やっだね〜

 街に着く頃には辺りは暗く冷たい風が吹き始めていた。

 

 きょきゅかゃしんどの…(教官どの)



 もはや声も絶え絶えとはこのことか、言葉にならない。



 “はい、錫乃介様よく頑張りました。しかし、まだトレーニングは終了ではありません”


 ふぁっ?


 “ゲルに戻り、荷物を置いて、ゲオルグに預けた荷物も回収し、そしてしっかりと栄養補給をして、サウナに入って、終了とします”


 ひゃい!はりあとうほさいます!



 もはや飯など喉を通らぬが、そこもトレーニングと言われたら食べないわけにはいかない。だが、これでもう今日は終わりなのだ。少しだけ、意識が戻った気がした。



 今夜は屋台市場でカレーにした。カレーなら食べられる。どこにでもあるインド料理屋、この街も例外ではなくやはりカレー屋があった。だが店員はどう見てもインド人やネパール人やパキスタン人には見えない。イメージで言うなら北欧。白い肌に金髪のおっさんがカレー屋の店主だった。

 『ニルスと不思議なカレー』それがこの店の店名だった。

 とりあえず大盛りで一皿頼むと、卵を泡立てるボールの様な大きな入れ物で出てきた。見た目はカレーだ。



 “これはカナヴィーロッキというフィンランド特有のカレーです。カシスジャムと一緒に食べるのが特徴ですね”


 フィンランド?フィンランドにカレーあんのかよ!ってか、ニルスはスウェーデンが舞台だが?


 “まぁ、北欧で一括りなんでしょう”


 てっきとーだな北欧人。


 “いえ、フィンランド人が適当なんです。かの有名なエアギター選手権を始め、携帯電話投げ選手権、水中ジョギング選手権、国際雪合戦大会などなど、わけのわからない試合が大好きな国民なので”


 わけわかんねーよフィンランド人!



 フィンランド人の国民性はともかく、カレーは美味い。いわゆる欧風カレーにカシスジャムが良く合う。米はパエリアで使う様な粘りの少ないものだった。



 うん、カレーは飲み物だな。



 食欲は無かったがペロリと平らげ、サウナへ行く。

 そういえば、フィンランドの名物もサウナだったなぁ、ラップランドはどこなんだろう?と寝落ちするのを堪えながら、物思いに耽る。

 ゲルに着いたら、そのまま倒れて寝た。



 残金825c



 次の日またもや5:00に全身ショックで叩き起こされる。身体はやはりバキバキだ。


 “30秒で支度したらエシャロット採取です”


 了解!ありがとうございます!



 おはようの挨拶よりも先にこれだ。



 もはや、諦めの境地で背嚢を背負って、駆け足で飛び出す。

 エシャロットを採取し、街に戻れば案の定そのままオアシス一周だった。

 しかし昨日と違い予想してただけあって荷物は地雷の分重いが、気持ちは楽だ。

 身体は楽じゃ無いが。

 そして一周から戻ってみればまだ7:00と昨日より2分も早かった。

 やはりというか、予想通りそのままハンターユニオンへ行かせられる。

 今朝は受付嬢にヨッ!と挨拶できた。顔は悲壮感に満ちているが。

 先程採取したエシャロットと昨日の地雷をロボオに渡す。

 受け取り金は1,050c



 残金1875c



 昨日の投資金額をもう回収できた事に喜び過ぎて踊ったら、周りのハンターに怪訝な眼で見られる。

 ランドマインアントの依頼を同じく受けてから、屋台市場で朝粥大盛りを食べ、飲み水と携帯食を購入したら街の外へ。



 残金1850c



 荷物が軽くなった事で足取軽く、いやいや、それでも30キロの荷物だ。

 一度こなすとできるものか、今度は休憩なしで奇岩群に着き蟻塚へ。

 5体を何なく狩った所で、荷物置場の岩場で携帯食を食べ水分補給して休息。この時、時刻は11:30だった。


 地雷を詰め込み、えっちらおっちら歩いて街に向かう。途中3匹の砂猫に襲われ、撃退しようとウージーを構えたら、ナビにマチェットを使うように指示されたので、マチェットで頭をかち割る。

