once in a lifetime

 

 ナビにピリッとくるショックで起こされた錫乃介は身支度をする。

 マチェットを腰に付け、ウージーは肩掛けにし、掛け布団代わりにしていたマントを羽織り、ショットガンや、服が入ったキャンバスバッグを背負うと、ゲルの老人に挨拶してから、ハンターユニオンに向かった。


 受付嬢達にヨッ!と挨拶してからリクエストカウンターに向かうと既に数人のハンターがいる。皆んないかにも強者の雰囲気オーラを出している。

 その中でも一際目立つ存在がいた。ラオウ山下だ。


 「あ、ラオウさん昨日はありがとうございました!

 「おぅ、オールドルーキじゃねぇか。エシャロットは採れたか?」

 「はい、帰りにフライングオクトパスには追いかけられましたが、採取地にいた砂猫は頂いたショットガンで撃退できました」

 「な〜に〜、あの化け物ダコと遭遇したのか!よく生きてたな!おめぇ、運がいいぞ!」

 「すんでのところで、デザートスチームの艦砲射撃があって、助かりましたよ」

 「何でも良いんだよ生き残ればな。ハンターは生き残るのが1番だ!ガハハハ!」



 見た目通り豪快に笑うと、俺の肩をバンバン叩いた。凄まじく痛いが、心地よい痛みだ。



 「んで、今日はどうするよ?」

 「はい、今からリクエストを確認しようかと」

 「んそうか、だがまだスチームがいるから、今あるリクエストはデミブルやワイルドトラクターのハントとかだな。こいつらはルーキーのお前さんにはちょいと荷が重いな。荷台があったり牽引したりできる車がなきゃいけねぇからな」

 「そうなんですね。アドバイスありがとうございます」

 「良いって事よ。スチームが出発してからも暫くは何もねぇだろうからな。じゃ、死ぬなよ!」



 そう言ってラオウ山下は部屋を出て行った。



 気持ちの良い人だ。

 ってことは、それまで何する?またエシャロットでも取りに行くか?

 ひとまず、朝飯でも食うかと、カフェバースペースに向かった。


 「おはようアンシャンテ」

 「おはようございます。錫乃介さん」


 笑顔が可愛いなぁ。


 「あれ?俺名前言ったっけ」

 「ごめんなさい、勝手に矢破部に聞きましたの」

 「ああ、全っ然構わないよ!」



 わざわざ名前聞いたなんて、俺に興味あるのか〜、いゃ〜参っちゃうな〜この歳でモテ期到来かな〜



 "錫乃介様、あれはただの営業…「黙ろうね〜そんなのわかってるから、少しは夢見たって良いよね〜。こちとら小学生の頃から、席決めで隣に座った女子好きになるレベルだったんだから〜、消しゴム拾ってくれたから、なんて生優しいレベルじゃないからね〜、そんじょそこらの童貞とは潜り抜けて来た修羅場の数が違うんだよ。


 "踏み抜いて来たドブ板の数が違いますね"


 そうそう。ん?今愚弄された我?

 まあ、いいや


 「朝食みたいのある?」

 「はい、モーニングはレンズ豆のシチューとピタパンです」

 「オケ、それ下さい」

 「ありがとうございます」


 アンシャンテ、あの子は正常だなぁ。

 元々の性格なのか?

 ああいう普通な感じいいよね。


 そんなことを思いながら、今日の予定を考える。


 エシャロットを採りに行く?

 街を散策する?

 トーキングヘッドに会う?


 うん、少しでも稼ごう。

 既に昨日の稼ぎは使い切ったし、この朝食分でまたマイナスだ。


 「お待たせしました」

 

 と、思案しているとモーニングセットが来た。早速ピタパンを千切ってシチューに浸して食べる。



 うめぇじゃん。朝食でこれってレベル高いな。



 軽く焦がしたブラウンソースにレンズ豆と潰したトマトにブイヨンでのばしたシンプルなものだが、味わい深い。謎の肉のベーコンのようなものがアクセントだ。



 「これ、すごい美味しいけど誰かシェフいるの?」

 

 「ありがとうございます。私が仕込みもしてますよ。お口に合ったみたいで嬉しいです!」


 隣のテーブルを片付けているアンシャンテに聞くと、はにかみながら答えてくれた。


 「ふぇーー、すごい可愛くて、料理も良いなんて、アンシャンテ最高だわ」

 「ふへへ、そんな言われたら照れちゃいます」


 と言ってアンシャンテはバックヤードに下がっていった。


 フッ、落ちたな…


 "気持ち悪がってますよ、アレ"


 ナビ、そんな事はなぁ……、わかってんだよ!馬鹿なこと言ってねーで出発でい!



