昔の失敗を未だに話す上司ってほんとにウザいよな

「そんなわけで、ユニオン行きますよ」


 え、今から?と呆気にとられているジョドーを連れて万魔殿を後にする。

 そして、再びユニオンに着くと“ナイスなアイディアが湧いた!”と言って、機獣大量発生の対策会議に無理矢理参加する。

 ハンターユニオンポルトランド支部長、副支部長、キルケゴール、アイアコッカ中将、その他合わせて12名で会議している中に闖入した。

 初めは当然、何だ君は!と怒られたが、“ドブさらいの錫乃介だ!”と叫ぶと、一瞬静まりかえり、


 “す、錫乃介さん話しなら後で…”

 “聞いたことあるな…”

 “ひと月で地下用水路を網羅したとか…”

 “それと何の関係が?”


 などとヒソヒソ聞こえるが、ユニオン支部長から、


 「で、掃除のおじさんなら下の受付にいってくれ」


 と相手にしてくれないので、仕方なくジョドーを前にだす。


 「ここに御座す方をどなたと心得る!ユニオンの創設者にして、受電設備守備隊の元帥なるぞ!頭が高い、控えおろー!」


 “何を言ってるんだ?”

 “誰か早くつまみ出せ”

 “この緊急事態の時に”

 “元帥があんな若いわけないだろ”

 “錫乃介さん、不味いですよ”


 などと聞こえてくる。本気にしてないようだ。まぁ無理もない。



 「何やってるんですか錫乃介さん。私は当時の名前も顔も変えてるんですから、わかる訳ないですよ」


 「そーなんだ。でも、当時の元帥でしか知らない出来事の一つや二つあるでしょ?」


 「それは、まあ…ですが…」


 「はやくはやく、この会議自体も時間の無駄なんだから」


 「それでは…」


 と、スッと姿勢を正し、軍人らしき敬礼をするジョドー。


 「不躾ながら、守備隊元帥、ジューダス・プリースト・ハルフォード、只今帰還した。ポルトランド危急存亡の危機と聞きつけ参上仕った。皆の者、突然ではあるが、この錫乃介言葉を静聴して欲しい」


 “な”

 “元帥の本名…”

 “だがそれくらいなら…”

 “錫乃介さん、この人は一体…”

 “とりあえず会議の邪魔だ”


 

 どーいう名前だよ。メタルゴッドかよ…


 「ジョドーさんもう一押し」


 「それでは。許してください、約束を破りますよアイアコッカ」



 ジョドーはアイアコッカ中将の方をすまなそうな目で見つめ呟くと、ハッキリとした口調で話し始めた。



 「アイアコッカ少尉。今はもう中将か。実質この街のトップの1人だな。偉くなったな」


 「失礼ですが、サー。貴方とお会いした記憶が私にはありません。どんな時かお話し願えますか?」


 「良いのかね?そうだな、あれは30年前、入隊してまだ間もない幹部候補生の野営訓練の時だ」


 その話しの内容にピクリと中将の眉が反応する。


「その時ある事件が起きた。1人野営地を離れていたアイアコッカ君の前にフライングオクトパスが突如闇の空より降りたったのだ」


 「た、確かに。ですが…」


 「そう、フライングオクトパスが出現したのは、部隊では有名な話しだった。だが、それで有耶無耶になったのは、なぜアイアコッカ君がその場にいたのか?


 「サー?あ、あまり変なことは…」


 中将に動揺の色が見えてくる。


 「深夜だった。アイアコッカ、君は1人野営地を離れたのは、別部隊の、そう女性隊員の野営地に行こうとしてたそうだな」


 眉だけでなく、唐突に目が泳ぎ始める中将。


 “中将〜”

 “なかなかね〜”

 “やはり英雄、色を”

 “堅物かと思ったら”

 “確か銃殺ものでは…”


 またコソコソ話が聞こえる


 「サー、そ、それはどなたから、いや、そんなはずは…」


 中将の顔はどんどん蒼く、いや赤いのか?色が明滅してるぞ。


 「もう一つ言うと、フライングオクトパスは出現したが、君は無事だった。そう、私が追い払う事に成功したからだ。その時君は驚きのあまり、地面に尻餅を突いていたね」


 「さ、サー、そ、それ、以じょ…」


 「私が手を貸して立ち上がらせた事、覚えていないかい?その時、乾き切っているはずの砂漠の地面は何故か…」


 “え…”

 “まさかの”

 “やっだー!”

 “中将が?”

 “お、おもら….”



 「元帥どのぉぉぉぉぉ!!

