オラこんな村やだ

 ヒューマノイドから取れた戦利品は、ライフルに拳銃、弾薬、サバイバルナイフ。迷彩服やブーツは先程の銃痕を除いても、既にボロボロだったのでポケットを確認しただけにしておいた。



 このライフルと拳銃は随分良さげな物じゃない?


 “拳銃はシグ・ザウエルp320 。ライフルはM110 セミオートスナイパーライフル。両方とも旧米軍で正式採用されていた銃ですね。ちなみに迷彩服もブーツも全て旧米軍で採用実績のある品です”



 一瞬、“米軍の陰謀⁉︎“なんて言葉が脳裏をよぎったが、銃器だけで無く、アメリカの軍需品全ては他国に比べ圧倒的に生産量が多かったのだから、ここにあっても不思議では無いだろう。



 “お考えの通り、単純に物量の問題でしょう。ハンターマーケットで売られている物も、ドンキーホームの倉庫にあった銃器も7割がアメリカ製でした。

 このヒューマノイドがアメリカ製で統一されていた事と、旧米軍は関係ないでしょう”


 わざわざ“旧“なんて付ける所に含みがあるね。


 “現在も米軍が残っている、もしくは名を変えてなんらかの形で組織として継続している可能性はゼロではないですから”


 コイツは何が目的でいたんだろうな?


 “さて?それを考えるより、このビルの探索と行きましょう”


 おっとそうだったな。


 廃ビルは通路が窓際に面し、それに沿って扉が並ぶシンプルな造りだ。初めに戦闘があった最も近くの部屋に入ると、早速ヒューマノイドの物と思われる背嚢を見つけた。

 中をあらためると、水筒、レーション、3日分程の着替え、携帯シャベル、弾薬、テント、メディカルキット。

 


 一通り揃ってるな。このまま背負って貰っていくか…って重っ!


 “当たり前です。ざっと見30kgはありますよそれ。ただでさえ先程手に入れたライフルだけで、15ポンド(7キロ)はありますし、元々のキャンバスバックの荷物だけで10キロ以上あります。その背嚢は錫乃介様の今の体力では到底持ち帰りはできませんね”


 クッソー!わかってたよ。わかってたさ!

 最近のゲームみたいにさ、道具袋とかあってさ、何でもかんでも見つけては持ち歩いてさ、最近のファンタジー小説は何かと言うと、収納魔法とかさ、異次元収納とかさ、アイテムボックスとかさ、もうそれだけで、反則なんだよ!昭和のゲームは持てる数決まってたんだよ!8個しか持てなかったんだよ?武器とか防具とかイベントアイテム持ったら、薬草2個しか持てなかったんだよ!信じられる?わかる?平成令和キッズたち!



 “ま、置いていきましょう。ちなみに、平成以降発売されたゲームにもアイテム枠とかありまして、難易度調整に一役買ってるゲームは沢山ありますよ”


 知ってるわ!全てリアルタイム世代だわ!


 “果てしなく下らない事は置いといて、この背嚢で1つ興味深い事があります”


 なんでぃ?


 “ヒューマノイドは僅かな水と適度な休息だけで行動ができます。それ故に排泄をほとんどしません。汗腺も排泄器もありません。あると言えば排熱機能くらいです”


 それがどうしたん?


 “わかりませんか?少しその頭のニューロンに刺激が必要ですね”


 ちょっと怖いからやめて。あ、わかった。着替えとかレーションか。これで20点だな。


 “この程度では、点数は上げられません。その事実から導き出る可能性は?”


 ケチくせーな!え〜と、自分用では無い、つまりバディなり相方なり主人なり、この場にはいないが、第3者がいた!…可能性がある。


 “良くできました。5点あげます。


 やっと20点だな!長かったわ!


 “着替えは、ボロくなったら着替える可能性はありますが、ヒューマノイドが自ら着替える事は、羞恥心などの自我が無いため考えにくいです。それからレーション、これは人間用と機獣用がありますね。これで、あの野良犬達はこのヒューマノイドが連れてきた物である事を裏付けます。

 そして、テント。ヒューマノイドはテントは必要としません。3〜4日に動きを止め数時間のメンテナンスタイムがいるだけです。

 

 あの犬達は軍用犬だったのか。つまり、コイツは荷物持ちの待ちぼうけだったというわけか?


 “全て状況からの推測ですが、まず間違い無いでしょうね。失踪か、作戦か、それとも別の何かか、第三者はここに居ない。そして、このヒューマノイドはまだここに来てそう時間はたっていない”


 ハンターユニオンに上がっていた情報は野良犬駆除だけだったし、この付近に狙撃の被害者みたいのは居なかったし、その情報もなかったしな。

 つまり、第三者が主人なのか作戦行動中の軍人なのか、死んでるのかわからないが…、あのヒューマノイドの頭かち割って、中身を分析できないのか?


