砂漠の旅編

オウガバトル

 “錫乃介様、大変申し上げ難いのですが”


 なんだよ、慰めならもういらねーぞ。


 “いえ、お金もらい忘れてます”


 

 ……。



 100,000cだったな。


 “はい間違いなく”


 戻るか。


 ……。



 って、そんな美しくねー事出来るか!!


 元々落ちてた当たりクジ拾った様なもんだし!


 なにそれ、メッチャうれしぃじゃん!


 知るか!


 やっぱ戻ろうぜ。


 いーや、あいつら親子共の祝い金だ!


 流石にクリスのやつも独り占めしねーだろ!


 次だ次、金なんてまた稼ぎゃあいいんだ。


 チッキショーーーーーーー!!!



 

 “もう支離滅裂ですね”

 

 

 半ば壊れかけた錫乃介は、戻ろう、いや男の美学が、チキショウめ!、金がぁ!、とブツブツ、時には発狂しながら、ジャイロキャノピーを走らせたり、止まったり、方向転換しようとしたりとしつつも、何とか次の街、南東600キロにあるセメントイテンに向かって走っていった。


 そのワダチは酷く蛇行していた。



 “ちゃんと進まないからもう、夜じゃないですか”


 いいじゃんか、スッゲー寒いけどさ。BGM『月の砂漠』かけてくれよ。

 

 “はい、ではどうぞ”


 つーきのー、さばーくをー♪


 はーるーばーるーとー♪


 

 いいね、駱駝じゃなくて、ジャイロキャノピーだけど。


 “ついでに言うと、この歌の舞台、静岡か千葉の沙漠なんだそうです。砂漠ではなく沙漠。作者は砂漠はおろか日本を出た事も無いそうですよ”


 『異邦人の時』といっしょだな。国内かよ。


 “でも、イマジネーションだけで、こういう名曲作れるって、凄いですよね”


 逆に言うと本物見た事ないから、想像力が働くんじゃねーの?藤子・F・不二雄先生もそんな事エッセイで言ってたぞ。

 見た事無いもの、経験した事無いもの、それをイマジネーションだけで書くんです、って。

 言われてみれば創作物ってそんなもんだよな。経験して無いものをどれだけ知識で補い、想像しクリエイトするか。

 あれだ、童貞の妄想に近いな。歩めど深めど経験するまでは神秘そのもの。

 ああ、あの頃のイマジネーションは童貞だったからこそなのか……

 

 “なんで、月の砂漠からそこまで下品になるんですか?”


 かく言う私も童貞でね……


 “やっぱり……”


 違うからね、俺は童貞違うからね、攻殻機動隊の中でそういうセリフあるだけだからね。


 “ハイハイ”


 ほんとだからね。ナビさ、ほんとだから。


 “はい、もうここでキャンプしましょ”


 ほんとだからさ。信じてよ。もう童貞じゃないから俺。

 

 “いつまでやってんですか。早くテント張って下さい”


 はい、すいません。



 と、示された場所は、しけた名も無い観光地にある展望室のような休憩所の3階建ての廃墟だった。

 中に入ると喫茶室と土産物屋を作ったはいいが、観光客なんぞシーズンですらまばらで、いかにも第3セクターの置き土産(ゴミ)といった建物である。

 


 あー、あるあるだな。これ、絶対日本の建物だよ。この天井低くて、狭苦しくてインテリアのイの字も考えずに作ったセンスない感じ。廃墟になって漸く味がでてきたみたいだな。

 

 “ボロカス言ってますが、本来ならこんな場所すら通過するだけの場所なんですからね。いつまで経ってもフラフラ走るから、セメントイテンに辿り着かないんじゃないですか”



 まぁ、久しぶりに月でも眺めながら野営と行こうじゃ無いか。と、錫乃介は携帯コンロを取り出して、お湯を沸かす。

 食料を補給する事なく飛び出したため、ロクなもんが無いが、粉末出汁と乾燥豆は持っていたので豆スープを作る。

 

 乾燥豆は戻すのに時間がかかる。コトコト煮て、さぁ食べられるぞ、という頃合いだった。



 “錫乃介様、火を”



 応えるよりも早く火を消し、赤外線スコープを取り出して、ナビに視力聴力を強化してもらう。



 なんだ?


 “機獣の音が聞こえます。距離1200南東です”



 スコープを使い目標の方角を注視する。



 “野良機獣犬ですが、数が多いですね。10、13、18。18体です”


 あいつら夜行性だったか?


 “それは個体差がありますが、妙なのはこちらに向かっているというより、何かから逃げている様に感じます”


 更にやばい機獣の可能性か……


 “無難な推測です。下手にこちらから射撃して位置を悟らせるより、廃墟の上階に上がりましょう。野良犬だけでもやり過ごせるかもしれません”


 やばい奴の方は?