 モーニングセット7c



 残金1,297c






 その後、バックヤードで3人の女子が休憩時間に集合していた。


 「ね、今日錫乃介に可愛くて、料理が上手くて、最高だ!なんて、言われちゃったの!」

 「すずのすけ?」

 「エミリン、あの男よ、昨日の変態妄想虚言癖、さっきもあったけど」

 「あー、あの変態。私を不手際の詫びに抱こうとしたぁ?あいつ錫乃介っていうんだ、知らなかったぁ!」

 「ってか、アンちゃんそんな事言われたの?」

 「そーなの!なんかぁ、いやらしい目でこっち見てきてぇ…君は最高だぁ、なんて事言ってきたもんだから、逃げちゃった。料理なんて、アプリインストールしてるだけで誰でも出来るのに、マジで、


 「「「キモーーい」」」




 多少事実がねじ曲がっているが、そんな風に言われている事など露知らず、いや、半分くらいは気づいているが、錫乃介はエシャロットの地に再び向かいながら、ナビを話し相手にしていた。



 よくさ、男女関係なくモテるモテないってあるじゃん?


 "そうですね、古今東西神話の時代からそう言った話はあります"


 あれさ、お洒落に気を使わない、異性に話しかけもしない、美味しいレストランも知らない、運動もできない、勉強も出来ない、それどころか部屋から出ない、そんな奴がモテるモテないを、語るのはなんか違う気がするんだよね。


 "確かにそれは、モテるモテないそれ以前の問題な気はしますね"


 そう、俺なんかね、ナンパしまくったし、お洒落も気ぃ付けたし、美味しいレストランもいっぱい知ってるし、デートも何回もしたけど、ぜーんぶ振られてんの。

 だからこそ言いたい、俺こそが世界モテない男ランキングのトップランカーだと!


 "いったい何の自慢なんですか…"


 モテない男を語るんだったら、努力して努力して結果出なくて、初めて語れる資格があるっての。



 凄まじく不毛な力説をしていた錫乃介だが、気付いたらオアシスの跡地に辿り着いていた。



 さ、ワイルドエシャロットちゃーん


 サクサク採取を進めて、小一時間で100個採ったところで岩に腰掛け、水をグビリと一息ついた。昨日買った水は飲んでる暇が無かったため、まだ半分以上あった。


 その時街の方角から、大気を震わせる巨大なな汽笛が聞こえた後、重厚な金属を擦り合わせた重低音が大地を伝わってきた。


 ここまで聞こえてくるこれは、デザートスチームか、発車したんだな。

 って事は、昨日みたいな奇跡はもう望め無いな、さっさと戻るか。



 今回は砂猫も出現せずに、すんなりと街まで戻れたが、少し肩透かしを食らった気持ちがあった。

 帰路の途中、デザートスチームが雄大な存在感を示しながら進む周りに、数多くのバギーやバイク、ジープ、トラック、時には戦車が見られた。

 その姿は、海の中で巨大なジンベイザメに併泳する小魚達のようであった。


おー、映画『マッドマックス2』まんまだなぁ。壮観、壮観。

デザートスチームと共に行けば機獣に遭遇する確率は格段に減るから、安全な旅には丁度良いんだな。キャラバンみたいだ。



 そう思う錫乃介の通り、デザートスチームの船団はトレーダーがメインで、その護衛のハンターやおこぼれに与ろうとする者達、春を売る者達、デザートスチームで働く者の家族等の大移動であったため、キャラバンそのものと言えた。



 さって、ごきかーん。


 

