コンドルは飛んで行く

 ドンキーホームが休みの日、早朝の日課を終え(残金13,258c)、いつもの背嚢ではなく、キャンバスバックに入れたでかい荷物を背負い工場区画へ向かう。

 ホンダジャイロキャノピー大容量のリヤボック付き。これが錫乃介の目的のバイクだった。既に店は目は付けてある。色々回ったが、あの赤モヒカンの店が1番信頼できた。

 スーパーカブの値段を聞いた時、彼が提示した金額は8,000だった。その後他のお店も見たり、聞いたり、交渉したが、結局8,000以下にはならなかった。つまり底値だ。のっけから底値を提示していたあの赤モヒカンのお店が1番信頼できると、錫乃介は踏んだのだ。もちろん仕入れのルート違うなど、細かい事は考えられるが、この世界にそこまで仕入れ先があるとは思えなかった。



 『車両販売修理カスタムなんでもお任せ ル・マン・ザ・3rd』か、ふざけた名前だ。


 ワクワクする胸を抑えながら、赤モヒカンに声をかける。



 「サーセン。あのホンダのジャイロキャノピーっていくらですか?」


 「ハイ、どうもっす。ジャイロキャノピーでしたら8,000cっすよ」

 「6,000cにはならない?」

 「う〜ん、そうっすね〜」


 お?ものは試しで言ってみたけど、安くなるのか?


 「例えば、ただ6,000は出来ないっすけど、ちょっとしたカスタムとかをサービスして8,000とかだったらいかがっすか?」


 言ってみるもんだな。そう言うの良いね。


 「それでオケ!で、早速カスタム頼みたいんだけど、いいかな?」

 「いいっすよ、なんにするっすか?」

 「砂漠地仕様にして風防とボディ全体を防弾にして欲しい、それから」

 「それくらいなら余裕っす。ん?それから?」

 

 ああ、あと、これを…と言ってキャンバスバッグから取り出したのは以前整備した事もある『ブローニングM2032重機関銃』だった。

 この機関銃はドンキーホームで30,000cしたのだが、トーキングヘッドに欲しい旨を伝えたら、仕入れ価格の10,000cで売ってくれた。それでもバイク代をさっ引くとお金が足りないので、それを言ったら天を仰ぎながら呆れた顔で、

 “もう哀れ過ぎて可哀想だから月賦で良いよ”

 と言ってくれた。

 『ブローニングM2032重機関銃』を整備したときに、その軽さに“これならジャイロキャノピーの風防にも取り付けられるな!”と思いこれしか無いと踏んだのだ。



 「これを屋根に付けて、有線で遠隔操作出来る様にしてほしい。給弾は後ろのリアボックスからで、それからハンドル操作も有線で電脳に繋げて自動操縦ができる機構に」

 「ちょっと待つっす。やってできない事では無いっすが、サービスの範疇を遥かに超えてるっす。だいたいホンダジャイロにブローニング重機関銃なんて、パンク過ぎて、アナーキー過ぎてノーフューチャーっす」

 「わかってる。追加料金は払うから2,000でいいか?」

 「そんなもんすかね。いいんすか?本当にジャイロキャノピーにブローニング付けて?前代未聞っすよ?女王様も退位するっす」

 「勝手に退位させとけ、これが俺のハンターとしての道を切り開くのだ!」

 「わかったっす。それじゃ3日程待つっす」

 「頼むぞ!」



 と言って、赤モヒカンの肩を両手で力強く叩いた後、がっしり握手をしてから、その場去っていった。



 「昔はこのバイクはピザを届けてたって聞くっすけど、これからは銃弾をお届けするっすね」

 


 そんな戯れ言を呟き、作業に取り掛かる赤モヒカンであった。



 3ヶ月貯めたお金を1日でほとんど使い切った錫乃介は、これ以上余計なお金を使わないように、この日はランドマインアントのハントをしてから、飯を食べてサウナ入って寝た。


 支出

 ホンダジャイロキャノピー8,000

 カスタム2,000

 ドンキーホーム月賦3,000

 食費20

 サウナ5

 

