やっぱ師匠キャラは作中最強でいて欲しい

 表情は無いのでわからない。しかし、確実に悔しそうな顔をしていたのではないか?そんな雰囲気を脳内で感じてしまう。



 時刻は4:58

 ふははは、今日は全身ショック前に起きてやったぜ!悔しそうだな!ナビ!


 “私には悔しいなどという、低級な感情はありませんので、お気になさらず”


 まぁ、そういうな!今日は吾輩の“勝ち”という事だ。たった、それだけの事だよナビくん!


 “早く朝のトレーニングに行って下さい。8:00までに戻れなければわかってますね”


 ふふふ、つれないな!それでは出発と行くか!

 あれ?時間早くなってない?前は8:30だったような…

 

 “教官に口答えですか?”

 

 いえ!自分の勘違いであります!


 あれ絶対怒ってるよ、ぶちぶち思いながらゲルをでる。


 30キロの荷物を背負い片道2キロのワイルドエシャロットの群生地まで行ってから採取をし、外周8キロのオアシスを一周。街の入り口からオアシスまで片道4〜5キロあり、ハンターユニオンがゴールなので、総距離20キロくらいある。

 今日はドンキーホームで仕事だし、ランドマインアントのハントは無しだ。(ランドマインアントは別に依頼が無くても買取は可能だが価格が安くなる)


 エシャロット採取、オアシス一周、そしてユニオンに到着し納品を済まし、モーニングセットを食べてからゲルに戻ってきた。



 残金2,843c



 着替えを済ますが、背嚢は背負ったままドンキーホームに出勤。途中出店で昼飯用のタコスを買っておく(残金2,837c)今日も銃の整備を一日中やっていて良いらしい。

 そう言えばもう1人の従業員、デイビッドが戻っているようでトーキングヘッドに連れられ挨拶した。デイビッドは髪を7:3に分け、細身の身体に白いワイシャツ、スラックスという、俺の時代だったらスーツが似合いそうな男だ。



 「どうも赤銅錫乃介と言います!まだ入ったばかりで何かとご迷惑をお掛けするかもしれませんが、宜しくお願いします」


 我ながら無難な挨拶だ。


 「これは、ご丁寧にありがとうございます。私はデイビッド。お店では主に経理や買付け、システム関連を担当しています。あまり表には出てきませんが、宜しくお願いします」

 

 腰が低いな。


 「デイビッド、彼は臨時のスタッフなんだけどね、やたらと銃の整備が好きらしくて、休みも取らずに熱中するから、そっちを主にやらせている」

 「うちが欲しかった人材ですね、臨時と言わずに正式に採用されてはヘッド?」

 「まぁその話はいずれ、そう言うことだから宜しくね」



 トーキングヘッドが話を切ったので、仕事に取り掛かる。

 デイビッドが買付けをして来たため、倉庫には物が更に溢れているがやはり銃器が目立つ。今回の買付けは大型火器が多いみたいだ。

 カールグスタフ無反動砲

 シモノフPTRS1941対戦車ライフル

 120mm迫撃砲

 155mmりゅう弾砲 FH70

 35ミリ2連装高射機関砲 L-90

 などなどナビに色々説明して貰いながら整備を進めていく中であまり見慣れないスタイルの銃があった。

 大型銃火器だがボディが樹脂製のためか軽いので手持ちで撃てそうだ。口径は12.7mmはありそうだ。

 通常12.7mmの機関銃なんて、土台である銃架に取り付けて地面に置くか、車に乗せるかしないと、手持ちでライフルみたいに撃てるもんじゃ無い。マンガアニメや映画などで人が撃つシーンがあったりするが、そんな事したら、射手だって反動でただじゃ済まないはずだ。やってみる勇気は無いけど。



 “この銃は錫乃介様が飛ばされた時代の後に開発された機関銃です。

 『ブローニングM2032』、ブローニングM2の後継機として銃架無しで手持ちで撃てる用軽量化無反動に改修したものです”


 無反動って、それ銃弾から変えなきゃならないんじゃ無いの?