 ユニオンに戻った錫乃介は、ヨッ可愛子ちゃん達!と受付嬢に挨拶すると、スッと2秒程の間を置いてから、クスクス笑い始めてから、


 「「お帰りなさーい」」


 と、返された。


 笑われたぞ。

 そうか、会えて嬉しかったか。

 そうか、そうか。


 と、またもやポジティブに考え、エシャロットの換金を済ますと、リクエストの壁を見るが、いくつかリクエストはあるがまだ更新されていない。


 残金1,347c


 車、か。

 稼げる様になったら、車買お。

 このままエシャロットだけじゃ、極貧生活まっしぐらだしな。



 ヨッと、受付嬢達に挨拶してユニオンを出た錫乃介は、街を散策することにした。太陽はまだ昼くらいで、照りつける太陽がすこぶる暑い。日本の夏とは違い、湿度が低いので、カラリとした暑さだ。そのためマントなどを羽織って日除けにした方が幾らかマシになる。

 まだ歩いたことのない、街の北側に向かってみる。

街の北側には多少は緑があるのか、チラホラ畑の様なものがある。高速道路の隔壁沿いには農家の家だろうか、隔壁を壁がわりにしたバラックの住居が点在している。鶏もいる様だ。

 この辺りはこの街の生命線だな、そんな事を考えながら、進むと徐々に緑が濃くなっていく。サボテンの様な多肉植物だけではなく、シュロやナツメヤシの様な常緑高木樹、ビワやイチジクの様な果樹も見受けられる。

 と、目の前には湖が見え始めていた。水辺では、この街に来て初めてみる子供達が遊んでいた。女性達がその近くで洗濯をしている。親子なのだろう。



 オアシスか…この街はオアシス都市なんだな。



 “過去にペルーの『ワカチナ』、中国の『月牙泉』とか有名な観光地がありましたが、こんな時代じゃなければ、ここも観光地になれたかもしれませんね“


 ああ、とても心地良いな。


 しばし、岩に腰掛けながらオアシスの景色を眺めていると、声をかけるものがいた。



 「やぁ、こんな所で会うとはね」



 顔を上げて横を見れば、特徴的な尖った頭に丸眼鏡、アロハシャツにハーフパンツ、サンダルの小太りの男がいた。

 トーキングヘッドだ。

 また、会おうとは言われたが、ここで会うとは思わなかった。


 「何してんだい?」

 「散策さ。この街に来てまだ3日目だからな。こんなオアシスがあったんだな」

 「水辺に人が街を築くのは今も昔も変わらないよ」

 「あんたは、ここに何しに?」

 「僕はここの管理者だからね、ちょくちょく見回りに来てるんだよ」

 「管理者?あんたが?ドンキーの社長ってだけじゃなかったんだ」

 「一応僕この街の町長なんだけどね」

 「はい?」

 「頭だけじゃなくて、耳も悪いのかい?町長なんだよ、このアスファルトの町長は僕」

 「この街がアスファルトって名前すら初めて知ったよ」

 「そっちの方が驚きだね、自分がいる地の名前くらい真っ先に調べなよ」


 言われてみれば、錫乃介は来てからこの街の名前にまるで気づかなかった。どこかに書いてあるかも知れなかったが。


 「普通さ、街の前に“ここは〜〜の街です“

って言うだけの町人なり村人がいるじゃん?この街居なかったからさ」

 「君の時代はそれが常識とは知らなかったよ」

 「まぁな、俺もテレビゲーム以外で聞いた事ないがな」

 「わざわざ街の名前を町人に言わせるっていったいどんなゲームなんだい?」

 「ドラクエとかFFとか色々あってね、ロールプレイングゲームっていうジャンルなんだけど、主人公を操作して、色々な街やダンジョンを巡って、レベルを上げて強くなって、最終的にボスを倒すって言う内容だよ」