 収入

 ランドマインアント販売250

 残金483c



 そして、3日が経過した。

 残金1,352c



 「遂に!遂に!俺の足が!俺の車が!これが俺のテクニカル戦車1台目になるんだ!」

 「店の前で叫ばないで欲しいっす。テクニカル戦車って、ジャイロキャノピーっすよ。ピザでも投げるんすか?せめて、大型バイクからにして欲しいっす」

 「だまりねぃ!男のロマンがここから始まるのだ!」

 「このゴーグルはサービスしとくっす」

 「あ、ありがとうございます。じゃ!ちょっくら試運転してくるぜ」

 「不具合あったら言ってくれっす。銃の不具合は知らないっすけど。それじゃまたの利用を待ってるっすよ」

 


 街中をジャイロキャノピーで走る。

 

 快調快調

 

 流石に街中で銃の試射は出来ないが、有線で電脳に繋いで、といっても制御盤から出てるコードに付いているクリップを、電脳のチョーカーに止めるだけだが、電脳の自動運転も可能だ。



 “錫乃介様、風防についているアイカメラも問題ありません”



 オーケーオーケー!

 風防のとこについている小さいモニターにはブローニングに付いているカメラ映像が出て、これをみながらこのジョイスティックで操作できるとか完璧じゃん。ちょっと街の外出てみようぜ。


 “それでしたらついでにランドマインアントでも取ってきましょう。いつもの荷物を置く岩場辺りなら、地雷も問題ないでしょう”


 ようし、遠征いってみるか!




 は、早い、もう着いた‼︎


 いつも2時間かけて行軍してくる場所まで、20分ほどで着いてしまった事に感動する。

  


 蟻地雷が沢山詰め込める!



 キャノピーのリアボックスの上1/3は弾薬だが、荷物は背嚢に入れてあり、下は空けてあるので、蟻地雷が15体入った。背嚢に5体入れれば20体持ち帰れる事になる。


 ウキウキとしてキャノピーに乗り込み街に戻る途中休憩にも使った廃ビルの辺りで、ナビにブローニングの試射を行っては?と提案された。



 “まずはバイクを止めた状態で撃ちましょう”



 バイクを壁に向けて止め、ジョイスティックでモニターを見ながら、コンクリートにある適当な傷を的にし、発射ボタンを押す。


 バドドド!という凄まじい轟音が頭上からしながら、コンクリートの壁に穴を穿つ。車体は反動にも負けないようだ。



 うっるせーなこれ。頭の上から爆音するぜ。嫌いじゃないけどよ。


 “車体は大丈夫ですね。それでは次は車体を壁に対して横にして試射しましょう。足で踏ん張ってください”


 おし、横にして、踏ん張って、発射!



 バドドド!の轟音と共に車体に反動が来る。これは走りながらだと、ハンドルがとられそうだ。

 次に走りながら…


 と、数回の試射を終え、実用に耐えうる事がわかった。走りながらだと、ハンドル操作はナビになるため、反動でも運転に支障が出る事なく、難なくこなしてくれる。自分だったら出来るかわからない。



 “一通り大丈夫そうですね。それでは街に…、まだ帰れそうもないですね…”


 どうした?


 “前方をご覧下さい。視力を強化します。距離1,200メートルです”

 


 視力が強化され、言われた地点に目を凝らすと、正面を向いているのでわかりづらいが、そこにはライフルの様な銃に脚が生えており、こちらに向かって走ってきている姿が4体見てとれた。


 あれは…


 “カラシニャコフです。さて、ここで選択肢が二つ。駆除かハントか、です。逃げるは追いつかれますので、選択肢にありません”



 皆まで申すな。駆除は安全圏のここからブローニング掃射して終了だろ。但し戦利品は標的がバラバラに吹っ飛ぶだろうから無し。ハントはM110で長距離狙撃して素材を残す、しかし、接近されれば命の危険ありってことだろ。当然ハントを選ぶさ!

 

 “よく出来ました。5点あげます”


 ヨーシ!やっと25点だよ。



 お決まりのやりとりをしながら、M110を取り出し、廃ビルのコンクリートブロックを銃架にし、スコープを覗く。

 名前の通りカラシニコフに黒猫の手足と頭が生えている。背中にカラシニコフが埋まっている感じだ。

 


 “まずは調整用に5〜6発撃って下さい。それから、狙撃します”


 あいよ。



 言われるがままに、引金を引く。バスンバスンとスコープを覗きながら撃ち、サイトの調整をする。

 もうすでに距離は700〜800といったところ。この銃の有効射程圏内だ。


 “さ、ヘッドショット以外はお仕置きですよ。補正しますので、合図で撃って下さい”


 やだね〜了解。


 “ショッ!”


 バスン HIT


 “次弾、ショッ!”