 武士の情けと仰ったではありませんかぁぁぁ!!

 内密にしておくと言ってくれたではありませんかぁぁぁ!!」


 「信じてくれるかね?」


 「もちろんでございます!元帥どの!」



 あ〜あ、何てことバラしてんの。ひっど〜。あんなイカつい人がね〜。



 “錫乃介様もアレな人ですが、ジョドーさんも大概、アレな人でしたね”


 俺あんな脅迫じみたことできねーよ。


 


 そこから先の話はスムーズだった。

 チョーカーとモニターをコードで繋ぎ、首都圏外郭放水路の図面を映し出し、説明を始める。

 

 放水路には立孔が5つある…

 ここの調圧室を…

 全てを破壊する必要は…

 特定の箇所に発破を…

 ビル解体でも…

 お茶くれる…


 「というわけで、少数の部隊で機獣の目を潜り誤魔化し、戦闘は最大限減らしながら、ピンポイントで出入り口のみを破壊して、奴らを生き埋めにすれば、地上に出てくる事が不可能となります。機獣全てを殲滅する必要は無いのです。これが俺の提案です」


 なお、この案はナビが原案です!


 “案はいいな”

 “人は、どうなんだ?”

 “部隊の編成が…”

 “適任者がな”

 “爆破のプロとなると”

 

 会議室の12名はあーでもないこーでもないと話している。小一時間様子を見ていると、話が落ち着いたようだ。


 「錫乃介さん。君の案でいくとすると、問題がある」


 アイアコッカ中将が俺に結論を伝えてくる。


 「アレですよね、爆破の適任者ですよね。専門家がいないってこと」


 「そうだ。我々守備隊には爆破工作を専門とする部隊、工兵がいないのだ。ここの守備隊には編成そのものが無いのだ」


 「我々ユニオンの人員含め、登録されているハンターにも爆破工作のプロは数えるほどしかいない。しかもどこにいるかは、すぐにはわからん」


 中将の後に続いてユニオン支部長が答える。


 「簡単です。俺の電脳に繋いで、爆破解体のデータを共有すれば良いんです。地下放水路をやるだけならそれで充分でしょう」


 できるよな、ナビ?


 “大見得切って勢いで事後承諾はやめて下さい。口先だけの営業マンですか。まぁ出来ますけど”


 よしっ。



 「わかった、すぐに少数精鋭の部隊を今夜中に編成しよう。明日1日を物資爆薬をかき集め、住民の避難準備など諸々の時間に当てる。それで良いですかな、錫乃介さん」


 「全部で5〜6人の小隊を6部隊です。宜しくお願いします」


 任せて下さい、と言った後、クルッと中将はジョドーに向かい、直立不動の姿勢を取る。


 「元帥!ポルトランドの危機に駆けつけて頂き、誠に感謝致します!それと、我々の力が至らず、元帥自らのお手を煩わせる事になり、大変申し訳ございません!」



 「アイアコッカ中将、私は彼に連れてこられただけに過ぎない。私に出来る事などほとんど無いんだ。君達の活躍だけが頼りなんだ。頑張ってくれたまえ。

 それでは、老兵は辞去するとします」


 サッと返礼すると、スッと振り返る


 「それじゃ錫乃介さん、私は戻るよまた何か手伝えることがあったら、協力を惜しまないよ。私もこの街は守りたいからね」


 それだけ残して、ジョドーは去っていった。

 その後ろ姿を見送りながら、



 言ったね。まっだ、終わりじゃ無いからねジョドーさん。まだまだ引退はさせませんよ…。



 誰にも聞こえない様につぶやく、錫乃介の言葉は、まだまだジョドーを引っ張り、使い倒す予告の言葉であった。

 



 その後、錫乃介はユニオンの食堂で、今日はサービスで良いと言うので、カレーやらカレーやらカレーを暴食しそのままベンチで横になった。



 サービスって、カレーしかねーじゃねーか。バーモントカレーに、ジャワカレーに、ボンカレーに、カレーの王子様に、アンパンマンカレーまでありやがった」


 “タダなんだから良いじゃ無いですか。二日分くらい食い溜めしましたね?”


 あ〜カレーは飲み物だからな。ってか疲れた。少し横になるわ。どうせ、このまま、奴等に、付き合う、んだ…か…



 “寝ちゃいましたね。無理もない。また明日から寝れなくなりますからね”



 

 ほんの少し、錫乃介はようやく目を閉じ、休む事ができるのだった。

 その寝顔は諦めの悪そうなオッサンの表情であった。愚かなのか愚直なのか…


 

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