 何故マチェットだったのか聞いたら、“銃弾分が軽くなるから”だそうだ。たいして変わんねーよ!と言ったら、全身ショックなので言わない。


 街に着いたら14:00だ。今日はまだまだ余裕がある。時間的にだ。体力的には底を踏み抜いている。



 “今日のトレーニングはハンターユニオンで納品を済ませたら終了です。夕飯はなるべくタンパク質を大量に取ってください”



 そんな事言われても食欲はない。ともかくハンターユニオンに向かい入り口で、ヨゥ…と力なく挨拶してから、蟻を納品する。



 また行って来たんですか?、とロボオに言われ、あぁ…と、力無く返す。

 


 「はい、これでランドマインアントのリクエストは終了です」


 と言われ1,000cを受け取る



残金2,850c



 リクエスト壁を見るともう蟻のリクエストは貼られていない。


 “必要個数に達したのでしょうね”


 もうか?いや、取ってるのは俺だけじゃ無いだろうしな。この稼ぎが続けられるなら、ドンキーホームは辞めようと思ったが、やっぱりまだ無理だな。

 他の依頼は車なり、防弾用具なり必要だしな。

 車か…そう言えばこの街に車なんて売ってるのか?


 “どうでしょうね、矢破部さんにでも聞きますか?”


 忙しそうな人だしな、こんなしょーもない事わざわざ聞くのも気まずいし。ロビタに聞けば良かったかな。ダメ元で受付嬢は、まぁ無理か…アンシャテなら大丈夫かな。


 ユニオンのカフェバーに向かい、ヨッ!と挨拶してからビールを注文。久しぶりのビールに心の中では小躍りだ。


 「はい、お待たせしました、美味しいビールです。今日はもう終わりなんですか?」

 そうだね、今日はもう…といって返事も途中にジョッキを呷る。もう我慢ができなかった。沁みる染みる身体に心に。オムツのハイポリマーより早く吸収する。一息でビールを飲み干しお代わりお願いする。



 「そんなに喉渇いてたんですね。どうしたんですか?」

 「どーしたもこーしたも、トレーニングで一日中走り回ってて、それがキツくて身体がバラバラになりそうだよ。あ、そう言えば、この街で車売ってるとこあるかな?」

 「車でしたら、整備場も販売も全部マーケットの東側ですよ」

 「あ、そうなんだありがとう。これから…「でも、私を誘うなら最低ハマーからですからね」



………。


冗談、だよな?それともコイツもあかん子だったか?次の言葉は大事だぞ…。

 “いやいや誘ってないから”

なんて普通の返ししたら今までの傾向でどんな事になるか想像もつかん。しかし、冗談だったら俺が痛い子になる。どうする?


 “なに自惚れてんの、この売女!”

 あかん、戦争の開始だ。


 “頑張るからさ俺、もう少し待ってて”

 別に口説きたいわけじゃ無いし。


 “俺なんかじゃハマー乗っても…”

 これだ!



 ここまでわずか0.02秒の思考だった。


 「いやいや、俺なんかハマー乗った所で、アンシャテみたいな良い子とは釣り合わないよ」


 どうだ⁉︎

 俺の長年の営業サービス業で培った、相手を持ち上げ自分を落とす作戦は!大概の事案はこれで乗り切りれる!


 「身の程をご存知の様で安心しました。キモいおじさん、略して「キモおじ」とは言えお客さんだから、誘われたら無碍にも出来ないし、どうしようかと思ってました。それでは、ごゆっくりどうぞ!」



 と言って素晴らしい笑顔で頭を下げて他のテーブルへ向かって行った。



 あかん子だったぁ!無碍どころか愚弄しまくりディスり過ぎぃ!

 どこで何のスイッチ入ってるんだろうな、あの子達は。



 にしても流石俺。この事態乗り切ったぞ。あの程度の侮蔑や罵りの言葉なんぞで、この俺が引くと思ったら大間違いよ。くぐり抜けて来た修羅場の数が違うんじゃ。にしても、“キモおじ”は初めて言われたな。あれ?何か目に…。



 肉を切らせて骨も断たれた錫乃介は、フラフラよろよろしながらマーケットの東側へ向かう事にした。



残金2,840c



 マーケットの東側は区画全てが町工場であった。鋳物加工、部品制作、精密加工、車整備場、屑鉄金属買取、石油プラスチック買取、ガソリンオイル取扱etc…



 すごいね、至る所で叩いたり削ったりの金属音やモーター音がしてるよ。風も鉄錆臭かったり、ガソリンの臭いがしたり、どことなく空気が鉄の味する。嫌いじゃないねこの雰囲気。



