火の鳥 錫乃介編
街に戻った錫乃介は、換金と報告の為ハンターユニオンへ。
いつもの、ヨッ!という挨拶をしながら、受付カウンターへ向かう。
「お疲れ様です。おかえりなさい」
と、笑顔で挨拶するエミリンとウララ。
“わっ、こっち来たよ!”と2人とも内心思いながら。
「あのさ、ちょっと聞きたい事あるんだけどさ」
ん?なんかデジャブ。
「え?駄目です。今夜は先約があるんで、ちなみに明日も明後日も予定があります」
こんな見え見えのお断り文句、100も200も言われたさ。ここで、“あ、じゃまた今度ね”なんて引き下がる様じゃ一生チャンスは巡ってこない。むしろここがスタート地点なんだよ。
百戦錬磨である錫乃介にはエミリンのお断りなど一切通用しない。そもそも場数が違うのだ。もちろん戦いの結果は百敗だ!
ちげーよ。
「あの〜ウララさん?ちょっとお尋ねしたいんですがね?」
「あら、振られたのを目の前で見てる女に声をかけるなんて、あなたの心臓はスチールウールが生えているのかしら?答えはもちろんノーよ」
ふふ、舐めるなよ。俺の様な真にモテない男にはな、振られるなんて毛ほども感じないんだよ!
数撃ちゃ当たる。それで良い。それこそが最大にして最強の矛よ。
“誠心誠意だの“、“純粋な思いだの“、“一途だから“なんぞ、新聞紙で作ったつっかえ棒の方がまだ役に立つわ!
そして、数撃ってかすった所に食らいつく!これこそが、非モテ男の必勝の策よ!覚えたか?キッズ達!
“錫乃介様?必勝の定義を教えて下さ…「黙りねぃ!!」
ナビを一喝で黙らせる。
「でも、その度胸に免じて、話くらいは聞いてあげる」
「ウ、ウララちゃん⁉︎」
「大丈夫よ、話しを聞いてあげるだけ。私がこんな男にどうこうされるわけないもの」
かすったぁ!!
馬鹿!ちげーよ!!
何しに来たんだ俺は!
「ごめん今日はちょっと、タイミング違ったみたいだ。またにするよ」
「ちょっと、この私が話くらいはって言ってあげたのよ?千載一遇のチャンスを無にする気かしら?」
「すまねぇな、今日は星の巡りが悪いらしぃ」
「そう、エミリン一筋ってわけね…」
「ウ、ウララちゃん⁉︎錫乃介⁉︎」
“んじゃ俺行くから“と、アホな三文芝居を繰り広げる場から一足先に離脱した錫乃介はリクエスト室へ向かった。
リクエストカウンターのスタッフはロビタの様な如何にもロボといったアンドロイドだ。ドラム缶の様な胴体。手足はまるで掃除機のホースみたいな蛇腹だ。両腕の先に片手だけで10指あるマニピュレーターがついている。頭は横に潰した大福の様に平たく長くガンダムのザクの様な一文字のアイカメラを持っていた。その顔を見て錫乃介は心から安堵の息を吐いた。
「野良機獣犬駆除のリクエストを遂行した。確認を頼みます」
「はい、錫乃介様。本日はお疲れ様でした。只今確認致します」
この普通のやりとりにこんなにも安心感が生まれるもんなんだな。
先程の受付嬢との茶番劇に、ただでさえ重い荷物でヘトヘトなのに、精神力までゴッソリと持っていかれている。
「ハイ、確認終了です。野良機獣犬11体の駆除、報酬は1対につき50c。550cのお渡しです。お受け取り下さい」
「ありがとう、本当にありがとう」
残金1,683
この普通のやり取りと、今まで物を売った時を除いて1番1日で稼いだ金額に、錫乃介は少しばかり感涙していた。
「あの、一つお伺いしたいのですが」
「なんでしょうか?」
ふ、普通だ…
「矢破部さんは今日はまだ会えるかな」
「申し訳ございません。私は矢破部のスケジュールは把握しておりません。ですが、事務室に取り次いでみますので、少々お待ち下さい」
ああ、普通だ。
このロビタを受付にしろ。あ、でもその代わりにあいつらがここを担当する事になったりしたら、リクエストがしっちゃめっちゃかになりそうだな。駄目か。
「はい、取り次ぎが出来ました。2階の事務室に向かって下さい」
「感謝する」
そう、伝えると2階の事務室に行くと、矢破部はディスプレイの前でデスクワークをしていた。
「ああ、錫乃介さんお疲れ様でした。話があるそうですが?あ、どうぞそこに掛けて下さい。」
「ええ、お時間ありがとうございます。実は…」
と言って、パイプ椅子に座りながら、今日の野良犬駆除に関しての報告をした。
野良犬では無く軍用犬の可能性が高い事。ヒューマノイドの狙撃手、相棒か誰か第三者がいる事を示す背嚢…
「成る程。野良機獣犬は自然発生では無く人為的か、しかもヒューマノイドに第三者の痕跡。もしかしたら、組織的な活動をしている奴らのスカウトの可能性がありますね」
「スカウト?戦争でもあるんですか?」
「この街は資源はないですが、莫大な電力を生む受電設備があります。この街だけでは有り余る程のね」
「それを狙う奴らって事ですか?」
おそらくはと、矢破部は少し中空を睨みながら答える。
「この街はここ10年間で4度の組織的な侵略を受けています。その度に街にある防衛システムやハンターが撃退をし、勝利していますが街の傷跡はご覧の通り、復興もままなりません」
「10年で4度の侵略って、多く無いですか?」
「どうでしょう?他の街の情報はあまり入ってきませんから、比較ができません。先日のデザートスチームからもたらされた情報では、近くの街がある組織に侵略されたそうだ、という噂だけです。
近くといってもここから200キロは離れてますが」
“錫乃介様これ以上は首を突っ込むのをやめましょう。我々には関係ありません。侵略された街は近寄るのをやめましょう”
そうだな。知ったところで俺如きにどうにか出来る案件でもないし。
「ま、報告は以上だよ」
「ありがとうございます。実に重要な情報でした。これは情報料です、少ないですが受け取って下さい」
「え?いいんですか?」
「当然です。もちろん重要な情報と私が判断できた時だけですがね」
と言って出された端末には“200c”と出ていた。
残金1,888
「あっざーす!」
思わぬ臨時収入に、ホクホクの笑顔で大声で感謝を伝え、事務室を後にした。
事務室で残った矢破部は1人中空を睨んだままだった。
街からわずか5キロ地点にスカウトの拠点ですか…またもやキナ臭くなって来ましたね。とり急ぎトーキングヘッドに伝えておきますか…
さーて、ビールビール!