 “地雷でも置いときましょう。気休めになるかもしれません。後は運を天に”


 なんとも頼もしい立案だ。


 “戦場では大事な事ですよ”


 違いない。


 

 と、せっかく作ったスープはそのままに、廃墟の3階へ向かう。

 3階へ着くとまずは索敵だ。剥き出しのコンクリートだけでスケルトン状態だが、わずかに野営の跡がある。暗くて判別しづらいが、だいぶ昔の物だろう。



 “何かいます”



 と、バサバサと大型の鳥の羽ばたく音が聞こえ、黒っぽい物体が、こちらをすり抜け、窓が無くなった窓枠から飛び去っていった。



 “ご安心を、カラスでした”


 びっくりしたなぁ、もう。


 

 と、高鳴る鼓動を抑え外の気配を伺う。矢張り野良犬どもは此方に向かって全力で走っているようだ。確かに獲物を狙っている走りではない。まもなくこの建物に着く。


 息を最大限に殺して、過ぎ去るのを待つと、ギャンギャンと吠える声と共に、この建物には何の関心も持たず野良犬は走り去って行った。地雷は作動していない。


 まずは一安心するが、正体不明の何かがいる可能性がある為、しばらく姿勢を崩さず待機するが何もない。


 杞憂だったかと、下の階に戻りスープを手に取るがすっかり冷めている。まだ火を付けようかと、携帯コンロを手に取る。


 “まだ何が来ます”



 と、窓枠から遠方をスコープで覗くと、キングコングを小さくした様な毛むくじゃらな奴がこちらに向かって、二足歩行で凄まじい速度で走って来ている。

 4〜5メートル程の体長、頭には2本の角、巨大な目、に人間なんかひと呑みにできそうな口、手にはH鋼?いや、線路のレールか、棍棒代わりか?あんなんで殴られたら、こんな廃墟奴にとってバルサ材の模型みたいなモンだぞ。



 “距離1200、オウガですね”


 ファンタジーで定番のやつね。古代人種のギガントピテクスっていたらあんな感じかもな。

 倒せる?


 “運良く地雷でも踏んでくれれば、追い返せるかと”


 追い返せるだけかよ。


 “賭け事はお好きですか?”


 好きな方だな。パチンコはやらんが、競馬にカジノ、ロトはハマった事ある。


 “では、蟻地雷を廃墟前にありったけ設置して、ブローニングで狙撃して敢えておびきよせましょう”


 地雷が利かなかったら終わりか。


 “もしかしたら、ブローニングで0距離であの大きな目を狙えば、多少効果あるかもしれません”


 0距離射撃って言わせたいのか?


 ちょっと笑いながら応える


 “それは間違った用法ですが、まぁそう言うことです。足止めくらいにはなるでしょう。そしたら”


 バイクでトンズラすると。


 “はい、今全力で逃げてもジャイロキャノピーじゃ追いつかれますね”


 んじゃ、ちょいと頑張りますか。


 

 虎の子の蟻地雷をありったけ、と言っても10個しか無いが、オウガが通るであろう位置に設置する。というか置いてるだけだ。隠す時間もない。

 


 “距離300”


 もう撃っとく?


 “そうですね、そろそろ撃ちますか”


 よっしゃ、とジャイロキャノピーに乗り込み、オウガの足に向けて新型ブローニングを狙い澄ます。

 

 

 バドドド、と轟音を響かせながらブローニングは唸りを上げる。

 見事足には着弾しているようだが、全く意にも介さない。



 ありゃ、あいつ豆鉄砲くらいにしか感じて無いよ。



 目玉も狙ったが、腕でガードされる。当たり前か。



 “豆というか、輪ゴム鉄砲ですね。距離100メートル”


 何言ってんの、豆より輪ゴムの方が痛いじゃん。


 “豆をちゃんとした軍用スリングショットでヘッドショットすれば人間殺せますよ。距離50メートル”


 マッジかよ!おっそろしいな豆!



 アホな話を2人?がしてると、オウガもう目の前だ。しかも地雷原を一足跳びにしようとした瞬間だった。

 


 

 悪りぃな、さっきありったけ地雷を置いたって言ったけど、



 あれな





 嘘だ




 と、持っていた最後の蟻地雷をオウガに向けてフリスビーの様に投げつける。以前デミブルに使った戦法だ。



 ナビがブローニングで地雷を撃ち抜く


 至近距離で起きる爆発


 地雷の爆風をジャイロキャノピーの風防で防ぐ


 オウガは地雷原に落下する


 爆発



 見届けることなくアクセルを全開にする



 ブローニングで他の地雷を掃射して撃ち抜く



 さ、ずらかるぜ!



 


 残っている地雷全てが爆発した






 少し距離を取ってからナビに聞く。


 どうだ、やったか?


 “安全圏に逃げてからそのセリフは卑怯じゃないですか?”

 

 1度は言ってみたいセリフだからな。フラグは立てたく無いけど。


 “仕留めたかどうかはわかりませんが、動きはありません、確認に参りますか?”


 冗談、俺そこまでギャンブラーじゃないんだ。

 とっとと街に行こう。物資の補充しなきゃ。あと何か火力欲しいな。地雷も無くなったし。



 “金もありませんし”



 それを言わないでくれ、また、鬱になる。



 残金620c


 

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