 ブラッと各通りを歩いてみるが、賑やかな事この上ない。連れが隣にいたとしても、会話すら出来ないだろう。そのまま大通りにでると、通り沿いにはセダンやトラック、バイク、所によっては軍用車も販売していた。



 ハーレーは当然の様にあるな。原付、スーパーカブにカワサキZ、ホンダワルキューレルーントライクにヤマハドラッグスターっておーい、かっちょいいなぁーもー。趣味に走り過ぎだろ〜



 こっちはジープにピックアップ、キャラバン、各種軽トラ。消防車にブルドーザー、クレーン車おっと噂のハマーもあるね。だいたいどれも車はテクニカル(武装車)だ。



 あっちは軍用車か。トラック、輸送車、装輪装甲車、可愛いマメタンまであるわ〜

 こんだけ古今東西の車が揃ってるところなんて俺の時代では無かったぞ。



 しっかし相場が全くわかんねーな。当然今の持ち金じゃ軍用車、テクニカルどころか、バイクも手が届かないだろうな。スーパーカブくらいならいけるか?とりあえず当たって砕けるか。あの店員らしき赤いモヒカンに聞いてみよう。

 

 「サーセン、ちょっと興味本位でお尋ねしますが、このスーパーカブってカスタムしてあるんですか?」

 「いや〜特には。スーパーカブなんてもうそれで完成されてんすから、それ以上にはできないっすよ。それ以下でも決してないっすけどね」

 「機関銃とか武装したりできないんですか?」

 「スーパーカブに武装って、パンクな発想っすね。でも機関銃取り付けるところもないっすから。

 ウージーとか取り付けるくらいなら、片手で撃った方がまだ当たるっす」

 「そりゃそうだなぁ。んじゃこのノーマルのスーパーカブはいくら?」

 「8,000cっすよ」

 「2,000cでどう?」

 「勘弁して下さいっす。故障して動かないスーパーカブの買取がそれくらいっすよ」

 「そうか、すまないね、持ち金無くて。また遊びくるよ」

 「遊びにはあんまり来ないで欲しいっす。買いに来て欲しいっす」



 ハハッそれじゃ、と言ってその場を離れる。



 おーし、赤モヒカンから情報仕入れたぞ。動かなくなったスーパーカブの買取が2,000cってことは、5,000〜6,000cくらいだったら原付くらい買えるかもしれないってことだな。少し目標が見えてきたな。



 目的が出来た事で、モチベーションも上がってくる。

 意気揚々と工場区画を後にすると、もう日没であった。

 ナビからタンパク質を摂るよう言われているので、屋台市では色んな屋台で焼鳥をメインに購入。ドラム缶のテーブルでビールを飲みながら食す。日本風の甘だれもあれば、チリスパイスのエスニック風、シシケバブ風、蜂蜜を使ったハニーロースト風と様々な味付けが楽しめた。〆には大きいピザを購入。シンプルなマルガリータ風だ。美味い美味いと食べている時に、ふと手が止まる。



 ピザ、か。ピザと言えばデリバリーだよな。デリバリーと言えばホンダジャイロ!(三輪バイク)あれなら収納力もあるし、風防もついている。もしかしたら、風防の上に機関銃くらいのせられるんじゃね?そんで自動給弾にして、キャリーケースから弾を供給して、バイクのハンドル辺りにスイッチ付けて、射撃できるようにする。おおぅ!夢が広がりング!



 “ホンダジャイロに、重機関銃なんて搭載しても車体が耐えられますかね?”


 知らーん。まぁロマンだよ。ナビそれやったらどうなるかわかんない?

 

 “原付三輪バイクに重機関銃を搭載させて戦闘ないし試験したデータが過去に見当たりません”


 じゃあ、俺パイオニアじゃね?


 “パイオニアというか、試す程の馬鹿が居なかったというか…”


 原付のスピードでブローニングM2ばら撒くことできたら、強すぎて皆んな腰抜かすぜ!


 “その発想に開発者のジョン・ブローニングがあの世で既に腰抜かしてますよ”


 ヨーシ!当面それが目標だな!



 新たな目標を胸に、その日はサウナ行って締めるのであった。



 残金2,800c

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