そんなに責めんといてー


 夜の砂漠を街へ向かって走る。もう休憩はしてられない。


 ナビ、俺さ、さっきのオウガだけど何か違和感あるんだよね。


 “なんのために野良犬どもを追いかけていたか?それにしちゃ距離があるってことですね”

 

 そう、犬どもを狙うため?追いかけてる?違う、はなっから、明らかに俺達を狙っていた。犬達はただ巻き込まれていただけだ。


 “俺達、ではなく、錫乃介様自身、即ち、人間じゃないでしょうか?オウガとは“人食い鬼”と訳される事もあります”


 何キロも離れた所から察知して襲ってくるってことか?


 “その特性や生態は私のデータにはありません。ただ好んで人を狙うと”


 シリアルキラーか単なる通り魔か。純粋に人肉が好きなだけか。何にしてももう敵に回したくねーや。


 “デミブルの時もそうでしたが、そろそろ火力不足ですね”


 全くだ。セメントイテンではそちらの補強も…金が無い…。


 “少し腰を据えて稼ぎましょう”


 でもさ、ミーチとか定期的に買い出しに来るんだろ?会ったりしたら、ちょっと気不味いんだけど。


 “甘ったれた事言わないで下さい。金が無ければ、そんな我儘口にする権利すらない事を自覚して下さい”


 ナ、ナビが、厳しすぎて辛い…。


 “恋に破れた文無し男は惨めですね、救いようが無い”

 

 ふっ、だがな、ナビ。俺は数々の修羅場を超えた男よ。これを乗り越え、また一つ真の男に近づくのさ。また強くなるんだよ。この勢いは止められないね。


 “負け犬も考え様によっては、ポジティブになれるんですね。勉強になりました"


あれ、俺また涙が…




 ナビにボロカス言われながらも、朝日を浴びて、セメントイテンに着く錫乃介。

 セメントイテンはアスファルト程では無いが大きい街だ。分厚いコンクリートの壁に囲まれ、その上には砲台や対空機関銃が幾つもある。壁の外側にもテントが立ち並び、この辺りはトレーダーやハンター達の宿営地のようだ。

 

 検問は無く街の中にはスンナリと入れた。早速市場がお目見得する。屋台の様な店の並びにはやはり銃器をメインに食料、衣料など様々な物資が売られている。

 間を通る道はバイクやトラック、時には戦車が通れる様に広く作られているが、車が通るまでは、物を売る人、買う人であふれている。まだ早朝だというのに。



 飯だ飯。それから色々補給と、今夜の宿、いやその前に金策か?宿はテントでもいけるし。

 色々と思案しながらも街を買い食いしながら散策する。やはりケバブやタコスは定番の様にある。

 

 至る所に煙突が見えるが、ナビ曰くメタンガス発電所らいし。この街にはアスファルトの様な宇宙太陽発電の受電設備は無いようだ。

 街の建物はバラック小屋が多いが、コンクリート製のしっかりした建物も見られる。


 その中で一際大きな建物があった。4階建ての総コンクリート製。対空砲火も備え、優美な様は無いが無骨で、ドシっとした揺らがぬ安心感が感じとれる。ハンターと見られる厳つい人間や、バギーやテクニカルトラックが多く出入りするところをみると、どうやら、ここはセメントイテンのハンターユニオンのようだ。

 ジャイロキャノピーを建物前に停めて、恐る恐る中に入る。

 右手に受け付けカウンター、左手はカフェバーのカウンターとテーブルや椅子。上階にリクエスト室や事務室、資料室などある様だ。取り急ぎ、リクエスト室に入る。



 何かここの職員は人間のようで安心したよ。また変なアンドロイドだったら目も当てられない。まともなのロビタだけだったしな。


 「ロボオです、錫乃介様」

 「ロビタ!」


 リクエスト室に入ってキョロキョロしていると、メカメカしい声をかけてきたのは、アスファルトでリクエスト室の受付をしていたロボオだった。その無機質なモノアイを錫乃介に向けている。



 「ロボオです」

 「おまーさん、心読めんの?」

 「最初に聞く事がそれですか、何故ここに?とか、久しぶりだなとか、元気だったか、とかでは無いんですか?」

 「何故ここ久しぶりに元気か?」

 「混ぜないで下さい。ちなみに質問の答えは、心は読めません。錫乃介様がブツブツ口にしていただけです」

 「そっか、気付かなかった。ロボオがここに居るのはあれだろ、ユニオン同士の情報共有とか、だろ」

 「はい、そうです。矢破部の使いでここに来ました」

 「1人でか?」

 「ええ、トレーダーとその護衛と共にですが」

 「あ、あのさ、俺居なくなって皆んな何か言ってる?」


 ちょっと気になる、自分がいなくなった後の事。寂しそうとか、英雄扱いとか、戻ってきて欲しいとか、ついそういう答えを期待してしまう。


 