 バスン HIT


 “そのまま落ち着いて、ショッ!”


 バスン HIT


 “気を抜かずに、手が震えてきてますよ。ハイ、ショッ!”


 バスン HIT


 “標的、殲滅”


 ふ〜〜〜〜っ

 ありがとうナビ。素晴らしいアシストだ。


 “初の狙撃でよくこれだけの結果を出せました。錫乃介様の集中力の賜物ですよ。さ、収穫です”


 でも、ボックスはもういっぱいだけど?


 せっかく褒めたのに、何でここまで出来て、そういう所に頭が回らないんですか?クライミングロープがあるんだから、風防にでも括り付ければ良いじゃないですか。


 てへっ!そうですね!


 “おっさんの、てへっ!なんて需要どころか迫害の対象ですよ”


 

 気が抜けたね、と呟きキャノピーを走らせる。猫の頭は見事に吹っ飛んで、カラシニコフは無傷に残っている。ロープで4体を括り付けた。

 さ、今度こそ街へ向かって行こうとする。


 “お待ち下さい。左前方上空より飛翔物がこちらに向かって来てます。距離4,500”



 強化されているとは言え、裸眼では認識できないので、スコープを覗く。



 あれは…鳥、この距離であの大きさはデカイな。バルカンムリワシってやつか?


 “あれはその上位種、バルコンドルです。両翼で10メートルはあります”


 でっか。もう飛行機じゃんそれ。倒せる?


 “最大射程ならブローニングの方が6,000メートルと勝ってますし、有効射程も向こうは1,500こちらは2,000と勝ってますが、威力は当然…”


 あちらさんの方が桁違いに上。


 “そうです。ひとまず廃ビルの陰に行きましょう。それからブローニングで威嚇射撃で追っ払いましょう。運良く当たれば儲けもんです”

 


 そそくさと廃ビルまでキャノピーを移動し、コンクリートの陰に入る。

 


 “距離3,000、威嚇射撃をしましょう”


あいよ!

 

 と、返事と同時にバドドド!とブローニングは唸りを上げるが、バルコンドルは意にも介さず、こちらに向かって、高度を下げてきている。



 クッソ!全然気にしてねーな!


 “鷹の目って奴で、こちらの銃口が見えているのでしょう。ですから当たらないのが分かっているんです”



 距離は2,500


 コンドルの背中に付いているM61バルカン砲が早くも火を吹いた。

 ガギュンガギュンとコンクリート壁を20mmの弾丸が打ち砕いていく。



 ちょちょ、あちらさんまだ有効射程圏外じゃ無いの?


 “威嚇のつもりでしょう。当たったらその場所吹き飛びますが”


 この状況やばいんちゃう?


 “そろそろ念仏でも?”


 まだ早いわ!



 と怒鳴るが、グングン近づきながら、弾丸をばら撒いて行くコンドル。コンクリート壁もガンガン削られ、廃ビルの奥に進む以外無かった。

 と、その時銃声が止んだ。


 “!!っ、錫乃介様今すぐ外に出てコンドルに射撃を!”



 ナビの言葉に一切の疑問を持つ事なく、臆する事なく、キャノピーを廃ビルから出すと、ジェット機が上空を通過した時のような轟音を立て、コンドルが廃ビルの真上を過ぎたところだった。

 そのコンドルの羽根目掛けて、ブローニングが火を噴いた。

 羽根に数発受けたコンドルはこちらに戻る事なく、そのまま飛び去っていった。

 そう、バルカンはコンドルの正面、進行方向にしか銃口を向けられなかったため、背後がガラ空きだったのだ。



 “恐ろしい機獣ですね。ブローニングを少なくとも5発は受けているのに、落下することなく飛び去っていきました”


 この3ヶ月砂猫くらいしか出てきて無いのに、今日は当たりなのかね〜と腰が地面におちる。


 “最初のブローニングの試射の音が原因かもしれませんね。この砂漠は風がなければ音が遠くまで良く聞こえます。試射の音で機獣達は近寄ってきたのかもしれません”


 

 そう考えるとデザートスチームが来たら、機獣が出なくなるのもわかるな。あんな馬鹿でかい音出す存在になんか、絶対勝てないもんな。



 “ええ、さあ早く戻りましょう。今度はまたタコが来るかもしれません”


 変なフラグ立てんなや!




 こうして、ジャイロキャノピーの試乗はドタバタとなんやかんやあったが、とりあえず無事に街に戻れたのであった。

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