 

 “そうです。通常弾も撃てますが、無反動用に専用弾を作りましたが、あまりに高コストで軍には不採用となり、早い話が失敗に終わりました”


 ってかさ、M2032ってことは少なくとも2032年までブローニングM2は現役だったってこと。


 “現役どころか最前線でしたよ。ブローニングM2は錫乃介様の時代でも、米軍自衛隊問わず世界で最も配備されている重火器でした。他にも一応『FN M2HB-QCB』というM2の後継機として正式採用された銃もありましたが、銃身交換が容易というだけで、基本構造はM2のままですからね"


 1930年代に作られて、100年近くも現役か。つまるところ、汎用性や使い勝手のよさ、既に大量生産されている物には敵わないんだ。

 老兵は死なずただ消え去るどころか未だ最前線。可哀想だね〜。


 “と言いますか、バトルマンガなどで主人公が修行の後パワーアップして、単体なら師匠以上の実力を持ってラスボス倒したのに、結局100人に分身できる能力を持った年老いた師匠には敵わなかった、って感じです”


 分かりづらい例えをありがとう。



 ミリタリーな話をし、キャッキャ楽しんでいると、あっという間に終業時間だった。

 事務所に入り給料を受け取ろうとすると、向こうのデバイスの金額が200cになっている。



残金3,037c


 「あれ?これって…」

 「給料上げたのに不服なら戻すよ」

 「不服なわけありませーん」

 「ま、試用期間が終わったと思ってくれればいいよ。よく働いてくれているみたいだしね」

 「アザマーーーース!」

 「あ、それから矢破部に聞いたんだけど、野良犬狩りしてる時、不審なヒューマノイドに狙撃され撃退したんだって?」

 「そうっすね。主人か相棒か分からないけど第三者がいる様子だったから、出くわさないうちにその場からはトンズラしたけどな」

 「君にしては賢明な判断だよ。おそらくこの街を侵略しようとする組織のスカウトだよ」

 「矢破部さんもそんな事言ってたけど。矢破部さんとは知り合いなんだな」

 「お隣だしね。それ以上に付き合いもそれなりに長い。たまに世間話くらいするさ。向こうでも世話になってるそうだね」

 「そうだな、日銭を稼がせてもらってるよ」

 「最近だとランドマインアントをハントしていたそうだね」

 「ああ、リクエストは終わったけどな。1体200cだったから俺にできる数少ない稼げるリクエストだったんだが」

 「良かったらうちでも買い取ろう。200cも

出せないけど、50cでいいなら今度取りに行ったら持ってきなよ」

 「アザマーーーース!」



 そんな約束を取り付けドンキーホームを出た後、ゲルに戻ることもせず屋台市場へも行かず、別の方角へ足を向けた。


 “どうしたんです?ご飯を食べに行かないんですか?”


 ちょっと走り足りなくてな。


 そう言って錫乃介は夜のオアシスへ向かって走って行った。


 まさかトレーニングの続きをするとはナビも予想しておらず、驚く出来事であった。



 その後の飯代とサウナ代25c

 残金 3,012c



 こうして1日のサイクルが決まった。週7日のうち5日はワイルドエシャロット取りと早朝トレーニングにドンキーホームで仕事。終わったらオアシスを一周して帰る。

 週2日は早朝トレーニングとハンター業であるワイルドアントのハント。ワイルドアントは5体は持って帰れるので、買い取ってもらうと250cになる。

 贅沢を禁止し、1日の経費は50cに抑えれば、200cずつ貯金ができた。




 こうしたほぼトレーニングと仕事だけの日々が続いたある日のことである。



 夜中に男は身体から蒸気が出る様な熱を発して、1人佇んでいた。

 


 時は満ちた


 あいつの事だ


 策をこらして待ち構えているか


 はたまた攻勢を仕掛けてくるか


 どちらにしてもこのままにはしておけん


 こちらから最大級の攻撃を仕掛ける


 みておれよ!

 


 

 あくる日うだる様な太陽の暑さに誰もが顔を顰める昼間の出来事であった。


 

 「ジジイ!入るぞ!」


 「な、なんじゃ、おま……「皆まで申すな!わかってる、更新だろ。今日で丁度30日だ!ジジイ貴様から請求される前に、こちらから来てやったぞ!いいか、30日で500cだったな。3ヶ月契約してやるから、割り引いて1,400だいいな!」


 「なんじゃ、最近は大人しくしてると思っとったら騒々しい。1400c?ええぞ早よ金置いてけ」

 「………。えらいアッサリしてね?」

 「更新なんぞ、言われるまで記憶の彼方じゃったわ。お前さんがうるさくしなければ一生思い出さんかったじゃろな」



 その様子に無言で金を支払って外に出た錫乃介は、まだ真っ昼間だというのに、大声で叫びながらオアシスに向かって走って行ったという。



 「あいつ最近暇さえあればずっと走っとるの。走っとらんと死ぬ病か?マグロか?

 にしてもガタイはデカくなってきおったのに、頭の中身は変わらんな」



 こんな下らない出来事も挟みつつ、錫乃介がトレーニングを始めて3ヶ月がたつのであった。



 残金13,215c


 

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