持ってく?」

 「オレ、パンツ3枚ある」

 「拙者はこの愛刀シゲミツだ」


 

 「何でもいいから早くしろ。何が起こるかわからねーからな」


 「おじさん、その戦車で何処行くの?」


 メロディがこちらを見つめ不思議そうに聞いてくる。

 

 「ああ、ちょっとした害獣駆除だ」


 「また地下用水路行くの?もう終わったんじゃ無いの?」

  

 「また、大量発生しちまったんだよ。今度は外にな。だから戦車使うんだ。そうだ、またクッキー焼いてくれ。あれは世界一美味しかったからな」


 「うん!また皆んなで、お金貯めて焼く!」



 っっっくっ!!



 「こ、今度はちゃんと買うからな。お、お金出して買うからな。いいな」


 「うーん?いいの?うんありがとう」


 「それじゃあな」


 「「「じゃあねー」」」



 い、いちいち、な、泣かせやがるガキどもだ。



 “ガキに懐かれんのは苦手だ、とかカッコつけて言ってたのはどなたでしたっけ?”

 黙りねぃ!



 ナビを一喝して黙らせた後、そのままオントスで『万魔殿』へ。



 「サーセン、ジョドーさーん錫乃介でーす」


 と声を掛けると、今度は直ぐにジョドーは出てきた。もう、仕事用のスタイルになっている。

 黒い長髪は後ろで纏め、白のフォーマルなドレスシャツに黒のスラックスにベスト。いかにもオーセンティックなバーテンダーといった出立ちだ。



 「錫乃介様、何か進展がございましたか?」


 「あったもありましたよ。とり急ぎ、戦車乗って下さい」

 

 「え?」


 「街を守る為には協力を惜しまないんですよね?なので、今から行きますよ。首都圏外郭地下放水路の先にある、機獣達の生産ライン、アーンド、受電設備に。

 案内頼みますよ。ジョドーさんにしかできませんから」


 「いや、確かに惜しまないとは言いましたが……なぜ錫乃介様が最前線に?」


 「街を守る為ですよ」



 錫乃介はその一瞬だけ、鋭く、目標の為には犠牲すらを厭わない、男の目をしていた。



 “ローンの為です”



 その目に当てられたジョドーは、腹を括ったのか、ふぅと息を吐くと。



 「わかりました。地獄までお付き合いしましょう」


 “ジョドーさんチョロ”


 な!俺もおもたわ!


 

 ジョドーを騙くらかして、オントスに詰め込んだ錫乃介は、ユニオンで爆薬を積んだ後、一路地下放水路に向けて、オントスを発進させた。

 街を出て北に進むその横面を、沈みかける太陽が、鼓舞するかのように赤く染め上げ、大地にその6本の大砲の影を勇ましく投映するのであった。

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