 「ふーん、僕の電脳には無いデータだなぁ、機会があったらやってみたいねぇ」

 「今やったらどうなんだろ、面白いって感じるのかな?」

 「過去の遺物だ、内容がどうこうより、存在に興味があるよ」

 「どっかにデータくらいあんだろうな。見つけたら高く買ってくれよ」

 「高く買うかどうかは内容しだいかなぁ、話は変わるけど、この世界の事少しはわかった?街の名前すら知らなかったみたいだけど」

 「ああ、オタクで買った電脳にインストされてた性格がイマイチなナビにあらかた教えてもらったよ、ふぁっ!と」


 全身にビリリときたのは気のせいでは無いだろう。


 「ん?うちの最高級電脳買ったのは君だったんだ。うちのスタッフのバーンが“とうとうデッドストック売りつけました“って興奮して報告してきたよ」

 「やっぱ売れ残りじゃねーか!」


 と言ったら先程よりも強力な刺激がきた。


 「おうっふ!」


 「…どうしたんだい?」

 「ナビに反乱をうけた」


 今度改名させてHALにしてやろうかな。

 いや、そんな事したら逆に俺がヤバくなるな。


 「頭に鋲が刺さってるスタッフがバーンって言うんだな?」

 「そうそう、もう1人デヴィッドってのがいるんだけど、買い付けに行ってるから、今はバーンだけ。あいつは仕事できるんだよ。電脳にお客さんが欲しがりそうな物を分析できるアプリが入っているからさ」


 ってことはアイツ、大人のソフトと称して俺を揺さぶり、ゲイ用電脳と敢えて暴露してから慌てさせ、隣の1番高い売れ残り電脳を買わせたってことか!策士め…なんて恐ろしいやつ!


 「あんたが、俺の事2,000年代から来たって当てたのも、そんな感じのアプリが、入ってたんだな?」

 「勘がいいね。そう、僕のは鑑定機能が付いている。作成年代やその物を構成している物質がわかるんだ」

 「んで、俺の服とか見て察した、と」

 「そ、今はこの時代の服着てるけど、あの時着てた服も、もしかしたら売れるかもね。でも、僕は買わないよ。ヴィンテージの服集めてるコレクターなんて知らないし」

 「なんだよ、一瞬でも期待させるなよ」

「なんだい、あんなボロ売らなきゃならないくらい、またもや金に困ってるのかい?」

 「ああ、おかげ様で身に余る電脳買って、生活物資を買ったらすっからかんでね、極まってハンターユニオンに登録したけど、できる仕事はワイルドエシャロット採取しかない。なんか良い仕事あるかい?」

 「つくづく君は頭悪いね、デザートスチームが来てる時はハンターの仕事なんて、ほとんど無いんだよ。むしろマーケットとかの商売の方が金も物資も動くから人手不足で、高い賃金で人足募集してたのに」

 「無茶言うなよ、まだこの街来て3日目だぜ。常識的なことさえわからないんだから」

 「それもそうだね…」


 と言ってトーキングヘッドは少し思案する素振りを見せる。


 「よし、うちで働きなよ」

 「いいのか?助かるけどよ」

 「たださえうちは従業員2人しかいないし、今日までデザートスチーム来てて大忙しだったし、納品物の整理や、あと積まれている銃器の手入れとかやらないといけなくてね。毎日とは言わないから、空いている日にお願いするよ」

 「よし、お世話になるぜ!まだ、自己紹介してなかったな。あんたはトーキングヘッドさんだろ、俺は赤銅錫乃介ってんだ、今後ともよろしく。」

 「ん、宜しく。今更“さん“付けはいらないよ。んじゃあ、とりあえず明日の朝来てよ」

 「任せとけ。そういや、あんたを一流のトレーダーと見込んで頼みがある」

 「君に見込まれても、価値ないなぁ」

 「そう言うなって。月岡制の津南炸裂弾ってやつを探してんだ、もし情報とかあったらでいい、教えてくれ」

 「ん〜〜?きいたことないなぁ?ま、わかったよ。電脳の片隅に入れておく」

 「重ね重ね恩に着る」


 バーンっていったな。あの、脳天鋲付きヤロー、ケツの穴に特別性の炸裂弾突っ込んでやるからな。



 そう、天に誓った錫乃介は、トーキングヘッドと共に市街地に帰るのであった。

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