 「特に何も」


 あらっ、と、膝がカクンと落ちた感じがする錫乃介であった。


 「何か期待されてるのかもしれませんが、戦後処理で皆さん忙しくてそれどころではありません。そもそも戦争終わってまだひと月も経ってませんし」


 そりゃそーだ。

 そういや、炸裂弾の支払い絶対足りねーよな。催促来たらまずいよな…

 

 「あのさ、俺ここに居る事皆んなには報告しないでくれる?」

 「御安心を」

 「ありがとう。恩に着る」

 「話題に上がる事もないでしょうから」

 

 なんか、辛辣じゃない?ロビタ


 「ロボオです。今日はもう仕事は終わり、プライベートなので」

 「それが素ってことかよ……ってかまた心読んだべ」

 「ですから口に出してますよ」

 「っかしいなぁ…」

 「それではお元気で」

 「おー、ん?アスファルトに戻るのか?」

 「いえ、次の街ポルトランドへ向かいます」

 「ほー、遠いのか?」

 「南東へ1200キロです」

 「とおっ!俺も行こっかな?」

 「良いですよ。出発は明後日早朝南門です」

 「へ、良いの?」

 「構いません。キャラバンは大きい方が生存確率が上がります」

 「だ、だよね〜」


 “今まで何度も死にそうになってますから、説得力ありますね。だいたいこのショボい武装ジャイロキャノピーで1人旅って所に、そもそも無茶があるんですよ”


 今更、しゃ〜ね〜だろ!


 

 にしても、なんなんだよアスファルトの奴ら俺の扱い雑じゃない?少しは頑張ったんだけどなぁ…


 “ブツブツ言ってないで、早くリクエストを見ましょう”


 あれ、また口に出してた俺。



 それすらも口に出していた錫乃介はリクエストが貼り付けられている壁を見る。



 なになに〜


 野良機獣犬 駆除 1体50c


 ウージー虫 ハント 1体150c


 カラシニャコフ ハント 1体200c


 ジャッカルカノ ハント 1体300c


 デミブル ハント 1体1,000c


 バルカンムリワシ ハント 1体2,000c


 ハイエナジーレーザー ハント 1体3000c


 ゴーストライダー ハント 1体5000c


 バルコンドル ハント 1体 6,000c


 オウガ 討伐 1体 8,000c


 廃ビル13号棟 探査 地図20,000c


 暴走バギー 1台 150,000c


 暴走トラック 各種 1台 300,000c


 キャタピラバッファロー ハント1,000,000c


 ワイルドタンク ハント 3,000,000c


 エレファンク 討伐 10,000,000c


 フライングオクトパス 討伐 50,000,000c

 


 “初心に返って野良犬退治や野良猫退治と行きましょう。今オウガの元に行っても無事帰って来れる保証がありません”


 どーかん。


 その辺常設依頼みたいだし、受理してもらう必要も無いし。

 よし、そうと決まったら、資料室の端末で情報集めて、宿としよう。


 

 一通り情報を収集した後、1階の受付で近隣の宿を聞く。受付は快活なおばちゃんが1人でテキパキと来客を捌いており、変なトラブルも無く聞くことができた。それが普通なのだが、妙に物足りなさを感じる錫乃介であった。



 この街はまともな建物の宿は一泊120〜150cが相場らしい。トレーラーハウスや廃墟に屋根付けて、何とか家にしたレベルの宿は50〜80ぐらい。高く感じるが普通はこんなもんだろ。前のジジイのゲルが安すぎたんだな。ぼったくられたけど。

 

 もう、テントでいいや。公衆サウナだけ夜行こう。

 

 市場で弾薬や手榴弾、食料、物資、燃料を補充し街の外へ。

 

 残金50


 あ〜金ねーなー。


 “かっつかつですね。腰を据えて稼ぐと言ってたのに、街は移動で良かったのですか?”



 そこはほら、心の古傷が痛むかもしれないからさ。

 


 “乗り越えて強くなるのでは?”


 

 さ、稼ぐぞ!



 “無視しないで下さい”



 うるせぇ、美しくないんだよ、そういうのは。


 

 と、いそいそと日銭を稼ぎに狩にでるのであった。

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