 “スプラッタな事をサラッと言いますね。そういうの頼もしいですよ。結論から言うと無理です。それなりの設備があれば可能ですが、私だけでは無理です”


 ですよね〜


 “更に言うと仮に作戦行動中ならば、生捕にした時点で、この手のヒューマノイドは自壊するでしょう。軍用なら尚更です。


 あのさ、色々総合するとさ、もしコイツの相棒なりが生きてて今の現場みたらさ…


 “ものすごく怒られるでしょうね”


 怒られるだけで済む?


 “詫びを入れさせられるかもしれませんね。その命でって言われて”


 駄目じゃん。探索やめてとっとと逃げようぜ。


 “その意見を支持します”


 ワンコロの証明部位だけは剥いでくぜ。


 “そもそも、それが目的でしたからね”


 2人?は辺りの探索を早々に切り上げ、仕留めた機獣犬11体の証明部位(左耳)を剥ぎとり、廃ビル群を後にした。





 帰る道中錫乃介はボヤく。


 あ〜背嚢だけじゃなく、あのビル絶対他にも金目の物なんかあったよな〜


 “どうでしょう?通常の探索という名の盗掘はとっくの昔に終えている様子でしたが?”


 気分の問題だよ。俺ダンジョンはくまなく歩き回らなきゃ気が済まないタイプなんだ。例え、地図持っていても自分で見ないと気がすまいんだよ。


 “面倒臭いですね、戻ります?”


 命には変えられねぇ。


 “正しいです。もしかしたら、倒れていたのはこちらかもしれなかったんですからね”


 あ〜……


  “どうしました?今更動揺ですか?”


 そうだな。人間じゃなかったけどな。それは結果論だ。

 

 “それは、錫乃介様が考える事では無いのでは?”

 

 ま、そうだな。


 “ヒューマノイドの事をお話ししましょう”


 薮から棒だな?


 “悩んでも答えもでない、どうしようも無い事は、適当に気を紛らわしましょう”


 カウンセリングも搭載済みか。


 “ええ。ヒューマノイドは何故生まれたか?今までのやり取りで何とは無しにわかりましたか?”


 そうだな。いわゆる人間に変わる労働力だろ?人間にしか出来なかった手作業やさっきみたいに兵士の真似事や荷物持ちのシェルパ。コロシアムの剣闘士とかもできるな。危険地帯の救助作業。飲食の配膳。なんでもできるな。

 自我がないから、文句も言わないし、給料もいらない、少しの水と休憩中だけで行動可能ってなったら、人間より重宝するな。


 “その通りです。その為各国で大量生産がはじまりました。仕事はヒューマノイドに人間は趣味や娯楽に生きれる時代が到来する事を夢みて”


 んなわけねーよ。パソコンが生まれて各家庭に一台普及し始めて、インターネットができる過渡期の頃よ、これで仕事が楽になって、わざわざ会社に出勤しなくて、お家でちょこちょこパソコン触るだけで仕事が終わる時代が来るって、過密都市はおさらば。田舎でのんびりしながら、皆んなが人生余裕持って過ごせるって、平成の始めの頃はそりゃもう夢の時代が来るって言ってたんだぜ。

 蓋を開けてみたらどうだよ、満員電車も判子書類も、毎月毎週の会議もなくなりゃしない。それどころか、家帰ってもスマホやらタブレットやらに仕事で振り回される。なんも変わりゃしなかったどころか、酷くなったんじゃねーのか?

 変わったと思えたのはコロナでパンデミックが起きた時だったな。ありゃ社会が変わる!と思ったもんだ。沈静化したらまた元通りの満員電車だったけどな。


 “随分弁が立ちますね”


 ずぅーっと思ってたことだからな。俺だけじゃねぇ。みんな同じよーな事思ってたんじゃねーの。でも、こうして目覚めてみればものの見事に世界が変わってるのは皮肉なもんだがな。


 “満員電車も判子もスマホもネットも無いですよ”


 理想の世界はここだったか!


 と、心からそうなんじゃ無いか?と思い始めていた錫乃介がいた。






 その一方、崩れ落ちたヒューマノイドの頭を踏みつけながら、苦虫を噛み潰した表情の者がいた。


 情報が早いな

 もうここがバレていたか

 トーキングヘッドの手の者か…

 それとも矢破部か…

 やりやがる

 

 致し方ない

 いずれにしても

 アスファルト侵攻は見送りだな

 一旦な

 


 何者かは背嚢も持たずその場を立ち去っていった。

 この者は大変な誤解をしていた。単純に物盗り程度の仕業であれば、アスファルト侵攻という大それた計画の変更は無かったであろう。

 しかし、機獣犬やヒューマノイドが仕留められていただけではなく、わざわざ機獣犬の左耳を剥ぎ取っていた。という事はハンターがやった証だ。ハンターは生活の為に金目当てにやる職業だ。にもかかわらず、背嚢や金になる物を捨て置いたという事は金目当てのハンターや物盗りではなく、警告と深読みしてしまったのだ。

 実際は錫乃介が、背嚢が重くて持てず、状況分析でビビって逃げ去っただけなのだが。

 

 知らずに戦闘を回避させた錫乃介は、いつもより、こそこそと街に戻るのであった。

 真っ赤に染め上がっていた空は、宵闇に包まれ、ひっそりと月が街を照らし始めていた。

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