ユニオンのカフェバーで一杯引っ掛けてから、何処か飯屋を探す事にした。
「ヤッホー!アンシャテ」
「お疲れ様です、錫乃介さん。ビールですね?」
と言って首をチョンと傾ぐ。赤髪ツインテールが揺れる姿は実に可愛らしい。
「お、言わなくてもわかってくれてる!嬉しぃ!そ、ちょっと一杯だけね、サッと飲んだらガッツリ飯食いに行くから」
「あら、何処へ行かれれるんですか?」
「まだ決めてないけどね。今日は魚かな?美味しい店を見つけたいね、孤独のグルメだけどさ。」
「それはお誘いですか?ふふ。でも、私達アンドロイドはご飯の美味しさがわからなくて、羨ましい限りです」
「そうだね〜食べられないもんね」
うん、まてよ?
「少なくとも私達は人間と同じご飯を食べれるんですが、それはあくまでも燃料補給であって味とか香りの分析はできても楽しめないんですよ」
そういや、腸あるもんな。消化吸収出来なきゃおかしく無いか。
「燃料補給はご飯でするんだ」
「ご飯と電力、両方です」
なんと、無駄にハイテク過ぎる。エネルギー源両方必要とは。
と、そんな話をしているとビールを飲み干している事に気がついた。
「おかわりお持ちします?」
「いや、今日はこれで次行くよ。それじゃ、また明日!」
「はい、楽しんできてくださいね」
残金1,883c
絶対俺のこと好きだな、アンシャテは。
“錫乃介様、変な期待は…黙りねぃ!皆まで申すな!
ナビを一喝して黙らせた後、出入り口の受付を通る時は何事もなかったように、“じゃっ、また明日!“と言って足早に通り過ぎた。
何か言いたげな2人だったが、他のハンター達の応対をしていたところだった。
ハンターユニオンが閉まった後の控え室。
「ね、今日錫乃介にご飯行く?なんて誘われちゃった!」
「あいつ!私が話しを聞いてやるって言ったのスルーしてアンちゃん誘ってたの?」
「私の事一筋とか言った癖に、その足でアンちゃん誘ったって事⁉︎」
「受付でそんな事してたの?」
「「「さいってーー」」」
「なんか、私だけシカトされてるみたいで腹たつんだけど!それで、アンちゃんなんて言ったの?」
「ご飯の美味しさはアンドロイドにはわからないからって言って遠回しに断ったよ」
「アンちゃん優しい、でも嘘付き〜。すんごいグルメの癖してぇ〜。だいたい料理してる人が味わからない訳ないじゃんねぇ」
「エミリンなんか今日も明日も明後日も予定あるから無理!ってストレートに言っちゃった」
「エミリンも嘘つき〜。でもでも聞いて、その後ご飯と電気の燃料補給はどっからするの?って嫌らしい顔で聞いて来たのよ!やっぱ…」
「「「キモーーーい」」」
話が歪められながらボロクソ言われている事なんて知らぬ錫乃介は荷物を置きに一旦ゲルに戻る事にした。
といっても、ゲルにはカギなんぞ無い。そこでゲオルグの爺さんに預かってもらえるか聞こうと思ったが、そこでいつもやり込められている仕返しに、今度こそ先制攻撃をかますことにした。
ゲオルグはチャイの様なものを飲んでいた所だが、問答無用で急襲する。
「ゲオルグの爺さん、荷物の預かりよろしく頼むよ。こんなの無料だよなって言いたけどよ、預かり賃払ってやるよ3cだ。これで充分だろ?」
「騒々しいの。そんな馬鹿でかい荷物持ってきて来おって、10cじゃ」
「業突く張りの死に損ないが!5cで充分だ」
「まぁ、ええじゃろ。それより、お主何があった?顔つきが一つ二つ成長してるぞい。急に男らしくなりおって」
「なんだろうな?死闘を演じてきたからか?えらい疲れたぜ」
「良かったの。男は修羅場を潜って成長していくもんじゃ」
「じゃ、頼むぜ」
「任せよ」
と、ゲオルグのゲル内を見回すと、辺りに荷物が色々ある。
「こんなに荷物預かって儲かってるな、爺さん」
「何言ってるんじゃ?このゲルの泊客の荷物の預かり賃なんぞ貰っておらんサービスじゃ」
「な、馬鹿な…」
「お主が払う言うたから貰ってやったのじゃ。ちなみに泊客じゃ無くても2cじゃ。外の看板に書いてあるぞい」
バタバタッと外に出て看板を見れば、
“荷物預かります 1日2c”
と確かに書いてあった。
チッキショーーー!
夜の街に男の叫びが木霊した。
「アホじゃのアイツ」
ゲオルグのそっと呟く声がゲルから漏れていた。
残金1,878c
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